20140503

 小さい軽便が海の方からやって来る。
 海からあがって来た風は軽便の煙を陸の方へ、その走る方へ吹きなびける。
 見ていると煙のようではなくて、煙の形を逆に固定したまま玩具の汽車が走っているようである。
 ササササと日が翳る。風景の顔色が見る見る変ってゆく。
梶井基次郎城のある町にて」)



 6時半起床。歯を磨くべくおもてにでると、すでに室内のほうが蒸し暑い夏日の早朝だった。ストレッチをしたのちパンの耳とコーヒーの朝食をとった。それから昨日付けの記事を読みなおして投稿した。家を出るまでまだすこし時間があったので、知人友人のTwitterアカウントめぐりをしているとWさんがつぶやいていて、無事に退院されたのを知った。おめでとうございます!
 労働。地獄の四連勤初日。稀に見るくらいヒマな一日だった。おかげで時間のすぎるのがたいそう遅くて困った。客足が途絶するとそれはそれで控え室に待機する人数が増えることになるので内職にはむかない。そこそこいそがしいかもしれんというくらいがいちばん時間を有効利用できる感じだったりする。今日はくだらない馬鹿話ばかりしていた。パチンコで勝ったらみんなをビアガーデンに連れていくとJさんが鼻息を荒くしていたが、勝ったところをそもそも見たことがない。これまでたった一度だけJさんのおごりで祇園で豪遊できる機会があったのだけれど、あのときはあいにくSといっしょに帰省中だったので、酔っぱらったJさんYさんBさんの声を受話器越しに聞きながら(「Mくんよ! イギリス人の彼女連れていまから来い! ワシがゆうてベジタリアンでもいけるもん持ってこさせるさかい!」「MくんはウチらよりSちゃんといっしょにおるほうがええんやね! こっちむっちゃ楽しいのにっ!」)、いいなー楽しそうだなーとぼんやりと不機嫌なふうだったSの横顔をながめながらうらやましく思ったのだった。
 昨日ユニクロで購入したばかりのシャツをさっそく着用してみたところであやまって半袖を購入してしまったことに気づいた。なんたる凡ミスか! 返品しにいくのもめんどうなのでもうこのままでいくことにした。シャツ代は経費で落ちるので領収書を切ってもらったのであるけれど、宛名がだれがどうみてもペーパーカンパニーなアレであるのでこれを書いてくれた店員さんはいったいどう思ったんだろう。どうも思わないに決まっている!
 先週にひきつづきまたもや外国人バックパッカーにゲストハウスまでの道のりをたずねられた。中年の白人女性とこちらと同世代らしい黒人女性で、ふたりとも西洋人バックパッカーにありがちないったいなにをどれだけ運べばそんなにも巨大なバッグがパンパンになるのかという大荷物で、肩で息を切らしているふうだった。その先の通りをしばらくいってから右折するのだが何番目の通りで曲ればいいのかわからない、と伝えようとしたところで、何番目というのは英語でいったいどういうのだろうと困った(帰宅してから調べてみると「何番目」にあたいする英語表現は存在しないという記述にぶつかった、ただし比較的あたらしい造語として how manieth という表現はあるらしい)。とにかくその通りまで出てくれたらちいさい看板が歩道の上に置かれてあるはずだからあとはそれに従ってくれればいいと告げると、黒人女性のほうが西洋人に特有のこちらをじっとのぞきこむような笑みを浮べたままあなたのイヤリング見せてくれないというので、00Gのサージカルの中に通してあった6Gのリングだけ取り外してみせた。ああそんなふうになっているのねというので、ひとよりすこしだけ大きいホールなんだよというと、素敵ねとあった。そうしてとつぜん、あなたはきょう何時にここの仕事を終える予定なのかしら、とたずねられた。おもわず聞きかえすと、わたしたちこれからゲストハウスにいる友人たちと合流してちいさなパーティーをする予定なんだけれどよかったらいっしょにどうと続けた。おれいま黒人に逆ナンされとると思いながら仕事は20時まであると告げると、カウンター越しのふたりは顔を見合わせてからいくらかひかえめに肩をそびやかし、ちょっと遅いわね、でもじっさいわたしたちも何時まで催しが続くのかよくわからないの、だからもし気がむけば帰りにでも寄っていってちょうだいといい、手をふりながら去っていった。その一部始終を同僚らに告げると、ワシはもうMくんとは口利かん! このあいだの合コンといいおまえなんじゃ! ええ思いばっかしよってコラ! とJさんが吠えた。男の嫉妬は見苦しいと釘をさすようにBさんがいった。ほんでMくんいくの、とYさんに問われたので、あの感じだとたぶんいまから日暮れごろまでのちょっと遅めのティーパーティーみたいなもんでしょうし仕事終わりじゃ遅いでしょ、と応じた。すばらしい好機であるのはまちがいなかったが、しかし肝心のタイミングというのはなかなか合わないものだと思った。
 夕方から出勤したNくんがバルトの『神話作用』を手にしていたので、休憩時間を利用してひさしぶりにその方面の話をした。Nくんは今年京大の院試に落ちたばかりなのだけれど来年も、というか今年の秋口にあるらしい試験をもういちど受けるらしく、家賃400円生活のためにこちらも院試を受けてみようかどうかちょっと迷っていると伝えると、いいじゃないですかいっしょに行きましょうよ、と物腰のおだやかないつもの声で返事があったので、Nくんと同級生になるのもそれはなかなか悪くないかもしれんなと思った。とはいえ東京に越す計画だってある。それを思うと院試もクソもない。どうしたもんか。人生とは選択肢の多すぎるバグゲーである。
 蕁麻疹のスーパーで半額の天ぷらとどん兵衛を購入し、帰宅してから納豆・冷や奴・もずくといっしょに、天ぷらそばとしてかっ喰らった。天かすを畳のうえに散らかしてしまったので、暖かくなってきたことであるしこれからダニどもも活発になるだろうからとのアレから、ひさしぶりにコロコロを使ってざっと掃除した。信じられないくらいほこりだらけの部屋だった。シャワーを浴びてから部屋にもどってストレッチをし、洗濯物をおもてに干した。外に洗濯物を干すのはおよそ三ヶ月ぶりだった。薬を服用していないにもかかわらず昨日も今日も数える程度しか鼻をかんでいない。くるりの「リバー」をくりかえし聴きながらブログを一息で書いた。『アレゴリーの織物』を手にして布団にもぐりこんだ。1時半消灯。