20140522

 近藤さんから手紙が来てカラマゾフを半分読んだ、会話が想念性に富んでいて面白い、あんな会話が出来る人間が羨ましい。その会話は突拍子もなく不自然だが毫も不自然な感じを与えない。これはあの小説のアトモスフェールがしからしむるものでこのアトモスフェアを作るのが芸術だ。と云って来た。
 本当にドストエフスキートルストイは偉大だ。玉突などでも平素随分うまいと思っていた人が千点ほどの人と試合をするとまるで矮小な感じがするものだが、ドストエフスキーなどではたしかにこの段違いという感じがする。そして日本の作家連を見るとまるで蝸牛角上の争いをやっているようで、情なくてしかたがない。
梶井基次郎 手紙)

 『悪霊』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』ぜんぶ読み返したくなってきた。ドストエフスキーはじっさい面白すぎる!



 11時にめざましで起きた。ここ最近はずっと起き抜けの調子がよくない。以前はもっときりっと一瞬でスイッチが切り替わり頭の冴えわたる感じがしたものだが、最近は半分うつらうつらしながら部屋で歯をみがき、水場で口をそそぎ顔を洗う段になってようやくいくらかなりとしゃきっとするというのが続いている。部屋にもどり散漫にストレッチをしたのちパンの耳2枚とコーヒーの朝食をとった。ひさしぶりにコーヒーをたてつづけに二杯飲んだらおなかいっぱいになった。暑くなるにつれて水や茶を飲む機会が多くなってきた。
 昨日付けのブログを投稿をすると13時近かった。16時まで「G」作文。枚数変わらず。108番まで。おおいに麻痺った。しんどかった。参った。頭が狂うかと思った。断章20個に1個くらいの割合で、この現象・出来事・心理・光景を日本語で記述するにあたってまずこれ以上のものは発明されえないだろうと自負できるものがそれでもたぶんある。それだけを頼みとして支えとして慰めとしてどうにかテキストファイルにかじりついている。作業中おもてをバンバン叩く音がして、響きからして大家さんでないことはあきらかでさては荷物のたぐいかなと思ってでると、スーツを着た若い男前の男性で、さわやかでまじめな人柄のなんとなくうかがいしれる健康的な短髪といい精悍な顔つきといいどことなく新人アナウンサーみたいであったのだけれど、トヨタの営業マンらしく車はお持ちですかうんぬんといきなりたずねられたので、返事をするよりもはやく「へえ!?(笑)」と変な声でおもわず吹きだしてしまった。焼けのこりの木材で無理やり体裁をととのえたようなこの掘建て小屋に間借りしている人間が自動車の所有者だなどといったいどこのだれが考えるというのだろうか! いやいやないですないです、といって戸を閉じると、律儀にも次は隣室の住人のところを訪問する声が聞こえてきたので、もうここには来ないほうがいいと教えてあげようかと思った。NHKだって集金をあきらめている聖なる魔窟なのだ。
 バナナを三本食べてから炊飯器のスイッチを入れ、近所のスーパーで買い物をすませた。服を着替えてからストレッチをし、家をでると17時だった。例のごとく鴨川にジョギングに出かけた。前々回の失敗を踏まえて空腹を避けるために喰らっておいたバナナであるのだが、それだけではやはり物足りなかったらしく、じきに息が切れた。しかたないので途中で歩いた。コースを延長して、往復すると計5キロ、下宿までの往来をふくめると6キロ程度になるように計算して走った。ボーダーコリーの二匹連れとまたすれちがった。おなじくボーダーコリーのこちらは一匹連れともやはりまた出くわした。ほかにもバーニーズマウンテンドッグや黒毛のラブラドールレトリーバーを見かけた。小型犬を連れたひとたちの姿もたくさん見かけたが、犬は大型にかぎるので犬種をチェックしていない。たくさんのランナーがいた。部活動現役みたいな中高生や体育会系らしい大学生にはまったくもって太刀打ちができないというかなぜあんなペースで走ることができるのかとほとんど驚嘆するが、おっさんおばさん連中にくらべるとやはりまだじぶんのほうがそこそこいけるみたいだった。めずらしく楽器を演奏していたり読書をしていたりするひとは見かけなかった。走り終えてからいつもの場所に腰かけると、脛の高さに達していた草がいちめん刈りとられていて芝生然としていた。いつ降り出してもおかしくないような空模様で、ときおり吹く風が汗をかいた身体になかなか冷たかった。腹を冷やすまえに帰ろうと思った。
 帰宅すると18時前だった。入浴道具を一式そろえて風呂場をおとずれると、大家さんが入浴中らしく窓の開けっ放しになっているなかから水の音が聞こえてきた。あきらめて部屋にもどり、『虚構まみれ』を三十分だか一時間だか忘れたけれども読み進めた。それから再度風呂場をおとずれた。あたらしい湯が張られたばかりではあったものの、アイシングを優先してつからずシャワーだけ浴びて出た。部屋でストレッチをしているときに、両脚のすねにほとんど対称的な赤い発疹の地図が描かれていることに気づいて、これひょっとして軽度の蕁麻疹ではないかと思った。模様が左右対称である場合はたしか食事が原因とかなんとか、謎の蕁麻疹に苦しめられた数ヶ月前(あれはしかし『A』出版以前だったか以後だったか?)にYさんにレクチャーしてもらった記憶があるのだが、だとすればやはりパンの耳が原因かもしれないと思った。黒カビはなるべくけずりとってから焼くようにしているし、緑のカビのあるものは食べずに捨てるようにしているのだけれど、もうちょっと慎重に選り分けたほうがいいのかもしれない。
 『虚構まみれ』をまた少し読みすすめたのち、夕食の支度にとりかかった。玄米・納豆・冷や奴・にんにくと塩で茹でたブロッコリー鶏もも肉・レタスと水菜とトマトのサラダをかっ喰らったのち、満腹状態で横になると逆流性食道炎になっちまうのにとおびえながらもしかし布団に横たわり、15分の仮眠をとった。起きて、サイゼリヤにでも出かけようかと思った。けれどすぐにまた出不精が勝って、けっきょく今夜もまた自室待機ということになった。熱いコーヒーをすすりながら眠気の芯が溶けだしていくのを待っているあいだ、いつものようにブックマークしてあるツイッターアカウントを手動でチェケラしていると、『A』についてつぶやいてくれているアカウントに間髪おかずにFくんが喰らいついておりセールストークをくりひろげていて、もういっそのことあの小説の名義はFくんにしてじぶんはかつてのアイコンに忠実にしたがうかたちで新垣先生のポジションにおさまったほうがいいんではないかと思った。広報活動を完全に丸投げしたいまだから素直に認めることができるが、ヨガヨガつぶやいているだけのあんなひどい魔ーケティングにもかかわらず当時のじぶんはなぜかこれでぜったいにいける、まずまちがいなく爆売れするだろうという半端ない確信のようなものを抱いていて、こんなおもしろいことしてるんだからいっしゅんで火が点いてコアな小説ファン以外の層含めてえらい騒ぎになるにちがいないといちまつの疑いもなく信じこんでいたのだが、結果はあのとおりの惨敗で、こちらの魔ーケティングが契機となって売れた本はたぶん一冊もないしもダウンロードされたデータは1MBもない(ただしブロックされた数は10を優に上回る!)。ネットの辺境でおとなしくやってるのがたぶんいちばんいいということなのだと思う。ひとまえに出ると確実に損するタイプの人間だ。とどのつまりは「犀の角のようただ独り歩め」!
 『A』の浸透につれてきっと増えるにちがいない来訪者を厭うて炎上案件をたぶんに持ち合わせていた過去ブログを捨てさりこうして出直しを図ったわけだが、しかし書いている内容も形式もほとんどまったく変わりなくあいかわらずついついいらぬことばかり書いてしまって脇が甘いったらないというほかないのだが(引っ越し当時に決めたルールで唯一いまもなお遵守できているのはじぶんの名前や作品名をイニシャルで綴るようになったという点と顔の映った写真をあげなくなったという点だけだ)、Bloggerが日本語による検索に弱いという前評判だけは本当だったみたいで、さっきためしにこのブログタイトルで検索してみたところいぜんのブログがいちばんにヒットしてこいつはけっこうな下段のほうに表示されているみたいなアレで、いろいろ操作性のわるいブログサービスであるのだけれどこの点だけは希望にかなっている(魔法のiらんどに文字数の規制がなければいちばんよかったんだが! 女子中高生らのつづるギャル文字の羅列にまじってムージルとかカフカとかあったらすっごいシュールでおもしろいのに!)。あとアクセス数サービスがいちおうデフォルトとして実装されているので、訪問者の数を更新のたびごとにチェックして変に増えてきたらまた引っ越すみたいなこともやりやすい。いまは平均たぶん10人くらいで、ここに移ったことを教えたのはAさんWさんH兄弟にYくんFくんPにTにもうひとりのWさんの計9人だからそんなもんだろう。つぎ引っ越すことがあったらそのときのブログタイトルは「辺境の饒舌」にしよう!
 22時から英語の文法問題集を延々と口頭で解きつづけた。ブライアン・イーノをしぼったボリュームで流した。0時を少しまわったところで一時間早いけれども切りあげた。たまりにたまっている抜き書きのためだった。あんまりカビてないパンの耳を2枚焼いてかっ喰らいながら三時間×三課目の生活ってやっぱりなかなかきびしいもんだなと思った。筋トレで一時間かかるとして、ほかに買い物と調理と食事もしなければいけないし、ブログだって書かなければいけない。飯を作ったり便所に立ったりするときも気をぬかずなるべく小走りで行動するとかしようかなと思った。そうすればなんとか必要な時間を確保できるかもしれない。
 ここまで書き終えると1時半だった。『賢い血』『族長の秋』の抜き書きをした。『賢い血』のあの記述の質感がなんどもよみがえった。ものすごい独特の小説だったなと思った。ぺらぺらめくったり思いかえしたりしているうちに、ひょっとしてあの小説はじぶんがこれまで読んだ小説のなかでもかなり上位にランクインするものだったんではないかと思った。なにかそらおそろしい、得体のしれない、とてもつかみどころのないものをそれとなくうちに孕んでいる、そんな小説だったのではないか?
 歯磨き粉を買いにいくのを忘れていたので歯ブラシだけで歯を磨いたらすごく物足りなかった。明日は半日しかない金曜日でその次はもう労働かと考えるとげんなりした。平日五日間はあまりにもはやく過ぎ去ってしまう。今週なにかしただろうかと思いかえしてみたが、なにもしてなかった。つまりある程度は時間割に忠実に生きることができたわけだ。あとはその質を高めるだけだ。ものすごい一行を書くことができたとか、えげつないくらいやばい本を読んだとか、そういうのがいい。そういうのでもって平坦な月火水木金にしるしをつけていきたい。デコレーションしたい。