20230102

古井 『特性のない男』という小説は、恐らくムージルが見ていた彼なりの究極の小説への準備だったと思います。
 その究極の小説がどういうものかと想像するに、非常に聖譚に近い、ほとんど聖譚である短編ではないか。短編の形を『特性のない男』より前にいろいろ試みているんです。
大江 『三人の女』。
古井 あれをもっと諧謔の氷の上に載せて凝縮して、最終的にきわめて短い、しかし、物語。物語るとは何かと言えば、これは『特性のない男』の中の言葉ですが、青空がいきなりひろがり、その光を受けて、道の真中で一頭の牝牛が輝いた。これだけで何事かにならなくては物語ではない。何かが出てくると必ず物語になる。それを目指しているようですね。それが最後に断片となって進行中の形に、固定するわけですが。
大江健三郎古井由吉『文学の淵を渡る』)



 アラームを設定し忘れていた。目が覚めると正午。どうなるかまだちょっとわからないとはいえ、いちおう予定では6日の朝から健康診断を受けることになっているわけだから、生活リズムをたてなおさないとちょっとまずいかも。歯磨きしながらスマホでニュースをチェック。ついでに天気予報ものぞいたのだが、明日以降最高気温が10度オーバーの日が続くらしく、6日からの三日間にいたっては19度、20度、20度となっていて、嘘でしょ? しかしありがたい。
 トースト二枚の食事をとる。コーヒーを淹れ、きのうづけの記事の続きを書いて投稿。ウェブ各所を巡回し、2022年1月2日づけの記事を読み返す。上海に帰る前の(…)くんと一緒に(…)の広東料理店でメシを食った日。(…)くん、かなりおしゃべりなので、この日は本当にいろいろな会話を交わしているのだが、彼に教えてもらったという以下の話については完全に失念していた。

これも復路ではなく往路で交わした内容だったと思うが、広州で早茶という文化が発展したのは、もともと家族経営の企業が多い土地柄だかららしい。家族経営なので出勤時間も融通がきく、すくなくとも朝の7時だの8時だのに出勤する必要はない、しかるがゆえに仕事前にまずはゆっくり点心を食べながらお茶を飲んでおこうという、あのゆるーい午前の文化が根付いたという経緯があるらしかった。

 作業中、一年生の(…)さんから微信。今学期の成績を教えてほしい、なぜかまだ確認できないから、と。「優」であると返信したついでに、外国人教師の担当する授業の成績については教務室の先生がデータベースに入力することになっている、しかしその担当の先生がコロナになってしまったので入力作業が終わっていない、もしかしたら来学期になるまでデータ入力が行われないかもしれないと事情を告げる。

 『Hakimakuri Olympic』(食中毒センター/Hair Stylistics & foodman)と『Grand Voyage』(大西順子)を流しながら今日づけの記事も書き記す。どちらもすばらしい。
 街着に着替え、部屋をあとにし、自転車に乗って南門から外に出る。出た先の道路をはさんだ対面にある個人経営の商店が営業を再開していたので、まずはそこに立ち寄り、ゴミ袋と食器用洗剤を購入。以前ここで鸡精を買ったおぼえがあるので、調味料の棚をざっと確認してみたが、見つからない。(…)省のひと、やっぱり料理に鶏ガラ的なアレはほとんど使わないのだろうか? その後、老校区を通り抜けて、魔窟の快递へ。思っていたよりも混雑していなかったが、立ち並ぶ八百屋や商店やメシ屋の前を歩いているおばちゃんがさっそく道に痰を吐きまくっていたので、堪忍してけろ! となった。快递でコーヒー豆を回収したのち、逃げるようにその場を去り、今度は后街の快递へ。ホテルのたちならぶ通りを抜けている最中、そういえば以前、男子学生から后街にも実はエロい店がありますよみたいな情報を教えてもらったことがあるのだが、もしかしたらこの通りにあるホテルのうちのどれかがそうだったりするのかなと思った。快递には配送ドライバーらしい女性がいたが、けっこう咳きこんでいたので、堪忍してけろ! とここでもなった。浴室に取り付ける収納ラックを回収。浴室の壁にはりつけられている鏡の、その下部から垂直に白い木の板が短く突き出しており、もともとはそこにシャンプーとかボディソープとか歯ブラシとか歯磨き粉を置いていたのだが、数日前、何気なくその板の上に手を置いて少し体重をかけたところ、バキッ! という音とともに、もともとグラグラだったのがさらにグラグラになってしまったというか、ほとんど抜けかけの乳歯みたいになってしまい、歯ブラシや歯磨き粉はまだしもシャンプーやボディソープはもはや置くことができなくなってしまったのだった。それで代わりとなるものを淘宝で注文したかたち。
 で、その回収も済んだところで、后街を抜ける。通りはまずまずの人出。都市部での感染ピークはすでに過ぎたという話をちらほら聞くが、うちでもおそらく同様なんではないかという気がする、メシ屋でメシを食っていたりマスクなしで歩いたりしているひと(後者はさすがにごくごく少数だが!)はおそらくみんな感染して回復したひとたちだろう。(…)に立ち寄る。おばちゃんに新年快乐! とあいさつして、いつもの食パンを二袋購入する。
 南門から大学に戻る。例のやる気のない守衛のおっさんがいたので、あ、ひさしぶりに見たな、と思ったのだが、かたわらを通り抜けようとしたところで、不意に呼び止められた。え? 嘘? なんでやる気出してんの? とびっくりして自転車を停めると、おっさん、めっちゃニコニコしながら新年好! という。それで新年のあいさつのためにわざわざこちらを呼びとめたのだとわかり、新年好! とこちらも返す。安心した、やる気を出したわけではなかったのだ! この守衛は大好きだ。仕事にまったくやる気がなく、しかし変にひとなつっこい。こういう人物こそが天下を獲るんだよな。それに引き換え! 北門のあのスカトロ野郎の目障りなこと! (…)でバイトしていた当時、フロントではなくメイクとして代打出勤を要請された日が何度かあったが、よりによってそんな日にかぎって一度、朝っぱらからスカトロカップルによって汚された部屋に(…)さんとふたりで入るはめになった、あの日以来こちらはスカトロ野郎に対する警戒心を怠らないようにしているのだが、去年はマジでやられたわけだ。今年中になんとしてもあの守衛には一矢報いなければならない。2023年の抱負だ。

 帰宅。回収した荷物を開封する。浴室にラックをとりつける。壁のほこりをトイレットペーパーでぬぐいとったのち、そこに粘着シールでフックを貼りつける。説明書によれば、そのまま72時間待つ必要があるらしい。
 今日づけの記事の続きを書く。16時半になったところで中断し、キッチンに立ってメシ。米を炊き、鶏肉とたまねぎとにんにくをカットし、料理酒と塩と調理用の中国版醤油で味付けし、タジン鍋にぶっこんでレンジで7分半。今日はけっこううまくできた。それで思い出した、こっちで料理するときは日本で料理するときよりもこころもち調味料多めのほうがいいのだった。そうするとちょうどよい塩梅になる。
 食後、ベッドに移動してA Good Man Is Hard To Find(Flannery O’Connor)の続きを少々読む。それから20分ほど仮眠をとったのち、コーヒーを淹れてデスクに向かい、「実弾(仮)」第四稿。19時半から22時半まで。プラス29枚で計41/977枚。シーン3、シーン4、シーン5とたてつづけに片付ける。シーン5はちょっとあやしい箇所があるので、明日もう一度チェックしたい。
 ウェアに着替え、ストレッチをしたのち、ジョギングへ。寮の門を出た先で、スマホで大音量の動画を流しながら歩く男の人影を目にする。男はこちらがあとにしたばかりの寮に入っていく。それで男の正体が、われわれの棟に住む、夜遅い時間にしょっちゅう大音量で動画を流しながら階段をあがっていくやつであるとわかる。こちらの上階——すなわち6階——にはふたりの——あるいは二組の——住人がいるのだ。爆弾魔と動画魔だ。真上に当たる部屋に住んでいるのは爆弾魔で間違いないが、ときどきやってくる例のババアはもしかしたら爆弾魔ではなく動画魔のほうの身内なのかもしれない。調査を継続する必要がある。
 走り出す。今日はさほど寒くない。ヒートテック一枚でも全然耐えることのできるレベル。図書館の近くでも動画魔とうりふたつの男とすれちがった。つまりスマホで大音量の動画を流しながら歩いている男。中国人、なぜいつもイヤホンを使わないのか? いや、イヤホンを使っている人間もたくさんいるわけだが、むしろそちらのほうが多数派かもしれないが、しかし日本ではまず見ることのない、動画を大音量で流しながら道を歩いている人間の姿もやはりしょっちゅう見かける。メシ屋やカフェやバスや電車の中なんかでも平気で爆音で音を出して動画を視聴している人間がいるが(特に耳の遠い年寄りはすさまじい)、たぶん中国人のなかにもああいう文化をうとましく思っている人間が(若者を中心に)相当数いるのだろう、何年前だったか、高铁で音出し禁止の座席みたいなのを試験的に売り出してみたらそっこうでチケット完売したみたいなニュースがあったはず。
 今日もまた地下道手前まで走ったのだが、最後はかなりきつかった、けっこう無理したと思う。タイムは12分25秒。気温は6度。ぼちぼちコースを延長する頃合いかな。次回からは以前のようにバスケコート手前まで走る。たぶん。
 帰宅。白湯を飲み、浴室でシャワーを浴びる。ついでにスポンジで浴室のぬめぬめする床もみがく。あがったところで軽くストレッチし、出前一丁をこしらえて汁まで飲み干す。歯磨きしながらジャンプ+の更新をチェックし、2時前になったところで寝床に移動。A Good Man Is Hard To Find(Flannery O’Connor)の続きを読んで就寝。