20230313

 いま、私の息子はすでに高校生になった。この今日の少年が昔日の少年である私に語ったところによると、中学の家庭科の授業で、先生は女子生徒を男子生徒の膝にすわらせるという。男女が体を密着させた状態で、先生は男性と女性の生理的な違いから始めて、性交や妊娠のことまでを語る。先生が話を終えて、質問を募ったところ、ある生徒は手を上げて尋ねた。
「先生、実践の授業はありますか?」
(余華/飯塚容・訳『ほんとうの中国の話をしよう』)



 11時起床。淘宝で購入したものが届いたという通知が四件。そのうち一件は(…)楼の快递に届いているようだったので、メシを打包しがてら、まずはそいつだけ引き取りにいくことにする。今日もまた晴天。最高気温は22度。荷物の棚を見聞している最中、「先生!」と呼びかけられる。声を聞いただけで一発でわかる、一年生の(…)さんだ、典型的なアニメ声なのだ。彼女も荷物を回収しにきたところ。こちらの回収物はシャツ。セルフで回収手続きをしようとしたが、支付宝の菜鸟快递のページから回収手続きに必要なバーコードの表示されるボタンが消え去っている。なんでやと思って(…)さんにたずねるも、彼女もどうしてかわからないようす。彼女が店のスタッフに交渉してくれたおかげでひとまずシャツは回収できたが、また今後めんどくさいことになるかもしれんなと思う。こういうことはときどきある。
 自転車をひきながらひととき(…)さんと歩く。高校生のころから日本語を勉強している子なのである程度会話は可能。彼女が回収した荷物の中身は靴とのこと。その靴とは別に新刊の漫画を一冊もっている。指摘すると、はずかしそうにして隠そうとするので、BL? BLでしょ? という。BLではなかった、しかし恋愛漫画だった、もともとはウェブで人気のあったやつが紙の本として出版されたものっぽい。単恋どうのこうのと書いてあったので、たぶん片思いがテーマのものなのだろう。
 どこかに向かう(…)さんと途中で別れる。第四食堂に行き、海老のハンバーガーを二個打包する。帰宅して食す。食したところでふたたび出かける。(…)で食パンを三袋購入し、今度は后街の快递へ。まずは菜鸟快递へ。はじめておとずれる店舗。荷物はすぐに見つかるが、やはりここでも回収手続きに必要なバーコードをアプリ内に見つけることができない。おばちゃんに事情を説明する。いろいろあった挙句、荷物の伝票に直筆のサイン&伝票の読み取り機に大学のプリペイドカード——おばちゃん曰く、饭卡——を読み取らせるという二重の手続きでオッケーということになった。回収したのはコーヒー豆。

 以前はアプリ内にバーコードを見つけることができたが、いまはなぜか見つからないとおばちゃんに訴えてみる。おばちゃんは中国語でなにか言う。全然わからない。荷物の回収に来ていた女子学生ふたりをおばちゃんが捕まえてじぶんの代わりに英語で説明してくれみたいなことを言う。女子学生ふたりはできないできないと言って逃げる。逃げた女子学生の代わりにおなじ快递でバイトしているらしいピアスをつけた男の子を捕まえる。男の子がスマホを見せながら、このアプリをダウンロードする必要があるのだというようなことをいう。菜鸟快递のアプリ。そういうことかと納得する。支付宝内のミニプログラムではなく、独立したアプリをインストールする必要があるのだろう。
 近場にあるもうひとつの快递にはしごする。こちらは中通快递。ここは荷物の回収手続きがデフォルトで伝票に手書きでサインするというシステムなので問題ない。プロテインと夏用のイージーパンツを回収。プロテインはクソでかいサイズのやつを買ったので、段ボールを脇に抱える格好になる。寮にたどりつくころには腕がまずまずパンパンになっている。
 帰宅してすぐに菜鸟快递のアプリをインストールする。支付宝の中にある快递のページからインストールすることができた(ダウンロードページでは今後回収手続きに必要なバーコードはこのアプリを経由するかたちでしか得ることができないという注意書きも記されていた)。それから回収した衣類の試着。シャツはレディースなので、Lサイズでも若干裾が短いかなという感じだったが、ベージュのチノパンと合わせたらまずまずよろしい感じ。イージーパンツはわりとゆったりめのサイズを選んだはずだったが、実際に届いたのを穿いてみると、さほどゆとりのあるわけでもない。裾がしぼってあることもあって、八分丈か九分丈かといった感じ。もうちょっとだるんだるんのをイメージしていたんだけどなと思うが、さきのシャツを合わせてみると、あ、けっこうアリやな、となった。最近全身黒のコーディネートもおもしろいなと思う。素材感とシルエットだけで遊ぶというその縛りに、あたらしいゲームの楽しみを見いだしはじめている。これまで服装というと、だいたいヴィヴィッドなカラーか柄物を一点ドーンと中心に置きつつ、それが下品にならないようにほかのアイテムをバランスよく配置するというパターンが多かったのだが、黒一色で統一するというのはまさにそうした発想の正反対に位置するわけで、それがめあたらしくておもしろい。
 きのうづけの記事の続きを書いて投稿する。2022年3月13日づけの記事を読み返す。大陸にてはじめて花粉症を発症した日。

國分 (…)たとえばアレントは、人間には奇跡を起こす能力があると言っている。
千葉 そういうことを言うのだが、アレントのよくわからないところですよね。
國分 でも、それは実は簡単なことで、それまでの物事の流れを中断できる、ぶった切ることができるのが奇跡なんだと言っているわけ。だから、イエスの奇跡も、水の上を歩いたとか、五個のパンをたくさんに増やしたとか、そういうことじゃなくて、いままで起こっていた物事の流れを中断して、流れを変えるという点で、イエスは奇跡を起こしたんだと。
 僕はそこはピンと来るんです。その意味での奇跡はいろんな人に起こせることだし、実際、起こっている。
千葉 流れを変える、空気を変えるということですね。
國分 歴史とはそういう奇跡でできているというアレントの主張もその通りだと思う。
國分功一郎+千葉雅也『言語が消滅する前に』)

 2013年3月13日づけの記事も読み返し、「×××たちが塩の柱になるとき」に再掲する。きのうづけの記事だったか、おとついづけの記事だったか、ブログに時間をとられすぎであるから記述を簡略化すると宣言したばかりだが、10年前にも同じことを愚痴っている。

どうしてこんなに時間がないのかという問いにたいするひとつの答えが見つかった。ブログだ。ブログの書きすぎだ。どう考えてもこいつに一日平均して90分、いや場合によっては120分は注いでいるような気がする。なんだったらこれでもまだだいぶ省いているくらいなんだが。今日だって風呂に入っているときに頭の中ですでにブログ文体でなにやら書き出していて、そんなふうに頭の中でいちどなにやら書き出してしまったものはもうじぶんの中ではすでに書き終えたことになるから実際にここでこうやって書いてアップすることもないしそれはある意味で手間と時間の削減にもなるわけなのだけれど、そうなればそうなったで結局また別の事柄を打鍵する指先がいもづる式に呼び寄せるだけの話であってほんとうに毎日毎日書いてばかりいる。小説を書いて抜き書きしてブログを書いてときには日記を書いて、書いて書いて書いてばかりだ。2013年に入ってから『二十四時間の情事』を観た日本人ってまだ三人くらいしかいないんじゃないのとさっき(…)さんにいわれたのだけれど(さすがにそれはないだろうとじぶんは思うのだけれどどうだろう)、じぶんと同じ程度の量の文章を毎日書きつづけている日本人はそんなにもいない気がする(いやこちらこそそれはないというやつかもしれない、京極夏彦は一日50枚書くって聞いたことがある)。そのせいでぜんぜん本が読めないのだ。これは致命的だ。いまだってすでに2時半だ。4時に寝るとして、残すところ1時間半だ。まだ購読ブログの巡回作業が残っている。こんなペースでいったいいつ本を読むことなどできるというのか。記述が記憶を呼び起こすからすぐに思い出話に脱線して話が長くなる。睡眠時間を省いて一日18時間、ひょっとするとこのうち8時間くらいじぶんはなにかしら書いて過ごしているんでなかろうか。どうして書くことに飽きないのか。初期衝動を思い出せみたいなフレーズをたびたび目にするが、はっきりいって小説というか文章を意識的に書くようになりはじめた二十歳のころよりもいまのほうがずっと書くことにたいして貪欲であるし衝動的であるし、というか初期衝動って何だよ!毎分毎秒が初期だよ!心臓がひとつ打つたび一文字書く。字余り。イエス。辞世の句はこいつで決まりだな。

 大江健三郎の訃報に触れる。卒業生の(…)くんがさっそくモーメンツに記事のスクショを投稿している。(…)くん曰く、「2021年には人民文学出版社が作品集を出す予定だが、2023になってもまだできていない。本当に遅い」とのこと。『水死』と『大江健三郎自選短篇』はずっと読書リストに入れたままだ。Kindleストアをのぞいてみたが、『大江健三郎自選短篇』のほうは岩波文庫なので電子書籍でリリースされていない。
 明日の授業で必要な資料をUSBメモリにインポートしたり、学習委員の(…)さんに資料の印刷をお願いしたり、アクティビティで用いる予定のさまざまな服を着た人物の写真16枚をまとめたPDFデータをウェブ上にある圧縮サービスで軽くしたりする。それがすんだところで今日づけの記事にとりかかる。その途中、卒業生の(…)さんから微信が届く。「お久しぶり」と。めずらしい。「(…)さんは広東に戻りましたよ」という。ふたりは以前(…)でルームシェアしていたはず。「戻りましたよ」というのは、たしか(…)さんの両親が広東省で出稼ぎをしていたはずで、その両親の仮住まいの住居に移ったということだろうかと思ったが、「兄と一緒に働いてる今」「両親と一緒じゃない」とある。(…)さんにはたしか姉はいたが、兄はいなかったはずなので、この兄というのは(学生たちがしばしば誤用する)従兄弟のことだろうと推測する。「(…)で長い時間働いてなかったから親に言われましたそうです」とあるので、たぶん双極性障害のせいで仕事をやめて寝込んでいたところ、親戚に呼ばれたということなのだろう。(…)さん自身は猫カフェの仕事を去年の12月に辞めたとのこと。そしていまは彼氏と同棲しているというのだが、その彼氏というのが今年の8月にようやく18歳になる人物だという。学生ではない、すでに働いているとのこと。これにはちょっとびっくりした。これは内陸の田舎だけの話なのかもしれないが、中国では日本よりも年の差のあるカップルや夫婦を見ることははるかに少ない。女性が年上となると、なおさらそうである。(…)さんが卒業したのは三年前であるから、彼女は現在25歳前後のはずで、彼氏よりも7歳も年上ということになる。これはかなりめずらしい組み合わせだと思う。(…)さんはインターンシップで北海道に行ったときも、同僚である年上の日本人と付き合っていたし、年の差のある恋愛ばかりしている。なにを思って突然こちらに連絡をとろうとしたのかは不明。彼女がこちらに連絡を寄越すときは、基本的に恋愛関係ないしは将来の展望で思い悩んでいるときが大半だと思うのだが、話がそういう方向に進まないうちに(…)さんから女子寮のほうに来てくれというメッセージが届いたので、やりとりは中断。
 自転車で女子寮へ。(…)さん、(…)さん、(…)さん、(…)さんの四人が門前に出てくる。ルームメイトではないが、(…)さんの仲良しである(…)さんも来るという。いま準備している最中だというので、女子寮の門を牢屋の鉄格子のように両手で掴み、『ツイン・ピークス』のあれはたぶん第一話目だったと思うが、ボビーとマイクのふたりが留置所の内側から外に向けて凶暴な犬の鳴き真似をしまくる不吉なシーンの真似をしてワン! ワン! ワン! と吠えまくる。女子寮の内外にいる学生らがなんやこいつみたいな目でこちらをながめる。そばにいた学生たちは全員こちらの仲間として注目を浴びるのに耐えられずダッシュで走り去る(日本語学科の学生はみんなシャイなのだ!)。待ち合わせに遅れてきた(…)さんがめちゃくちゃ恥ずかしそうにしながらやってくる。以前、(…)さん相手に同じようなことをしたことがあった。女子寮の敷地内にいる彼女にむけて、(…)! スイカくれー! スイカくれー! と日本語と中国語で叫びまくったのだった。(…)さんは顔を真っ赤にしながらスイカを持ってきてくれた。その彼女がいま! 18歳の男と同棲している!
 (…)さんと(…)さんと(…)さんの三人は来ないようだった。のちほど知ったところによれば、(…)さんは彼氏とデートらしい。彼氏は一個上のたしか土木かなにかを専攻している学生で、今年は大学院受験であるというふうに聞いていた記憶があるのだが、どうやら院試には失敗したらしい。勉強せずデートばかりしていたからだろうと学生らは言った。
 徒歩で火鍋の店に向かう。道中、(…)さんに大学院を受験しないのかとたずねると、しないという返事。勉強が嫌いだからと続いたが、これはいわゆる学婊的なふるまいであることをこちらは知っている。実際の彼女はかなり勉強熱心であり、日本の大学院に留学することも本気で検討していた。経済状況ゆえかなとおしはかった。(…)さんは歯並びがかなり悪いのだが、中国の学生にしてはめずらしく矯正せずそのままにしている。こちらの観測するかぎり、中国では日本よりもはるかに歯並びが重視されており、その程度だったら別に気にならんやろというレベルのアレでも矯正する子がけっこういるのだが(この点もこちらがたびたび見出す中国とアメリカの共通点だ)、(…)さんはそのままにしている。実家がけっこう貧しいのではないか。実際、彼女は三年生でただふたりしかいないというコロナ未感染者の一人であるというし、故郷がかなりまずしい僻地の農村である可能性も高い。N1受験は前回失敗したわけだが、二度目は日本で受験するつもりだという。(…)さんも同様の考え。
 店の女主人はこちらの顔をおぼえていた。好久不见了とあいさつする。驚く学生らに、外国人だから一度店に来ただけで顔をおぼえられるんだよと伝える。一階のテーブル席も空いていたが、前回(…)の男子学生らと来店したときと同様、ひろびろとした二階のテーブル席を陣取ることにする。牛肉、豚肉、羊肉、野菜、練り物などを、(…)さんと(…)さんと(…)さんが一階から運んできてくれる。53元で食べ放題。ジュースもある。
 食事中はたくさん話した。食後も一時間以上店内にいすわってずっとしゃべり続けた。(…)さん、やっぱりムードメーカーだなと思う。彼女が場にいると、あの(…)さんですらおとなしくみえる(というか、(…)さんはああ見えてけっこうナイーヴなところもあることを、それ相応に親しく付き合ってきたこちらは理解している)。彼氏がオーストラリアに行くという話を先日(…)さんと(…)んのふたりから聞いたばかりだが、留学なのか、それとも仕事でなのかと(…)さんにたずねると、なんと! 飛行機のパイロットとして現地に渡るのだという! そういう専門の大学(?)に通っていたらしい。就職先は東方航空だというので、あそこの機内食クソまずかったわとさっそくけなしてやる。彼氏は七ヶ月か八ヶ月か、オーストラリアに滞在する予定らしく、だから(…)さんとしてはそのあいだじぶんはじぶんで日本でインターンシップに参加するというあたまらしい。日本ではかっこいい男子高校生とデートしたいと(…)さんはしきりに口にした。なぜ高校生限定なのかわからんが、たぶんドラマか漫画の影響なのだろう。部外者でも高校に行っていいかというので(変態! 変態! とすぐさま周囲がはやしたてる)、10月か11月に文化祭があるだろうし学校によっては外部の人間も自由に出入りできるかもしれないというと、アニメに必ず登場する文化祭というものを実際に見てみたいと(…)さんが言った。かわいい小学生に声をかけてもだいじょうぶかと(…)さんは続けた。卒業生の(…)さんと同じでもしかしてショタコンなのかなと思いつつ、声をかけるだけなら問題ないが、きみの場合は顔に変態ですと書いてあるからすぐに逮捕されるだろうなと言った。インターンシップは七月からの半年間。桜を見ることはできないが、花火大会にはもしかしたら出向くことができるかもしれない。紅葉とクリスマスと正月は確実に体験できる。日本で年越しして、その後中国に帰国してまた春節で年越しして、一年に二度も年越しできるなんて贅沢だねという。会社が良心的であれば、お正月の出勤日にはお年玉が出るかもしれないよというと、参加予定者三人はテンションがぶちあがり、お正月でもクリスマスでも働きまくる! と笑った。
 (…)さんは日本に向かう予定の三人をしきりにうらやましいといった。レベルが低いので参加しないことにしたのかなとこちらは思っていたが、そうではなかった、大学院受験の準備をするためだった。(…)さんが大学受験? マジで? という感じだったが、しかし今日ひさしぶりにこうして話してみて、たしかに以前にくらべてずっとこちらの発言を聞き取りできているし、積極的に日本語を話しているよなという変化は如実に感じられた。目標は(…)大学。レベルはかなり高いという。
 なにかの拍子に卒業生の(…)くんの話題が出た。学年としてはふたつ上ということになる。(…)さんが一時期親しくしていたという話を以前(…)さんと(…)さんのふたりから聞いたばかりであるし、今日の席上でもやはりほかでもない(…)さんが彼の名前を口にしたので、ほかの学生らといっしょにもしかして付き合っていたのかと茶化した。全然そんなことはないという。そういう対象ではない、と。そこで(…)くんの女癖の悪さみたいな話題がちょっと出たので、あ、クラスメイトだけではなくてやはり後輩にまでうわさは行き渡っているのかと思い、確認してみたところ、具体的な話はなにも知らないとのこと。ぼくも(…)さんやほかの学生からちょっと聞いただけだけど、クラスの女子だけでも三人くらい告白しているらしいよ、告白してフラれたそのすぐあとにまた別の子に告白したみたいな話も聞いたし、(…)さんも一年生のときにアプローチをしかけられたと言っていたというと、学生たちは悲鳴をあげてきもちわるい! きもちわるい! と言った。特に(…)さんとおなじ同性愛者である(…)さんが嫌だ嫌だと首をふっていたが、ところで、ほかの学生らがだれだれがかっこいいとか、(…)省の男は背が低いからだめだとか、日本語学科の男の子は全然かっこよくないとか、そういう男談義をするのに彼女も自然とくわわっているふうだったので、あ、やっぱり(…)さんと違って彼女はまだカミングアウトしていないのかなと思ったのだったが、のちほど、こちらも直接対面したことはない、ただ(…)さんから聞いただけの話であるが、彼女の元ルームメイトである同性愛者のカップルがそろって日本に留学してそちらで楽しくやっていたようだという話をしたときは、きゃー! とテンション高い声をあげて頬に両手を当てていたし、その反応を見た(…)さんからがんばれと声もかけられていたし、いや、やっぱりオープンにしているのか? ちょっとよくわからん。
 その(…)くんの話題から(…)くんの名前が出た。全然知らなかったのだが、(…)くん、(…)くんとおなじであっちこっちで女の子にちょっかいをかけているらしい。一年かそこらで五人に告白したみたいな話だったと思う。しかもそのうちのひとりが同じクラスの(…)さんで、ふたりは一時期付き合っていたというので、これにはマジでたまげた。えー! となった。(…)さんはたしか高校時代から付き合っているほかの大学の彼氏がいて、しかもその彼氏とは別れたみたいな話を、あれは先学期だったか、先々学期だったか、(…)くんといっしょにうちに遊びにきたときに漏らしていたが、あの彼氏とはもしかして(…)くんのことだったのか? というかそのふたりについてはそもそも、去年スピーチコンテストの練習をはじめてまもないころ、練習の合間の雑談中にクラスのだれとだれが仲が悪いみたいなゴシップになったとき、(…)さんがふたりの名前をあげて、理由はよくわからないが以前揉めていたと言っていたのをおぼえているのだが、それも結局痴話喧嘩だったということだろうか? (…)くんは(…)くんと(…)さんと(…)さんと一緒に鹿児島で働くことになるわけで、すると今度は(…)さんか(…)さんとくっつくことになるんではないかというと、(…)さんには彼氏がすでにいるという返事。(…)さんも(…)くんには興味ないだろうとのこと。しかし、(…)くんと(…)さん——全然お似合いじゃないな。(…)さんは(…)さんで、こちらの手前ではわりと恋愛に興味ない、それよりも先生みたいにじぶんの好きなことだけして自由に生きたいみたいなことを口にしがちであるのだが、内心ではやっぱり押されたら動いてしまう、そういうところがあるんだろうな。

 店を出る。店の前で記念撮影。店で働いている若い男性にお願いする。全員の撮影がすんだあと、いつものように(…)さんと(…)さんとこちらの三人だけでも撮影する。その撮影に(…)さんが乱入しようとし、(…)さんがちょっと鬱陶しがる。(…)さん、食後の席でもいつもとくらべると口数が少なかったし、会話の主導権を(…)さんが握ってこちらと軽口を叩きあっている、そのようすにちょっと嫉妬しているところもあったのかもしれない。
 その(…)さんであるが、ものすごく小さな、手のひらにおさまるくらいのサイズのビデオカメラをもっていた。中国メーカーの中古品だという。それでたびたびわれわれのやりとりを撮影した。撮影のあいだ、(…)さんはしばしばみんなに日本語で話すようにうながした。
 火鍋の店は例のエロいホテル(会所)からも近い。その話を蒸し返すと、(…)はそういう店がなぜか多いと(…)さんが言った。(…)さんは江西省の出身。故郷にくらべてその手の店が多いという印象を受けるらしい。
 歩いて大学にもどる。途中にある文房具屋に(…)さんと(…)さんのふたりが立ち寄る。こちらも流れで立ち寄ることにするが、ほかの三人はじゃあ先に帰りますといって去っていく。これまでに何度となく書き記してきたが、これは中国あるあるだ。同行者がちょっとした買い物をするために店に立ち寄る、そういうときに同行者に付き合うでもなく同行者を待つでもなく、さっさと先に去ってしまうのだ。もしかしたらシャワールームがひとつしかない八人部屋での共同生活であるし、帰宅の時間を少しでもずらしてシャワーを効率よく浴びておくという計算が働いているのかもしれないが、過去の経験上、かならずしもそうとはいえないと思う。
 ふたりの買い物がすんだところで歩き出す。南門からキャンパスに入る。星が見えるとふたりがいう。見上げると、たしかに頭上に輝くものが10個以上あって、これはなかなかめずらしい。女子寮のそばに達したところで、後ろから(…)さんがやってくる。オンラインの福引かなにかで(彼女いうところの)「chickenのleg」が当たったので、ひとり后街にある店に景品をもらいにいったところ、今日はすでに切らしているといわれたらしい。
 女子寮前で三人と別れる。自転車で帰宅。火鍋くさい服を脱いで浴室でシャワーを浴びる。ストレッチをし、食後のコーヒーを淹れ、今日づけの記事の続きを書く。1時半になったところで中断し、トースト二枚の食事をとって歯磨きし、寝床に移動してEverything That Rises Must Converge(Flannery O’Connor)の続き。“The Lame Shall Enter First”を読み終わる。“The Displaced Person”とおなじくオコナーの短編作品のなかではけっこう長いほうで、めずらしく章分けされている。短編というよりは短めの中編といったほうがいいかもしれない。外部からの闖入者のほうが(いびつなかたちで)信心を抱いており、その闖入者を好意的に迎えて啓蒙しようとする人物のほうが無神論者であるという、従来のオコナー作品と転倒した構図がある。いろいろ試していたんだなとわかる。