20230522

 夜中か朝方か、一度目が覚めたときに、吐き気のきざしをおぼえた。ろくにメシも食っていないし胃液しか出ないだろうと思いながら起きあがると、すぐに脂汗のにじみはじめる感触があったのでベッドからおり、すぐそばにある快递の段ボールに顔をむけた。吐き気はたった一度えずいただけでおさまった。気絶することもなかったし、視界が白飛びすることもなかった。血糖値か貧血かわからんがとにかくいつものやつだろうと察した。コロナそれ自体の症状ではない。
 しかし熱がしんどい。解熱剤が飲みたい。マジで眠りが続かない、ようやく眠れたと思っても30分ほどで目が覚める、じぶんのうめき声に起こされることすらある。7時ごろ、さすがに耐えられなくなり、学生になんでもいいから胃に入れるものを持ってきてもらおうと連絡。まずは(…)さんと(…)さんとこちらの三人からなるグループチャットでSOSを送ったが、どうやらまだ眠っているようだったので、だったらと二年生のグループに「誰か起きていますか」と送信。すぐに複数から返信があったので、熱がひどくてほとんど一睡もできていない(誇張)、解熱剤を飲みたいのでなんでもいいので食べ物を持ってきてくれませんかとお願いすると、「すみません、先生、私たちはまだ早自習しています」と(…)さん、「私たちは8時に授業があります」と(…)さんから返信があり、や、別にそんなのなんとでもなるでしょうという話なのだが、すぐに(…)くんからグループ外で直接メッセージが届いた。いまから持っていくという。自習はだいじょうぶなのかとたずねると、行っていませんというので、班長なのにサボってんのかよとちょっと笑ってしまう。それで外国人寮の場所とこちらの部屋番号だけ教える。(…)くんは最初ハンバーガーを買うつもりだったらしいのだが、早朝ということもあってまだ店が開いておらず、それで包子四個と豆乳を買ってきてくれた。もちろん、直接受け取りはしない。玄関先に置いておいてくださいとお願いする。階段をおりる(…)くんの足音が去っていったところでドアをあけてブツを回収。しかしじぶんでもびっくりするくらい食欲がなかった。正直メシは食えるだろうという感じはあったのだが、実際に包子を口にしてみたところ、一口でもういいわとなって、中の餡までたどりつかない。多少無理して食ったが、それでも小さいやつをひとつ食うので限界、こりゃいったん解熱剤を服用しておいて、体調のいいときにまた食ったほうがいいと判断。
 で、その解熱剤のおかげでずいぶんよくなった、熱は一時期36度台まで下がった。とにかく風呂に入れていないのと歯磨きができていないのが不快だったので、解熱剤のきいているうちにちゃちゃっとシャワーを浴びて歯磨きをした。そのあとは寝るつもりだったのだが、意外なことに眠気がおとずれず、だったら書見でもするかとなるわけだが、このコンディションでは洋書も樫村愛子もしんどい、それで『喧嘩稼業』(木多康昭)を読みはじめたのだが、解熱剤で楽になっているとはいえ、やはり漫画をずっと読み続けるのはそれはそれでしんどく、たびたび中断をはさんでしまう。学生たちからもちょろちょろメッセージが届く(書き忘れていたが、前夜は三年生の(…)さんや(…)一年生の(…)くんから心配のメッセージが届いた)。昼飯前には二年生の(…)さんから昼ごはんを持っていきますというメッセージが届いたので、だったら第三食堂の扬州炒饭でお願いしますといった(しかし彼女は体調が悪いときはもっとさっぱりしたものを食べたほうがいいと言い、「ラーメン」や「寿司」をこちらにすすめた、どこがさっぱりしとんねん!)。同じく二年生の(…)さんからは大学食堂で利用できるものらしいデリバリーアプリのようなものが送られてきたが、見知った学生らに頼んだほうが手っ取り早いので、これはパス。

 二年生の(…)さんからは喉の痛みがあるという微信が届いた。やはりこちらが移してしまったかもしれない。おなじ二年生の(…)くんからは彼も病院にいるというメッセージがグループチャットに投稿された。詳細はたずねていない。いまから食事を持っていこうかというので、(…)くんが持ってきてくれたのでだいじょうぶと受ける。
 昼過ぎ、(…)さんが扬州炒饭を持ってきてくれる。もちろん、おもてには出ない。微信でお礼だけ告げる。差し入れは扬州炒饭のみならず、ヨーグルトもスイカもあった。これはありがたい。しかし扬州炒饭は全然食えなかった、がんばっても三分の一でギブアップ。だからこのタイミングで二度目の解熱剤を服用したのだったかもしれない、それでのちほど空腹を感じたときにチャーハンの残りをたいらげた記憶はある。モーメンツのほうでもいろいろコメントが届く。二年生の(…)さんは二度目の感染をしたらしく、現在、体温が39度あるという。(…)先生からは非対面式のサービスを利用して薬や食事の差し入れを送ろうかという提案があったが、いまのところ間に合っているので大丈夫と返す。あと、元(…)大学の学生であり、前回電話したときはたしか北京で通訳として働いているといっていた(…)さんからもコンタクトがあった。モーメンツのコメント欄で具合をたずねられたので、これこれこんな具合で応じたところ、その流れでサシのやりとりにチェンジした格好。彼女は去年感染。37度代の微熱とのどの痛みが丸一ヶ月続いたという。歌うことが好きなので、特にのどの痛みが続いたときはかなり不安だったとのこと(いまはどうか知らないが、彼女はたしかビリビリ動画で日本の楽曲をカバーした動画をたくさん投稿していてそれがけっこうバズっているときいたことがあるし、あとはたしか日本語の発音指導の動画もあげているんではなかったか? とにかく彼女はモノが違って、中国全土から優秀な日本語学習者が集うことになる日本語特訓合宿の場でもやはり周囲から一目置かれている存在だったと以前(…)さんが言っていたし、たぶん日本語学習界隈ではかなりの有名人なのだと思う)。来月の下旬に日本に行くことになるというので、出張でかとたずねると、大学院に進学するつもりだという返事。以前電話がかかってきたときは、あれはまだオンライン授業をしていた頃だったが、日本の大学院進学を目指していたタイミングで父君が亡くなったり、あるいはコロナ禍が発生したりで、進学のタイミングを逸してしまったので就職することにしたと告げられた記憶があるのだが、やはり進学したいと最近考えなおしたとのこと。早稲田か横国に行きたいというので、きみの実力だったらどこでも合格できるでしょうと受ける(実際、マジでどこでも受かると思う)。また会いたいというので、日本でも中国でもいつでも会えるよと受けると、本当ですかーと懐疑的。「ぼくの出不精だけがちょっと問題だけどね」と受ける。
 しかしよくよく考えてみるに、いまここでこうしてコロナに感染したからには(とはいえ、検査をしたわけではないので、これがコロナではなく風邪やインフルエンザである可能性もなくはないのだが)、夏休み中は抗体持ちの無敵状態になるわけだから、京都だろうと東京だろうとわりと気軽に旅行できるのか。そう考えると、チャンスがあるかどうかまだちょっとわからんが、前回みたいに(…)くん、(…)さん、(…)さんらに会うために東京に行ったついでに、彼女と関東で会うのも悪くないかもしれない。ただあの子はちょっと転移を起こしやすいタイプである気がするので(父君を亡くしてからはなおさらそういう印象を受ける)、距離感だけ気をつけないといけないが。
 あと、(…)さんからも連絡があった。本来は6月に故郷にもどるつもりだったが、東京での仕事がまだまだ長引きそうなので、荷物は来月実家のほうに送ってほしいとのこと。了解。
 夕飯は(…)さんと(…)さんのふたりにお願い。まともにメシが食えるかどうかわからないので、とりあえずパンと大量のフルーツだけ買ってきてくれとお願いする。

 で、実際、ふたりは山ほどの差し入れを持ってきてくれた。ドアの前で「せんせー! だいじょうぶ?」と呼びかけてみせるので、少し離れたところからドア越しに「たぶんだいじょうぶ! ありがとう!」と応じる。で、ふたりが階段をおりていく足音が聞こえたところで、ドアの外に出てブツを回収。食パン二袋。ドラゴンフルーツ二個。バナナ二房。串にささったメロンひとつ。梨が三個とマンゴーらしきものが五個。それにくわえて雑多な菓子や漢方薬やのど飴がたくさん入った袋もひとつあって、ありがたい! これだけあったらとりあえずしのげる!
 解熱剤は服用しすぎないほうがいいという話を聞いたおぼえがあったのでネットで確認した。体内で熱を発生させてウイルスをぶっ殺すのが人体の仕組みであるのだから、熱が上昇しはじめたタイミングで解熱剤を使ってしまうとむしろずるずると症状が長引く可能性があるとのことだった。それで夜は解熱剤を服用せずそのまま眠るつもりだったのだが、これが完全に判断ミスだった、夜中にじぶんのうめき声で何度も目が覚めるはめになった、一日前とまったくおなじだ。熱は38度以下だったが、体感としてはあきらかにそれ以上にきつい、もしかしたらろくにメシを食っていないそのせいで体力が落ちているのかもしれない。それでこのままだと地獄だわとなり、夜中にいちど起きて無理やり食パンをねじこんで解熱剤を服用。その後、胃腸の気持ち悪さに多少悩まされたが(食パンをねじこんだとはいえ、空きっ腹に解熱剤を二錠もぶちこんだからだろう)、ひさしぶりにまとまった睡眠をとることができた。