20131220

 アメリカのビート作家のウィリアム・バロウズは「快楽とは物事を特殊な角度から眺めることだ」と書いていたが、それはドラッグ遍歴について語った本のなかに出てくる。バロウズはその頃アメリカのビートニクスたちのメッカになっていたモロッコのタンジールに行って、注射を打ちながら風呂にも入らず『裸のランチ』を書き上げた。
 バロウズはほかにもいろいろと面白いことを言っている、
「言語は外部空間から飛来したウィルスである」
 なるほど、ウィルスね。言葉はすべて外部からできているわけだ。人は何かを語るために、自分の肉体の束縛からなんとか脱するために、ウィルスをからだの奥深くに注入しなければならなかった。自分自身が今度はウィルスにならなければならなかったのだ。
(鈴木創士『中島らも烈伝』)



10時半起床。ストレッチ。洗濯。パンの耳2枚とバナナとコーヒーの朝食。パンの耳が尽きてしまった。仕入れにいかないと。二杯目のコーヒーを入れるためにおもてに出ると、オレンジレンジの歌を大声で歌いながらアパートの前の道路を駆け抜けていく自転車が四台あって、最初建物の陰になって見えない向こう側から声が聞こえてきたときにはおそらく近所の高校生だろうと思っていたのだけれど、視界にあらわれた私服姿を見るかぎり大学生で、かつ四人のうち一人は女の子で、見通しを二重にうらぎれたこの不意打ちに唐突な鮮度をおぼえた。
12時より「A」。難所の見直し。ためしてみたい表紙案があらたにひとつ出てきたので結局サンプル本を注文することにした。じぶんの本だけでもう一万円は使っている気がする。エディット画面のプレビューを用いれば紙本とまったく同じ体裁の画面を参照しながら推敲ができることに気づいたので、ブラウザがやや重く不便ではあるけれど、来週いっぱいこの方法で最後の点検をして、それで公開というかたちでいこうと決めた。それにしてもいったい合計で何周推敲を重ねたことになるんだろうか。初稿自体は二年前の十月に仕上がっているのだけれどそのときもたいがい頭のおかしくなるほど推敲を重ねた記憶がある。それから四度にわたって新人賞に応募するそのたびごとに多かれ少なかれやはりまた推敲を重ねてきて、そしてきわめつけがこの三ヶ月間だ。三ヶ月!(…)が去ってからの三ヶ月間、季節ひとつ分の期間をひたすら「A」を読み返しては書き直し読み返しては書き直し、それ以外にはまったくもってなにもしていないというこの驚愕の事実!それもすでに十分推敲を重ねてある原稿を相手どっての三ヶ月とくる!キチガイだ!確信した!おれはすごいキチガイだ!
プリントデータを入稿し終えて15時半、クソ寒いなか買い物に出かけた。ぶつくさやる気になれなかったのでLindstromでノリノリになりながら寒風を肩できりさいて歩いた。クリームコロッケは売っていなかったが、クリスマス仕様のチキンが売っていて、うわ今日クリスマスだったのかよとびっくりし、と同時に、てことはマジで〆切りまで時間ないじゃん明日から三連勤なのにと焦って携帯を調べると20日だったのでマジあせったわふざけんなよ生鮮館とほっと息をついた。帰宅してから玄米と納豆と冷や奴ともずくと胸肉を菊菜とねぎと水菜といっしょに酒とこんぶだしと塩で蒸し煮したしょうもない夕飯をかっ喰らった。夕飯の支度をしていると風呂場の窓をとりはずして運んでいる大家さんの姿が見えたので手伝ってあげるとお礼に肉じゃがをくれた。まるでRPGの最初の村に出てくる老婆そのものだ。依頼をこなすことでわりと便利な回復アイテムをくれるみたいな。食後はあいだに20分ほどの仮眠をはさみつつずっと以前に(…)くんから送られてきていた原稿を読んだ。それから20時ごろに(…)くんにいまひま?とメールを送ってひまですと返事があったのでスカイプして二時間ほどおしゃべりした。(…)くんは東京のなかなか奇妙な人間関係のなかで生きているらしかった。クリスマスに素敵に不安な予定があるというので、こっちは頭がおかしくなるほど推敲してんのにこの子ときたら!と思った。先日早稲田の学生さんらがやっている読書会に参加したらしく(課題図書はレヴィナスだったらしい)、そこにベケット大好きな読書家がいたというので、「A」が完成したら無理やり売りつけといてとお願いした。「A」はよく売れて10冊程度だろうというこちらの見込みにそれはぜったいにないと(…)くんがいうのでどうしてそう思うのと問うと(…)さんのブログ読者たぶん100人くらいいるでしょというのでいやいやいやいやそんなにいたらとっくに炎上しとるわとなった。19歳のときパソコンにはじめて触れてからというものほぼ欠かすことなくさまざまなスタイルでブログをこれまで書きつづけてきたわけだけど、カウンターとか見ているとだいたいいつも15〜20人でアクセス数が推移してそれ以上のびることもなければおちることもなくというのが常で、いまのブログにはカウンターがないのでアレだけれどでもなんとなく感覚的におそらく20人程度だろうと、そしてそのうちの半数はじっさいに会ったことのある人間だろうという見込みがあって、いまのところ献本予定としてまず(…)さん(…)さんという「A」をいちばん最初に読んでくれたおふたりに渡すのは当然として、誕生日にポニョをくれたりブックカバーのポイントキャンペーンで元気玉してくれた(みんな!オラにポイントを少しずつわけてくれ!)(…)さんにも贈ると約束したし、あとは(…)くん(…)くんの兄弟、それに(…)からも一冊たのまれているので、合計6冊。この6冊は別としてではいったいあと何人のひとが買ってくれるのかとなるとクソあやしいというか、(…)くんを読書会に誘ってくれた(…)くんという(…)くんと同い年の男の子がいてその(…)くんというのはこのあいだ東京で(…)くんに会ったときに教えてくれたこのブログを読んでくれているひとらしくなんだったら過去ログまで読みあさっているという話でこちらのプライベートはクソ駄々漏れなわけだけどその(…)くんもプライベートが駄々漏れな日記を書いているらしくて小説も書いているんだったかどうだったかいずれにせよ英語が堪能でマルケスの『族長の秋』の英訳を暗唱できるというすごい特技をもっているらしく英語の勉強教えてくれという話なのだけれどとにかくその(…)くんは「A」を購入してくれるらしいのでこれで1冊、さてそれ以外にアテはあるかといわれればぎりぎりとこめかみに青筋たてて泡をふきながら歯ぎしりせざるをえないというか、過去にこのブログにコメントをくれたひとというのがこちらの記憶がたしかならばたしかマルティン・ブーバーについて示唆してくれた方、ベケットの一節をブログタイトルにしていた小説書きの方、「邪道」がんばってください的な励ましをくれたやはり小説書きの方(がんばれませんでした)の三人きりで、ブーバーの方はたしか友人のすすめでこのブログを見たといっていたからその友人さんもふくめてこれらのひとみんなが一冊ずつ購入してくれたとして5冊、あとは(…)が来日前にカウチサーフィンについて情報提供してくれたひともいたのだけれどこのひとはいただいたメールのなかでとくに文学について触れているわけではなかったのでひょっとしたら英語とか外国人との交際とかそういう方面でのアクセスだったのかもしれないけれどもポジティヴに数えあげていきたいので一冊、というわけでここまでで6冊。6冊!あとはこのブログをアンテナ登録したりRSS登録してくれたりしているひとがいったい何人いるのか、そしてそのうちのいったい何人が生きた読者であるのかというアレにかかってくるわけなのだけれどそのあたりさっぱりわからないからとりあえず4冊ということにして計10冊!献本分とあわせて計16冊!とんだベストセラーじゃねえか!和田アキ子の新譜のほうがまだ売れてるわ!頭きたしもう寝る!おやすみ!