2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

20240229

ぼくはなにか祈りのようなものを唱えたくてたまらなくなり、だが、やり方を知らないことに気がついた。不意に、自分が危機に際して祈らずにいられないすべての人々と、結びつけられるのを感じた。祈りを、馬鹿げたものとは思わなかった。それはただ、不可解…

20240228

ぼくは八〇エーカーの芽ぶきはじめた牧場の奥深くにいて、ぼくの頭は決してじっとしていなかった。ぼくの目はみずみずしい緑の牧草の連なりを舐め、いちばん新しいトラクターの轍を捉えることができた。子牛がつけた深くへこんだ足跡は、辺りがまだ泥で、草…

20240227

高い高い草から アスファルトの運動場の縁へと ぼくは君がぼくを観察するのを見る ぼくはぼくに見られてるのに気づいていない君を見る ぼくがかすめ取る盗み見の一つひとつが ぼくの生命に一日を加える 近ごろ君はつかまえにくい あるいはぼくが耄碌してきた…

20240226

ぼくと馬とは山腹の中ほどにある牧場の門を抜け、たいらな地面の上にぼくは馬をとめる。彼は登ってきたために息使いが荒く、小さな汗の玉が両肩の間に浮き出ている。眼下の谷間の緑のピックアップ・トラックの中に牧場主がすわっている。彼はぼくらの方を見…

20240225

国家の響きが草原に漂ってゆく なにも信じていない声で ただ慣習のためにうたわれた歌 (サム・シェパード/畑中佳樹・訳『モーテル・クロニクルズ』 p.172) きのうづけの記事に書き忘れていたが、きのうは元宵節だったらしい(学生らがその旨祝う投稿を汤…

20240224

どうしてぼくは思うのだろう 「この男はイカレポンチだ」と 彼がクリーム入れを手に取って 「キュートなモオモオちゃん」とそれを呼ぶ時に どうしてかはわかっている。 それは彼がどうしても人々に馴染めずにいる孤独感を 少しもかくそうとしていないから (…

20240223

◉ぼくの名前は父親がはじめて生まれた息子に自分と同じ名前を付け、それから母親がその息子にニックネームを付けて、それで父と息子とが広い畑で腰まで麦に埋まり、並んで働いているようなときに遠くから呼びかけてもどちらのことだか判るようにするというこ…

20240222

ぼくは彼女のテーブルに行って、何を読んでるんだいと訊く。 「アメリカにおける自殺の歴史」彼女は答える。 そこでぼくは訊く、「自殺が専攻なの?」 「いいえ」と彼女。 「なんだ」とぼく。 (サム・シェパード/畑中佳樹・訳『モーテル・クロニクルズ』 p…

20240221

ここの人々は いつのまにか 彼らがその振りをしている 人々になった (サム・シェパード/畑中佳樹・訳『モーテル・クロニクルズ』 p.65) 7時起床。朝っぱらからいくら丼を食す。身支度を整え、間借りの一室からパンパンになったリュックサックとキャリーケ…

20240220

◉彼の目覚ましコールは朝の五時半にかかってくる。今では毎朝おなじみのルーティンだ。彼はモーテルを出て、草地を横切り、ケトル・パンケーキ・ハウスへ行った。うすぐらい早朝の光の中、衣装係の女がジョギングして彼を追い抜いていった。彼女は一人きりの…

20240219

(…)菅原はおそらく天皇制について、肯定とも否定とも言えない複雑な感情を抱いていた。天皇が国民の公共感情を吸収する装置として存在することそのものへの関心とも、言い換えられるかもしれません。そこで、公共的な主体にとって行われる死者への追悼と、…

20240218

有声阻害音(日本語においては濁音)が重く、大きく、穢らわしいイメージを持つのは、口腔内空間の体積が、その音を発声する際に一定以上に膨張すること、ならびに閉鎖した口腔から低音のみが際立って外へ響き漏れていることによる。現代言語学の祖とされる…

20240217

そこでは、誰一人として、生まれた瞬間に開始した行為を息を引き取るまでに完遂することがないゆえに、目的と手段の差異を認識できる者はなかった。 (樋口恭介・編『異常論文』より青山新「オルガンのこと」) 11時半ごろ起床。父の手土産の巻き寿司を食す…

20240216

日本語では語り手の主観性はとくに語尾に集中的に現れる。判断や断言を示す「——だ」「——である」、呼びかけや詠嘆を示す「——よ」「——ね」などだ。「です」「ます」も語り手の存在を感じさせてしまう。そこで言文一致体の語尾はもっともニュートラルな過去形…

20240215

生け贄は捧げなくてはならないが、生け贄になりたがるものはだれもない。事実、われわれの全生活は、その一大原理に捧げられている。 (フィリップ・K・ディック/浅倉久志・訳『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』) 11時起床。弟のこしらえてくれたうど…

20240214

「(…)そして死ぬことで、あたしたちはあるものを失くすのよ、つまり——」フランは言いよどんだ。「どうした、はやくいえよ」サムは包みを開きおわった。褐色で堅い、草の繊維を思わせる塊から、細い一切れをナイフで切りとった。 フランがいった。「原罪の…

20240213

フランスの哲学者アンリ・ベルクソンも笑いについてこんなことを書いている。私たちは自分が愛する人を笑うことがある。しかし、笑うためには「その愛情を忘れ、その憐憫の上を黙らせる必要」がある。というのも、どのような出来事にも「感情の共鳴を引き起…

20240212

哲学者のダニエル・デネットらの研究によれば、心の中の知識や信念に不一致を見出したときに、ぼくたちはおかしみを感じて笑いが起きる、という。ぼくたちの脳はたくさんの情報を高速で処理している。ときには不完全な情報のなかで知識や信念を形成している…

20240211

しかし、ある時期から雰囲気が変わった。ぼくたちは何か大きな出来事があると、その出来事が時代を区分したように思ってしまう。たぶん、何かのバイアスなのだろう。とはいえ、やはり二〇一一年の東日本大震災以降、空気が変わったように思うのだ。メタ視点…

20240210

簡単にまとめると、ここ最近のインターネットの学級会は「傷ついた」という「身体的な体験」に基づくポピュリズム(リベラル)と、不都合な真実を暴露する「エビデンス主義」(アンチ・リベラル)が互いに争っている。そして、どちらの陣営からも「批評」や…

20240209

批評家の東浩紀さんは二〇〇〇年代に配信していたメールマガジンの鼎談で差異化ゲームの問題点について興味深い指摘をしている。ぼくなりに要約して紹介しよう。 「思考や解釈のメタゲーム」(メタ視点に立つための、差異化ゲーム)には多くの人がうんざりし…

20240208

(…)リベラルは資本主義を認めるが、左翼は否定する。 リベラル=優等生はいじめる/いじめられるの力関係に敏感である。しかし、優等生/不良の知の力関係には鈍感である、たいして、ネトウヨ=不良は優等生との知の力関係に敏感である。しかし、いじめる…

20240207

読者を納得させる理屈が思いつかないので、わからなければ感性が違うんだと聞き流してほしいのだが、「盗人にも三分の理」と言うときの三分の理みたいなものにどうしてもひかれてしまう。遊び人、怠け者、ならず者、不届きもの、タダノリする奴、フリーライ…

20240206

政治的に無知な人は、富裕層よりも貧困層に多い。もちろん、彼らが政治的な知識を持てないのは、社会的に不利な条件に置かれているからだ。生活に余裕がない。コミュニティから独立している。十分な教育を受けられない……階級の問題である。「こんな社会はお…

20240205

人間は自己家畜化した生き物だという説がある。「家畜化」とは「遺伝的適応の結果として従順になる」ことだ。たとえば、おとなしいキツネ同士を交配させると、人懐っこいキツネが生まれてくる。これが家畜化である。 たいして、人間は自己家畜化したとされる…

20240204

この耐えがたさをうまく理屈にするすべがぼくにはないので、大多数の読者にはわからないと思う。ぼくもわかってもらおうと思ってないので、以下の言葉は感性の違いなのだと聞き流してほしいが、資本主義から安心、尊敬、信頼される人間になる耐えがたさとは…

20240203

厨二病的シニシズムは、子供っぽい純粋さを持っている。たとえば、高校生のぼくはボランティアなどすべて偽善だと思っていた。社会のためではなく、単なる自己満足。「他人からええように思われたいだけや」と。まさに「シニシズム」である。しかし、逆に言…

20240202

思考と決断は緊張関係にある。だが、両立できないわけではない。実現する可能性がほぼないと分かっていても、チャレンジはできる。だから、悲観的に考えて、楽観的に行動する、というのがベストである。しかしどうも楽観的な空理空論で騒ぐ人々に囲まれてき…

20240201

よく見ると、「アベガーが安倍暗殺の原因だ」というネトウヨのロジックは、「ネトウヨがヘイトクライム(憎悪犯罪)の原因だ」というリベラルの批判をパクっている。ネトウヨが排外主義的な言説をくりかえしている→安倍政権は排外主義に断固たる姿勢を見せず…