2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

20231031

ラカンは、ユダヤ人の以下のようなエピソードによって、コミュニケーションに横たわっている基礎的な信頼の問題を指摘している。 二人のユダヤ人が出会う。「どちらへ?」と一人が尋ねると、「クラカウまで」と答えが返ってくる。「おい、お前さんはなんて嘘…

20231030

医療社会学は、医療人類学における痛みや健康の文化社会的構築性についての議論に長らく大きな影響を受けていた状況であったが、昨今はポストモダン的な言説分析を医療言説の分析に導入することで医療現象の社会的文化的構築性を独自に論じようとしている。…

20231029

しかし一方、現代においてはローカルの破壊とその再構成があまりに早くなされるため、痕跡を隠蔽する時間がなく、そのフィクション性が露になる事態が生じており、これまでのように移行対象を設立して見かけの連続性を仮構することが困難になってくる。ポス…

20231028

ロバートソン(1995)はこのグローカリゼーションという概念を示して、グローバルとローカルが排他的ではないことを示唆した。グローカリゼーションとは、グローバリゼーションの中で頻繁に新しく興隆するローカルなものの現象を、グローバリゼーションに対…

20231027

(…)とはいえ先に見たように、人間は想像的なものを失っては生きてはいけないため、精神分析的文化は、この想像的なものを「意識的に」構成維持しようとする。ニューエイジが「人間の自明性(想像的なもの)の防衛装置」なら、精神分析的文化は「人間の自明…

20231026

精神分析理論は、ジジェクも示唆したように、主体がそもそも言語や知のみによって構成され支えられていないことを示唆する。主体は自身や世界を安定した全体性をもったものとして想定したがる。これは、そもそも主体が最初他者に全面的に依存することによる…

20231025

ギデンズ、ベックは、主体が共同体の規範のような主体の外のシステムに依存せず、すべての自身の行為を自己決定しその結果にも責任を持つあり方を「再起的自己」という概念で示す。そしてこの再帰性は社会の進化と共にますます高度化して、自己の制御力が高…

20231024

そこで現在の問題を考えてみると、エリアスも示したように、文明化は感情の抑制を助長したが脱文明化は感情のコントロールを社会的レベルから個人的レベルに移動させる(感情についての社会的規範や統制が消失していく)ため、人々はより自身の感情について…

20231023

まず第一節では、関係、特に「関係性の危機」を問題にしこれを原理的に考察する。「関係性の危機」については、ギデンズ(1992)が、近代制度によらない(外部に参照点をもたず自律的な)個人とその関係性を「再帰的な自己」と「純粋な関係性」という概念で…

20231022

ここで侵犯/悪が症例に対してもつ意味を考えてみよう。例えば、強迫神経症者は抑圧物のせいで理由の構築ができなくなる。彼は、恐ろしいことがあって心配なのではなく、心配であるゆえに恐ろしいことをしようとする。そうすれば不決定から逃れられるからで…

20231021

子供が言葉を覚えるときのプロセスを推論してみよう。子供は「桜が何であるか」というシニフィエ(意味内容)を一挙的に獲得するのではない。桜が眼前の認知によりひらひらとした感触をもっているとき、桜=「ひらひらとした」というシニフィエがいったん登…

20231020

「社会の心理学化」は両義性をもったアンビヴァレントな現象である。一方では社会の再帰化を押し進めて現在の伝統や規範を解体する力を担っている。他方では従来の伝統や規範に代わって社会を記述したり統合する役割を担う。社会の解体と構築はこうして同時…

20231019

「心理学化する社会」とは、社会の脱制度化や再帰化が進み、人々を支配していた伝統や価値や規範に代わって、心理学的言説や技術が人々を支配していく社会である。ギデンズが個人の再帰化は難しい課題となるとしその機能不順としてたくさんのアディクトが生…

20231018

私は永年小説を書いて来た、いまもテキストの書き直しを重ねる人間だが、その習慣による知恵のひとつが、書き直しに確信を持てなければ当該箇所をまるごと取り去れ、というものだ。 (大江健三郎『水死』) 7時半起床。朝食はトーストのみ。最寄りの小卖部で…

20231017

(…)時代から離れて、周りの人間とはできるだけ無関係に生きようとする人間こそ、その時代の精神の影響を受けてるんじゃないかと思うね。ぼくの小説は、大体そういう個人を書いてるんだけれども、それでいてなにより時代の精神の表現をめざすことになってる…

20231016

落ち込んでるにしても、兄さんの年齢で落ち込んでるというのは、老人の冷静ということなんですよ…… (大江健三郎『水死』) 7時30分起床。活動開始後ほどなくして1時間はやくアラームを設定していたことに気づいた。授業は10時からであるのだから8時30分起床…

20231015

地方の古い家には、とくに栄えた来歴はなくても、それなりの伝承が語り継がれているものだ。しばしばフシギで、滑稽ですらあるものが、家の外に言い立てられることはなくても、一種人気のある「冗談」として記憶されている…… 『水死』(大江健三郎) 10時起…

20231014

ラカンは、ジョイスを自分の作品によって精神分析がもたらすことのできる最良のものを、精神分析抜きで獲得した、と言っていた。これはジョイスが自らのララングを利用して作品を創りあげ、それを〈他者〉に認めさせて市民権を獲得させ、自分の生きる道を見…

20231013

〈他者〉の不在から〈一者〉の実在(existence)に重心を移したからといってラカンが言語(langage)の重要性を捨てたわけではない。ただ言語構造、つまりS1—S2という構造を二次的なものとして、それ以前にあるものとして構造化されていない単独のS1、そして…

20231012

セミネールの一一巻ではアリストテレスのチュケー(tuché)という概念が扱われていた。チュケーは現実界との偶然の遭遇を意味するものであったが、七〇年代になると人間が最初に遭遇するのは言語であり、言語との遭遇によって、生物学的存在でしかなかった人…

20231011

シニフィアンの構造は、S1—S2という二つのシニフィアンの繋がりを基本とする。ここでS1は最初からS2と繋がっているわけではない。S1は最初の満足体験、もしくは享楽のマークとして他のものと繋がりを持たず単独に存在する。ラカンはこのS1を一なる印または一…

20231010

分離において不完全な姿を表す他(/A)は、言語に同一化した身体の穴を通して自らの欠如を構成するようになり、主体はそこに自らの場を見出し、欲動を構成するのである。分離は主体の存在形式として、われわれが日常に経験することのなかに認められる。その…

20231009

疎外において主体はS2を選択するが、その結果、主体は存在欠如として外部に失われる。主体はこのとき、何の要素も持っていない空集合である。ここで主体は一つのものにめぐり合い、それによって自らの存在を救おうとする。主体の行動範囲は〈他者〉の世界に…

20231008

われわれはここで再び、倫理の項で触れた主体と das Ding との出会いの経験に立ち戻る必要がある。フロイトは主体と現実界との遭遇を心的構造が決定される原初の経験と考えた。最初の遭遇は主体にとってまだ何の意味すらもたないものであるが、このとき主体…

20231007

過去の出来事の反復及びそれに付随する情動という転移の二つの側面は、分析の進行の原動力となるものであったが、やがてフロイトは分析家への愛情が同時に分析の進行の妨げともなる患者の抵抗の表現でもあることに気づくようになった。 分析における唯一の規…

20231006

対象aを把握することの困難は、それが対象と名づけられているにもかかわらず、何の対象性ももっていないことである。対象性のない対象とは逆説的な表現であるが、それは対象aが現実界(Réel)を表す対象であることに由来する。通常われわれにとって対象とは…

20231005

真理はパロールによって構成されるが、パロールは言表行為にのみ自らの保証をもっている。すなわちパロールは自らを真理として表明するのみであって、その言表は他に何の保証ももってはいない。つまり真理とは語られるものであるが、自らの保証——真理の真理—…

20231004

分析にとって真理とは、決して理想的形態をとるものではない。それは逆に、誰も知ろうとしない去勢の真理である。「万人が捜し求めているものは、実は誰も認めることのできない無の場である」というのが真理から主体に戻ってくる返答である。恐ろしい真理の…

20231003

欲動の対象とは欲動を満足させる対象であるが、これは要請の対象である。 母と子の間で要請が交わされるとき、口、肛門、耳、目などの諸器官が仲介となり、各器官には機能に応じた対象物ができる。乳房、排泄物、声、まなざしがそれに相当する。 しかし欲動…

20231002

欲動とは、自らの存在を持たない主体が対象物によって存在を得ようとする機制である。 (向井雅明『ラカン入門』より「第Ⅱ部第四章 精神分析の倫理」 p.241) 10時半起床。月餅ふたつ食す。昨日に続けて今日もやや下痢。しかし身体のだるさはない。快復した…