20231108

 作者忙殺につき、本日の「メンサ(…)の読むだけでIQが爆上がりするコラム」はお休みさせていただきます。ご了承ください。


  • 起床後、学生らを迎えるために、まずは部屋の掃除。洗い物を片付け、シンクを磨き、部屋に掃除機をかけて、テーブルや椅子の埃を雑巾でぬぐう。
  • 朝昼兼用のメシを第五食堂で打包。その後はたまっている日記をひたすら書く。
  • 予定の15時になっても(…)さんらは来ない。そのまま16時になる。連絡してみると、あと20分で到着するという返事があるので、これはもう中国的なアレであるのだから仕方ないのだが、予定より遅れるのであればいちおう連絡してほしいと伝えた。以前は「郷に入れば郷に従え」式に、こうしたあれこれについては細かく言うこともなかったのだが、しかし学生らのなかにはインターンシップなり留学なりで日本をおとずれる人間も一定数いるし、決して多くはないけれども日系企業に就職する子らもいるし、そういうことを考えると、あえて「典型的な日本人」としてふるまったほうがいいんじゃないだろうかと考えることもときどきあり、それで今回もこうした注意をした格好(もちろん、ふつうにちょっとげんなりしたという事情も多少はあるが)。(…)さん曰く、こちらが今日授業のない日であるということだったのでいつでもかまわないと思ったとのことだが、こういうところにやっぱり相手の事情を想像するという感性の欠落をどうしても感じてしまう。授業以外にも用事なんてどれだけでもあるし(しかもこちらは日頃そういうことをけっこう頻繁に口にする)、その用事を効率よく処理するためにスケジュールを組み立てている人間なんていくらでもいるだろうに、そこのところにまったく想像がおよばない。
  • 結局、学生らがやってきたのは16時半をまわっていた。(…)さんのみ学生会の用事で遅れるという話だったが、たしか15分もしないうちに到着した(髪の毛がずいぶん長くなっていたので驚いた)。(…)さんがさっそくキッチンに立ってあわただしく動きはじめる。料理のできない(…)さんと(…)さんはキッチンから離れたテーブルで(…)さんの指示にしたがって梨の皮を剥きはじめたのだが、ピーラーを貸してやったのにろくにそれを使いこなすこともできないようすだったので、全然できてないじゃんと笑いながら途中でこちらがひきとった。高校時代から日本語を専攻しているにもかかわらず会話の不得手な(…)さんは、はじめのうちは緊張もあったのだろう、われわれから逃げるようにキッチンのほうに行ったが、後半は会話に合流した。(…)さんにどこの大学院を受けることにしたか決めたかとたずねると、(…)大学という返事があったので、あ、(…)さんがおるとこやん! となった。
  • (…)さんもふくめて三人でだべっている最中、キッチンのほうがややあわただしくなったので、(…)さんがヘルプに向かったのだが、もともとキッチンがせまいのにくわえて、彼女自身料理はまったくできない、それでもいちおう鍋と油をあつかう(…)さんのもとに駆けつけようとしたものの、キッチンとリビングのあいだにあるガラス戸のふすまで軽く頭をぶつけてしまい、それでもう手助けをあきらめて(…)さんの腰かけているソファにすごすごともどってきた、その負け犬っぷりがあまりにおもしろかったので、(…)さんとそろってゲラゲラ笑った。その後、皿かなにかを出すべくキッチンにこちらがよばれる機会があったので、そちらに立っていったついでに、先の(…)さんを真似てガラス戸であたまを打つふりをしたところ、(…)さんがゲロでも吐くんじゃないかといういきおいで引き笑いをはじめたので(彼女はめちゃくちゃゲラなのだ)、それでまたみんなそろってゲラゲラ笑った。それでパターンができあがったので、その後はわれわれ三人のうち、だれかがキッチンのほうに立とうとするたびに、気をつけて! 気をつけて! 小心! と声をかけては笑うという流れがくりかえされた。
  • 食事は全部で7品。手羽先を煮込んだやつ、スペアリブと豆とパクチーを煮込んだやつ、海老を唐辛子で揚げ焼きしたやつ、オクラのおひたし、肉団子とたまごのスープ、牛乳を揚げたスイーツ、梨を使ったゼリーみたいなスイーツ。よくもまあこれほど作ったものだと思う。食事が完成する前にリビング組の三人で第五食堂をおとずれて白メシだけ打包。食前に記念写真を撮影した。
  • メシはやっぱり信じられないくらいうまかった。これまで学生がメシを作りにきてくれたことは何度かあるが、やっぱり(…)さんがダントツでうまい、ちょっと普通じゃないと思う。しかし当の本人は自信がなく、ほかの面々に対して、本当においしいか? まずくないか? と執拗にたずねる。じぶんは家族のなかでいちばん料理が下手だというので、そんなことないでしょと思ったところ、彼女の実家をおとずれたことがあるという(…)さんが、(…)さんのおばあさんの料理を食べたのだがめちゃくちゃおいしかったといった。(…)さんの父君はむかし料理店を経営していたという。しかし食材の安全性にこだわった結果、利益があまり出ず、それで閉店するはめになってしまったこと。(…)さんは自分自身が口にするものに対しても、また边牧の(…)が口にするものに対しても、安全であるかどうかにものすごくこだわるのだが、それはたぶんそういう父君の方針の影響もあるのだろう。
  • その父君が、彼女の料理を外教やクラスメイトがおいしいおいしいといって食べているのを信じないと言っていると(…)さんはいった。それで父君に信じさせるためにビデオ通話をはじめ、料理を食べるわれわれの姿をカメラに映しはじめたので、好吃〜好吃〜特别好吃〜とアホみたいな声で連呼した。父君、信じた模様。料理人になればいいのにとすすめると、料理人は忙しい、背中がとても痛くなるという返事。(…)さんはいつも食堂や后街のごはんがおいしくないと言っているけど、じぶんで作ったごはんがこれだけおいしかったらそう思うのも当然だねという。夏休みや冬休みはいつもじぶんでごはんを作るのかとたずねると、じぶんのためにはごはんを作らないという。友達や家族のためだけ? とかさねてたずねると、意味深な沈黙をはさんでから、先生のためだけですという返事があり、そのとき一瞬、空気がちょっと妙なふうになった。マジでちょっと、変な誤解をまねく発言はしないでほしい。
  • 食の安全でいえば、(…)さんがモーメンツでけっこう思いきった投稿をしていた。同級生らが核排水に汚染された魚を食べてもだいじょうぶなのかとしょっちゅう連絡をよこす、しかしわれわれは重金属や農薬に汚染されたものを長年食べてきた、すでにわれわれの身体はそういったものに十分耐えられるほど鍛えられている、だからもう心配してくれるな、おれはいまも刺身を食べている! という文言とともにまさに刺身の写真を投稿しており、(…)さんも相当あたまにきているのだろうなと思った。こちらの印象では、(…)さんは(…)さんなんかにくらべるとそこまで中国の現政権に批判的ではない、いや批判的ではあるもののなににつけても壁の外側に付くというタイプではないはずなのだが、わざわざモーメンツにこうした投稿をするということは、大学時代の同級生である中国人ら——そのなかには当然、(…)先生も含まれているのだろう——ですらろくに情報を得ようとせず、壁の内側で流通する馬鹿馬鹿しいプロパガンダに淫しているという現状があるということなのだろう。売り言葉に買い言葉のごとく中国国内の汚染された食物について言及するあたり、日頃の(…)さんらしくないというか、よほどあたまにきているのだろうなと思われる。せっかくなので、(…)さんにだけこの投稿をちらりと見せてみたところ、みんなそうです、わたしも長野にいたときずっとお母さんから心配の電話がかかってきました、という反応があった。
  • 明日と明後日は運動会。週末含めて四連休になるわけだが、雨が降った場合はそうならない。そして天気予報によれば、明日からしばらく雨が続く。しかし学生らはみんな四連休モードになっているし、こちらも当然そうである。(…)さんにいたっては、(…)に会うために今晩高铁に乗って帰省するという。もし運動会が中止になったらどうしようと(…)さんは心配していたが、それでも帰省の決意は鈍らないようす。そういうわけで21時前には彼女は部屋を去った。残り三人は片付けだけしていこうとしたが、それはメシの準備もなにもしていないこちらの仕事だと強引に断った(それにキッチンであれこれたちはたらくのであれば、じぶんひとりでやるほうがむしろ効率がいい)。
  • 去り際に(…)さんが抖音の動画をみせてくれた。在日中国人が日本の半グレやヤクザにインタビューしている動画。ジェスチャーで、小指がない! 小指がない! と訴えてみせる。(…)さん、いまは多少おとなびたとはいえ、それでも年齢よりずっと子どもっぽくみえるし、メイクもしないし服装もひかえめだし、物腰は非常におとなしく口数も少なく、野鳥保護のボランティアに熱心にかかわっているという点もふくめて、出身は江西省であるけれどもおそらくかなり田舎の出なんだろうなという印象を受けるのだが、そんな彼女のスマホになぜか日本のヤクザ関連の動画ばかりがずらりとサムネイルで表示されているのをみると、おい! キャラブレまくっとるやんけ! とちょっと笑ってしまう。ちなみに一年前の食事会でもそういう話が出たが、彼女はBLや百合が大好きなのだった(梨を使ったゼリーのようなスイーツのなかに百合の花が食材として使われていたので、女の子同士の恋愛だねと受けると、(…)さんはとてもうれしそうに笑った)。
  • 学生らが去ったところで後片付け。水切りラックが小さいので、食器は洗いきれない。こちらは普段スリッパで生活しているが、客人には土足のままでかまわないと告げているので、学生らがやってきたあとはおもに水回りを中心としてフローリングが真っ黒になる。それも雑巾でぬぐう。
  • (…)さんから撮影した写真が届く。彼女と(…)さんにそれぞれ写真をモーメンツに投稿しても問題ないかと打診。一年生の授業もはじまったいま、彼女らの警戒心を解くためにも、そしてまた一部の学生の学習意欲を高めるためにも、日頃からこうして学生らとしょっちゅういっしょに過ごしていることをここでアピールしておこうと思ったのだ。(…)さんにはあらためてお礼も告げる。しかし「先生、私が作った料理が好きなら、毎晩料理を作る時間があります」とあって、いやそれはちょっと、なんかまずいことになるんではないでしょうかという感じ。
  • シャワーを浴びて寝室にもどると、(…)からグループチャットに通知が届いている。運動会が延期されるかどうかについては明日の朝7時に通知がある、と。だからいちおう明日は授業があるつもりで事前に準備しておいてほしいとのこと。明日は朝イチで二年生の日語会話(三)。「(…)」で誤魔化すことにする。それで教案を一部いじくる。ついでに二年生のグループチャットで、明日晴れることをみんなで祈りましょうとやりとり。モーメンツもやはりあした晴れろあした晴れろ一色だったのだ。てるてる坊主の話などして盛りあがる。学生らが部屋にいるあいだもてるてる坊主の話題になり、実際、そのときこちらがティッシュでこしらえたやつが残っていたので、その写真をグループに投稿したのだが、ちょっと呪いの人形みたいで気持ち悪い。それからビッグシルエットのTシャツをはおった状態で剃りたてのあたまをさらし、かつ、白目をむいてあぐらをかいている状態で自撮りした写真を、てるてる坊主のコスプレですとグループに投稿した。(…)さんもてるてる坊主をこしらえた。こちらが作ったやつよりもずっとかわいかった。
  • ひとつ書き忘れ。食事中、(…)さんと抗日ドラマの話で盛りあがったのだった。功夫の達人が村にやってきた日本兵素手で八つ裂きにするドラマがあるでしょと笑いながらいうと、(…)さんもやはり知っているらしく(たぶんビリビリ動画などでさんざんネタとしてこすられているのだと思う)ゲラゲラ笑った。うちの部屋にくる前に学生らは管理人の(…)のところでサインをしているのだが、そのとき(…)がスマホで抗日ドラマを見ているのを目撃したと(…)さんがいうので、あのおじいちゃん! 最近ぼくといい関係なのに! もしかしてぼくのこと鬼子だと思っているのか! というと、やっぱり吐きそうになるほどゲラゲラ笑った。
  • 以下、食事の席で撮影した写真とてるてる坊主のコスプレ。集合写真は左から日本鬼子、(…)さん、(…)さん、(…)さん、(…)さん。

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