20231117

 無意識の操作とは、主体によって抑圧されている無意識を本人のコントロールを越えて開示することであるから、本人のコントロールの困難を支える他者や共同性が存在したり、また操作による自己変容について了解しうる意味体系他が存在しなければ変容前との主体の連続に困難が生じ、容易に心的疾患に陥る。無意識の自己操作において心的危機が起こりやすいことは、伝統的な達人宗教においても、白陰の『夜船閑話』といった禅病の克服記録に見られるように認識されていた。またトランスパーソナル学では、「スピリチュアル・エマージェンシー(霊的危機)」という概念を提示することで、無意識の操作や変容が他者の管理のない状態で起こるときに外見的には精神病と類似の諸相を見せる自己解体が起こることを認識し指摘している(彼らは精神医学と異なった認識観によりそれを再度宗教へと統合することを志向しているのだが)。そして宗教の脱制度化と自己決定性の増大は、「達人宗教を大衆化」すると同時に質の低い中間伝達者を多く生んで、伝承形式で伝えられていたかもしれない実践知が十分伝達されない可能性を生むだろう。そのことは、無意識の自己操作に伴う、危険性とそのケアについての認識やケア能力の欠如を導く可能性をもつだろう。そこで起こる心的疾患が「自己責任」のもとに切り捨てられる可能性も存在するだろう。
樫村愛子『「心理学化する社会」の臨床社会学』より「自己決定性の増大がもたらす宗教的外傷について」 p.272-273)


  • 10時前起床。(…)から着信がある。教師のactivityがあるので参加しないかという。運動会の種目だろう。シンプルに断る。
  • 一年生1組の(…)さんから微信。運動会に来ましたか、と。いま起きたばかりだと返信。一年生と二年生は観客として強制参加する必要がある。日焼けして大変だという。きのうは夜遅くまで『HUNTER×HUNTER』のアニメを視聴していたから眠いというので、(…)さんやっぱりアニメ好きなんだなと思った。『名探偵コナン』と『NARUTO』も好き。後者についてはナルトとサスケのCPを推しているとのこと(しかるがゆえに続編の『BORUTO』はあまり好きになれないという)。ちなみに『HUNTER×HUNTER』は(…)先生のおすすめだという。意外。おすすめの漫画を教えてほしいというので、芸術的かつ文学的なものが好きなのであれば、つげ義春三好銀、川勝徳重、楳図かずお高野文子あたりがよいと応じる。少女漫画であれば岩本ナオ大島弓子萩尾望都は、漫画といえばすなわちジャンプ漫画であるという彼女のような人物にとって、「古い」という理由だけではねつけられてしまいかねないので、ここではいったん留保)。あと、『宝石の国』がアニメ化している市川春子は『25時のバカンス』がいいとも伝えた。
  • メシは朝昼兼用で第五食堂。帰宅してかっ喰らっている最中、三年生の(…)さんから微信。友人と外でラーメンを食べた、先生の分も打包したという事後報告。いやだから、頼んでもいないものを勝手に買って持ってくるな! 貢ぐ癖をやめろ! 昨日もまさにそういう話をしたばかりであるのに! あたまを抱える。そういうふうにして他人の関心をひきとめるのが癖になっているのだろうか? ふだん話しているかぎり、そういう思考様式に支配されているタイプには全然みえないのだが(しかしここには言葉の壁が介在している)、ふるまいは完全にそうした人種のものだ。すでに腹いっぱいだったし、受け取ったら受け取ったでまたおなじことが何度も続きかねないので、受け取らない方向に話をうまく誘導する。
  • その(…)さんからのちほどまた微信。博士号をとるために北京にいる(…)先生から翻訳を押しつけられたという。大学院の課題をじぶんの学生にさせようとしているのだ。あたまにくる。あのクソババアはマジで学生のことをじぶんの奴隷かなにかだと思っている。断れという。断ることはできないと(…)さん。原文は旧仮名遣いのかなり古い文献。ソロン人うんぬんとある。昨日だったか一昨日だったか、夜中に(…)先生から「ソロン人」とは中国語でどう翻訳するのかと質問が届き、ネットでちゃちゃっと調べて返信したのだが、どうもこの課題にかかわるものだったようだ。いちおう最初はじぶんで翻訳しようとしたのだろう。しかしわからない。そこで(…)さんにゆだねた、と。バカじゃないかと思う。学生を奴隷扱いするのもバカだし、コネかなにか知らんが博士課程に進学したもののそれをきっかけにじぶんの能力をもう一度磨きあげようとするのではなくこの期におよんでなおその場しのぎの不正行為でやり過ごそうとしているそういうふるまいのひとつひとつが万死に値する。マジで死ね。文章がむずかしすぎてわからないと返事すればいいというと、その場合彼女はわたしの不勉強を批判しますというので、あのババアならたしかに平気でそういうことを言うだろうなと思いつつ、放っておけばいいじゃないかという。原文がむずかしすぎてわからなかったので(…)先生に質問してみた、すると(…)先生からこれは学部生に理解できるレベルの文章ではないと言われた——そう伝えてもいいというと、彼女はほかの学生や教員にこの件について知られたくないはずだという。とにかく断れと伝える。どんな理由をつけてでもいいから断らないと今後ずっと利用され続けることになるぞ、と。そもそもクラスには中学生のころから日本語を勉強している(…)さんがいる、でもどうして彼女に仕事をたのまずきみにたのむのか? きみが断らないと確信しているからだよ、きみが反抗しないと確信しているからだよと続けると、じぶんは大学入試の国語の点数がよかった、だから彼女はじぶんを指名したのだと思うと、仕事を押しつけられている現状を正当化するようなことを口にするので、なんでこの期におよんであのクソババアを擁護するような側に立つねんと内心げんなりした。ちょっとしたストックホルム症候群みたいになっとるやんけ、と。
  • 外国人教師のグループチャットに新人がふたり追加された。ひとりは(…)とある。博士らしい。どこの国の名前やねんと思ってググってみたところ、同姓同名のイラン人が見つかった。どうやら中東の出身らしい。もうひとりは韓国人。例の美術教師だろう。彼か彼女かわからないその美術教師からはのちほど個人的に友達申請が届いた。ひらがなだらけの日本語だった。おそらく独学で日本語を学んでいる人物かと思われる。中国語ないしは英語ができるのかどうかは不明。
  • 食後、ひさしぶりに阳台のテーブルにパソコンとチェアを移して作業。今日は快晴なのだ。きのうづけの記事を投稿し、ウェブ各所を巡回し、一年前と十年前の日記を読み返す。2022年11月17日は前日にひきつづきコロナで混乱気味の様相。

(…)今日から交通規制もはじまる。車もスクーターも特別な理由がないかぎりは走行禁止とのこと。

 帰宅後、食事。授業中だったが、授業後だったか忘れたが、(…)から通知が届いた。というか今日一日だけでいったい何度通知があったか、ほとんどわからないくらいであるのだが、とりあえず現在はっきりしているのは、NAT検査は21日まで毎日行うこと、キャンパス外に出ることが許されているのは一日一回きりであること、公共交通機関もタクシーもシェア自転車もすべて利用できないこと、21時以降にキャンパス外に出ることはできないこと。それから、これは市の公式発表ではなく国際交流処からの注意であるのだが、いま下手にキャンパス外に出てしまうと、健康コードが黄色に変わる可能性が大いにある、そうなるとたいそう不便なことになるので、よほどの用事がないかぎりは外に出ないほうがいいだろうという話もあった。

  • あと、この日ははじめて、(…)さんがうちに突然押しかけてきた日だった。

(…)で、スマホを放りっぱなしにしていたので気づかなかったのだが、(…)さんからケーキをお裾分けしますという微信が届いていた。着信履歴まであったのだが、時間をたしかめるとおよそ10分前、それに続けて「廊下は暗くて、登ってみる勇気がありません」というメッセージが届いていたので、え? 寮の敷地内まで入ってきているの? と驚いた。それですぐにコールしたのだが、電話に出た彼女は息を切らしている、まさかと思いながらいまどこにいるんですかとたずねると、しぼりだしたような声で「ドア……」というので、メリーさんかよ! と思いながらあわてて寝巻きを街着に着替えて玄関の扉をひらいた。案の定そこにいた。ビニール袋をさげている。ドリアンのケーキと抹茶のケーキ、どちらがいいかというので、抹茶と応じる。階段が真っ暗で怖かった、どうして電気がないのか、という。知らない。たまには何かお返しをしないとと思い、とりあえず冷蔵庫からヨーグルトをふたつ取り出して渡す。それから一緒に階下までおりる。外には(…)がいて、険しい顔でだれかと通話している。見覚えのある子連れの女性もいる((…)のstep daughterである(…)かもしれない)。彼女が中国語でこちらになにかいうが、わからない。なんとなくトラブルのにおいがしたので、うん? という表情を(…)さんに向けると、「(…)先生が……」と言いかける。日本語でなにか説明しようとするのだが、言葉が出てこないらしく、英語に切り替えて説明するところによれば、(…)の友人が(…)の部屋をおとずれようとした、それを(…)がだめだと制止した、じぶんは(…)先生の部屋に入らない、ただケーキを持っていくだけだと事情を説明したので通された、しかしそのようすを見た(…)がこれはprejudiceだと言い出した、外国人と中国人では扱いが違うのだとものすごく怒っていた、彼はmisunderstandしているというような説明があった。ということはおそらく(…)はいま(…)と通話しているのではないか。これこれこういうことがあった、(…)がまたブチギレている、なんとかしてくれ、みたいな話をしているのではないか。こちらとしては、こんな夜に(…)さんがひとりでこちらの部屋をおとずれることを(…)はよく許可したなという驚きがあったので、あ、(…)さん、ちゃんと彼に断りを入れてからうちにやってきたんだな、と謎がひとつ解けた気分だった。

 (…)さんからのちほど微信が届く。(…)先生は誤解をしているようだ、(…)先生に迷惑をかけてしまったかもしれない、もう寮には行かないようにする、と。別になにも問題はない、(…)はいま国際交流処の先生とグループチャット内で口論しているけど、でもきみやぼくのことをあれこれ言っているわけでもないと応じると、じぶんが二階に上がろうとしたところ、(…)先生に写真を撮られた、なにが起こっているのか理解できなかったというので、え? と思った。どうやら(…)はじぶんと留学生は部屋の行き来を許されていなかったのに、部外者である(…)さんがこちらの部屋を訪問しようとする場面を発見、その様子を一種の証拠としておさえるべく写真に撮ったらしい。で、たぶんそれを(…)に送りつけた上で、これはいったいどういうことなんだとキレちらかしていたのだろう。(…)さんはマスクを装着していた、(…)にも先生の部屋に入らずケーキを渡すだけだからと事情を説明していた、だから問題なかった。(…)としてもこちらと(…)さんに気をつかって一種特例として認めてくれたみたいなところもなくはないのだろうが、それで(…)の逆鱗にふれてしまったということであれば、ちょっと彼に対しても申し訳ない気持ちもする。彼が(…)とおぼしき相手と険しい顔で通話している最中、(…)の名前と同時に何度か(…)という名前も口にしていたのは、なるほどそういうわけだったのか。

  • 作業中はリリースされたばかりのShe Her Her Hersの新譜『Diffusion of Responsibility』をくりかえし流す。(…)さんにも微信でリリース情報を伝える。それから日語会話(一)の準備。前回の失敗を反省。第5課も第6課も内容が簡単であるのでそのままやってもおそらく間延びする。しかるがゆえにまとめて一課として処理することに。それで資料の再作成。
  • 途中、(…)先生から電話。健康診断の結果が(…)のところにもどってきたのだが、結核の疑いありとなっているという。再検査が必要らしい。今年の春にコロナに感染したし、去年の冬には気胸になっているし、たぶんそのせいだろうと思うのだが、再検査で結核の可能性が否定されないかぎりは授業に出ることも許されないとのこと。(…)は忙しくしている。それで(…)先生に白羽の矢が立ったとのこと。明日の朝から病院に向かうことに。申し訳ない。中国では現在マイコプラズマも流行しているという話をわりと最近小耳にはさんだ。しかし別に咳が出ているわけでも発熱しているわけでもない。
  • 韓国人の先生からもメッセージが届く。翻訳アプリを噛ませたのだろう、漢字混じりの流暢な日本語での自己紹介。(…)さん。芸術学部に招聘されてきたとの由。しかし滞在はほんの一ヶ月らしい。日本には「語学研究と大学院課程」で6年間滞在経験あり。しかるがゆえに日本語と英語をあやつることができる。「韓国の(…)大学で19年間務めたから、今はソウルの(…)大学で文化コンテンツ学博士課程にながら同校で学生を教えています」とのこと(博士課程をとっている最中であるのか、博士課程で指導をしているのか、この文章だとちょっとわからない)。せっかくなので韓国の大学院に進学を希望している(…)さんにつなぐことにする。(…)さん、めちゃくちゃよろこんでいた。ものすごく感謝された。(…)さんも韓国語を熱心に勉強している学生がいると知って、「それは良いですね〜!」とこのときばかりは砕けた調子の返信。よかった、よかった。
  • (…)から電話がある。10分後にmedical checkの結果をもってapartmentに向かう、と。結核の可能性もゼロではないのでいちおうマスクを装着して下におりる。診断書を受け取る。たぶんコロナか気胸の影響だと思うよと告げる。そのままケッタに乗って(…)で食パンを購入。さらにピドナ旧市街入り口にある売店で洗剤、歯ブラシ、シャンプーを購入。レジのおばちゃんに話しかけられるが、ほとんど一言も聞き取れない。かろうじて「日本人」だけわかる。
  • 帰宅して診断書を確認。結核疑いのほかにもいろいろ書かれている。「心动过速」は漢字のままだろう。視力は「屈光不正」とある。気になったのは耳鼻咽喉科の診断結果「鼻中隔左偏」と「慢性咽炎」。後者について自覚症状はないのだが、たぶんコロナの後遺症ではないか。備考欄みたいなところには根治は難しいとある。採血結果はCHOLとLDL-Cが「偏高」とある。コレステロールが高すぎるということらしい。中国ではどうしても食事が油多めになるからなと思ったが、そもそも日本にいたときから体型の割に中性脂肪の数値がやたらと高いと、病院で血液検査をするたびに指摘されていたのだった。こちらが酒も飲まず煙草も吸わずものすごく健康的な食事をとっていることを知った医師はおそらく体質的なものだろうと指摘した。あとは心電図にも軽い異常があったようだが、これも日本で一度に検査したときに指摘されたやつだろう。鼓動には本チャンの大波の前に小波が二つある。予備動作の予備動作である小波→予備動作である小波→本チャンの大波というのが正常な心臓の働きらしいのだが、こちらは予備動作の予備動作である小波がちょいちょい消えるのだ。若いうちはだいじょうぶだが、年をとったらいつかペースメーカーを導入するようなことにもなるかもしれないと言われた。
  • メシ。(…)さんがこしらえてくれた残りものをラーメンにぶちまけて食う。(…)先生から微信。来学期の時間割について。日語会話(二)×2、日語会話(四)、日語基礎写作(二)の8コマは予定通り。国際交流処から外教は最低でも12コマ授業を担当しなければならないという指導が入ったので、これらにくわえて三年生の日語文章選読も担当してほしいという。それでも10コマであるが、おそらくそれで問題ないだろうとのこと。了承。日語文章選読についてはこれまで何度も担当しているが、教案の一部を写作の授業で使ってしまっているので、冬休み中にまたちょっといろいろ仕込む必要がありそうだ。指定教科書についてたずねると、なんでもいいという返事。今年の年末までに来学期の教科書を決める必要があるのでネットで適当なものをそれまでに見繕ってくれたらいいとあいかわらず適当なことをいう。こちらとしては例年どおり教科書はなしでかまわないのだが、先学期大学側からすべての教師は教科書に即した授業をするようにという指導が入ったばかりであるし、万が一監査が入ったときのために形式的にだけでも用意しておいたほうがいい。
  • 大連の(…)さんからも微信。日曜日が締め切りの作文コンクールに原稿を応募したいので添削してほしい、と。それほど長いものではなかったので引き受ける。食後、仮眠をとらずにシャワーを浴び、あたまをすっきりさせた状態で日語会話(一)の教案再作成の続きにとりかかり、それが片付いたところで今日づけの記事の続きを書き、で、くだんの原稿を添削して彼女に送った。
  • 結局、今日は執筆できなかった。バタバタしているうちに一日が終わった。どうもそんなんばっかりだ。