20231116

 精神分析的な議論から宗教を考えると、宗教とは、人間が現在のように高い生産性によって諸衝動の充足や安定を行うことが不可能であったとき、諸衝動の抑圧を行うと同時に、不安や恐怖を超越的な他者のもとへ回収し、また一方では、非日常的倒錯的な幻想空間を構成して人々に享楽を体験させ充足を与えてきたものであり、宗教は、人工的に超越的な場所を構成してそこで倒錯的に充足を確保し主体に満足を与え、主体にとって苦痛な現実認識の免除を与える保護膜を形成してきたと考えられる。この点から考えるとき、宗教の制度的内実はこの超越的な空間を人工的に構成しうる、⑴隠喩的な(というのも言説自体は隠喩的な機能を介してしか統一的な世界を構成しえない)教義、⑵強迫神経症者においてもみられるような原初的な反復行為による儀礼などであり、これらにより、身体的回路を通じた認識の麻痺と留保を構成し、また⑶組織的な共同性の構成であり、これにより他者への依存を通じたやはり現実認識の免除を構成すると考えられる。この三つの要素が主体の身体的回路や他者性の回路を通して、他者を超越的に再構成し、日常からの隔離を行って、宗教を成立させると思われる。
樫村愛子『「心理学化する社会」の臨床社会学』より「自己決定性の増大がもたらす宗教的外傷について」 p.266)


  • 今日と明日の二日間は運動会で授業なし。補講の必要はいちおうあるらしいのだが、するつもりはない。運動会の補講、これまで一度もしたことがないが、それでどこかから指導が入ったこともない。
  • 9時ごろにドリルの音で起こされた。耳栓意味なし。上の部屋の床をカンカンカンカン叩く音もした。勘弁してほしい。意地になって寝床にとどまった。そういうわけで活動開始は10時過ぎ。
  • メシは朝昼兼用で第五食堂。きのうづけの記事の続きを書いて投稿し、ウェブ各所を巡回し、一年前と十年前の記事を読み返す。作業中はひさしぶりに『Salon De Musique』(Su Tissue)をくりかえし流したが、やっぱりいいな。ミニマル・ミュージックのなかでいちばん好きなアルバムかもしれない。
  • 以下、2013年11月16日づけの記事より。(…)さんのエピソード。クソ笑った。こんなにもでたらめな人間が世の中には少なくない数存在していることを知れたのが、(…)で得ることのできた最高の財産だ。

(…)さんがなぜかこちらの出身地を和歌山であると思いこんでいたことが判明したのでいやいや(…)やて何回も言うてますやんとつっこんだ。したら(…)くん(…)って知ってるかというので知ってるっちゃあそりゃもちろん知ってますよと応じると、ワシな、(…)から歩いて帰ってきたことあんねん、というので、帰ってきたってどこまでですかと問うと、いやここ、京都、というので何いってんだこのじいさんはと思った。話を聞いてみるに、どうも友人の運転する車の助手席に乗ってドライブに出かけて(…)にたどりついたらしいのだけれどそのとき急に友人に用事が入ってやばい帰らなきゃならないみたいな話になって、このあたり推測なのだけれどたぶんその友人というのが京都のひとではなくてどこか別方面に在住のひとでじぶんの町にとつぜん帰らなければならなくなってしまって(…)さんを京都まで送っていくことができない、そのために(…)さんに電車賃を渡そうとしたらしいのだけれど(…)さんは自称「かっこつけ」なのでかまへんかまへんと突っぱね、けれど実際は1000円ちょっとしか手持ちがなく、車からおろされて見知らぬ町でひとり、まあ市バスみたいなものを乗りつないでいけば1000円ちょっとでも京都まではなんとかなるだろうと、田舎の実状を知るこちらからすれば生温くて血反吐が出ますわみたいな軽々しい認識で京都にむかってぽつぽつ歩きはじめたらしいのだけれど、いやな(…)くん、あのへんぜんっぜんバスあらへんねん、てっきりワシはな、一日乗車券でも買うてやな、それで帰れると思っとったのにやな、どこにもバス走っとらへんさかい、それでしかたなしに歩いてたらやな、もう山ばっかや、山しかあらへん、そいでもうワシ途中でな、あのーなんや、高速、高速道路見つけたからな、あそこ歩いて帰ったれ思うてやな、それで入ってったんやわ、そしたらな、そこがちょうどやな、あのー店とかはないんやけど、なんていうんや、トラックとかがやな、ずらーと横にならんで停車しとる、パーキング? パーキングていうの? たまたまそんな一画やったさかい、それでワシそこらの運転手にたのんでやな、大津まで送ってもらったんや、そんでそこから電車のって京都もどってな、へへへ、もう大津に着いたころには朝やで、(…)出たん4時やったのに、着いたら朝の8時や、などと無茶苦茶なことをいうのでゲラゲラ笑って、それいったいいつごろの話なんすか、若いころっすかとたずねると、そやな−、もうずいぶん前や、4年くらい前ちゃうかな、とあったので、還暦まわってからのエピソードかよとここで死ぬほど笑った。(…)さんと話しているとニコス・カザンザキスゾルバを思い出さずにはいられない。本当にあのまんまだ。

  • 以下も2013年11月16日づけの記事より。ここで語られている小説の素案、いま書いている「実弾(仮)」に通底しているものがある。山内マリコみたいだなとも思ったが、この時点ではまだ『ここは退屈迎えに来て』を読んでいないはず。

風呂からもどって部屋でストレッチをしているときに新しい小説のアイディアが浮かんだ。『ドリンクバー』というタイトルの連作短編あるいはオムニバスみたいな一冊で、冒頭に「渇き」というタイトルの作品、そして最後に「水」(あるいは「水道水」?「ミネラルウォーター」?)というタイトルの作品を配置(あるいは前後をいれかえてもいいかもしれない)したその間に「コーヒー」とか「コーラ」とか「ウーロン茶」とか「オレンジジュース」とか「カルピス」というタイトルでそれぞれのイメージに見合った、あるいはいっそのことより単純に作中にそれらのドリンクが登場する(マクガフィンとして、ガジェットとして、ギミックとして、あるいは単なる風景の一個、交換可能な固有名詞のひとつとして)物語をならべるといういくらか気取りの鼻につく安いエンタメめいた構成になっているのだけれど、そうしたすべり気味の洒落た装いとは裏腹にいまだ表象されたことのない都会でもなければど田舎でもない、画にならないほうの田舎の出口なき日常の閉塞感、ジャンク風土の青春、ライブハウスもクラブもバーも古着屋もカフェも喫茶店も美術館もないかわりにただジャスコとファミレスだけがある、もっとも没個性的でありもっとも平坦でもっとも色味のない、地方都市やニュータウンや郊外という語群のもとにかつて召喚され表象された集合体からさえも見放されて滴りおちたこの国この時代のたしかな一画を舞台に、くりひろげられるべきなにごともない日々がくりひろげられていく、心臓をえぐるようにひりひりする地方の八方ふさがり、そういうものを書いてみたいという欲望はわりと以前から持っていたのだけれど、今日はじめて理解した、これこそがマンスフィールドをジャンクションして描くべき小説なのだ。ずっと書きたかった物語とずっと試してみたかった技法がカチリと音をたてて組み合わさるたしかな手応えを力強い予感としていままさにおぼえたのだ。「A」「邪道」「偶景」、これらの諸作に一刻も早くけじめをつけておのれの出自とむきあわなければならない。想起には程度の度合いこそあれ必ずある種「清算」の印象がつきまとうことになる。そのような方向付けの暴力をいかにして回避して書くか、あるいは、そうした逃走線がそのまま文の連なりとして連なりつづける小説というものがありうるのか。この困難は直面するだけの価値がある。

  • ほか、「中島らも『バンド・オブ・ザ・ナイト』に《喜びもなく哀しみもないことへの怒り》というフレーズが出てきた。」という一行も残されていた。喜びもなく哀しみもないことへの怒り。
  • 授業準備。「(…)」のスライドを部分的に作りなおし、「食レポ」の成績記入表を印刷する。
  • 16時半過ぎに三年生の(…)さんが来る。夕飯は红纱肉ともう一品(鶏肉とじゃがいもを煮たやつ)。どちらもこちらにあわせて甘い味付けのもの。前者はもともと広東料理だったはずだし、後者は東北料理という話だった。米は例によって第五食堂で打包。茶色い砂糖を砕いたり鍋を振ったりの力仕事を中心に手伝う。
  • メシは美味かった。しかし食いきれなかった。先の二品のほかに冷食の汤圆まで用意されていたのだが、これは手付かずのまま冷凍庫へ。食中食後はひたすら雑談。男性教師の部屋に女子学生がおとずれるのは良くないと戒めたのはだれなのかとたずねると、にやりと笑ったのち、お母さんですというまさかの返事。農村出身なので考え方がかなり保守的だそう。ちなみに、母君の年齢は四十代後半。クラスメイトの(…)くんも同じ心配をしていたという話に笑う。二十歳そこそこの男がなぜそんなおっさんみたいな考え方なのかと。
  • 恋愛に関して中国は日本よりずっと保守的だという。男は結婚するまでに恋愛経験があっても四の五の言われない。しかし女の場合はそうでもない、と。さすがにいまの若いひとはそんなこと気にしないでしょうというと、恋愛経験については気にしないかもしれないが結婚前にセックスをした女性に対する当たりは強いという。若い男の半分以上がいまでも結婚前にセックスする女性に対して否定的にとらえると思うというので、いま2023年だよと思わず口にした。(…)さんは田舎の出身であるし、貞操観念のけっこう高い家族のもとで育った節が見え隠れするので、その意味で多少バイアスもあると思うのだが(上海や北京や深圳のような大都市の若者であれば話もきっと変わってくると思う)、ただこちらが赴任したばかりのとき、これは(…)さんから又聞きした話であるけれども、当時四年生だった(…)くんが高校生のときからずっと付き合っている彼女がどうしてもセックスをさせてくれないのでそれが苦痛で別れたみたいなアレはたしかにあった。
  • (…)さんは昨夜悪夢を見たという。双子を妊娠する夢だったとのこと。子の親は元彼だったというので、ということはなんだかんだでやることやってんじゃんと思ったが、のちほど、じぶんの元彼はふたりでいっしょにいるときも全然そういうアプローチを仕掛けてこなかった、勉強しかあたまにないようなタイプだったという話があった。その元彼から先日着信があったのをこちらは目撃しているわけだが、あれからどうなったのかとたずねると、じぶんは心を入れ換えたみたいなメッセージが大量に届いたらしい。しかし鬱陶しいので連絡先を削除したとのこと。それでよし! と決断を支持する。
  • 中国の恋人たちは一日中ずっといっしょに行動している、あれが信じられないというと、恋人がいるのであればずっと一緒にいるのは当然だと(…)さん。ぼくはこっちで学生たちの恋愛を見て中国人の女性とは絶対に付き合うことができないと思ったというと、どうして一緒にいたくないのですかというので、じぶんの時間がほしいでしょう、ときどきはひとりにもなりたくなるでしょう、たとえ恋人だろうと家族だろうとずっといっしょにいるなんて疲れるでしょうと受けたところ、もしわたしといっしょにいて疲れるというひとがいればわたしはそのひとと絶対に別れますと、そこだけ英語にスイッチして(…)さんは言った。恋爱脑だな次の恋愛でもまた失敗するぞと茶化すと、中国では中学高校と恋愛が禁止されている、そのせいで大学生になってはじめて恋愛を経験した若者のIQが下がってしまうのだという。同意。恋愛に対する免疫を若いうちに得ることができない、そのせいでいわゆる恋爱脑になってしまうのだ。
  • 中国人と付き合ったことはないのかというので、ないと応じる。これまでの恋人は日本人だけかというので、(…)の話をしたところ、Londonに彼氏がいるにもかかわらず京都にいるこちらのもとにやってきた彼女のふるまいと、それを受け入れたこちらの決断の双方について、まったくもって信じられない! という反応があった。もし中国でそんなことがあったらといいながらキッチンのほうをふりむいた(…)さんは、視線の先にある中華包丁を指さしたのち、それをふりまわすふりを仕草をしてみせた。ぼくはやっぱり中国で恋愛はできないなと笑った。
  • 学生と付き合ったことはないかともたずねられた。ないと応じてから、でもそういう関係になった外教の知り合いは何人かいると続けた。何歳ですかというので、みんなぼくより年上だよと応じると、(…)さんはここでもやっぱり信じられないという反応を示したのち、年上の男性に好意を抱く女性は父親の愛情不足が原因であるみたいなことをいった。雑な俗流心理学。しかし父親の不在がきわだつ家庭で育った女性が転移しやすい傾向にあるというのは間違いない。
  • クラスメイトの中には寮を出て、大学の外で恋人と同棲している学生がいる。(…)さんとその彼氏、(…)くんとその彼女。信じられないというので、でもきみは恋人がいるのであればずっと一緒にいるのが当然だと言っていたでしょうというと、それとこれとは別だという。(…)さん、保守的な貞操観念を女性にもとめる男性に対してかなり辛辣な批判を浴びせていたが、彼女自身なんだかんだいってそういうものをけっこう深々と内面化してしまっていることにまで自覚は及んでいないようにみえる(この国における男尊女卑的な思想がそれほど根深いということなんだろうが)。
  • 元彼の家族と一度だけ会ったことがあるという。元彼が交通事故に遭った、それで相手のうちにお見舞いに行ったのだが、その際にかなり冷たくあしらわれた。在籍中の大学のレベルをたずねられ、家族構成をたずねられ、出身地をたずねられ、両親の生業をたずねられた。それがほぼ詰問の口調だったという。夕食に同席することになったが、食欲がなかったのでいったん部屋にひっこんだ。その後、軽く空腹をおぼえたところで、あらためて同席しようとしたところ、食事がすべてひっこめられていた。相手の家族全体からおまえを息子の恋人として認めないとする意志をひしひしと感じたという。
  • (…)さんは省外の学生であるし、服装もどちらかといえば肌の露出が多いものを好むようであるし金払いもいいし、おそらく都市部の出身だろうとこちらは思っていたのだが、全然そうではないらしかった。子どものころは風呂に入るかわりに近所の川で水浴びしていたというので、なにその素敵なエピソード! と思った。子どものころは真っ黒に日焼けしていたので、意地悪な同級生から「泥鰌」呼ばわりされていた。それでいえば、いまはそうでもないが、一年生時の彼女とはじめて会ったとき、ほかのクラスメイトにくらべてけっこう肌の浅黒い子だなという印象を抱いた記憶はある。ずっと以前(…)さんから、肌の浅黒い子は農村出身の貧しい家庭育ちという印象がつきまとう、それゆえに中国では男女ともにこれほど美白信仰があるのだという話を聞いたおぼえがある。ただ、(…)さんの家庭はやはり貧乏というわけではないと思う。家も三軒あるという。故郷にある祖母の家、おなじ江西省の都市部にある別の家、それから両親が働いている深圳の家。
  • 来年従姉妹が結婚するという話もあった。たしか18歳だったと思う。相手は35歳だという。歳の差婚はありえないという彼女の強い主張を聞いたばかりだったので、どういうことやねんと思ったが、相手はかなり裕福な人物らしい。従姉妹は教育レベルの低い農村で育った。しかるがゆえに中学卒業後は高校にも進学せずそのまま社会に出た。相手の男性はその従姉妹が借りていたアパートの大家だという。田舎のほうであれば、そういうケースもあるということだ。先生も農村にいけば若い女の子と結婚できますというので、アホと応じる。また、親戚のなかに、現在35歳であるがすでに四度結婚した女性がいるという話もあった。
  • 人身売買の話も出た。中国ではいまだに子どもの人身売買が多い、と。子どものころ、街を歩いていたら、片腕を包帯でぐるぐる巻きにした女性から手を掴まれたことがあった。女性は手を掴んだままなにも口にしなかった。どこかへ引っ張りこもうとするわけでもない。ただ手を掴んでいる。そしてしばらく経ったところでさっと去っていったというので、それが人身売買の人間だったということ? とたずねると、幽霊かもしれませんというので、話ずれとるやんけ! と笑った。夜中に目が覚めた際、赤い服を着ている女性を見かけたという話もあった。ただし、それは鬼圧床gui3ya1chuang2(金縛り)の最中のことだったというので、十中八九、明晰夢にすぎない。「神仙」を見たこともあるという。五歳のころにバスケットボールのゴールから、たぶんゴールにぶらさがって遊んでいたということだと思うのだが、落下し、地面にしたたかにあたまをぶつけた。で、あおむけにたおれて見上げるかたちになった空に、中国の神々が大量にならんでいるのを見たのだという。あれだけの高さから落ちてあたまを打ったのに無事だった、神様が助けてくれたのだと思うというようなことをいうので、無事じゃないでしょ? あたまを打ったからいまそんなふうになってるじゃんと茶化すと、(…)さんはケラケラ笑った。
  • ルームメイトの(…)さんは寮を出たという。友人と外にアパートを借りてふたりで暮らしているとのこと。きみもそこにくわえてもらえばどうかというと、部屋があまっていないという返事。そういうこともあってますます寮に帰りたくないという。こちらの部屋のソファで一泊するというので、保守的な(…)くんが心配するぞと応じる。
  • (…)さんと(…)さんからカラオケの誘いが入ったという。じゃあぼちぼちおひらきだなと思ったが、明後日の土曜日のことだった。(…)さんは相棒であるから理解できるが、(…)さんとも親しくしていたのかと驚いてたずねると、(…)さんと(…)さんのふたりがルームメイトである関係から微妙に交流があるという返事。(…)さんもうつ病持ちであるし、そのあたりのことをおたがいに打ち明け合うことができれば、よい関係になることもできるかもしれないのにと思ったが、他人のプライベートな事情を勝手に暴露するわけにはいかない。
  • (…)さんはどうも門限ぎりぎりまで居座るつもりらしかった。それはちょっとなァと思いつつ、ひとまずあとかたづけだけ進めた。終えてテーブルにもどると、先生はもう眠いですかという。眠くないですと応じると、いつも何時に寝ますかというので、2時ぐらいかなと受ける。なにをしているんですかというので、ベッドで本を読みますというと、じゃあいま本を読んでくださいというので、あ、彼女なりに気遣ってくれているんだなと思った。こちらの邪魔はしたくない、しかし寮にも帰りたくない。お言葉にあまえてKindleでBliss and Other Stories(Katherine Mansfield)の続きを読む。(…)さんは一方、愛犬家の集うグループチャットをながめたりドラマを視聴したりする。ふたりきりで長時間過ごすのもこれで二度目であるので、沈黙もいまやほとんど気づまりには感じられない。これだったらいい。仮に今後、彼女がうちの寮に避難したいと訴えてくることがあったとしても、こちらはそれを受け入れつつ、授業準備なり執筆なりを進めることができるだろう。途中、ふとKindleから顔をあげると、テーブルになかば突っ伏すようにしてスマホをながめている彼女の姿が目につき、それでちょっと笑ってしまった。きみさ、いまここ自分の部屋だと思っているでしょ? というと、(…)さんはくしゃっと破顔した。
  • (…)から連絡があった。友人があなたとコンタクトをとりたがっている、と。了承。微信の友達申請を受け入れる。美術学科の教員。同僚に韓国からやってきた教員がいるのだが、「海外サイトへのアクセス方法」を知りたがっているという。流暢な日本語だったが、流暢すぎるのでおそらく翻訳アプリを噛ませているのだろう。しかし、美術学科にも外教、それも韓国人の外教が来たのか。だが、VPNなしにインターネットにアクセスすることができないという事情を知らずに中国に来る、そんなまぬけな人物が本当にいるだろうか? あるいは以前使っていたVPNサービスがBANされたのかもしれない。こちらが利用しているVPNは日本語しか対応していないので、韓国人の先生であれば英語対応可能なサービスを使ったほうがいいと思う、だから英語圏の外教か留学生にあたってみたほうがいいのではないかと返信。
  • 22時半になったところで寮を出る。女子寮まで(…)さんを送っていく。外はさすがに寒い。門限ぎりぎりなので学生の姿もほとんど見当たらない(それでも真っ暗なコートではバスケにはげむ男子学生らの姿がある)。(…)さんはかなりの薄着。コートを貸そうかといったが、いらないという。しかしぶるぶる震えている。うちから持ってきた水の入った紙コップの中身を途中の道端にざっと撒く仕草が印象に残る。あ、これ、折りに触れてはおもいだす断片的な記憶になるかも、と。
  • 帰宅。(…)先生から連絡。例の食事会について延期したいという申し出。こちらに会いたがっているという友人が現在出張で(…)を離れているとの由。なんでもよろしい。シャワーを浴びる。トーストを食す。今日づけの記事を途中まで書いて就寝。