20240229

ぼくはなにか祈りのようなものを唱えたくてたまらなくなり、だが、やり方を知らないことに気がついた。不意に、自分が危機に際して祈らずにいられないすべての人々と、結びつけられるのを感じた。祈りを、馬鹿げたものとは思わなかった。それはただ、不可解なだけだ。祈りへと駆り立てる心の中の何かが、不思議なものであるように。運命をあやつる力とあるつながりを持つこと——ぼくの祈りたいのはそれだった。運がぼくたちの側についていると、感じていたかった。
サム・シェパード畑中佳樹・訳『モーテル・クロニクルズ』 p.199)



 10時半起床。0時にFF7Rebirthが発売されたらしくYouTubeにさっそくラスボス戦の動画などがアップされていたのでトーストと白湯の朝食をとりながらちょっと視聴した。
 コーヒーを淹れ、13時半から16時半過ぎまで「実弾(仮)」第五稿執筆。シーン24、おおかた片付いた。最後の一段落だけもうちょっと手を加えたい。いい小説を書けているなという手応えがある。
 三年生の(…)くんから微信。韓国のニュース番組のキャプチャ。日本語と中国語それぞれの字幕がついている。結婚するには莫大な金がかかる、宇宙旅行に行くのと変わらない、みたいな意味の字幕。画像を送ってよこすだけで、なにか言うでもない。(…)くんのコミュニケーション、マジで難ありだよなとたびたび思う。韓国のニュースかな? といちおうわかりきった返信を送ると、2016年のニュースだという返信がある。韓国はすでに日本より未婚率および出生率が低かったはずであるしいろいろ大変だろう、もっともこの問題については東アジア三国とも似たり寄ったりだがと返す。返事はない。おれにいったいなにをもとめてる?
 ケッタにのって第四食堂近くの郵便局へ。洗濯ロープを回収する。学生らの姿もちらほら見かける。第五食堂の一階で野菜をたっぷり打包して帰宅。食後30分ほど仮眠。
 チェンマイ以下のシャワーを浴びる。きのうなにかのきっかけでパソコン内にある古い写真を見る流れになったのだが、2009年に撮影したもののなかに(…)や(…)の写真が複数枚あったので、LINEで母に送った。母は記憶にあるよりも(…)がずっと恐くみえると言った。飼っていたときはかわいいかわいいと思っていたが、知らないひとがこの犬を連れて歩いていたらけっこう恐いと思う、と。フローリングにべったり横たわっている(…)について虎の毛皮の敷物みたいだというので、錆猫のこんな汚らしい模様ではハードオフでも買い取り価格つかんわと応じる。
 きのうづけの記事の続きを書いて投稿。ウェブ各所を巡回したのち、1年前と10年前の記事を読み返そうと思ったのだが、おい! 今年うるう年やんけ! いや、別にうるう年だからといって、なにか特別なアレがあるわけでもないんやが。

 冷食の餃子を食す。卒業生の(…)さんから微信。相談したいことがある、と。元カレの話だった。前回彼女が(…)まで遊びにきてくれたときにその元カレの話については聞いていたが、どんな内容であったかあまりよくおぼえていなかったので過去ログを検索してみたところ、去年の9月16日づけの記事に記録されていた。

 その元カレとは別れて一年になる。三歳年下だった。相手の浮気がきっかけで別れたものとこちらは記憶していたのだが、それはもうひとつ前の元カレだった。一年前に別れたその元カレと別れたきっかけは浮気ではないという。出会いのきっかけはマッチングアプリ。アプリ自体が悪いとは思わない、でもやっぱりアプリで恋人を探すひとは真剣じゃないひとが多いと言ったのち、じぶんは本気だったし恋愛に対して真剣でまじめだったが、彼氏のほうはそうでもなかった、浮気をするタイプではなかったけど真剣さがじぶんとは釣り合っていないように感じたと続けるので、ということはなんだかんだいって(…)さんも朝から晩まで四六時中相手といっしょにいたいと考える恋爱脑な感じだろうと思ったが、相手の真剣さが足りないというのはそういうわけではなかった。元カレはたしか数学を専攻している大学生だったと思うのだが、クラスメイトの中に彼のことを慕っている女子がいた。彼自身、じぶんがその子から好意を持たれていることを知っていた。その子からは彼氏のところにちょくちょく微信が届いていた。どれもこれも罪のないような内容だったというし、彼氏も(…)さんにじぶんたちのやりとりをいつ見てもいいといったというのだが、(…)さんとしてはやはりその子とやりとりしてほしくないというあたまがあった。気持ちはわからんでもないのだが、だからといって相手の連絡先を消せとかそういう話になるのはちょっとアレなんではないかと思ったところ、何度言っても彼氏はじぶんに恋人がいるということをその女の子に伝えようとしなかった、それがどうしても許せなかったのだという不満が続いたので、は? マジで? となった。彼氏はじぶんに好意を抱いているクラスメイトの女の子に対して絶対に彼女持ちであることを言おうとはしなかった、それどころか女友達にはだれひとりその事実を打ち明けようとしなかった、恋人がいるとは言わなくてもいい、しかしせめて自分には好きなひとがいると相手に宣告してほしいと(…)さんが言ってもやはりきかない、それで別れたのだというので、あのね、その彼氏ね、別れて絶対正解だったよ、そいつね、断言する、100%浮気するよ、そのまま付き合っていたとしても絶対! 100%! 浮気する! と力をこめていうと、先生、さすが経験者ね! 説得力がありますよ! というので、だれがやねんと笑った。
 一番忘れられない彼女はだれですかときかれた。イギリス人の彼女ですかというので((…)についてはリトアニア人であると告げるのが面倒なのでイギリス人であることにしていた)、いや一番とか別にないけどなあというと、一番未練があるひとはだれ? だれ? たくさんいるでしょ? ひとり選んで! というので、未練っていうのはまったくないなぁ、仮に元カノからもう一度付き合ってって言われてもオッケーすることは絶対にないよ、別に嫌いとかそういうんじゃないよ、感謝もしているしそれぞれの経験がマジで勉強になったから、でもいまからやりなおしたいっていう気持ちはゼロだね、そういうのはまったくないなぁと受けた。すると、もとめていたのと違う答えだったのか、納得しないような表情を浮かべてみせるので、あのさ、もしかしてきみさ、一年前に別れたその彼氏にまだ未練があるの? とたずねると、すなおにうなずいてみせるので、クソ笑った。結局それかよ! と。(…)さん自身、肯定しながら爆笑していた。このタイミングで爆笑できるなんて、やっぱり気持ちのいい子だなと思った。未練の話をこんなにカラリとしたムードで交わせる人間なんてなかなかいない。

 このときからすでに半年近く経つわけだが、彼女はまだ元カレに未練があるのだった。上の話をしてくれた時点ですでに別れて一年が経過していたわけだから、それも含めて考えるとすでに一年半が経過、すげえな、そんなに過去の恋愛をひきずることってあるんかとこちらなどはちょっとおののくわけだが、(…)さんははじめのうちは未練があるとは言わなかった。ただ、元カレがじぶんと別れてすぐに別の女の子と仲良くなった、しかもその女の子が(…)さんに「すっげい似ている」「院生だし、三つ年上だし、snoopyが大好きだし」「この点がすごくムカつく」、そういうわけでかなりいまさらになるわけだが、今月の25日にその元カレにメッセージを送ったのだという。つまり、あなたのあのふるまいに私はとても傷ついたのだ、そのことを理解しているのか、と。こちらからすると、「君の立場だったら、確かにイライラするのもわかる」「ただ、もうきみたちは恋人ではない。別れたあとに元彼がどういう行動をしようとも、それは元彼の自由であることもまた間違いない」としか言いようがないし、もっといえば、一年半近く経ってなおそのことに腹が立ち、相手にわざわざコンタクトをとってしまう、それも自分の感情を理解してほしいと訴えてしまう、その時点でいまなお未練があるということにほかならないではないかと思うわけだが、ひとまずそう指摘はせずにいったん「見」にまわった。25日からやりとりをはじめて今日まで毎日やりとりを続けているという。相手からすれば自分が未練を抱いているふうに映るだろうかというので、まずまちがいなくそういうふうにみえるだろうねと受けると、元カレは友達として自分と関係を継続させたいと考えているようだという。自分には未練がないと(…)さんは何度も書いてよこしたが、しかしおおまかにいえば嫉妬にカテゴライズされるだろう不満を相手に直接ぶつけたり、それについて相手が返した言葉、すなわち、すでに別れたあとのことであるのだからなにをしようが勝手ではないかという言葉——心情的なものはいろいろあるだろうが、この点については彼のほうに理があるとこちらも思う——に涙を流したり、というような話をきいているうちに感じるのはやはりほかでもないその未練であり、というかもっといえば、彼女はこちらに復縁すればいいんじゃないかというアドバイスをもらえると期待していたのではないか? そういう背中の後押しをのぞんでコンタクトをとったのでは? しかしどう考えても彼のふるまいは浮気性の男の典型的なそれであるし、それにくわえて(…)さん自身じぶんに未練がまだあるということを認めようとしないそのことでいろいろ混乱しているのではないかと思われるところもあったので、ちょっと残酷な言い方になってしまうがと前置きしたのち、傍目にはまだ未練があるようにしか見えないこと、元カレのほうでもまずまちがいなくそう感じているだろうこと、だからこそ友達としての関係を持続させるという提案でもってきみをいわゆる「都合のいい女」のポジションにキープしようと考えているだろうこと、復縁を後押しするなにかしらの言葉であったり理屈であったりを内心もとめているのかもしれないが状況を聞くかぎりそういう言葉を口にする気にはまったくなれないこと、こちらとしてはどう贔屓目に見てもその元カレが好人物には思えないということをしっかり表明した。この時点ですでに一時間ほどやりとりを交わしていたし、もう十分だろう、踏みこんでしまってもいいだろうというあたまでそういうメッセージを送ったのだが、泣き顔の絵文字に続けて、「成長するのが難しいね」「本当に好きだった」「これまで最も好きと言っても過言ではない」「本当に今回は」という返信がとどき、ここでようやく彼女は自分の感情と正面からむきあったようだった。「やはりあきらめましょう」「痛いほどね」「もう返事しないよ」「我慢するよ」などと続いたのち、「「恋」を卒業しようとしているわたし」とあったので、今日をもって形式的にも精神的にも本当に別れたと思いなさいと応じた。
 色恋沙汰ってのは本当にめんどうくさい。でもこのめんどうくささは大半の人間にとっては避けられないものでもある。厄介やねほんまに。