20130407

魂を満たしてくれるものならすべてが真実、
分別が魂の欲望や貪欲を底の底まで満たしてくれるが、
魂を究極的に満たすのは魂自身のほかにはない、
自分以外の教えにはことごとく反抗する、そんな底なしの自負心が魂にはある。
今わたしが語る分別とは、時間、空間、実在と肩を並べて歩きまわり、
自分以外の教えは拒む自負心にみごとに応えてくれる言葉。
ウォルト・ホイットマン/酒本雅之・訳『草の葉(下)』)

(意図は完璧で神のものだが、
細部の働きはたぶん人間のものだ)
ウォルト・ホイットマン/酒本雅之・訳『草の葉(下)』)



4時起床。おとといづけのブログを更新。400字詰めで換算すると24枚に達する。イカれてやがる。ひとまずは記憶というやつを丸ごと肯定してみようかと、その意味するところのいまひとつ判然としないマニフェストを思いついた。
5時半より「偶景」作文。帰省中のできごとをいくつか書きつけたのだが、その流れで家庭が完全に腐りきっていたころの記憶というか、具体的なエピソードというよりもむしろその当時の印象や感情の残滓のようなものに急激に火がついてしまい、燃えさかり、やり場のない激しい憎悪に駆られて心臓がバクバクなって、頭がおかしくなりかけた。四つん這いになって吠えた。こんな感情のもっとなまなましいのを毎日毎時毎分毎秒ものごころついたときから実家を出るまでの18年間ひたすら募らせ続けてきて、それでどうやってまともな人間になれる。その対象が何であれわかったふりしてしたり顔で語ってみせるような他人が全員ゴミクズに思えてくるというきわめて奇妙なそれでいて比類のないほど強烈な攻撃性が腹の底でどんどんふくらむのを感じ、このまま出勤したらぜったいにまずいことになると思ったので欠勤の連絡を入れようかとさえ思ったが、無理やり体を動かしてコーヒーを入れてKathy McCartyのLiving Lifeを音量最大でヘッドフォンで聴きながら旅先の美しい思い出だけをひとつずつ数えあげていったら少し落ち着いた。人間は結局物語から逃れられないのだと思った。小説とは反物語として物語と対等な権利をもって対置されるべきなにものかではなく、物語の組成を、機能を、仕組みを、あるいは混乱させ、あるいは失調させ、あるいは解体する一種のウイルスのようなものらしい。ウイルスと感染。キーワードは出そろった。
8時より12時間の奴隷労働。すばらしい朝日の通勤路。街路樹の影が濃い。日を照り返す若葉のつやつやした緑の質感がどういう経過からか夕暮れをおもわせる不思議。勤務中、外線が鳴ったので出ると、いま◯◯号室に泊まっている外国人の知人なんですけれど、お部屋の精算方法がわからないらしくて、スタッフの方に直接お部屋のほうにむかっていただければと思いお電話させていただいたんですけれど、という。外国人の対応はすべて任せられている身である。指示どおりに部屋へ向うと自動精算機を前にして突っ立っている若い白人の男がいて、奥には細身で知的なフランス人っぽい女性がいる。カードで支払いをすませようとしているらしいのだが、精算機に対応していない種類のものらしくエラーが出るようで、ゆえにクレジットで支払ってくれと頼んだところ、紙幣不足。ATMで金をおろしてくると男がいうので、人質といえば言葉は悪いがひとまず女性の方にはロビーに居残ってもらうことにする。最寄りのコンビニがどこにあるのか知っているかと男にたずねると、知らないとの返答があったので、ひとまずコンビニまでの地図を(…)さんに描いてもらい、それを相手に差し出しながら道のりを説明して玄関から送り出したのだけれど、結局、男が戻ってきたのは一時間半ほど経ってからだった。ロビーにもうけられたブースでひとり待ちぼうけをくらわされている女性もさぞかし不安だろうよと、言葉の通じない異国の独り身をおもんばかって途中で様子を見に行ったついでに、お連れさんなかなか帰ってきませんねと話しかけてみたところ、コンビニでもカードが使えなかったみたいでさっきこのホテルに連絡をしてくれた日本人の友人に電話でナビをしてもらいながらATMを探しているところだ、だからまだ少しだけ時間がかかるけれどお金はきちんと支払うからと、なにかこちらが催促しにいったかのような返答があったので、あなたのことはもちろん信頼しています、ただ彼が道に迷ってしまったんじゃないかと少し心配になっただけで、と伝えると、にこりと微笑んでなにやら口にした、その表情や仕草がすごくかわいくてどきっとした。男のほうはちょっとばかり粗野で愛想もないしどことなくあか抜けず、不安とそれを誤摩化すための勝ち気があやうい比率で配合された結果としての攻撃的な萎縮を眼光に始終宿らせていたのに対し、女性のほうはもっとずっと余裕のある、するどい理知としずかな胆力を兼ね備えたおだやかな物腰の持ち主でたたずまいからしてたいそう魅力的だった。
きのうの約束どおり(…)さんに5000円貸した。あんまり信用しすぎやんほうがええでと(…)さんに忠告されたが、踏み倒すようなことはたぶんしないだろう。ただ以前よりちらほら(…)さん相手に相談をもちかけていたグレーゾーンぎりぎりの金儲けの案件(詳細を知ってしまうと面倒なのであえて聞かないでいる)に明日だか明後日だかにいよいよ着手するらしく、それをきっかけに再度のブタ箱行きとあいなって返済不可能という可能性のほうがおおいにありうるのではないかと思われる。
帰宅。筋肉を酷使して、熱い湯を浴びる。強烈な眠気を誤摩化し誤摩化ししながらウェブ巡回し、ブログを書き、玄米一合と(生卵+納豆)×2をかっ食らって1時半、漱石片手に眠りに落ちた。