20130422

いつであれ私がおまえの望みにしたがっておまえに私を与えるときには、私はおまえのなかに私の甘い地上の住みか、それが欠けていると思わずにはいられぬだろう。なぜなら、千にもあまる心でさえ、ひとつの愛する魂にその望みをもたすことはできないだろう。だから、ひとりの人間の愛が高ければ高いほど、その人はそれだけいっそう聖なる殉教者なのである。
マルティン・ブーバー/田口義弘・訳『忘我の告白』より「メヒティルト・フォン・マクデブルク」)

 そしてあなたはご自身をすっかり私に与えられる、私がまったく分かたれることなく、あなたのものである限り、あなたがまったく分かたれることなく、私のものとなるよう。そして私はかくも完全にあなたのもの。あなたはご自身を永遠よりこのかた愛してこられたように、私をも永遠よりこのかた愛してこられた。なぜなら、これはひとえに、あなたが私のなかでご自身を享受されるということ、そして私があなたの恩寵によって私のなかであなたを、あなたのなかで私を享受するということなのだから。
 そして私が私自身をこのように愛するとき、私はあなたの他のだれを愛しているのでもない。なぜなら、あなたは私のうちに、私はあなたのうちにあって同じひとつのもののようになっているからであり、合一して一つのものとなり、永遠に分たれぬもののようになっているからだ。そしてすべての者が他者のうちに善と力とを愛するときにも、これは、あなたがご自身を愛されるということにほかならない。
マルティン・ブーバー/田口義弘・訳『忘我の告白』より「ヘルラッハ・ペーテルス」)



11時起床。はなはだしい乖離感にも負けじと瞬間的に英作文し続ける。紋切り型の表現をあえて用いるならば、うすいベールを一枚隔てて現実をながめているような感覚。けだるいまどろみの中で行為するおのれとその行為を認識するおのれに介在する時差がふだんよりも目立って開いてみえる。いますぐ横になって十時間は眠りつづけたいレベルではあるが、貴重な休日をそんなアレで潰すのも馬鹿らしいので朦朧としながらも課題をこなしていく。余裕でこなせるレベルのアレだろうと何だろうと基礎は基礎なのだからとクソまじめに延々と瞬間的に英作文し続けていたわけだが、残り時間もかぎられていることであるしひとまず方針を変更して、このあたりはもう大丈夫だろうという領域はさらっとおさらいする程度にして明日からはガンガン先へ進めていくことに決めた。
パソコンを起動したついでになんとなくテキストファイルをひらけたところ、だれにも思い出されたくない、というフレーズが思い浮かび、それを書きつけたらなんとなく止まらなくなって小一時間ほど詩めいたものを書きつづけた。詩めいた、と遠慮がちに表現したのは、手癖だけで書いてしまっているたよりなさがあるからだ。
ジョギングに出かける。かなりハイペースで走った。風呂で熱い湯を浴びて19時。ベールは完全にとりはらわれた。クリアに、鮮明に、鮮やかに、世界が透明な光量をとりもどす。昨夜の記憶がとおい迂回路をなぞって断片的に到来しはじめる。無礼千万な夜だったかもしれない。白のワイシャツに水色のセーターを重ね着していた(…)さんにむけて、おねがいだから時間を増やす新しい道具を出してよドラえもん!とおねだりした無礼きわまりない一幕を思い出してしまった。
玄米抜きの夕食をとり、ウェブ巡回し、安らかな仮眠をとって22時前。きのう一昨日と通勤路でこなしていたDuoの残り10数セクションを片付けて本日のDuoはこれにて終了というていにして、かわりに以前(…)さんからいただいた『フォレスト』を読み進める。リーディングもライティングも後回しの現状であるからには必要ないのかもしれないが、いちど軽めに通読するだけしておいて、音読なり瞬間英作文なりの過程で遭遇した未知の構文やら把握しがたい文法などについて調べるときのための目処でもつけておけばいいかなという魂胆。よくまとまっている文法書だと思うけれど退屈なことにかわりはない。1時半までかけてとりあえず188ページまで読んだが、ぜんぶで600ページくらいある。ほかの諸々と並行してちびちび片付けていくべきか、優先的に集中していっきに通読してしまうべきか、迷うところだ。
深夜から朝方にかけてまたすこし作文。「偶景」1つ追加して166枚。「邪道」プラス1枚で計452枚。
そういえばきのう勤務中(…)さんに電話をしてGW中の四連勤を三連勤に減らしてもらった。これでちょっとはマシになるはず。マシになってくれないと困る。

だれにも思いだされたくない
死ねといわれてはじめて
可能と不可能が背中合わせになった
しめった境にひかりが射す
あどけない約束の空をきる
きみのかわいい小指
いまだじゅうぶんな賭け金が
赤にも黒にもならずにいるのを
だれもふしぎにおもわない夜に



読みとれない電気信号ばかりをあつめて
あたらしい機械の発明をあきらめた
旧式の良さを数えたてる
きみのその尊大な前口上
できればあとにしてくれ
すべてが醒めてしまわないうちに
ローソクの炎も吹き消してくれ
それからもっと



それから
それから



それからそう
真水のようにすこやかでいたい
あたまの中でいくつもの針金がからまりあって
芯のふとい狂気を結びそこねる
熱をおびてすりきれる関係
ひとのこころを信じないが
信じる信じないはこころの問題だった
きみのそのちいさな庭の片隅に埋められている
化石となった没交渉
そのうえにはなひらく矛盾の色



ぶつぎりにされた時間を飛び石伝いにたどりながら
そのたびに思い出す
過去も、未来も、いまも、
着地の瞬間にはじけてひろがることを
歩くわれわれは宇宙のはじまりを模倣して
いまだ知らないおわりを好き勝手に捏造する
奇蹟がたちどころに収縮する
あしどりの心音
とおい星座にむけて愛想のよい手のひらでもふってやれ
めぐりめぐったあげく
あたらしい文明のきっかけになってしまえ



だれにも思いだされたくない
死ねといってはじめて
いままさに見開かれるきみの薄目
南国の植物のようにたっぷりと
包みのほどかれていくまつげの下から
よわよわしく震えてのぞく
濡れた鏡
そのうわずみで泳ぐ動物たち
それは命名の機会だ
うらがえしにされた名札の照りかえし
まったき瞬間が恍惚をもたらす
余白のするどい眼光だ



逃すな、けれど
けっして完了するな
あみだせ
ひたすらに、ひたむきに、ひとしなみに
なるべく長く、息のつづくかぎりの円周率のように導き導かれる名前を
うまれおちたばかりの子の
一生にひとしい時間をかけて唱えつづけることのできる呼び名を
きみを思いだす権利がきみだけにしかなかった
栄光がもういちどきみをひとりにするまで



秘密の基準を舟にうかべて
きのうよりも身近なあしたにゆだねる
ひらいた瞳孔にやぶった誓いをちりばめて
翌日はうずをまいて逆流し
それからもっと
それからまた
でなおすばかりの日々のしずけさに
賭け金をうわのせする高い音が凛とひびくのだ