20130519

(…)今日の特徴は、宗教運動が経済活動のかたちをとったり、経済活動が宗教運動の外皮をまとったりしていて、その境界が甚だ不明瞭になっていることである。考えてみると、経済活動そのものが工業から情報産業にその重点を移動し、モノから情報へという流れの中にある。すべての商品について、その直接の使用価値よりも、むしろ、ブランドの形で、あるいはアイデアの形で付加された情報の方が重要であるとされる傾向がある。そして物質系に対して、情報系が支配力を及ぼす最古の形態は呪術であり、究極の「情報産業」は宗教であるとさえいえるのである。
小田晋『狂気の構造』)



7時前起床。8時より12時間の奴隷労働。早引けすることに後ろめたさをおぼえた(…)さんが業者から送られてきた試食品のうどんをスタッフ全員分ふるまってくれたのだけれど、(…)さんの誕生日プレゼントにあげた七味を入れて食べてみるとただの冷凍食品のくせにたいそう美味くなって、このプレゼントはじつに好評だった。
帰宅後(…)と自室で落ち合い、しょうこりもなくサイゼリヤ。昼前からふりどおしの小雨のなかを先の折れたビニール傘と先の曲ったビニール傘のコンビで出歩く。最近はジムの無料体験に通いまくっていると(…)はいった。身体を大きくしようと思うのなら一日3000キロカロリーは摂取すべきというジムトレーナーの発言を教えてもらったのだが、ざっと計算してみるに、じぶんの摂取カロリーは一日1500〜1800キロカロリーくらいしかないらしい。朝昼兼用でパンの耳とコーヒーだけなのだから当然といえば当然か。食えば眠気をもよおし作業にさしつかえが生じる。それが嫌で日中は空腹をこらえるようにしているのだが、支障が出ない範囲内でうまく間食をとるなどしてもうちょっと栄養をとったほうが良さそうな気がしてきた。
サイゼリヤを後にして(…)にはしご。めずらしいくらいガラガラの店内。雨降りのせいだ。ひきつづき(…)とどうでもいい話ばかり交わす。どうでもいい話というのはすばらしい。どうでもいい話というのは最高だ。なにもかもがとりかえ可能で、なんら必然性のない、意味の濃度の低い会話の、贅沢と余剰だけがもたらすことのできる飽食の豊かさ。(…)は来週高校時代の同級生の結婚式に参加するらしい。その同級生というのは脱サラしてカルボナーラ専門店を地元ではじめると息巻いていた例の同級生なのだが、ひそかに段取りをすすめていたその計画を婚約者に伝えたところ、いずれ子供ができて大きくなってからでもいいでしょとあっさり拒否されたという。高校二年のころか三年のころか、たぶん春休みか夏休みだったと思うのだけれど、朝の5時だか6時だかにその同級生からいきなり電話がかかってきたことがかつてあって、出ると、こんなに朝早く悪いのだが話があるからどうか会ってほしいと言われ、なにをいっているんだときょとんとしていると、すでにこちらの実家近くにあるサークルKにまで出てきているのだといって、彼の実家とじぶんの実家は自転車なら片道一時間程度はかかる距離である。これはただごとではないと思ってすぐに支度をして出かけると、早朝サークルKでジャンプを立ち読みしている彼の姿があって、泣き笑いの表情で、話をきいてみると、彼女にふられかけているという。生徒会か何かしらんが他校の生徒と交流するなにかの行事に出席した彼女がそこで将来の目標をしっかりともってすでにそれにむけて前進しつつあるバイタリティの高い男子生徒に出会ってしまい、それでひるがえってじぶんはいったい何をやっているんだろうという実存的苦悩にはまりこんでしまったのか、わたし将来なにをやればいいんだろう?とメールで漏らした弱音にたいして、彼氏たる彼は、おれのお嫁さんでええやん、と、ある意味では空気がまったく読めていなかったわけだがしかしそれ相応にかわいらしいメールを返信したところ、そういうのを欲していなかった彼女の心が一気に遠ざかってしまい、みたいなあれやこれで、その日早朝から我が家にやってきた彼、というかこの旧友のことをなぜ彼という人称代名詞で記述しているかといえば彼の呼び名のイニシャルが(…)で、これだといつもの(…)と混在してややこしくなってしまうから彼と記述しているのだが、しかしそれと同時にまた、すでに没交渉になってひさしい年月がまたじぶんにこのような記述の採用をうながしているのかもしれない。それでとにかくその彼はたしか二晩だか三晩つづけて我が家に滞在することになり、それはちょうど例の交流会でふたたび遠方に出かけていった彼女が地元にもどってくるまでの不在期間だったと思うのだが、とにかく出先からもどってくる彼女とどうにかして駅前で会い、じぶんの気持ちをあらためて伝え、すでにバイタリティの高い例の男に引きつけられてしまっているその心を取り戻すのだと、そういう決心で、ただその決行日がやってくるまでの二日間だか三日間をひとりで過ごす気になどとうていなれない、そういうアレでじぶんのもとに転がり込んだのだったが、作戦決行日、われわれはケッタにのって(…)に行き、なにもかもがうまくいくようにお祈りしたのだった。駅前で彼と別れ、作戦がおわるまでのひとときをどこでどう過ごしたのだったか、もはやはっきりと覚えてはいないが、ひとりでぶらぶらしながらたぶん時間を潰し、それから作戦が失敗した、正式にフラれたという彼からの報告があり、とりあえず落ち合い、近所にあった和食ファミレスのさとに出かけたのだったが、そこでうどんセットか何かを注文した彼が、一口目をすするがいなや、やはり泣き笑いのような表情で、(…)ちゃんやべえ、マジで食えへん、とこぼし、ごめん、おれの分も食べてくれと、さしだされたものを前にして失恋のショックで飯を食えなくなるなんてことが世の中には本当にあるのだと、心の底から驚いた記憶がある。それからたぶん半年後くらいだったと思うけれども、その彼が京都だか大阪だかに出かけて服を買いにいくというので、ちょうどドラムバッグが欲しかったじぶんは金だけ彼にあずけて、なんか適当にいいものを見繕って買ってきてくれと頼んだのだったが、その彼から夜、ちょうどカラクリテレビのご長寿早押しクイズを見ているときだったように記憶しているが、電話があって、出ると、ぜんぜん知らない男の声で、(…)ちゃん?おれ、おれ、(…)、(…)と、われわれがふだん(…)とあだ名で呼んでいる彼のファーストネームを告げる声があり、その瞬間に、ああこれはたぶんめんどうな事態だと察せられたので、おまえだれやコラとたずねかえすと、電話が切れて、それからまもなくもういちど電話があり、出ると、今度は本物の(…)の声で、(…)ちゃん、おれおれ、あのさあ、悪いんやけどさあ、立て替えといた鞄のお金ちょっといま持ってきてくれへん、いま(…)のさあ、(…)橋のあたりにおるし、とあって、わかった、ほんならいますぐ行くから待っといて、と応じて、電話を切り、するとそれらのやりとりをかたわらで聞いていた食卓の母がどうしたんやというので、(…)がたぶんカツアゲされとるみたいやからちょっと行ってくるというと、ほんならさっさと行って助けたんないとあって、するとやはりかたわらにいた兄が、同行する、車を出すといってくれたので、それならとこちらはこちらで木刀を用意して、それでやはりその場にいたのであったかそれとも支度をととのえている途中に事情を問われて答えたときだったか、いずれにせよ就寝前の父から、おれの車のトランクに鎌ふたつ入っとるから持ってけといわれ、そんな物騒なもん持ってけれるかというアレでひとしきり笑ったわけだが、とにかくそういう段取りで車を飛ばして現場にむかうその途中だったかにふたたび電話があり、出ると、もう大丈夫だ、カツアゲはすんだと報告があって、話を聞いてみると、どうも彼のふりをよそおってこちらに電話をかけてきたリーダー格の男がこちらの電話対応の様子からひょっとするとまずいやつかもしれないと察したらしく、もともとの魂胆としては(…)をよそおってこちらに電話で金をもってくるよう命じて現われたところをボコって有り金いただくみたいな作戦だったようなのだが、撤回し、(…)から奪うものだけ奪ってこちらが現場に到着するのをまたずして逃走したらしかった。カツアゲされているにもかかわらずおれは冷静だった、一万円よこせというところを最終的に三千円にまで値切ったのだと、次の日高校でみずからの醜態をおもしろおかしく吹聴してまわるそんな(…)の底抜けにあかるい性格が大好きだった。と、こんなふうに記憶をたどりよせていくうちに、(…)と、疎遠になった彼のことを当時の呼び名で書き記すことにたいする抵抗がどんどん薄れていくところがある。その日は兄とふたりで一時間ほど、(…)から聞いた三人組の特徴を追いながら夜の町を車で徘徊しまわった。結局犯人をつかまえることはできなかった。途中でそれらしい三人組を見つけたので助手席から飛び出したが、ひとちがいだった。兄から落ち着けといわれた。
いまだなお関係の続いている(…)の話に戻る。すでに関係の絶えてしまった(…)の結婚式に出席するのが来週、その次の週はバイト仲間と香川に出向き、来月にはすでに関係の絶えてしまった(…)経由で知り合った女友達と台湾に二泊三日の小旅行に出かけるなど、なかなか人生を謳歌しているスケジュールである。フィリピンへの語学留学のために毎月6万円ずつ貯金しており、来年の7月にはとりあえず目標金額に達する算段らしいのだが、いろいろ話しているうちに、なんかもう今月は金遣いまくってやろうと、よくわからない決意をかためていた。ひとまずジムに通うことにするらしい。うらやましい。
1時半ごろ店をあとにしてアパートまでとぼとぼ歩いた。途中でコンビニに立ち寄って摂取カロリーを稼ぐためにふたりしてカルボナーラを買ったのだが、よくよく考えてみれば今日の昼飯もカルボナーラだった。帰宅してあたためたカルボナーラを食ったのだが、めずらしいことに(…)が三分の一ほど残した。この化学調味料の味はだめだ。(…)はそういった。ずいぶん気持ちが悪そうだった。それからこの一ヶ月ほどamazonで買いまくっている英語の参考書やらなんやらをふたりしてぺらぺらとめくりながら、こういう表現知ってた?だとか、こういう文法の制約知ってる?だとか、これとこれじゃ同じ意味の単語らしいけれどニュアンスとしてはどういう差があるの?だとか、4時すぎまでひたすら英語の話ばかりしていた。留学経験があるだけあってTは実用的な英語をたくさん知っていて話をきいているだけで勉強になる。じぶんは相づちの打ちかたひとつ知らない。