20130815

労働。携帯電話を(…)にあずけて出勤。体調が悪くなるようであれば遠慮なく職場に電話をしてくるようにと言い残して早朝から30℃を優に越えていると思われる通勤路を往く。勤務中は(…)の体調うんぬんよりもむしろ禁煙の反動によるストレスが不安で、また口論がはじめるのかと悪い想像ばかりが働いて帰宅するのが億劫にすらなったものであったが、しかしすべて杞憂だった。帰宅すると(…)がたっぷりの野菜と鮭とジンジャーティーを用意し明かりを落とした部屋にキャンドルを点して彼女の好みそうなロマンティックなBGMを流して待っていてくれた。体調はとたずねると、相変わらず痛むところは痛むがだいじょうぶだと思う、スカイプで従姉妹にたずねたところおそらく暑さや風邪からくる神経痛のようなものだろうということがわかった、そんなふうに原因が判明しただけで気分は楽になるものだとあって、こちらはこちらで(…)の症状について(…)さんからまず間違いなく神経痛だろう、おれも似たような持病を持っているのだという話を聞いたばかりで、(…)さんの場合は風邪をひいたり両手を肩より上にあげるような姿勢で長時間運動したりすると肺に近いあたりにするどい痛みが走ることがあるというアレで、この手の神経痛というのは薬で痛みこそ軽減できるものの原因がいまだによくわかっていないものらしい。病院に行く必要もないし地元にも問題なく帰省することができるというのでそれはよかったとよろこびあい、がさつさが良い方向に働いたらしい料理をたらふくいただいた。今日は買い物に出かける以外は一日中部屋にステイしていたと(…)はいう。母親や従兄弟や友人たちとずっとスカイプでおしゃべりしていたらしい。キッチンにオーブンがないことを知った(…)の従姉妹がオーマイガーと絶叫しいったいどうやったらオーブンなしで生活なんてできるのよとうろたえていたという話に大笑いした。それから(…)の故国の料理の話でもりあがり、昨夏にくらべるとやはりまがりなりにも英語力が向上しているらしいと実感するのはこういうときで、知らない単語の大半は文脈でぼんやり理解できるしそれでもわからないものは別の単語にいいかえてもらったり定義を英語で説明してもらったりすることによって容易に理解にいたり、いまやわれわれは電子辞書なしで意思の疎通をはかることができる。すばらしい。



ここまでポメラで書き記したものである。日曜日の日記とみえる。もはや二日前さえもがおぼつかぬほどいそがしくせわしない日々を送っている。日曜日の続きと月曜日にかんしては箇条書きで記されたメモがあるのでそれにしたがって書きつなぐと、まず日曜日は夕食後、例のごとくイチャついた。ラテックス製のコンドームはアレルギーだから使いたくないと(…)はいった。またもや最後の一線はおあずけというわけだった。とはいえそれ以外のことはするにはする。あなたは自分自身を誇ってもいいわと、ことが終わったところで(…)はそういった。百戦錬磨にそういわれるとさすがに悪い気はしない。それからまたシリアスなにらめっこがはじまった。どうしてそんなに怒りを秘めているの、というので、この小芝居にまた付き合わなきゃいけないのかと思いながら、最近(…)にもよくしょっちゅうなにかしら怒ってるなといわれるんだ、と応じた。you are beautifulといわれて戸惑った。どちらかというまでもなくuglyなじぶんである。それから時々あなたはsweetすぎるという駄目出しがあった。男性優位についてどうのこうのいっておきながら結局性根のところでマチズモを欲するこの手合いというのはあまりに多い。
翌日月曜日は実家に帰省した。箇条書きによると「駅に到着するまではふつう」とある。たしかにそうだった。われわれはごくごく普通のカップルだった。(…)駅に弟の運転する車が迎えにきていた。(…)が手土産に花を買いたいというので兄嫁おすすめの花屋とやらにむかった。書く時間がない。すでに1:40である。事実だけを書き飛ばそう。細部はいずれまた別の機会にもうけられる記述の運動にまねきよせられて姿をみせるに違いない。花を枯らさぬためにいったん帰宅しそれから(…)にむかった。(…)で(…)を食べたあたりから(…)が妙に不機嫌になりはじめた。境内で宗教についての論争がはじまった。どうして世の中に宗教というものがあるのかと、まるでこちらが宗教の発明者でありかつ支持者であるかのようにやたら攻撃的かつ挑戦的にけしかけてくるので、人間はじぶんが死ぬことを知っているから宗教を必要とするのだ、死の恐怖を乗り越えるためにフィクションが編み出されたのだと、実にありきたりな返答をよこしてやると、たったそれだけで押し黙ってしまった。それを(…)は自らの敗北と受け取ったらしい。その敗北感を帳消しにするためになんとしてもこちらの鼻をあかしてやろうという魂胆のみえみえの口調で、翌日に母方の実家で見物する予定の土着の仏教に由来する儀式と(…)関連の祭との区別があなたの説明だとまるでつかないと再度攻撃的な言い方でけしかけてきたので、もうどうでもいいやとこちらはこちらでだんまりを決めこんだ。弟がスーパーで買い物をしている間、車内に残ったわれわれふたりは一言も口を利かなかった。帰宅した。しばらくすると両親が帰宅した。そういうわけでわれわれの冷戦もどうしても雪解けせざるをえなくなった。弟の作ってくれた夕食をとった。翌日は(…)温泉にいこうということになった。裸になるのがはずかしいのならimportant partを隠すためのタオルを持っていけばいいというと(…)は爆笑した。important partという表現が妙におかしいらしかった。おれのは西洋人とはちがって小物だから隠すのにタオルなんて必要ない、ハンカチーフで十分だというと、(…)はますますゲラゲラと笑い、こちらのしゃべる英語程度ならば理解のできる弟もつられて笑っていた。弟の部屋を借りて寝た。西洋人女性はだいたいみんなバイブレーターやディルドを持っているという話におどろいた。それからイチャついた。一線を越えた。妊娠の可能性というリスクを犯してしまった。あなたのワンマンショーねと(…)はふてくされて眠ってしまった。翌日は早起きをする予定だったがしくじった。母親と弟と(…)とじぶんの四人でうどん屋にいって天ぷらを食べた。それから(…)温泉にいった。これまでけっして温泉に入ろうとしなかった弟を無理やり引き連れた。(…)がのぼせた。帰宅してから祖父宅に行くまで(…)のために一時間ほどの休息が設けられた。休憩が必要だとかいいながら結局イチャつきたいだけだということが判明した。祖父宅にいった。寿司を食べた。生魚はベジタリアンの(…)にはさすがに強すぎるらしかった。(…)は母親おさがりの浴衣を着た。きれいだった。それから祭の会場にいった。カラオケ大会。ビンゴゲーム。イノシシの丸焼き。去年の夏にもやはり身かけた金髪ショートカットのおそらくは同世代とおもわれる目鼻立ちのくっきりとした若い女の子が気になった。会場のあちこちからlithuaniaという言葉が聞こえてきた。(…)はまたたくまに有名人となった。酔っぱらった年寄りがやたらと(…)に絡みにくるのが面白かった。そのうちのひとりは例の女の子の父親らしかった。こちらが席をはずした一瞬の隙をつくようにして缶ビールを手にした老人たちが(…)のもとに駆け寄り握手を求め写真をねだり挙げ句のはてにはビデオを撮影しはじめるのだった。星空を見たいという(…)の希望にこたえて帰宅途中むかしよく蛍を見にいった田園のそばで車をとめて外に出た。満天の星空だった。ビューティフルとつぶやきながら空をあおいでいたところに流れ星がよぎった。(…)は感動していた。帰宅してからイチャつき眠った。祖父宅にて両脚を蟻にかまれたのがパンパンにはれあがって痛がゆかった。翌朝はまたもや早起きにしくじった。弟お手製のお好み焼きを食したのち弟と(…)とじぶんの三人で川遊びに出かけた。途中で水着を買った。川辺には思っていた以上に人が集まっていた。水不足のためか川幅のひろいこの一画に水浴客がこぞって集まったようだった。われわれは泳ぎに泳いだ。(…)がかねてより望んでいたキャンプはここですればいいんでないかということで話が落ち着いた。(…)の中では弟もすでにキャンプに参加するメンバーの一員であるようだった。深みにもぐると鰻がいたのでおどろいた。報告するとつかまえて今夜の夕飯にしましょうといわれたので誰かの置き忘れていったらしい虫取り網片手に奮闘したが捕獲は困難だった。夜は母親を加えた四人で天筒花火を観に出かけた。帰路口論になった。(…)は明らかに禁煙の副作用でイライラしていた。だからといって八つ当たりしていいもんでもない。死ねよと思いながらかたわらを歩いているとこちらの怒りを察したらしい様子の(…)はすぐさまスキンシップでもってこちらの機嫌をとろうとするのだった。夜は兄夫婦が(…)に会いにきた。(…)さんはお腹がぱんぱんになっていた。今月中にはもう産まれるものらしかった。アメリカ滞在一年半の英語でもってガンガン(…)相手にしゃべってくれるのかと思いきやほとんど日本語だったのでこちらが逐一通訳することになった。後になってから(…)くんすごいやさしいね、いちいち通訳してあげてといわれたので、言葉のまったく通じない中で置いてけぼりにされる疎外感を去年存分に味わっているからと答えた。翌日は朝から(…)の機嫌が悪かった。さわらぬ神にたたりなしのていでいると駅にむかう車内で煙草が吸いたくてしかたないとむこうから切り出した。駅のホームで電車を待っているとまたもや理不尽ないらだちを表明してはこちらに八つ当たりするふうなのでいい加減頭にきて怒りを存分に態度で表明した。するとすぐにこちらの機嫌をとるようにして肩に頭をあずけるのでますますイライラして死ねよと思いながらシカトを決めこんだ。列車にのりこんでから(…)はほとんど落ち着きのない子供のように歌をうたったりこちらの鼻をつまんだり気晴らしのジョークをせがんだりした。すべて無視して寝た。するとようやくあきらめてMansfieldを読みはじめるのだった。乗り換え駅の大和八木でパンとコーヒーを買った。すずめの雛が一羽構内に迷いこんでいた。京都駅に到着した。もよりのスタバで抹茶ラテを飲んだ。どうして人間は他人を必要とするのかという馬鹿げた問いが(…)から投げかけられた。議論がはじまった。しかしケンカにはならなかった。よい空気だった。愛の言葉が交わされた。バスで桂離宮にむかった。見学した。バスで京都駅にもどった。地下で天ぷらを食した。それから(…)のおごりでケーキを買った。地下鉄でアパートの最寄り駅にむかった。帰宅した。ケーキを食べた。軽く眠った。イチャついた。信じがたいほどの早漏っぷりを発揮してしまった。わたしをモデルにヌードを描けという指令がくだされたのでいやいやながら四枚ほどデッサンした。二回戦の途中で(…)はラテックスのコンドームはやはりだめだ、ひりひりするといってシャワールームにかけこんだ。ちょっとだけ小説を書きたいからとことわって布団を抜け出しここまで書いた。炭酸の抜けたような日記だ。蟻に噛まれた両脚がどんどんまずいことになっている。痛がゆい。そのかゆみは一ヶ月ちょっと続くと兄はいった。つまり、かゆみがおさまるころには(…)はもういない。