20130810

労働。(…)さん不在のためにひとりの時間がたっぷりある。たまたま鞄の中に入れっぱなしになっていたポメラでじつにひさしぶりに「偶景」を書き足す。景物を愛でるまなざしも特権的瞬間をとらえる認識もひさしく働いていないおのれを自覚する。帰宅。(…)の様子がおかしい。胸のあたりが息をするたびに痛むという。ネットで調べてみるかぎりすぐにでも病院で診てもらったほうがよい症状なのだと狼狽した様子でつづける。昨夜胸を強く揉みすぎたせいかもしれないとわりと本気で考えたが、筋肉の痛みではないらしい。どうも大袈裟にものをいっているだけのような気がしないでもないが、そういうこといえばまたケンカになりかねない。いまから救急で診てもらうかとたずねてみたが、どうも気乗りしない様子にみえる。それにそもそも彼女は保険に入っていない。まことにもって面倒であるが何もしないでいればそれはそれでまた火種になりかねないので、ひとまずネットで英語を介することのできる医者のいる病院を検索したり、近所にある比較的おおきな病院に電話をかけて英語をあやつることのできる内科医はいるかとたずねてみるなどした。それだけの誠意をみせると(…)は安心したらしい。夕食をとりながら話を進め、ひとまず月曜日まで様子を見てそれでもよくならないようであれば英語を操ることのできる医者の滞在する大病院にいって検査してもらおうという運びになった。職場の電話番号と119と110と念のために(…)の携帯番号を書き記した紙片を用意し、明日は職場に携帯を持っていかず部屋に置いておくのでなにかあればそれを使うようにと告げた。外出はむずかしそうに見えたので明日の昼飯用になにかフルーツでも必要かとたずねると、グレープフルーツとレモンと生姜が欲しいという。フレスコに出かけて望みの品を購入して帰宅し、洗い物をすませ、洗濯機をまわし、そんなふうに家事をこなしているこちらを目にするたびに(…)はあなたもこっちでリラックスしたらどうと布団の上に寝転がっていうのだが、基本的に自室でだらだらするのがあまり上手ではないこちらである。ゆえに動く。それもてきぱきと動く。なんとなく(…)がこちらに構ってほしくて過剰に弱ったふりをしているんじゃないかという気がすることもある。そうしたそぶりが認められるたびに、どういうわけかかえって彼女をないがしろに扱いたくなるような、遠ざけてしまいたくなるような、妙に意地悪な気持ちに傾くところがじぶんにはあって、幼少のころよりずっとこの傾向とともにあったような気さえする。しあわせギフトキャンペーンでお世話になった(…)さんからメールがあり、「A」を自費出版するのであれば友人の分も含めて三冊は購入するといってくれた。(…)が帰国し次第編集作業にとりかかり年内にはかたちにできればといまのところは考えている。新人賞にはもう頼らない。賞金もいらない。半不特定少数のひとたちにいまは賭ける。