20231105

 作者忙殺のため、本日の「余はいかにしてヤクザの舎弟から大学教員へとなりしか」はお休みさせていただきます。ご了承ください。


  • 6時起床。身支度をすませて(…)くんの部屋に移動。会場に向かうバスは二台。先に出発するほうのバスに(…)くん、(…)さん、こちらの三人が割り当てられている。出発は7時10分。(…)さんとそろって食堂に移動。遅れて(…)くんがやってくる。ナルシストの気がある彼のことだから、おそらく髪型のセットに時間をかけていたのだろう((…)くんは日頃からマジでびっくりするほど頻繁にスマホでじぶんの髪型をチェックする)。普段朝ごはんを食べる習慣がないので食欲がないという。馒头だけでも食べておいたほうがいい、空腹だとあたまが回転しないからと告げる。バスの出発時刻が間近にせまってもふたりとも急がない。だいじょうぶなのかとたずねると、急ぐ必要はないという。結局、出発時刻を5分ほどオーバーしてホテルの外に出たのだが、バスはまだ出発していなかった、のみならず車内もガラガラだった。出発したのは7時30分過ぎ。オフィシャルなイベントであっても時間にルーズなのだ。
  • 図書館へ。会場の前方に審査員席、その後ろに参加校の代表教師らが座る席、さらに後ろに学年ごとにわかれるかたちでコンテスト出場者らが座る席、その後ろが指導教師らや見学者らの座る席となっている。こちらは最後尾の端に着席。前の列が四年生、その前の列が三年生、その前の列が二年生の席という並び。ほどなくして(…)先生もやってくる。こちらの左となりに着席。さらに左となりには他校の女性教諭。外見からしてもしかして日本人教師かなと思ったが、中国人教師だった、というか(…)先生の修士時代の同級生だった。一度だけ軽く言葉を交わす機会があったが(スピーチでタイムオーバーかどうか微妙な学生が出たときにいまのはどうなんですかねという話になったのだ)、日本語はかなり流暢。(…)市にある大学の教員らしい。
  • 開会式はじまる。お偉いさんらの長話がしばらく続く。審査員に日本人の姿はひとりもない。長話のすんだところで、いったん図書館の入り口に移動し、集合写真の撮影。
  • 本戦開始。まずは四年生のテーマスピーチ。テーマは「(…)」。審査員のジャッジとこちらの印象にずれがあるかどうかだけ確かめたかったので、発音と感情表現にのみ審査基準を絞ったうえでD〜A評価のメモを手持ちのノートにつけていく。他校の学生はやっぱり発音もしっかりしているし、なにより感情表現が豊か(といってもネイティブのこちらからすると、だれもかれもがほとんど大根役者みたいに過度にオーバーにみえるのだが、そういうほうがこの手のコンテストでは高得点がつくのだ)。あとはやっぱり愛国っぽい内容が目立つ。コロナ前とそこが全然違う。時代の空気がはっきり変わった。最高得点を獲得した大学生の原稿なんて、いかにも中国共産党的な言葉遣い——仰々しく、雄々しく、猛々しい、日本語の言い回しとしてはどう考えても不自然な、ほとんど軍歌の歌詞みたいな単語と言い回しのチョイス——で、祖父といっしょに共産党の聖地をめぐった旅行の思い出話を語ってみせるという苦笑するほかない内容。制限時間をオーバーしていたし、発音もほかの大学の学生のほうが優れていたのに、なぜか最高得点で、この国も本当に行くところまで行きつつあるなとあらためて思った。(…)くんは手元のメモ帳によると13番目の出場。スピーチの内容を一部飛ばしてしまったし、声量は小さかったしで、終わってみるとケツから3番目(17人中15番目)という低位だった。
  • 続いて三年生のテーマスピーチ。テーマは「(…)」。(…)くんであの順位だったら発音にものすごく問題のある(…)さんはビリかもしれないと覚悟していたが、結果は(…)くん同様、ケツから3番目(18人中16番目)。しかし(…)さんはこの点数に納得がいっていないようす。正直こちらは妥当だろうと思ったのだが(なんせ彼女の発音は致命的に悪い)、審査員が居眠りしていた、ろくに聞いていないと不満を口にする。正当な不満であるが、同時に、居眠りしてしまう審査員の心境もわからないでもない。こちらも(…)先生も途中からけっこうしんどかったのだ。
  • それから二年生のテーマスピーチ。テーマは「(…)」。(…)くん、くじ運がいいのかわるいのか、まさかの一番手。基本的にトップバッターは点数が低くなりがちであるというアレがあるのだが、四年生は最初の三人がわりと高得点を得ていたので、まあそれほど悪くはならないだろうと思っていたところが、結果はパッとせず。18人中8番目。日頃の練習中も昨日のリハーサルでも、例年声量のある学生が高い点数をとる傾向にあるので、とにかく声だけは張れと、ほとんどバカのひとつ覚えのようにそう指導してきたわけだが、三人とも結局緊張にのまれてしまったのかいまひとつだった。うーん。
  • 途中、近くの席に座っている中国人女性教諭から声をかけられた。学生らのスコアはスピーチの合間にステージ脇のモニターに表示されるのだが、そのモニターがおそろしく小さく、またスコアの表示時間もアホみたいに短いため(あれはろくにリハーサルをしていないのではないか?)、(…)先生がスマホで撮影したものをいちいち見せてもらってノートにメモしていたのだが、くだんの女性教諭から、たぶん自校の学生のスコアを見逃してしまったのだろう、そのノートを見せてほしいと頼まれたのだ。しかしのちほど、これは午後の部になってからだったと思うが、連絡先を教えてほしいとあらためて声をかけられたので、もしかしたらスコアの件は単なるきっかけ作りにすぎず、もともと他校の外教をスカウトするつもりでこちらに声にかけてきたのかもしれない。くだんの女性は(…)の教員。(…)くんによれば、(…)の付属校。レベルはかなり低いとのこと。
  • 連絡先の交換といえば、これは午前のことか午後のことか忘れたが、(…)くんが同じ四年生の女子学生から逆ナンされていた。しかし(…)くんには彼女がいる。はやめに伝えてやったほうがいいのではないかというと、彼女とのツーショット写真が朋友圈にあるので、それですぐに察するだろうとの返事。(…)くんは(…)くんで、となりに座っていた(…)大学の二年生とやたらと親しげに話しており、連絡先もおそらく交換したようすだったが、相手には彼氏がいるらしい(そういう彼のほうでも彼女がいるわけだが)。
  • 午前の部が終わる。大学の食堂に移動する。(…)の気温はかなり高く、この日の日中は30度を上回っていた。食堂には(…)くんと(…)さんが先着している。メシはやっぱり全然うまくない。(…)くんと(…)さんのふたりは午前の結果にやや意気消沈気味だった。練習中は入賞に興味がないと言っていたが、いざ実際に入賞ならずの可能性が高くなると、それ相応に凹むわけだ。(…)くんにいたっては自分には一等賞を受賞する可能性がまだ残されているだろうかと口にする始末。この発言にはさすがに、いやいやほかの大学の学生のスピーチ見たうえでそれ言うんか? じぶんの現在の順位わかっとるんか? と唖然とした。これはもうしょっちゅう書いていることであるが、中国人は、という主語はたぶん正しくないだろうからうちの学生はと言い換えるが、全員が全員! マジで! なににつけても! 見通しが甘すぎる! その手の見通しの甘さに直面するたびに、いまだにこちらはけっこうドン引きしてしまうのだ。じぶんたちの所属する大学のレベルが高くないことは自覚しているだろうに、そしてその自覚があったうえで仮にコンテストで上位入賞を本気で狙うつもりであればそれこそ四年連続で一等賞を受賞している英語学科の学生のように夏休み返上で練習したり朝から夜まで練習したりしなければならないこともわかるだろうに、実際はといえば、指導教員が例外なくクソであるという問題もあるとはいえ、学生ら自身もそれほど熱心に練習するわけでもない。こちらが練習を担当している日にしたところで、たとえば(…)くんの発音指導にあたっているあいだ、(…)さんはスマホでひたすら自撮り、(…)くんはVPNを噛ませたタブレットTikTokやインスタをのぞいているありさまで、そのあいだにじぶんひとりでやれる練習をやるということもしない、(…)くんの発音練習に付き合うでもない。そういうどこまでもゆるい感じでやってきたにもかかわらず、(…)くんはテーマスピーチが終わった時点で8番手というかなり厳しい状況をまるで理解していないかのように、なぜか上位入賞の可能性を探っているわけで、その精神性、ある意味ポジティヴといってもいいのかもしれないその思考に、彼らとくらべたらずっとネガティブであるというか石橋を北斗神拳で叩いて渡るタイプのこちらはやはり愕然とするし、こちらから見れば全然妥当な評価である点数について低すぎると文句を垂れている(…)さんの姿を見ると、ああ、悪い意味での中国人だ、ステレオタイプを地でいくアレだ、と申し訳ないが思ってしまう。
  • 会場の図書館にもどる。道中、(…)くんが自分は一等賞を受賞できるだろうかとふたたびこちらにたずねるので、さすがにちょっとげんなりし、きみはそもそも一等賞を受賞する気だったの? とたずねたところ、じぶんの野望だったというので、ええー……となった。それだったらそれ相応の戦略なり練習方法なりがあるだろうに! なんでそれを最初から言わないのか? なんでそれ相応の練習を重ねないのか? まったく理解できない。
  • 午後の部。四年生の即興スピーチ。テーマは「(…)」。ものすごく簡単。(…)くんは14番手。練習よりもずっと上手にできたが(話す速度もはやかったし途中で詰まることもなかった)、テーマがテーマだけに他校の学生の大半は暗記済みの原稿を完璧にそらんじることができており、まあ入賞は難しいだろうという感じ(三等賞以上を受賞するためにはたしか上位11人に入る必要がある)。
  • (…)くんの出番が終わったところで中座。(…)くんといっしょに近くの売店にコーヒーを買いにいく。(…)くん、四年生の学生らの即興スピーチのレベルの高さにちょっと面食らっているようす。みんなとても上手ですねというので、そりゃあ原稿10本か20本は暗記しているだろうからねという。(…)くんも(…)くんも即興スピーチ用の原稿は暗記しないとじぶんで決めた。暗記しないと高得点はむずかしいよというこちらの忠告にもかかわらずじぶんでそう決めた。だからその決断をこちらは尊重したのであるし、賞は別にどうでもいいという彼らの言葉をそのまままともに受け取りもしたのだったが、実際はといえば、先にも書いたように全然そんなことなく、三人が三人受賞を狙っていたことが判明したのが今日なわけで、やれやれとならざるをえない。面子を守るために予防線を張るかたちで賞には興味がないと口にしたのかもしれないが、しかしひそかに思うところがあるのであればそれに見合った努力を陰ですればいいのにそれすらせず、ただ甘ったれた夢を見ている。こうやって書いているとあらためて思うのだが、(…)さんや(…)くんや(…)さんはやっぱりうちの学生としては異質なタイプだったんだな。あれだけ自律して努力できる人間、うちの日本語学科にとっては数年に一人の逸材だろう。
  • 会場にもどる。(…)くんのテーマスピーチと即興スピーチの合計スコアは学年最下位。さすがにけっこうショックを受けているようだったが、それでも即興スピーチ本番でふだんよりうまくやれたというよろこびはあったという(強がりかもしれないが)。クラスメイトの(…)くんからは、たとえ悪評であれどもトップに立つ人間のほうが平々凡々な順位に甘んずる人間よりもいいみたいな慰めが届いたというので、あいついいやつだなと笑った。
  • 三年生の即興スピーチ。テーマは「(…)」。また簡単なテーマだ。(…)さんは漢服をテーマにした原稿を暗記済みなので問題なし。四年生は他校の学生ほぼ全員が事前に暗記していた原稿をすらすらとそらんじていたが、三年生はトップバッターと二番手がそろってかなり苦しいスピーチになっていて、しかもふたりともテーマスピーチではかなり高得点をとっていた学生だったので、え? 嘘でしょ? こんな簡単なテーマすら事前に予想して準備していなかったの? と驚いた(受賞を本気で狙っているだろう大学の学生がまさか(…)くんや(…)くんのように即興スピーチ用の原稿をひとつも暗記していなかったとは思えない)。(…)さんはうまくやった。発音は例によって絶望的だったが、一度も詰まることなく最後までやりきることができた。手応えがあったのか、われわれの席にもどってくるなりガッツポーズをとった。こちらのとなりに着席後、スピーチを終えた彼女にたいして審査員のひとりがうんうんとうなずいてみせたと満面の笑みでいうので、うまくいけばぎりぎり三等賞にすべりこむことができるかもしれないとなった。その後も制限時間をオーバーする学生が二人か三人続き、あれ? マジで三等賞いけるんじゃない? と思ったが、やはり発音の悪さが響いたのだろう、即興スピーチのスコアはおもいのほかのびず、総合順位は14位に終わった。(…)さん、この結果にはかなりショックを受けているようすだった。こんなに低い点数はおかしいと苦しげな表情で主張したが、こちらとしてはしかし、でもきみの発音はなぁ……というのがあるのは事実。彼女はたぶんじぶんの発音がそれほど悪いとは思っていないのだろう。良くも悪くもやっぱりポジティヴすぎるのだ。うちの学生を指導するときはやっぱりある程度はスパルタ式というか厳しくダメ出ししたほうがいいのかもしれない、そうしないと根がポジティヴで楽観的——といえば聞こえはいいが、実際は人生を舐めているというか、自己を過大評価し他者を過小評価している——であるから簡単につけあがってしまうのかもしれない。
  • 二年生の即興スピーチ。テーマは「ボランティア」。今年の即興スピーチのテーマは結局ぜんぶ簡単だった。(…)くんは意味不明のくじ運を発揮し、今回も一番手。しかしスピーチは完全に失敗に終わった。練習のときも即興スピーチはわりとボロボロであることが多かったが、それ以上にボロボロだった。終えてわれわれの席にもどってくるなり、失敗したと漏らして沈鬱な表情を浮かべた。なんだったらちょっと泣いていたかもしれない。
  • (…)くんのスコアが出ないうちに(…)先生がもう帰りましょうかといった。結果を見届けるまでもなく(…)くんの三位受賞もやはりありえないだろうと判断した(…)老师が微信のグループでそう提案しているとのことだった。そんなのアリなんだと驚きつつ、学生らの意見をたずねてみると、かまわないという返事があったので、それで一同そろって会場をあとにすることに。
  • 昨日連絡先を交換した(…)先生以外の日本人教師とはやりとりしなかった。まだ午前中だったと思うが、われわれの後ろのほうで(…)先生と他の日本人教師が日本語であいさつを交わしているのを見つけた(…)くんが、先生あの外教は夫婦ですか? とわざわざまた彼らに聞こえかねない声の大きさで口にする一幕はあったが、正直めんどうくさかったので聞こえないふりをした。(…)くんはたぶんこちらがほかの日本人と会話しているところを見たいのだろうが、こちらとしては放っておいてくれというほかない。必要があれば自分から声をかけてやりとりするのだから、いちいちおれを仕向けようとするなと内心ちょっとイライラした。
  • 外に出る。車に乗り込む前に、学生らとそろって医学部の建物に入り、便所で小便をした。(…)さんはついでに私服に着替えた。(…)くんが三人の中ではもっとも凹んでいるようすだったので(あの反応を見るかぎり、どうやら本当に一等賞をとる気でいたらしい)、この経験を次に生かしなさいと死に際の烈海王みたいな助言をした。(…)くんは実際うちの大学の日本語学科ではトップクラスの日本語能力を有していると思うが、本人がそうした状況にあぐらを掻いているところは正直大いにある(そうであるからこそちょうど一年前、一年生の授業が簡単すぎるからといって授業中になめたまねばかりをするなと戒めたのだった)。はっきりいって、井の中の蛙なのだ。考えようによっては高校一年生から勉強していてこの程度の能力しかないのかというアレであるにもかかわらず本人はけっこう自信満々というか、自信の度がすぎて傲慢なところすらあり(そういう意味では中学生のころから日本語を勉強している(…)さんとはタイプが違う、彼女は決して傲慢ではない)、だからこそ必死で練習しているわけでもないのに一等賞を狙っていたわけであるし、というか本人はかなり高い確率で受賞できるだろうと考えていたのではないか? それが実際は三等賞すら入賞ならずの結果になったわけで、鼻っ柱が根本からバキバキに複雑骨折、金玉が二つとも一握の砂と化すほど強く握りつぶされるほどの痛々しい去勢、下手すればトラウマになりかねないようなショックを受けているわけであったが、ライバル不在の環境ではだかの王様になっていた自分自身を客観的にとらえる良い機会になったこと、これは間違いない。これが三年生や四年生のできごとであればいろいろ手遅れかもしれないが、二年生の現時点でそういうじぶんの立ち位置を知ることができたのは、これから先日本の大学院に進学することを考えている彼にとっては良い経験になったはず——というような話を、彼を傷つける表現は避けつつもしかし諭すべきところは諭すようにして語ると、抽象的な話に対する理解度の高い(…)くんもうんうんと同意し、似たような言葉で(…)くんをはげました。来月にはN1がひかえているのだし、まずはそれで150点以上取るのを目標にあらためてがんばってみなさいと高いハードルを提案。それで本人もちょっとその気になったようだった。
  • (…)さんは練習を通じてほかのふたりと仲良しになれたのがいちばんうれしいといった。これからふたりと会う機会もあまりないのかと考えるとちょっとさびしい、と。先生といっしょにまたごはんに行きたいというので、いつでもいいよと受けた。(…)さんが手料理をふるまってくれるという例の食事会について、そういうかたちではなくスピーチのメンバーと先生の四人だけでいっしょにごはんに行きたいというので、じゃあぼくら四人だけで火鍋を食べにいこうと受けた。
  • それで車に乗りこんだのち、(…)さんに微信。コンテストの結果がよくなかったしみんな食事会という気分ではなくなっていると理由をつけて例の計画をキャンセル。とはいえ、代わりのメンバーを誘って食事会をしたいのであれば、それでもかまわないとフォローする。(…)さんからもコンテストの結果を問う微信が届いていたので、これこれこういう具合であったと返信。
  • それから寝た。ほかの学生も先生もみんなぐっすり寝ていたと思う。一時間ほど走った先にあるサービスエリアで休憩。夕飯。(…)先生と(…)老师は店で麺を食うといったが、途中でうんこがしたくなったらたまらないこちらは学生らといっしょにハンバーガーとからあげだけで軽くすませることに。売店で夜食のカップ麺とアイスコーヒーもついでに買う。アイスコーヒーは(…)先生のおごり。飲み物とお菓子を自由に買っていいという彼の言葉にあまえた(…)くんが白酒を買ったので、「やけ酒」という言葉を教えると、みんな笑った。(…)くんは先ほど車で眠っている最中、スピーチコンテストに関する夢を見たと言った。悪夢だったという。酒を飲んで忘れなさいとなぐさめる。
  • その後の移動中は居眠りしたり、イヤホンを耳にぶっさして大音量で音楽を流したり(小袋成彬の『Piercing』をひさしぶりにききかえしたが、やっぱりめちゃくちゃすばらしいアルバムだ、というかアルバムという形式をこれほどいかしている作品をほかに知らない、このアルバムはアルバムとしてあたまから尻まで通して聞くことしかできない、楽曲単位で取り出して聞く気には全然なれない)、あるいは窓ガラス越しに高速道路の夜景をながめたりした(「実弾(仮)」のクライマックスで孝奈がながめる景色はきっとこんなふうなんだろうなと思いながらスマホでたくさん執筆用のメモをとった)。
  • 大学に到着したのは学生の門限ぎりぎりの23時前。外国語学院にケッタを停めてあるので老校区に寮がある(…)くんといっしょに南門前でおろしてもらう。門限まで残り数分であるのに(…)くんがいっこうに急がないので、走らなくてもだいじょうぶなのかとたずねると、寮に忍び込むことのできる抜け道があるのだという返事。だから彼らの寮に住んでいる男子学生はしょっちゅう夜中に抜け出してバーに遊びにいくとのこと。知らんかった。
  • (…)くんと別れてケッタを回収。いったん新校区に入ったところで、セブンイレブンの明かりがついていることに気づき、明日の朝食を買うべくそちらにひきかえす。メロンパンを購入。寮に無事到着したら報告してほしいとグループチャット上で(…)くんがいうので、いまセブンイレブン! と返信。そのまま(…)さんのいる女子寮の前、(…)くんのいる男子寮の前を迂回して通り(なんとなくそういう気分、ゲームのエンディングやドラマの最終回みたいな気分になったのだ)、寮に到着。コンテストの終わりを待たずに帰路についてもこの時間だったのだから、仮にコンテストが終わるのを待ってその後の食事会にも参加したうえで帰路についていたら、帰宅は深夜2時か3時になっていたわけで、その場合門限のある学生らはどうなっていたのだろう?
  • 帰宅後、シャワー。夜食のラーメンは面倒なので食さず、代わりにトーストを一枚だけ食ってから、ベッドに移動。終わった! 今学期の山場をとうとう、とうとうとうとう、乗り越えた!