20130203

世界は分解不能である。一塊をなしているのだ。世界に理由があるとすれば、目的性が、起源があるとすれば、それらは現在の時に混じり合っているのだ。それらは、われわれにとって産物、仮設公準、帰結であると思われるものと一体をなしているのだ。原因と結果は同一物である。純粋な現象はその進展と同時に静態を、そしてその特異性と同時に帰属を含んでいるのだ。
ル・クレジオ豊崎光一・訳『物質的恍惚』)

書くこと、もしそれが何かの役に立つとしたら、こういうことにであるにちがいない――証言することに。自分の思い出を刻みこんでおくことに、そうっと、そんなふりは見せずに、自分の卵を、やがて醗酵してゆくだろう卵を一腹生み落とすことに。説明することにではない、なぜなら説明すべきものなんかたぶん何もないからであり、そうではなくて、平行して展開することに役立つのだ。作家は寓話を作る人である。彼の世界は現実の幻覚からではなしに、フィクションの現実から生まれる。
ル・クレジオ豊崎光一・訳『物質的恍惚』)



7時前起床。食うもの食ってあわてて出発。8時から12時間の奴隷労働。睡眠も3時間を切るとさすがにつらいかと思ったが、なんとかなるものだ。午前中と午後とそれぞれ一度ずつ椅子に腰掛けながらの仮眠をはさみはしたが。今日はパンの耳を二つと、賞味期限の切れた和食セット用の総菜を食わせていただいた。出勤しさえすればその日いちにちは食いっぱぐれることがない。あとは豆も食った。今日は節分だ。ずっと昨日が節分だと思っていたが、今日である。3月3日がひな祭り、5月5日がこどもの日であるのだから、覚えやすいように2月2日を節分の日としてしまえばいいのに。4月4日はおかまの日だときのう(…)さんが言っていたのだが、あまり品のよろしくない冗談のたぐいだと思っていたところ、正式に、トランスジェンダーの日として設定されているようである(と、こう書きながら「正式に」という表現がはらみもつところの、マイノリティーに抑圧する権威の響きが気にくわない)。もののサイトによると《1999年2月に性同一性障害者の自助グループ・TSとTGを支える人々の会が制定。「男と女」だけではとらえきれない性の多様性について、広く社会的な理解を深める日。「おかまの日」と言われていた日をそのまま「トランスジェンダーの日」としたことにより、「おかま=トランスジェンダー」という誤った認識がなされる恐れがあることから、当事者の間で日附を変更もしくは廃止すべきという声が上がっている》とある。なるほど。
とはいえ今日は節分である。10秒後に豆をたずさえておもてに出てきてくれと(…)さんがじぶんと(…)さんと(…)さんに告げて立ち去ったので、なにをたくらんでいることやらと思いながらそのとおりに従いおもてに出る扉を開けてみたところ、客室に置き去りにされていた使用済みのストッキングをかぶった状態でわしゃわしゃわしゃわしゃ手足を奇怪に動かしながら「はよ豆ぶつけて!ひと通らんうちに、はよ!はよ豆ぶつけて!」と叫んでいたので、「鬼はー外!」と言いながらみんなで豆を投げつけた。「福は内」を言うのをみんな忘れていたが、掃除が面倒だからまあよろしい。(…)さんだけ豆をアンダースローで投げてくれなかったと後になって(…)さんが呟いていたのがいちばん笑えた。
そういうにぎやかなひとときから溯ること一時間か二時間前、(…)さんが別れた彼女について愚痴っているうちにたいそうエスカレートしてくるという一幕もあった。それをきっかけにして何やら人生観めいたものが一同の間で取り交わされもしたのだったが、そこで披露されたすべてがあまりに浅はかなように思われて、ものすごく落ち着かなかった。その論法でいくとたとえばこうした差別の構造にいきつきはしないか、だとか、その考え方が前提としているのは封建主義的な価値観にほかならないのではないか、だとか、その言い分はいかにも幼児的な同調圧力ではないか、だとか、そういう反論がこちらにその気がなくとも簡単に導き出されてしまうほど目につきやすい隙だらけの意見が、自らを疑うことをしらぬドヤ顔で表明され続けるひとときが小一時間ほど持続したその現場において、しかしそのひとつひとつを指摘したところでどうなるわけでもあるまいという諦念と、彼らの腑に落ちる言葉の並べ方でこれらの反論の論旨を組み立てるだけの力が果たしてじぶんにはあるのだろうかいやないという反語めいた無力感にしくしくとさいなまれ、もはや口をつぐむほかとるべき手段がなにひとつ見つからなかったその事実がいま思い返してみてももどかしい。こちらがどれだけ懇切丁寧に言葉を並べてみてもそこで並べられた言葉を文字通りに丸ごと受け入れるのではなく手元の既知にあてはめて(すなわち、彼らの慣れ親しんだ物語の類型に落とし込んで)理解しようと相手がするかぎりなにひとつ伝わることはないしむしろたちの悪い誤解が浸透するばかりで、そうした経験を重ねていくにつれて下手に反論や弁明をもって結ばれた誤解を解きほぐそうとするくらいならいっそのことすっぱり当の相手と距離を置くなり関係を断ち切るなりしたほうが手っ取り早いと感じてしまうと、これは昨夜(…)相手に喫茶店で語った事柄とほとんど同一かもしれない。
その(…)に渡したいものがあったので連絡をとるとそれじゃあ今晩とりにいくと連絡があり、その流れで結局、二日連続で遊ぶことになったが、出勤日は遊びの日と決めてあるので、べつだん構いやしない。外食にはきのう出かけたので、今日はじぶんの部屋での宴となった。踊った。そして食った。スーファミボンバーマンをしようとしたらコントラーラーのスタートボタンがまったくきかずにオープング画面から先に進むことができなかったその事実だけで死ぬほど笑った。過食のせいで夜中少し吐いたような覚えがあるのだが、部屋にその痕跡は見つからない。また何かしら書き残している。

どれだけ魚がいるなら
那覇がゆえに気の狂うもおかしく
はっとして道化になるおれの
その手が捕まえてほしいのだ

青い愛の一人称で(22:21)



数少ない奇跡をかつあつめて
貢ぎ物には自信がある
弱く儚いものたちの恍惚が
波寄せてきみの左の頬を打つ
とこしえも、わざわいに…(22:22)



今日がずっと
チャーハンを食うのでやめだ



よそよりもめずらしい
物見遊山だよ
きみの結構もまた地球に帰る
わたしたちは
代々と
いないひと
ひとつの声と否
召使いの予定調和に
口づけを



そっくりさんの条件を見つける
優雅なひとときの空を
あの巨人がわしづかみにする



小さな者たちが
ぼくを出し抜けにする
このかろうじて達成された子宮の迷路で
花は開かず実も落ちる
すべてきみのせい
事実が玉になってすべる
予定調和のシャンパンファイト
切り絵模様の数珠つなぎ