20130217

「ここで何してる?」
「何も」と彼は言い、メキシコの巡査部長に似た男に微笑みかけると、男は彼の手から手綱を奪い取った。「何も。地球が動くのを見ているんだ。ちょっと待っていれば自分の家が通りかかるから、そしたらなかに入ろうと思って」
マルカム・ラウリー斎藤兆史・監訳/渡辺暁・山崎暁子・共訳『火山の下』)



5時起床。吐き気。二度寝。5時半起床。作文。「偶景」ひとつ追加。8時間から12時間の奴隷労働。異常な食欲。ウォルト・ホイットマン『草の葉』(上)読了。《さながら仲間を伴うように、おのれ自身の多様な位相を伴いながら旅ゆく者たち、/現実とならずに潜んでいた幼い日々からようやく外へ踏み出す者たち、》あるいは《出かけよう、かつて始まりがなかったように今は終わりのないそのものに向って、/(…)/どちらを向いても見えるのはすべて辿りつき離れていけるものばかりとなるために、/たといどんなにかなたでも心に浮かぶ時間はすべて辿りつき離れていけるものばかりとなるために》あたり「邪道」のエピグラフに使えそうな気がする。エピグラフよりもむしろ近接した記述のそばに括弧でくくって参考文献的に挿入してみる(権威による裏付け!)とかしたほうが良いのかもしれないけど。
帰宅後バスにて先斗町にあるとあるバーにて(…)さんと待ち合わせ。京都に住みついて8年だか9年だかになるけれども先斗町に来るのは初めてだ。それをいえば祇園木屋町も数える程度しかおとずれたことはないけれど。バーはその界隈ではけっこう有名なお店らしかった。店員さん常連さんみんな一癖も二癖もありそうなひとたちばかりでだれひとり真っ白なひとなんていないように見える。クソうまいガトーショコラのお裾分け。(…)さんの壮大な打ち明け話。とある人物の伝記を書いてくれというほのめかし。無名の個人が世界史のアクターとして任命される一瞬の偶然。ほら話とばかりはいえない数々の証拠と噛み合う辻褄。ディック。リンチ。気づけば相対的なパースペクティブのかなわぬ事象の渦巻きにのみこまれてしまっている我が身。認識の不具合。狂気とはおそらくなにひとつ見抜くことのできぬ「場の力」に支配された理性のことをいう。
日付をまわったころに祇園のラウンジへ移動。(…)さんと合流。(…)さんの秘密基地にてしたたかに酔っぱらう。しらふの出来事も次々と遡及的に書き換えられていく。なにからなにまでが、どこからどこまでが、いつからいつまでが、境界線がやぶれて事象の大水となる。すべてが疑わしくなり、同時にまた真実味をおびる。この日いちにちが朱入れされる。事実の底が抜けて夢になる。過去への干渉により未来のじぶんの行方が狂う。
帰宅したのはおそらく3時かそこら。あまりに遅い夕食をコンビニで買って食ってあやしくなって踊るまもなく眠りに着いて。