20130609

再び, クレーの「歌手のホール」の例にもどってみましょう. クレーにあるのは, じつは, 閉じた構造とはちがうかたちの思考の実践なのです. 画家が「非分割的な(=個的な)線」と呼ぶかたちの固有な布置の差異線にしたがって, この図では, つぎつぎに新たな分節のシステムが現れ, 差異線を導いてゆく. ここでは, 複数の分節のシステムが共存しながら, しかし, ひとつのトータルなシステムをつくることは決してなく, つねに局所的な反復であり続けながら, そのつど固有な布置を描き出してゆく. そのようにして, かたちの差異と反復による構造変換の無限のヴァリエーションが繰り広げられてゆくのです.
このような局所的な差異化と反復の運動は「リズム」とクレーによって名づけられています. リズムは, ここでは, 同一なものの規則的な反復のことではありません. リズムの語源である「リュトモス」は, もともとは, 「かたちの形成運動」という意味ですが(クレーならば「造形運動」と言ったでしょう), そのような語源的な意味で, かたちとリズムの問題は考えられるべきなのです. リズムはつねに局所的な反復のシステムを作り出してゆきます. そして, その局所的な分節のシステムを通して, 「かたち」が差異の出来事として, そのつど単独な布置を描き出し変異してゆく. クレーにおいては, 構造は, たえず, 複数性, 断片性へと開かれてゆくのです.
 このようなかたちの運動, それが分節する関係性の局所的で複数的な展開によって, 私たちの意味の出来事は, つねに新たな開放系へと導かれてゆくことができる. 記号現象をそのようなリズムにおいて思考すること, それこそが, 構造を考え直すためのひとつの手がかりを与えてくれるかもしれないのです.
小林康夫・船曵建夫・編『知の論理』より石田英敬「構造とリズム ソシュールvs.クレー」)



5時起床。ブログ書く。英語の調べもの。最近朝方に背中がやたらとかゆくて目の覚めることがときおりある。鏡で見てみても別段何かしら腫れのあるわけでもなし発疹の出ているでもなし、調べてみるにこれどうも皮膚の乾燥が原因らしい。
8時より12時間の奴隷労働。(…)さんが午前中ややキレ気味に(…)さんを辞めさせるよう(…)さんに訴えはじめたのでなにがあったのかと驚いた。(…)さん自身もだしぬけの請願にびっくりしたものらしく、(…)さんが上がったあと、(…)さんとじぶんと三人でだらだらと長話をしている際に不意にあれはどういうことだったんだと(…)さんにたずね、するとあれは(…)さんの悪いところだ、あれはただのイライラだ、気分の問題だという付き合いの長い(…)さんの指摘があって、そういえばたしかに(…)さんは風邪でのどをいためているせいで煙草が吸えずイライラしているようすであったし、現にその後、客室に置き忘れられていた煙草を一本吸い出したところでうってかわってご機嫌に転じたというかいつもの(…)さんのノリになったように見えたので、なるほど、と思った。
(…)さんが配属される前にいた(…)さんという女性がたいそうえげつなかったという話は(…)さんのみならず(…)さん(…)さんからもことあるごとに聞いてきたのだけれど、今日は、気に入らない従業員の鞄や靴を(…)さんという女性(このひとが辞めたポジションにいまのじぶんはおさまっている)といっしょになって嬉々としながら包丁で裂きまくっていたという最高にえげつない話を聞いて、胸くそが悪くなった。(…)さんはこの(…)さんのことが大嫌いで、あんなにも恥知らずなやつはおらん、飲み会の席でいきなり社長相手にじぶんの娘の就職先を斡旋してもらおうとするなどととにかく図々しい、とこのときも口にしていて、そして実際、ここに配属されてから約一年、(…)さんはひたすら(…)さんの残した負の遺産の処理にかかずらっているといっても過言ではないほど苦労しているわけなのだけれど、その(…)さん自身は(…)さんのことを理想の男だとたびたび口にしていたらしく、でもねー1個だけ欠点があるのよねーあのひとちょっとこわい方面につながりがあるでしょーそこがねーと口にしていたという話を(…)さんがすると、あのクソ女のほうがよっぽどこわいわとだれもが納得のいく感想を(…)さんはもらしていてちょっと笑った。クソ女がいまどこでなにをしているのかはだれも知らない。
あと(…)さんでも(…)さんでもないまた別の女性がかつてこの職場にいて、仮に女性1とするけれど、その女性1が飲み会だかの帰りに酔っぱらって(…)さんの手を握った女性2を相手にぶちぎれて、ちょうど四条河原町の交差点を渡っているときだったと(…)さんはいうのだけれど、そこで女性1が女性2を相手に殴る蹴るの暴行を加えまくったとかいう話も聞いた。ほんとうにこの職場の関係者はひとりのこさず頭がおかしい。
仕事あがりの(…)さんとひさしぶりに一時間ほどがっつり音楽の話をした。ヒップホップの名盤をいろいろと教えてもらった。ひとまず漢とmscはチェックしておかなければと思った。(…)さんの後輩にじぶんと音楽の趣味がそっくりな人物がいるらしく、これたぶん(…)さんと初めて会ったときからずっと指摘されつづけているのだけれど音楽だけでなしに芸術全般に造詣の深いひとみたいで、もう(…)くんとか会った瞬間からぜったい親友になれるからと(…)さんはこのひとの話になるといつも力をこめてそう主張する。(…)さんがフリージャズを聴くようになったのもそのひとの影響らしく、ほかにも現代音楽やノイズを愛好するひとらしく、なるほどたしかにじぶんと関心が近いのかもしれない。このあいだひさしぶりにセシル・テイラーを聴いたのだけれどやっぱりすごくカッコよかったといったら(…)さんもテイラー大好きだといっていて、阿部薫とか山下洋輔とか坂田明とかアルバート・アイラーとかオーネット・コールマンとか「アガパン」あたりのマイルスとか後期コルトレーンとか豊かな固有名詞をじゃんじゃん費やし、そこからサイケデリックな方面の話になってthe Byrdsとかフラワートラベリングバンドとか裸のラリーズとかwashed outとかオーガスタス・パブロとかジャー・シャカとかマッドプロフェッサーとかフェラ・クティの話題も出た。ほんまにジャンル問わず手当たり次第聴きまくっとるんやねといわれたので、でもオーセンティックなロックとかぜんぜん聴いてなかったりしますよ、ジャズにしたってそもそもの話スタンダードとかぜんぜん聴いてないしフリー以外にしたところで結局キース・ジャレットとかエリック・ドルフィーとかどちらかというとそっち方面なひとばかりだし変わり種であとはファラオ・サンダースとか、もちろんバードとかディジー・ガレスピーとかモンクとかビル・エヴァンスとかアート・テイタムあたりはいちおう聴いているし定期的に聴き返しては良いなぁと思ったりするけれどというと、オーセンティックなロックっていうとじゃあストーンズとかというので、ストーンズはわりと最近(…)さんにアルバムをいちまい借りて聴いたくらいでほかは全然知らないしなんか興味が出ない、ドアーズなんかもそう、毛色は異なるけれどもクイーンもツェッペリンもまともに聴いたことがない、ビーチボーイズとかthe whoとかはまだ聴きますけれどというと、(…)さんは逆にthe whoが駄目みたいで、あとビートルズは『Revolver』とかはけっこう好きでわりと最近なんかでもよく聴いていたというと、あのころのビートルズに対抗するかたちでストーンズサイケデリック寄りな楽曲を制作していてそれがカッコイイのだと(…)さんはいった(しかし肝心のアルバム名はたずねそこねてしまった)。
仕事を終えて帰宅後、荷物だけ置いてすぐさま今出川まで出て、バスに乗って四条大宮へ。(…)さんと合流。今日は以前より(…)さんの話の中でたびたび登場していた(…)さんとご対面の日。(…)さんは一時期ハーブのやりすぎで完全に廃人となっていたらしく(その当時の座右の銘は「オーバードーズ」だったらしい)わりとけっこうな期間、閉鎖病棟に監禁されていたという半端ない経歴の持ち主である((…)さんの地元の友人は(…)さんといい(…)さんといいだいたいみんな狂っている)。いつシャバにもどってきたのだったか忘れてしまったけれどもとにかくいまは晴れて社会復帰というアレで、といってもわりと長いあいだ無職期間が続いていたみたいだけれど、それがようやく仕事が決まった、明日は初出勤である、そういう流れからのお祝いなのか何なのかしらないけれどもなぜかこのタイミングでじぶんとの初顔合わせというということにあいなったわけで、当初は三人で会う予定だったのだけれど(…)さんも参加するという流れになったらしく、ゆえに四条大宮ロッテリアの前で(…)さんの車がやって来るまで(…)さんと立ち話しながら時間をつぶした。(…)さんと会うのは(…)さんの誕生日会以来で、なんだかんだで五回以上は会っているはずであるしお互いの部屋にさえ出入りしているのにいまだに互いのことはほとんど知らないという謎の関係性で、しかもその関係性が妙に心地よかったりする。いぜん、(…)さんのいない場でぼくらふたりがたまたま町ですれちがうことがあったらどうしますか、とたずねてみたところ、いやいやそれはもう完全シカトでいこう、声かけるとかなしやで、と返されて大笑いした一幕もあった。(…)さんは裸の大将にすこし似ていた。住居のアパートが独特のつくりで、照明のないまっくらな階段をカンカンカンと音をたててのぼっていった二階に、むきだしの鉄骨でできた廊下というか回廊というか通路がのびており、回廊という語を用いたのは中央にある吹き抜けの空間をぐるりととりまくかたちで通路がのびていたからなのだけれどその中央のふきぬけに落下しないようにはりめぐらされている柵やら手すりやらに住人らの洗濯物が干してあったりして、殺風景で無骨で無機質で人工的な肉も皮もない骨だけのやたらと風通しのよい殺風景な空間に、ほとんど場違いの感をともない点在する洗濯物の差し色がとても印象的で、実に黒沢清的な空間だった。せまい一室につどった四人に共通するのがヒップホップだったからというわけでもないのだろうけれどわりかしずっとみんなでヒップホップを聴きながらのチルアウトで、途中で各自がそれぞれ好きな楽曲をリクエストするみたいな流れになった、のだったかどうかはあまりよく覚えていないのだけれどとにかくリゲティの百台のメトロノームのためのなんとかをじぶんは流したのだけれどたぶんあんまり受けはよくなかった。あとは(…)さんの用意してくれたコーヒーがすごくまずいという話や、(…)さんが明日から出勤することになるのは風俗店らしくてそこでひとまず雑用係からはじめることになるらしいのだけれどやたらとおれは風俗王になるのだと連呼していて、面接時に志望動機をたずねられたときだったかにも、ここには夢をかなえるためにきました、と言い、担当者から夢の内容をたずねられると、大金持ちになることです、ときっぱり言いきったとかいう話で、それで採用されるってどんな店やねんという(…)さんのツッコミに死ぬほどげらげら笑ったりした。energy drink without liquidのせいで勃起がおさまらなかった。なにもしていないにもかかわらず絶頂感がせまってきて、気をまぎらわすのに苦労した。
0時過ぎだったかに、ねむいねむいと(…)さんが言い出し、明日は初出勤であることだしあまり迷惑をかけるわけにもいくまいということで解散の運びとなった。(…)さんの車でうちの近所まで送ってもらい、そこから路駐してあったケッタに乗り、フレスコで半額品だけ買って帰って食って寝た。