20130626

人は寝なさいと他人から命令される必要はない。疲れなさいと命令される必要もない。おまえは疲れているのだと告げられるのだ。疲れるだろうと告げられていると、それ以上は言われなくても、そのあとで疲れが出てくるのである。私たちは自分で自分を寝かしつける。眠るのはそれからであり、それより前のことではない。
R・D・レイン/中村保男・訳『レイン わが半生』)



12時半起床。腐れ大寝坊。保育園からの幼なじみの(…)の実家に誕生日プレゼントのつもりか何か、花束のようなものを抱えておとずれたところ、二年前に死んだのだと(…)の母親から玄関先で告げられる夢を見た。実家にもどると母親からあんたそんなこともしらへんだんかんと驚かれるという展開もあった気がする。実家の和室と職場とが半ば融合しているような空間にいると、客室から電話がかかってきて、出ると、理不尽なクレームで、おもわず怒鳴りつけるというくだりもたぶんあった。その現場には(…)もいたような気がするが、細部はあやしくおぼろげである。
夜行バスのチェック&予約に小一時間の悪戦苦闘。とりあえず東京→京都(復路)の便の予約だけはすませた。一ヶ月のタイ旅行のあとに来日するのだということを考えるとやはり最低グレードのものを用意するわけにはいかないというか、女性であるし、それだからちゃんとトイレもついていて足もゆったり伸ばすことのできる、それ相応のグレードのものを予約したのだけれど、それ相応といったところでこちらの収入に比較してのそれ相応なので、一般的にいえば、たぶん下位クラスのものなんではないかなと思わなくもない。ただタイやカンボジアですし詰めのミニバンに乗って国境越えしたりしばしば山賊に強襲されるとかいう夜行バスに乗ったことを思えば、ぜんぜんすばらしい環境だろうと思う。東京での出発地がたしか新宿と渋谷とあと何カ所かあって、ぜんぶ聞いたことのある地名だけれどさっぱりわからないというアレだったので、とりあえず新宿かなみたいなアレで適当にセレクトしてしまったというか、そもそも火曜日の夜に空港で彼女を出迎えてその晩はもう寝るだけだとしても、水曜日の丸一日と木曜日の夜行バスが出発するまでの日中の時間帯をどこでいかにして過ごすべきか、まったくもって決まっていないというか、(…)うんぬんの前にまずこのじぶんが中学の修学旅行以来となる人生で二度目の東京なわけで、どうしよう、ベタにスカイツリーとか浅草とか行っときゃいいんだろうか。それとも秋葉原? ぜんぜんわからん。スマホでもなければパケ放題みたいなアレでもない月額2000円未満の携帯電話貧民のために現場でググってサーチみたいなこともできないので、あらかじめおとずれるべきスポットについてある程度の目星をつけておく必要があるというか、まあそのあたりは(…)を迎えにいく前までの自由気ままな時間を利用して(…)兄弟とひさしぶりにコーヒー飲んだり飯食ったりしながらだらだらおしゃべりするその過程でアドバイスしてもらえればそれでいいかなと思わないでもないし、というかそもそももう少し時間にゆとりのある東京滞在だったら大学時代の同級生とも会えただろうし、なによりいい加減(…)さんや(…)さんと直接お会いしてハイコンテクストなおしゃべりを死ぬほど楽しみたかったというのもあって、そういう諸々を考えていると、(…)の出国は大阪よりも東京のほうがずっと良かったんではないかと思わないでもない。
15時半より発音練習&音読にはげんだのち、診療受付終了間際の19時ぎりぎりに整形外科にすべりこむ。月に一度のペースで経過観察の要ありなのだ。3分診療をすませて湿布だけ処方してもらい、それから生鮮館に立ち寄り買い物をすませてから帰宅。ちゃちゃっと筋トレをこなしたのち夕食というわけで、今日はじつにひさびさに鉄鍋をふるって炒め物を作った。いまのアパートに越してからというもの、火種がカセットコンロしかないというこの貧困なインフラのせいで、強い火力を要する炒め物の類を作る気にはなかなかなれずにいたのだが、今日は冷蔵庫の中身に残存している半端な野菜どもとの兼ね合いもあり、ひさびさに茄子と鶏肉をメインにした味噌炒めを作ったのだったが、これまで腐るほど作ってきたその炒め物に要する調味料の配分が完全に頭の中から抜けてしまっていた結果、なんとも中途半端な味付けになってしまって、これぞ経済的なアレからしかたなく自炊をしつづけている男の飯だという感じがする。何度もいうし何度も書くが、べつだん料理をするのは好きじゃあない。というか、しないですむのであれば、したくない。錠剤や点滴で栄養摂取をすますことができるのであればそれでかまわない、と、そう考えていた一時期もあったが、いまはそうも思わない。食の官能にはやはり捨て難いものがある。甘いものを食ってるときがいちばん幸せだというアレもなくはない。チョコレートを食っているときの人間の脳波がドラッグを摂取しているときのそれと瓜二つであるという記事を以前ネットで目にした覚えがある。ひとかけらのチョコレート/持って出かけよう今日のデート/だってあなたは大切なひと。
おもての水場にカセットコンロを運び出してそこで炒め物をしていると、突然の心臓発作に息のつまったひとがしぼりだす断末魔みたいなのが聞こえてきて、その声色があきらかに大家さんのものであったからおもわずぎょっとして、そのときたまたまそばにいた(…)さんになんすかいまのとたずねたのだったが、敷地内にしのびこんだ野良猫を追い払う大家さんの威嚇だったことが判明し、ちょっとツボに入った。たしかにここ数日、ほとんど毎晩のように敷地内で野良猫を見かけるのだけれど、どれもこれもいちおうは警戒心旺盛ではあるもののしかしそれにしてはこちらのわりとすぐかたわらを足早に通りすぎていったりと、ある程度ひとに慣れているような節のないこともなく、ひょっとして住人の誰かが餌付けでもしているんではないかと思われないこともないのだけれど、その猫たちが大家さんの部屋に侵入して飯を横取りしていくことがたびたびあると、これは(…)さんから聞いた話なのだけれど、それゆえに大家さんは野良猫どもにたいしてたいそうお冠で、敷地内で見かけることがあれば石を投げるようにと(…)さんに命じたことすらあるらしい。
夕食をとっている途中だったかに(…)くんから連絡があり、来月22日の月曜日であれば(…)くんも(…)くんもそろって空きであるとのことで、それじゃあ21日の日曜日バイトを終えたその足で日曜料金でいくぶん割高な(金曜日や土曜日が割高なのは納得いくが、なぜ日曜日まで割高になるのか?)夜行バスに乗って東京に向かうことにしようと方針が決まった。さらには部屋にも泊めてくれるという話で、ゆえに22日の夜は(…)くんの防音室で大好きな音源をガンガン聴く予定である。とりあえず『マタイ受難曲』はマストであるな。
音読したり東京行きのバスのチケットをブッキングしたりしたのち入浴。1時を前にして気分転換に外で作業することにして外出し、ネコドナルド金閣寺店は予想通りの混雑であったために店の前を通り過ぎることにしてそのままハーバーカフェへむかった。理想の家庭についてきゃっきゃっと語り合う女子大生四人組を横目にひげ面ひとりでパフェを食べながらぶつくさと明け方まで延々と瞬間英作文。帰路は薬物市場にたちよりティッシュだの歯磨き粉だの石けんだのをまとめて購入し、そのついでに就寝前にこんなもの食うべきじゃないという心の声に負けて給料だって出たばかりじゃないかというアレに背をおされるかたちでパスタまで買ってしまって、帰宅して、そいて食って、さていよいよ事の次第も大詰めだ、あとは大家さんの説得だけだ、というわけで来日まで一ヶ月を切っていることであるし、そろそろ菓子折り片手に女と猫が嫌いな彼女のもとを訪れるべきときではないかと考えていたらすこし緊張してきた。仮にどうしても無理だという突っぱねられたら、ほんならもうこんなアパート出たるわとたやすく逆上しそうなじぶんがちょっとこわい。きのうのきょうでアレだが。7時を前にして寝た。