20130701

(…)ユダヤ人の友人たちの紹介で私はマルティン・ブーバーグラスゴウユダヤ教会で五十名ほどの聴衆に対して行なった講義に出席した。ユダヤ人ではない出席者は私だけだった。
 ブーバーは背が低く、ぼさぼさの髪をして長い白髯を顎に生やしていた。さしづめ旧約聖書預言者の生まれ替りといったところだ。あの夕べの講義の一瞬間を私は今でもはっきり憶えている。ブーバーは講演台の向こう側に立って、人間の条件だとか、神だとか、アブラハムとの契約だとかについて話をしていた、その時、急に、前にあった大きな重い聖書を両手でつかみ、できるだけ高く頭の上に持ちあげてから講演台の上に投げつけるように落し、両腕を一杯に伸ばしたまま、こう絶叫した。「強制収容所でのあの大虐殺が起ってしまった今、この本が何の役に立つと言うのか!」
 ブーバーは、神がユダヤ人に対して行なったことに激憤していたのである。無理もない。
R・D・レイン/中村保男・訳『レイン わが半生』)



7月だぜ!
12時起床。昨夜はガンガンに酩酊した。9時にいちど目覚ましで起床したものの、これは無理ですという按配だったため、二度寝した。(…)さんからいただいたベトナム土産やら(…)からもらった台湾土産やらでいまだ重苦しい胃の腑をけだるく抱えこみながらホットコーヒーだけの朝食をとったのち、なんとなーく、ネットで物件情報などをチェックしてしまう。家賃1万円代のアパートは意外にある。共同キッチン・トイレ・シャワー完備となるとかぎられてはくるものの、それでもないことはない。大家さんがおなじ建物内にさえいなければ、だれを呼び招こうが滞在させようが、すべてどうにでもなってしまうものである。一戸建ても調べる。去年タイとカンボジアの一ヶ月で貯金をすべて使い果たしたのとおなじように、今年の夏もまた貯金を使い果たすつもりでいくのであれば、それ相応の一戸建てに越してしまうという馬鹿げた選択肢も不可能ではない。しかしながら東京行きの夜行バスに乗る日まですでに三週間を切っていることを考えると、引っ越しという選択肢はあまり現実的ではないといえる。もっとも(…)滞在期間中に引っ越すという手もないわけではないが。働き手がひとり増える分、荷造りが楽になるというメリットもある。
15時より発音練習。続けて瞬間英作文にとりかかるつもりが、なぜかYouTube視聴熱に火が点いてしまい、なぜかとは書いたものの一ヶ月後にさしせまった現実の上空にたちこめる不安の暗雲から一時的にでも目をそむけようとする防衛機制というか要するに現実逃避にほかならないわけだが、そういうアレで、19時半まで延々とYouTubeで主に笑ってはいけないシリーズなど観てしまった。最悪だ。
動画視聴の過程でどういう因果であったか、t.A.T.u.の楽曲にぶちあたって、このひとたち中学生か高校生のころにすごく流行った記憶があるのだけれど、いまいくつかの楽曲を聴きなおしてみるとこれがなかなか面白かったりして、シンセサイザーの使い方とかどうしても時代を感じざるをえないというかけっこう小手先で誤摩化しているというか音の隙間をおそれて背景べた塗りしてるような雑さが見え隠れしないこともないのだけれど、メロディラインの展開におっと思わせられるようなところがあったり、なによりヴォーカルがかつての記憶よりずっとこさ良くってびっくりした。CD借りてこようかな。
終業間際の整骨院へすべりこみ。のちジョギング。入浴。そういえば昼間にいちど大家さんが玄関の戸をバンバンやりだして、不吉な報せではないだろうなと思いながら出ると、缶の蓋を開けてほしいという簡単な依頼だったので、なんかやたら本格的というか大袈裟なペンチやらなにやらの工具まで持ってきていたみたいなのだけれど、素手で余裕なミッションだったので軽くこなしてやった。この間いただいた菓子折りは息子がおいしくいただきましたからという報告があり、これはある意味でおまえの買収に乗っかったわけではないぞという宣言ととれないこともないのかもしれないが、なんとなくそういうニュアンスではなかったし、一ヶ月後に控えた(…)の間借りにまつわる小言の類いもなかったので、これひょっとすると大家さんのほうでも覚悟が決まってくれたのかなと思わないでもない。あとは奥の手であるところの親族宣言できっちりだめ押しだけしてみて、そのときの反応次第でこちらも覚悟の舵を切るべきだろう。
(…)にもらった香川土産のうどんで簡単な夕食をとったりウェブ巡回したり真夜中の洗濯などをしているうちに0時。おもてで洗濯物を干していると風呂場のほうからこちらに歩いてくる住人の気配があり、こんばんはと口にすると同時にそのほうを見遣ると全裸の男が洗面器で股間を隠しながら前屈みに歩いてくるところで、完璧な変質者というにふさわしい身なりのその男は無言のまま隣室へと入っていった。そういえばたしかいぜん大家さんがだれだれさんが全裸で部屋から風呂場までの道のりを行き来するとこぼしているのを耳にした記憶があるしそのことをブログに書きつけた記憶もあるのだけれど、まさか事実であったとは。大家さんが女性の間借りを嫌がる理由がすこしわかったような気もする。
0時半より瞬間英作文。朝方は朝方でまた現実逃避のネット巡回。期限のさしせまったときにかぎってだらだら怠けてしまうこの感じ、なんでか懐かしいと思ったらアレだ、締め切りまぎわの度重なる推敲に嫌気が差して丸一日をどうでもいいゲームのプレイ動画の視聴などにささげてしまういつものパターンと同じなのだ。前向きに考えれば、これは小説の執筆と同じくらいの熱意で英語の勉強にとりくむことのできているほかならぬ証左だともいえる。とにかく覚悟が決まるまでの怠慢だ。どの不安要素をひきうけるのか、何にたいしての責任を負うのか、すべてを秤にかけて推し量る地味で根気のあるシミュレーションさえやりとげることができれば結論は出るし、そうとなればあとは持ち前の楽天性をブーストさせるだけである。定まれ方針!固まれ覚悟!