20130913

家出から戻るとすでに時刻は朝6時。(…)の身支度する物音でぼんやりと目の覚める心地がしたところに外に出かけるわと頭上からささやくような声を感じ、部屋から他人の気配の完全に消え去ったところで身を起してみるとすでにその姿はなく、I will go to the city / see you later の付箋がPCに貼りつけられていた。目が冴えてしまったのでbccksにログインして「A」の編集にひたすらいそしんだのだけれど、傍点を打つと右となりの行の字間がずれるという不具合があってこれがどうにもならない。あとはダッシュがつながってくれないという問題もある。製本する際には規定のページ数にあわせなければならないという仕様もまた厄介で、というかこれがいちばんの難点なわけだが、安価な製本を可能にするためのアレであることは重々承知しているとはいえ、編集作業におけるこの自由度の低さにはけっこう悩まされる。腰の痛みがたえがたく途中でデスクの上から畳の上に直置きした発砲スチロールの簡易座卓の上へとPCを動かしたのだがそんな程度でどうにか誤摩化しのきいてしまえる程度の按配のものでもなく痛いものは痛い、というかいつぎっくり腰になるかわからないあの痛みよりは危うさに近い違和感のようなものが腰にわだかまっていて原因ははっきりしており、久米島のゲストハウスで一人乗りのカヌーをひとりでかついで運んだその際にピキッとした痛みが左の腰から尻にかけて走ったあれ以来のものであるのだけれど、よりによって整骨院通いを打ち切ったこのタイミングで何たるさまだと思う。発泡スチロールはきのう実家から届いた救援物資の容れ物でこれはテーブルに使えるという(…)の助言にしたがって捨てずにとっておいたものである(食事はこれまで基本的に畳の上に敷いたチラシや地図や包装袋の上に直置きしてとっていたのだ)。きのうパンクした自転車を修理しに出かけた帰り、タイヤ交換が必要なので結局3500円とかとられてしまってマジ閉口なのだけれどとにかくスーパーで古本市がやっていたのでひさしぶりに冷やかして、その結果、山折哲雄『神秘体験』と廣松渉『哲学入門一歩前』を100円ずつで購入したのだけれど前者を昨日の家出の際に携帯して残りわずかだったものだから腰痛にうめきながら布団に横になって読んだ。そうして後者に手をのばしてまもなく自転車のブレーキのかかるキキー!という甲高い音が聞こえたのでなんとなく寝たふりをして待ち構えていたら案の定(…)が部屋にやってきて、その時点で16時とかそこらだったんじゃないかと思うけれども(…)から連絡はあったのかとたずねる声があり、というのも今日は(…)を誘って、それから隣人の(…)さんとその妹さんやら彼女さんやらとそろって銭湯に行くみたいな計画を(…)が勝手に押し進めていたからでこちらとしてはまったく気乗りしない話であるしそれは(…)も同様で、くわえて昨夜の口論の余韻もおおいにひきずっているこの険悪な空気の中でよく知らぬひとびとと交流会なんてするもんでもなしというアレがあったものだから狸寝入りを継続することで黙秘しつづけたのだけれどそうこうするうちに本当に眠ってしまって、実際3時間睡眠だったのだからそりゃそうなるわという話であるのだけれど目がさめると17時かそこらで、(…)の荷物が部屋から完全になくなっていた。なるほど、ようやくあちらが家出する番かと思っているところでふたたび(…)が帰宅し、これはおそらく荷物をどこかしらに預けてきたものだと察しがついたのだけれど、ひとまず(…)からの連絡はまだないと、本当は今日の予定はどうなっているのかと問い合わせるメールが来ていたのだけれどそう告げると、(…)さんの妹さんが17時半から18時の間にこちらにやってくる、彼女が来たらわたしは出かけなければならないというので、これは占めたと思い、バイクのメンテナンスが思いのほか長引くらしいと(…)から連絡があったと、そんなふうな嘘を言ったのは要するにおれは(…)を待たなければならないからきみたちだけでとりあえず先に行ったらどうだとにおわせる意図だったのだが、その意図を(…)はものの見事にくんでくれた。(…)自身、見知らぬ人間との、そしてセルフィッシュ極まりない(…)との銭湯行きに気乗りしない様子だったので、(…)にはもう(…)さんの妹さんと行動してもらうことにしておれたちはおれたちでよろしくやろうじゃないか、算段はすべてこちらがつけるからとメールを送信し、そうこうするうちに(…)さんの妹さんが玄関にやってきて、(…)相手に中国語訛りの英語でもうひとり連れ合いが来るからそれまで待っていてほしい旨を告げ、そうしてほとんど入れ替わりに今度は(…)さんがやってきて(…)さんも銭湯にいくんですかと問われたのでいまツレを待ってるんでそいつがやってくる時間次第ですねと応じると、もし(…)さんも行くんだったらぼくも行こうかなと思ってたんですけどとあったのでちょっとまだ行けるかどうかわかんないですごめんなさいとお茶を濁した。(…)さんの妹さんは大学院の入試試験のために来日しているらしく、明日が試験だという。滞在は20日までとのことで(…)の予定ともぴったし一致する。(…)さんと玄関先で別れて部屋にもどりしばらく気まずい沈黙の漂うなかで押し黙っていると不意に(…)がわたしもう戻ってこないわと口にして、荷物がないことにはとっくに気づいていたのでまあそうだろうなと思いながらも本気でいってるのかといちおうたずねるとイエスという。どこに泊まるのかとつづけてたずねるとそんなのわからないといい、その口ぶりその抑揚のひとつひとつがあてもない家出の悲劇と覚悟をにおわせてこちらに罪責感をかぶせようとする意図のあけすけなものだったのだけれど、わからないとかなんとかいいながらもすでに荷物は運び去った痕跡があるし大方くだんのカフェに転がりこむかあるいはカウチサーフィンでコンタクトをとった誰それの部屋に居候するかだろうとブラウザ履歴からとっくに見当をつけていたので、ただひとことオーケイとだけ応じ、内心その手には乗るかと打棄った。それから(…)さんの妹さんがふたたびやって来た。もし(…)が早い時間帯に来れるようだったらくだんの銭湯で合流しましょう、そうじゃなかったらもう、と(…)は情感たっぷりに口にして、それから小声でbyeと続ける、そういう小芝居のひとつひとつに付き合うのが馬鹿らしいこちらはドライにbyeと口にして簡単に手をふってやった。そうして(…)が連れ立って部屋を出ていくその足音や話し声が聞こえなくなったところで(…)に電話をかけ、ついに解放されたぞ!と快哉をあげた。実家から届いた赤貝の刺身と沖縄土産のジーマーミ豆腐を持ってケッタでひさびさに(…)のアパートにむかった。アパートの近所にあるというちゃんぽん屋さんでちゃんぽんを食べたが、ただの家ラーメンだった。それからスーパーとコンビニをはしごして総菜を購入し、部屋に戻ってから赤貝のさしみと一緒に食べた。(…)にたいする鬱憤をぶちまけまくり、しかし本日づけでおれはとうとう解放されたのだ、とかなんとかいいながらも結局なんだかんだと理由をつけて(…)が部屋に戻ってくるその展開まではっきり目に見えているのがまた馬鹿らしい。明日から三連勤であるこちらのスケジュールまで計算しての行動であるとしか思えない。したたかな女だ。半年ぶりかそれ以上ぶりくらいに(…)の同居人の(…)くんにあいさつし、それから(…)とふたりでケッタで(…)にむかい、そこでまた(…)さん(…)さん相手にここ数日耐えることを余儀なくされた理不尽な(…)の言い分を延々と愚痴り、1時過ぎに店を出た。13日の金曜日であることであるし部屋にもどって(…)がいたらどうしようと思ったが、図々しさの権化たる(…)とはいえさすがに啖呵を切っておいてただの一泊すらせず戻ってくるわけにはいかなかったようなので安心した。これがあっけない最後の別れになってしまっても別段いっこうにかまわないというひやりとする気持ちがたしかにあるが、それをたしなめる気にもいまはなれない。好きな音楽を聴きながら(こちらの選曲にterribleとかnoisyとかtoo muchとかいちいちクソみたいな不平をこぼすのをこらえなければならない屈辱!)ブログをたっぷりと書くことのできる歓び(仕事のない平日五日間朝から晩まで四六時中行動をともにすることを余儀なくされるなかで余った時間を少しでも書き物に捧げようとすればたちまち拗ねたり怒ったり不機嫌になったりするのでしかたなく睡眠時間を削るほかないと覚悟をきめればそれはそれで液晶画面がまぶしくてねむれないだのキータッチがやかましくて眠れないだのと不平不満をこぼしてこちらの自由を一分たりとも許してくれないほとんど奴隷か虜囚のごとき二ヶ月!)。「A」の表紙に黒豹の写真か、あるいは夜の林の中に無表情にカメラ目線で突っ立つ三頭のバンビの写真を用いようと思うのだけれどもこれどこで拾った画像なのかはっきり覚えてなくて、著作権とかもろもろひっかかる可能性がおおいにありなんだけれどクソ小規模自費出版のくせにたいそうなこと考えやがってこの自意識過剰なやつめとの論理で意に介さずというのも手かなと思っている。