20130919

「A」のプリントデータを作成。本当は原稿をもういちど読み直すべきなんだろうけれども手を入れ出したら入れ出したでまた終わりない作業になってしまうのは目に見えているので打棄っておくことにしてとりあえずの完成と見なしたうえで一冊注文。この一冊をサンプルとして最終チェックしたところで無料公開&販売という段取りに進もうかなと思うのだけれど、本を一冊刷るのに800円ちょっとかかって、それに送料込みとなると1000円ちょっとというアレで、これやっぱりたった160Pの文庫本にしたらべらぼうに高いな。これで利益を求めるとなると販売価格1500円とかになってしまってそれはちょっといかがなものかと思わないでもないというかどこの絶版本だよみたいなアレになってしまうので、やはり利益というのはあまり考えずに赤字にならない最低ラインでうんぬんかんぬんすればいいかなと思わないでもない。お金に余裕のあるひとには果物のひとつやふたつはもちろん送っていただきたいけれども。
ひとまず「A」に区切りがついたのでヴァルザーの続きを読みはじめることにしたのだけれどまったくもって集中できず、気がつけば(…)のことを考えてしまう始末で、このまま彼女と別れてしまうのかと考えるとなにも手につかないというか、書いたり編集したり画像制作したり、要するに何かを作っているときは全然いいのだけれど、というのもたぶんなにかを作っているときはいつもずっと圧倒的にひとりだから他者の入りこむ余地なしみたいなアレがあって、でもそれがほかのこととなるともうどうにもならないというか、本なんて読めたものじゃない。二ヶ月の大半を口論に費やしながらそれでもどうにかくぐり抜けてきたこれまでがこの最後の一週間によって元の木阿弥に帰してしまう、終り良ければすべて良しにまさしく逆行するこの事態がどうにも耐えられない。かといってこちらから折れる気にはどうにもなれない。のこのこと(…)の滞在するカフェに出かけていって、そこの関係者や常連客らに「あっ!うわさの彼!とうとう来たか!」みたいなリアクションをとられるその場面を想像するだけでイライラっとしてゲロゲロっとなる。
昨日のジョギングに引き続き、今日はひさびさに懸垂をした。いつもならセットでする腹筋については腰痛があやしいのでおあずけにした。シャワーを浴びるために大家さんのところにいくと、というかとうとうシャワーが、というか給湯器が新しいものに取り替えられたと日中大家さんから報告があって、そのときとてもひさしぶりにあのイギリスの方はとたずねられたので、(…)が密かに大家さんに別れの挨拶をすませていたというこちらの仮説は外れたかと思いながら、なんかここ数日ずっと友人宅に泊まっているみたいでと誤摩化したのだけれど、沖縄にいったときも(…)が大家さんにお土産を買っていったほうがいいんじゃないと言ったことがあって、でも大家さんの手前じぶんたちは親戚同士((…)はじぶんの従兄弟の嫁の姉/妹!)ということになっているのにその親戚同士がふたりきりで沖縄いくってのもおかしいだろうとなって笑い合ったりしたのだけれどそれはともかく、シャワーを浴びるために大家さんのところにいって風呂場の前で服を脱いでいると、これ、(…)さん、と大家さんに声をかけられ、そこからいったいどういう流れでそうなったのだったか、たぶん新しくなった給湯器の操作説明から派生したんだったように思うけれども、じぶんの隣人、(…)さんというらしいのだけれどその(…)さんが毎度まいどとんでもない手紙を送ってくるのだといってなにやら大量に束ねられた紙片をもってくるのでいったいどういうことかと思って、そもそもこの隣人とはほとんど顔をあわせたことがなくてただいつも深夜に部屋に帰ってくる物音がするものだからじぶんと似たような生活リズムなんだろうと見当をつけていたぐらいであとの情報はなにひとつ知らず、ただ数日前だったかにいちど、あれはすでに(…)が家出したあとだったかどうか、とにかく夜中洗濯ものを干すためにおもてに出ると、というところで思い出した、あれはまだ家出前だった、たしかちょうどセックスを終えたところでおもての水場にある洗濯機の蓋をばたんばたんと開け閉めする音が聞こえてきて、その音でじぶんたちの洗濯物がまだその中に入れっぱなしになっていることを思い出し、聞こえる、あれアピールなんだよ、あれが日本人のやりかたなんだ、直接どうのこうの言ってきやしない、ただ相手に悟らせるんだよ、おまえ洗濯物とっとと片付けろってさ、そう語ってから服を着ておもてに出るといまおもえばあれが(…)さんだったんだろうけれどその(…)さんが水場に突っ立ちながらラーメンだか焼きそばだかをすすっていて、水場にはコンセントがあるのだけれどそこに自前のものらしいプレートみたいなものを置いてじゅうじゅうずるずるやっているその姿がやたらと不気味で気色悪く、なんだこいつと思いながら洗濯物を干したのだけれどそうしているときにいちどだけそのご尊顔を目にする機会があって、それがまたえらく目力の強い横顔だったものだからちょっとぎょっとしたのだった。整えたらきっと男前になるであろう野性的なぎらつきに富んだ顔だったのだけれど、ただまあ一般的には気持ち悪い、不気味、こわい、というような感想を(主に女性から)抱かれるだろうなぁというアレで、そのときとっさに頭にひらめいたのはこいつ通り魔とかしそうだなという感想だったのだけれど、その通り魔が本当にもうことあるごとに大家さんに抗議文を送り届けてくるのだという。目の前にばらされたその抗議文とやらをためしに一枚ひろいあげて目を通してみると本当に冒頭に「抗議文」と記されていて、その内容は要するに朝っぱらから戸をガンガンするなとか部屋に勝手に入ってくるなとか頼んでもいないカレーをめちゃくちゃな時間にもってくるなとかいくら鼻緒がきれているからといっておれのサンダルを勝手に捨てるなとかそういう内容で、要するにこちらも思い当たる節のある大家さんの天上天下唯我独尊っぷりにたいする駄目出しなんだろうけれどもその文章がまたちょっとぞっとするというか、法律書というかなにかしら公的な書類の文体を模倣したようなアレでシャワーを取り替えるのに二日もかかるのは職務怠慢であるだとか朝から部屋の戸をバンバン叩かれて起されるのは自由に対する侵害であるだとか僕の人格、人権、自由への蹂躙であるだとかみたいな内容がものすごくきったねえ筆跡で記されていて、自由にたいする侵害のくだりではヒットラー金正日の名前があげられていたりしてこのあたりちょっと分裂病っぽい気がせんでもないのだけれど、挙げ句の果てにはこうした抗議文を書き記すのは時間と労力の無駄でありなんだったら紙代とインク代を弁償していただきたいとまで書いてあるのだけれど紙代っつったってなんかそこらのチラシやわら半紙をガムテープで止めただけのなにひとつ魅力的でないブリコラージュみたいなものであるのだけれど、なんかもうただただこいつ何なのって思わせるような文面で、なんだろ、公的文書的な文体にしたところでいちいち中途半端というか、「わたくし(…)は(以下僕とします)」みたいなくだりがあったのだけれどなんだよ以下僕としますって甲乙じゃないのかよおかしいだろと突っ込みどころ満載なのだけれどしかし文面からはそこはかとなく狂気のにおいがして、手紙に狂気のにおいをかぎわけたのは以前の職場にいた(…)さんが社長に直訴すべく書き送ったもの以来なのだけれど、とここまで書いたところでブログ内検索で(…)さんの手紙について書いた記事を探してみたのだけれど見つからない。とにかくふつうに引いてしまうというかこれできれば全文コピーしてひそかに保存しておきたいくらいなのだけれど、そもそも事の発端というのが、この通り魔が部屋に電気をひかずに生活しているという情報を大家さんが(…)さんに話し、そんでもって(…)さんがほかの住人みんなにばらし、それが通り魔の耳に入り通り魔激昂、最初の抗議文投函みたいな経緯であるらしくてそれ以来ことあるごとに大家さんのもとに抗議文が届くようになったというのだけれど、大家さんもさすがにほとほと困っているみたいで、勉強になると思うて字引片手に一生懸命読んではおるんやけどな、わたしなんかにはほれ、むずかしゅうて、わたしもかれこれ何十年とやってますけどな、こーんなにもたくさん手紙いただいたの、はじめてですわ、と弱りきった声でいう。ちかごろやたら水場にパソコンやら携帯やらが充電されたまま置きっぱなしになっていてこんなとこ置いててだいじょうぶなのかよなにかの手違いで水かぶったら一発でアウトだぞと思っていたのだけれどなるほど電気なしときたかとようやく腑に落ちるかといえば落ちるわけがない。なんか知らん間にあぶない隣人と暮らしてる。
(…)が帰ってこない。夜になってもいっこうに音沙汰なし。出国は明日である。そわそわして落ち着かない。胸がひりひりする。このままでいいのだろうかと何度も自問自答しながらこの二ヶ月間撮りためてきた写真を眺めていたとき、なか卯の衣笠丼をうまそうにたべている(…)の表情が目にとまって、衣笠丼は(…)の好きな日本食暫定一位なのだけれど、その表情を目にした途端に、あ、だめだ、このままじゃいけない、そう思って明日のあさ空港に行くことにした。正確なフライト時間も目的地もよく覚えていないけれどたしかいちどタイを経由する予定だったはずであるしエアアジアだった気がするしそれで時刻は昼前だったんじゃないか、そう思って諸々検索をかけてみると11時ぴったし関空発のエアアジアがあったのでこれだろうと目星をつけた。(…)から空港に行くなら電車よりもバスのほうがお手軽だしお手頃だという情報を得たので従うことにして、どうせいまさら送信したところで届くわけないし読むのは帰国後になるだろうけれどと思いつつも、明日空港に行く、きみを見送ることができたらと思っているとだけメールを打った。
泥酔した(…)さんからまた電話があって、(…)は帰ってきたのか、同僚のみんなも心配しているぞ、とあった。めんどくせーと思いながらも、とりあえず明日空港にいくことにしました、プレゼントもまだ渡してないしと応じると、おまえ、おまえ、おまえなー(…)くん、おまえ、ほんとうにおまえそういうとこかわいいな!それだけ言って電話が切れた。アル中め。