20130928

夢。バスターミナルらしき道沿いを(…)と歩いてる。一台のバスが傍らを通り過ぎていく。バスのナンバーは20番である。みるみるうちに遠ざかっていくバスの後ろ姿を目で追ううちにふたりの荷物がすべてその中に置き去りにされたままであるという事実に不意に思い当たる。思い当たりながらもそれを口にすれば(…)が激昂してこちらを責め立てるだろうという見込みから、取り返しのたやすくつくきわめてささやかな失態であるかのように平静を装う。(…)がバス事務所に電話をかけろとせき立てるのでおとなしく従うと、ひとりの男が待っていましたとばかりの勢いで電話に出る(ここから視点は三人称に転じる)。小学校の職員室にある教員用のデスクらしきものがならべられたせまく殺風景な一室に男はひとりで腰かけている。窓の外は夜である。男はこちらが事を切り出すよりもはやく事態の一部始終を過不足なく説明する。そうしてこちらのフルネームを読みあげたのち事情は以上のとおりで間違いないかと問うてみせる。男の手には履歴書のようなものが握られている。なるほど、それを見てこちらの名前を言い当てたのかと問い返すと、男はしどろもどろになってなにやら言いよどむ。それからきみの知性には負けたよと降参を宣言する。次にバイトを変えることがあるとしてもだれかしら同僚のいる現場でまた働きたいと思う、人間関係を組み立てるのは面白いから、そう告げると、男はおおげさに首をふって顔をしかめ、いちばんきらいな言葉だよそれは、と不平をこぼす。
労働。すずしい朝日の中をえっちらおっちら自転車で漕ぎすすんでいると不意に鼻のむずむずを感じてこれ花粉症じゃんと思った。たしか去年も、そのまた前の年も、これ秋の花粉に反応しているんじゃないのという疑惑の生じた覚えがあるのだけれど、今年もこんなふうにむずむずするのであればやはり間違いない、症状こそ春のスギ・ヒノキにくらべれば格段にマシではあるものの、やはり発症している。この時期に飛散するなにかの花粉に反応している。事実ここ一週間ほどやたらと鼻くそが豊作でこれはいったいどうしたことかと思っていたのだけれどその点についてもなるほど一気に合点がいった。
(…)さんが朝からまたイライラピリピリしていた。いよいよ(…)さんの横着&怠慢に我慢がならなくなってきたようだった。(…)さんの進退については事務所のほうでも問題になりつつあるらしい。割りあてた仕事をことごとく放置するのだから無理もないという。椅子にすわってくるくる回りながらスマホをいじり煙草を吹かし居眠りするだけの勤務態度も、バイトならまだしも社員のとるアレではないだろうということで一度など監視カメラ越しにそんな(…)さんの様子を目にして見かねた事務所の人間がわざわざ直接電話を入れ、いくらなんでもその態度は従業員の前で示しがつかないんでないかと苦言を呈したという話で、それは先週の火曜日のことだったらしいのだけれど、(…)さんのタブレットで再生される昨日金曜日の(…)さんは相変わらず椅子の上にふんざりかえって煙草を吸ってばかりいて、な、おれが休みの日やったらすぐこれやで、ほんで月末までに在庫のチェックしろっていうてあるのにな、この日なんもしとらん、ぐるぐるまわって煙草吸うとるだけや、月末って土日はおまえ出勤やからもう月曜しかないんやで、あのひとが一日でそんなん終わらすことができると思うか、部屋やってあれだけしつこく売れよ売れよいうとんのに三階のは売りにださんとおる、じぶんがフード持って三階まであがりたないからやで、一回や二回どころちゃうで、おれ毎日(…)さんに言うとる、それでこれやで、もう仕事やめろや思うわあのアホ(…)、そんでいまだに客入ってくるたびにうわーまた来たーとか言いよるしな、売り上げやばいいうていまメイクさんらですらなんとかしようとしてくれとんのにそんなんや、ほんま死んでくれや。オーナーが変わるかもしれないという話もちょくちょくあるとは内密に聞いている。もしそうなったとすればアルバイトはともかく、社員の(…)さんと(…)さんはこの職場を離れることになる。仮にそうなったとすれば、じぶんも潮時なのかなと思わないでもない。日本を出るか、そうでなくとも京都を出るか。かかわる職場かかわる職場が必ず潰れる死神の本領発揮。(…)はフィリピンからの帰国後、(…)か京都か東京で就職するとこのあいだ語っていた。都合があえば同居するのも面白いかもしれないという話も出た。東京、いよいよ行っちまうか?
休憩中(…)さんが唐突にこれまで色んな職場で働いてきたけれどもここほど金のない連中ばかり集まっている職場をほかに見たことがないと熱弁しだしたのでみんなで大笑いした。家庭持ちの(…)さんが金ないわー金ないわーといっているそんな金のなさとはまったく次元を異にする金のなさを誇る男たちばかりが四人同席しているそんな状況にもかかわらず、というかそんな状況であればこそなのかもしれないけれども、つまり、みんなこんなんだしたぶん大丈夫だろうという赤信号みんなで渡ればこわくない式の楽観なのかもしれないけれども、いずれにせよ悲壮感がまったくないところがまた可笑しいというか可笑しいを通りこして爆笑してしまう。(…)さんは先週アレしたあとに挑んだパチンコで二万円すってしまって今月すでに131円しかないし(次の給料日まであと22日!どうにかするためお姉さんに金を借りにいくという!)、(…)さんはもうかれこれ半年近くガスを止められているし給料日当日に手元に残るのが毎回数千円というくらい支払いがたまっているしカードは満額パンパンだし、(…)さんは事情こそしれないというかおそらくなにかしらやばい案件でドジを踏んだのだと思うけれども先月だったかに20数万円が一気に飛んでしまってしかたなくヤクザから金を借りたみたいな話をこのあいだぽろっとこぼしていてめずらしく弱気でずいぶん追い込まれているように見えたし、じぶんはといえば例のごとく奨学金の返済がまだ500万かそこら残っているしで、くりかえしになるけれどもだれもがみんなあせってしかるべき状況であるにもかかわらずなんかそれほどあせってないように見えるのがまた色々やばいというか、たとえばこちらからすれば(…)さんはまだどうにかなるとしても(…)さんと(…)さんは本当にやばいだろうと思うというか金ないくせにアレしたり博打したり10万円の自転車買ったりあんたら狂ってんじゃないかと思うのだけれどあのふたりからすれば多額の借金を背負いながら週休五日制を頑に維持しようとするこっちのほうが狂ってるということになるみたいで(「(…)くんおまえ外人つれて沖縄いっとる場合ちゃうで!」)、みんながみんなおまえはマジでやばい狂ってると指摘しあうばかりの我がふり直さず、袋小路でおしくらまんじゅうしてる。
(…)さんがバイクを買い替えていた。400ccから250ccに変更したとのこと。エンジン音が軽快だった。新車だけあっていくらか軽薄でなによりとても活きのいい感じ。バイクがあれば便利だろうなーとはよく思う。
帰宅すると郵便物が三つポストにねじこまれていた。うち二つには折り曲げ厳禁の判が押してあったにもかかわらずかまうことはないという強気のねじこみだった。保険屋からの通知と、「A」のサンプルと、市川春子宝石の国』。「A」はざっと見た感じなかなかいい。少なくともレイアウトにかんしてはほぼパーフェクトである。ただ表紙のクリムトがどうにも安っぽい。画質の問題なのかもしれない。あらたに表紙を数パターン作製してサンプルを取り寄せたい。あとは本文中のダッシュがつながってくれないのがやはり不満である。どうにも見栄えが悪い。こちらにかんしてはいちどBCCKSに問い合わせてみることにする。ということでメールをいま送信した。それから「A」のラスト数ページを読み直した。完璧だった。非の打ち所のない文章だった。「邪道」も「偶景」もべつに完成させる必要などない。
きのう書き記した万引き犯による(…)店長刺殺未遂事件、この日((…))だった。過剰なメタファーによる暗号文のようなものを書き記した覚えがあったのだけれど全然そんなことないな。クソみたいな文章だ。