20131010

10時起床。ものすごい腰痛。ついにきたかという感じ。ここ数日の作業量を思えば仕方ないところではあるのだけれど、それにしてももう少し丈夫に頑丈に屈強になってくれないもんだろうかこの身体はと思わないでもない。腰をかがめることができない。冷蔵庫の中から牛乳を取り出すのにもひと苦労する。たまりにたまっていた洗濯物をかたづけたのだけれどバスケットの中から衣類をいちまいいちまいとりだすそのたびごとにひやっとするというか、油断すればギクっ!といくんでないかと一挙手一投足に警戒がともなう。首も背中も同様に痛い。だからといって休むわけにもいかない。塗る湿布を腰にぬるぬるしまくったあげく張る湿布を二枚ぺたぺたやってデスクにむかった。気休めにもならないだろうけど。
16時。ぶっ倒れた。極限の疲労。限界である。めまいと吐き気と爆発的な腰痛。畳の上に大の字になって一歩も動けない。予想をうらぎり湿布は気休め程度にはなったが、しかし気休めはあくまでも気休めである。どうにかしないとどうにかなってしまう。発音練習をこなしたところで次にむかえない。とにかく身体がしんどいので布団に寝転がり『宝石の国』をパラパラとめくるばかりでなにも手につかない。それからストレッチをくりかえした。ここまではっきりと身体にかかった負荷を感じるのもひさしぶりではある。
10日当日に書いた日記はここで途絶えておりそれ以降は箇条書きとなっている。14日現在、簡潔に再構成する。
19時半に御陵駅にて(…)と落ち合った。御陵駅はみささぎ駅と読む。それから(…)さんと合流して焼き鳥屋へいった。食って飲んだ。コンビニでアテを購入してから(…)さんの自宅に場所を移してそこでも飲んだり食ったりした。(…)さんの自宅は犬のにおいがした。(…)さんの奥さんをはじめて真正面からはっきりと見た。お子さんとあいさつもした。部屋中いたるところに家族写真や子供の描いた似顔絵などが貼られていた。子鹿の(…)さんの働くクリーニング店を(…)さんが電撃訪問したという話をきいた。それ以上つきまとうとパクられるでとさすがに(…)さんも諭しにかかったということだった。こんなこというのもアレだがうちの職場ははっきりいって底辺中の底辺だと(…)さんは続けた。ヤクザまわりと現場仕事を転々としてきた(…)さんがいうとやたらと説得力がある。とにかくこの業界には人間としておまえどうなんだそれはみたいやつらばかりが集まってくる、ヤクザとかその手の人間とはまた異質のクズどもが集まることになるのだと、そういいながら従業員の名字を呼び捨てにしてリストアップしていくその口ぶりからやっぱり(…)さんも相当たまっているんだなと思った。ここにいるとときどきじぶんも連中のペースに巻きこまれて頭がおかしくなっているんでないかと疑ってしまうというので、それとはある意味では裏表なアレですけどじぶんがなんかものすごい頭のいい人間のような錯覚をおぼえたりもしますよねと応じると、そうやねん!ほんまに基準がおかしなんねん!と強い同意があった。なんだかんだいうてこいつがいちばん信頼できると、こちらを指さしながら(…)さんが(…)にむけてそう語るのを前にしてそれ相応に誇らしくなった。でもおまえもなんだかんだで(…)くんなみに強烈やよな。どこがっすか?だってぼく働きたくないですってそんなこというやつはじめて見たもん。(…)さんわりとしょっちゅうそれいいますけどぼくみたいなやつってたぶん案外けっこういますよこのご時世。おまえでもじっさいそれで生活なりたっとるもんな、すくなくとも(…)くんや(…)さんよりは余裕あるやろ。そこは創意と工夫でどうにでもなりますわ。客の残飯食うたりしてな。そう、それにお古のスマートフォンもろてタブレット代わりに使ったりして、コンクリートジャングルのサバイバル術っす。おまえそんなんででもほんまに不安ないやろ、そこはすごいと思うわ、素直に尊敬する。これ以上働かなあかんことになったらどないしよっていう不安はちょいちょいありますけどね。なっ、そっちやもんな、おまえの不安ってそっち向きやもんな。
1時に(…)さん宅を後にした。腰が痛かった。(…)さんと(…)につられてこちらもほんのすこしだけ飲酒したのだが、おかげでたちあがると頭がくらっとして少し気持ち悪かった。(…)は頭痛に悩まされていた。タクシーを呼ぶと(…)さんはいったが、スマートフォンをまともにあつかうことができないくらいべろんべろんになっていたので、もういいっす、外で直接つかまえますからとふりきった。コンビニで飲み物だけ買ってそれから通りに出てタクシーをつかまえるという算段だったのだが、おもてに出てみると空気が気持ちよく、結局そのまま歩いて帰ろうかという流れになった。見覚えのある道だった。記憶をたどると南草津までヴァルザーしたときの往路であることに気づいた。あらためて思い返すこともできないくらいどうでもよい話題とあらためて思い返すまでもないほど語りつくされた話題をくりかえしながらときおり大声で歌をうたったり痛む腰を揉んだり降ったりやんだりする小雨を心配したりして夜道を歩きつづけた。とちゅうで深夜から朝方にかけて開店している中華料理屋にたちよった。祇園までそう遠くない立地だったのでお水のひとたちが集まるお店なのかと思ったが、3時にさしかかって商売繁盛の店内から垣間みれる客層はしかしどうにもつかみどころがなかった。店員のお兄さんがたぶんこれまで接したことのある飯屋の店員さんのなかで頭一つ分とびぬけてすばらしい接客態度の持ち主で、いったいどうやったらあそこまで完璧にふるまうことができるのだろうとしきりに(…)と感心しあった。堅苦しくもなければしらこくもない、それでいて馴れ馴れしすぎることもないというあのバランス感覚はほとんど天性のものなんではないか。たぶんあのお兄さんについてる客というのも一定数いるだろうなと、それほどうまいわけでもないラーメンの味を思い出しながら考えた。深夜のこのテンションだから美味いとおもえるタイプのラーメンというのが世の中にあると(…)はいった。完全に同意した。夜更かしのあとの暴飲暴食にはまだ京都に来てまもないころの記憶、最初のアパートに住んでいたころの記憶、昼も夜もなく好き勝手していたころのかがやかしい自堕落の日々、朝方まで延々とマリオをプレイしたりカップ麺を食ったり目的なくドライブに出かけたり、寝たいときに寝て食べたいときに食べて起きたいときに起きるだけのあの自由な生活のにおいがあって、もういちどああいう日々がほしい。そのためには小説でひとやま当ててバイトをきっぱりやめる必要がある。このあこがれもひとつの動機にはなりうる。真夜中の河原町や寺町を歩いた。それから烏丸丸太町で(…)と別れた。そこからタクシーに乗ってワンメーターで帰宅しようかと迷ったけれども結局そのまま歩きつづけることにした。帰宅すると4時だった。ぴったし3時間歩いた計算になる。シャワーを浴びた。ふくらはぎに心地よい疲労をおぼえながらひさびさにまたヴァルザーしたいなと思った。「A」に目処がついたらひさしぶりにまた大阪あたりを目指してテクテクやろうかなと思った。
この再構成はそれほど簡潔でないことにいま気づいた。