20131119

すべてのデジタル情報は差異にかかわったものである。地図―現地関係(もっとも広義にとらえてどんな種類のものでもよい)において、現地から地図に載るのはつねに、必然的に、差異の知らせである。もし現地がのっぺりと均質であれば、地図には何もしるされない。情報を簡潔に定義すれば、「離れたところに差異(ちがい)を生む差異(ちがい)」といえる。
グレゴリー・ベイトソン+メアリー・キャサリンベイトソン星川淳吉福伸逸・訳『天使のおそれ』より「自然と養育のメッセージ」)



10時起床。腰痛やや悪化。朝のストレッチがしんどい。日曜日の奇蹟はなんだったのか。パンの耳2枚とヨーグルトとバナナとクリームチーズを食しコーヒーを二杯飲んでから病院に出かけた。皮膚科の診療室のまえにあるベンチに腰かけてコートを脱ぎiPodのコードをぐるぐる巻きにして鞄のなかにしまおうとしているととなりに腰かけていた狐のような目をした老人がそれそこに出しとかあかんでといいながらこちらの手にしていた受診なんちゃらみたいなのが記されている紙片を指さしていうので、あ、これですかというと、うん、それそこに出しとかな、そやないとわからんで、といって診察室の扉の横にもうけられた小窓のほうに顎をしゃくってみせるので、いわれたとおりに紙片をそこに提出しておいた。そうしてふたたびベンチに座りなおすと、それ音楽聞くやつか、とこちらのiPodを指さしながらいうので、こりゃまたなんかすごいのひっかけてしまったかもしれんとミュージックじじい(…)のことをなつかしく思い出したりしながらめんどうくさいという気持ちとワクワクする気持ちの双方を秤にかけつつそうですよと応じると、それナンボくらいするんやと続けてたずねてみせる。いやそりゃモノによりますよ。モノったってワシそんなん詳しくないやんか。まあ安いんやったら一万円くらいで買えるんちゃいますかね。それで何曲ついてくんの?や、曲はついてきませんよ。そんじゃいくらくらいすんの?曲がっすか?そう、そのーあるやないか、ダウンロードっちゅうんか?ぼくダウンロードしたことないからよお知らんのすけど一曲100円とかちゃいますの?ダウンロードしたことないって、じぶんそれ……。ぼくはCD買うてそれパソコンにいれてからこっちに移しとるんです。てことは結局CD買わなあかんやないか。そうっすね。ほなら高くつくやないかい(ドヤ顔)!まあまあそうかもしれんすね。あのーほれ寝るまえにな、それ耳につけて布団に横になったら寝つきやすそうやと思うてな、いつもラジオ聞いとるんやけどおもんないやろ?まあぼくもちょいちょい音楽聴きながら寝ることはありますね、たしかにいいもんすわ。そんで結局あれか、それは家電屋いったら買えるんか?そうっすね。一万円くらい?何曲入るかによって値段変わってきますけど安いのやったらそんなもんちゃいます?50曲もあればいいわ。そんならたぶん一万あれば買えますわ、店いって店員さんにきいてみたらいいっすよ。50曲あればワシはいい。てかパソコン持ってはります?いやーパソコン、ワシは持ってへんねんけどやな、と、ここまで話が進んだところで狐目のじいさんがこちらの後方にむけてふたたび顎をしゃくりながら呼んでる呼んでるというのでふりかえってみると、先週も見かけたでっぷりとした看護婦さんが(…)さんですね、こちらでお待ちいただけますかといって診療室とカーテン一枚でへだてられたネクストバッターズサークルにこちらを誘導するので、到着時間が受付時間締め切り20分前とかそこらだったので長い待ち時間になるだろうと見込んでいたのだけれど内化や整形外科ではなしそんなことはないのかといくらか拍子抜けした心地で規定位置につき素振りを開始した。しばらくたって名前を呼ばれたので診察室に入ってみると先週とは別人のそれでいて若い女医さんで、この病院の皮膚科担当はみんな若い女医さんなのかという感じであるのだけれど、とりあえずここ二三日で劇的に回復しつつあること、それでも薬が切れるといまだに症状の出ることを伝え、いまどこか出てるとこはありますかというので、シャツの袖をまくって右肘の外側あたりにぶつぶつ出ているのを見せた。蕁麻疹というやつはたいていのばあい原因がわからない、それだからひとまず薬を飲んで様子を見るしかない、幸い薬はよく効いているようであるし症状も改善されているという話である、ひとまず十日分の薬をひきつづき出しておくので基本は一日二錠、症状がやわらいできたら一日一錠、次いで二日に一錠というふうにだんだんと減らしていくように、薬が切れてまだ治らないようだったらもういちど来院してくださいとのことだったのだけれど、ちょっとびっくりするくらいコッテコテの関西弁を使う女医さんで、吉本新喜劇のヒロイン役とかで出てきそうだと思った。それで診察を終えてベンチに戻ると狐目のじいさんがさっそく若いきれいな先生やったやろとただでさえ細い目をますます細めていって、このときの表情というのがこれぞまさしく好色の権化というほかないくらいすばらしいものだったのでふつうに大笑いしてしまったのだけれど、うん、すげえきれいなひとでした、と応じると、そやろ、ワシの知るかぎりな、一番や、あのー診てくれるひと、先生だけでいうたらな、この病院のなかでいちばんべっぴんや、という。やーでもぼくこないだ来たときは別の先生やったんすけど、そっちのひとも若くてべっぴんさんでしたよ。そうか、そりゃワシ知らんだわ。タイプのちがうひとでしたけどきれいでした。以前はな、不細工なオヤジやったんや、いまこんなべっぴんさんやろ、ええもんやでー、ほんまにええもんやでー! まーたしかにどんだけでも通いたくなりますね。そやろ、ほやけどワシこの先生になってからいっぺんに治ってしもての。ぼくもたぶん今回で終わりっすわ。なんでや?ほとんど治ってしまいましたもん。そんなもんあれーあの、デコぶつけてやな、それでもっかい来たらええんや、あ、でもデコじゃあかんか、内科連れてかれるか、擦り傷、そやし擦り傷こしらえてな、そいでもっかい来たらええんや、ええ、そやろ?そやろちゃいますよ(笑)なにをいうとんすか(笑)なにをいうとるっておめえ(笑)ワシらくらいになってしもたらまあ相手されへんけどやな、(こちらを指さしながら)いくつや、25くらいか、25くらいやろ?えーと今年で28になりましたね。そやろ、25くらいのもんや、そしたらおめえ、ぴったしやないか、(こちらの下半身にむけて顎をしゃくりながら)バリバリやないか、ええ、そやろ、ワシら75とかなってみい、そういうわけにもいかんけどやな、25っていうたらもー、(ふたたび顎をしゃくりながら)バリバリやないか、そやろ?バリバリかどうかはあやしいけどそこそこ元気っすね。そやろ、そやしやな、(顔をややこちらに近づけて内緒話のていで)あんな、痛いっていうといたらわからんのや、とりあえずなんでもええから痛いいうといたらやな、それでええんや、ほやしワシが次いうといたるからやな、兄ちゃんが先生のことべっぴんやいうてたってやな、そうやって伝えとくから、擦り傷だけどっかでこしらえて、それで痛い痛いいうてまた来たらええんや、ええ、そやろ?なにがそやろですの(笑)いやいやワシに任せときゃええねん、ええ思いさせたるから。わっかりました、そんならええ思いさせてください。よっしゃ、任せとき。そんじゃあそろそろお先に失礼します。おう。
病院から出ると空気こそ冷たいものの絶好の快晴で、光線が銀色にさえわたっていて目にはいる事物の反射すべてが痛いくらいに直線的でまぶしく、とてもいい天気だと思ったのでぶつくさやりながら散歩ついでにビブレにまで出かけた。ニット帽とマフラーと財布をチェックして、ここにあるTAKEO KIKUCHIの財布とかもう一年以上買うかどうか迷いつづけているという体たらくなのだけれど、今週の金曜日にでも(…)を誘って四条にでも繰り出しひさびさに散財するかと、それでよい財布が見つからなかったらいよいよこいつを買ってしまうかと、そういう判断を下して店を出てふたたびぶつくさやりながら薬局にむかった。生け垣に植えられた名前をしらないけれどよく見かける木の、とても濃い緑色をたたえた分厚い葉々の一部が真っ赤に変色していて、きちんとかりそろえられた葉のおりなす平たい表面が日照時間に応じてそうなったというような分布図の痕跡をのこさず中間色の黄色も持たず、一面の深緑のほんのところどころにアクセントしての強烈な赤をランダムにちりばめているというこのコントラストといい分布のありさまといい、これ完全にクリスマスモードだなと、ビブレの入り口にツリーが飾られていたことを同時に思い合わせたりした。クリスマスといえば(…)さんがなぜかわがあばら屋でクリスマスパーティーをしようなどと先々週あたりからノリノリで言い出しており、むろんウマのあわない(…)さんはハブチにする魂胆らしいので都合じぶんと(…)さんと(…)さんと(…)さんの計四人でケンタッキーだかピザだかしらんけど注文して酒飲んでみたいな話をこちらの了承もなく勝手に段取りしているのだけれどまったくもって聖夜にふさわしくない面子であるというかこれ合計したらいったい前科何犯になるんだよみたいな外道畜生の集まりで、でも(…)くんアレやろ、どうせワシとおなじでクリスマスいっしょに過ごす相手もおらんやろ、あのカナダ人まだおるんけ(「カナダ人ちゃうっつーの」)、おらんやろ、そんなら(…)さんとおねえ((…)さんのこと)とワシとでやな、まあ楽しくぱーっとすればええさかい、ええ、どや?23日でええか?24日か?
曲がり角の先からぬっと姿をあらわした大学生くらいの男がハイパーヨーヨーみたいなブツを手にしていたのでびっくりした。再流行のきざしとかそういうのがあるのかどうかはしらんけれどもちょうど曲がり角にさしかかったタイミングであのループ・ザ・ループみたいなのをはじめたのでもうすこしこちらの歩みが早かったらちょうど出会い頭でヨーヨーがこちらの身体にヒットしていた可能性もなきにしもあらずで、マナーを守らないやつはあのナントカ名人に叱られるぞとすこしイラッとした。薬局ではいつものべっぴんさんの姿を見かけなかった。先客のおばさんが名前を呼ばれて受けつけにいき料金を支払っておつりが出てくるまでのわずかなひとときを利用してソファに腰かけて靴をはきなおしていたのだけれど、そのソファというのがじぶんの座るソファとテレビを結ぶその直線上にあったためにかこちらの視線に気づくなりあらすみませんというので、いえいえ見てないからだいじょうぶですよと応じた。薬を十日分もらって帰宅した。コーヒーを二杯のみながらここまで日記を書いた。今週の金曜日は帰省する予定だから買い物無理っすと(…)からメールの返信があった。(…)は月に一度くらいの頻度で帰省している気がする。おれもマイミク欲しい……。
14時。英語音読。さすがに四周目ともなるとグイグイ進む。18時前に終了。ぶつくさやりながらスーパーに買い出しに行き、帰宅してから即夕飯の支度。水場に立つのがだんだんとつらくなってきた。寒いし冷水しか出ないしで飯の支度をしたり食器を洗ったりするのが面倒かつ苦痛でたまらない。指先が凍てつく。指先からいてつくはどう。玄米、納豆、冷や奴、マッシュドポテト&パンプキン、鶏胸肉をにんにくとしょうがと酒とみりんとこのあいだ(…)さんにいただいた島根の醤油で煮付けたブツをかっ喰らった。のち仮眠。ほんの20分間でよくもまあここまで深く眠れるものかというくらいぐっすり眠った。効率のよい身体である。ストレスうんぬん自律神経うんぬんでいろいろ苦しんでいるわりにはふしぎと寝付きが悪くなるとか不眠症とかそういうアレに苦しまされることがない。(…)も(…)も(…)くんもたしか(…)くんの母君も不眠症に苦しんでいたはずでそう多くない知人友人をざっと眺めわたしてみただけで四名、現代病としてはたいそうメジャーな部類に入るといっても過言ではないだろうになぜかこの領域では無敵を誇るというかどこでもいつでも寝れるみたいな図太さがじぶんにはたぶんあってこれはじっさいのところほんとうに恵まれた才能だと旅先で眠れないひとたちの話を聞いたりするたびに思う。シャワーを浴びてから部屋にもどってストレッチをし、押し入れから(…)の置き土産(というか忘れ物)のパーカーを取り出してスウェットのうえに羽織っていよいよ冬支度、いぜん(…)さんにいただいたびわ茶とコーヒーを双方ともにがぶ飲みしながら「A」推敲。3時まで。108/155頁。ひとまず迷宮の出現したところまで終った。この後に及んで、というかむしろなぜいまさらというべきなのかもしれないけれどもわりと大きめの修正をちらほらほどこして直せば直すほどよくなっていくこの手応えがよい。こういうのは苦しくないほうの推敲である。
作業の途中、1時ごろだったかに太もものあたりがやたらとかゆくなってきたのでそろそろ症状が出てきたのかなと思ってのぞいてみるとまたもやムー大陸がでかでかと浮上していて、マジで!まだそんな余力あったの!となった。なかなか完治してくれないものである。日記を読み返してみるにきのうの15時に薬を服用したのが最後なわけだから都合34時間は薬なしでオーケーだったわけで、そう考えてみると10時間がマックスだった数日前にくらべると断然マシにはなっている。ジョギングしてもいいかどうか質問するのを忘れたことにいま気づいた。してもいいか。明日走ろう。こんなにも寒いと骨も筋肉も関節もガチガチにこわばっちまってますます腰痛がひどくなる。汗をかきたい。だれでもいいから抱きたい。腰が死んでる男にその資格はなし。南無。