20140111

ロックンロールは何者をも救済しない、いやさない。ロックンロールが言っていることはひとつだけだ。おれはお前が壊れるまでやりたい。そう、あの感じだ。いまだ名づけられていない精神状態、G7とC7とDの三つのコードだけで、腰と膝が拍子を打ち出す、何もかも叩きのめしてやりたいような、ぶっ壊してやりたいような、反対側までぶち抜いてやりたいような、顔の皮をひっぺがしたいような、何もかもに見捨てられたような快感、この世の出来レースに唾をかけたいような、二日酔いの朝の嫌悪感のような、ざらざらした感情、それがロックンロールだ。
中島らも『バンド・オブ・ザ・ナイト』)



6時半起床。ストレッチ。バナナとヨーグルトの朝食。胃薬だけ飲んで出勤。8時より12時間の奴隷労働。三日連続で宿泊している客がいるので要注意という引き継ぎがあったのだが、話を聞いてみると、昨日であったかおとついであったか、部屋にたまっていた食器を返してもらいにいったところ、返却されたトレイの上に脱法ハーブが置いてあったとのことで、どうやらそいつを使っていい気持ちになりながらこの三日間デリヘルを呼びまくっているらしかった。初日などは三人連続で呼んだとかいう話で、バクチで勝った金でただ豪遊しているだけだったら問題ないんだが、死ぬまえにやりたいことやっとくかみたいなアレだったらこれけっこう後々困るなという感じだった(ホテルやら旅館やらはときどき自殺目的で来るのがいるのでめんどうくさい)。その客が昼前だったか、金がないのでコンビニに現金をおろしにいきたいと言い出したので、身代わりといえばアレだけれどもそれじゃあ携帯電話をこちらでいったんあずからせていただきますねと、そういう話の流れになったのでじっさいにフロントまで来てもらって携帯電話を受け取ったのだけれど見るからにガンギマリの兄ちゃんで、これ相当いってんじゃないのか、無事にもどってこれんだろうかと、見ているこっちがひやひやするほどだったのだけれど、十分もしないうちにちゃんともどってきてちゃんと支払うものを支払ってくれたので、こりゃかなりの手だれだなとなった。退室後の部屋を(…)さんとワイワイ騒ぎながらすかさずチェックしにいったところ案の定カスみたいな分量ではあったもののパケに入ったハーブが残っていて、見るからにケミカルでにおいもそっち系統だった。
(…)さんが去年あたりからやたらと自身のMっ気について語りはじめるようになっていて、というか端的にいって超ど級のマゾに覚醒しつつあるみたいでこれまでにも性感にいちどいけば人生は変わるだとかどんなにかわいい女の子の小便でもあれはけっして美味しいものではないのだだとかいろいろと話をうかがっていたのだけれど、今日とうとうペニバンはほんっまにやばいという言葉を聞くにいたった。正月に(…)から彼の勤め先の美容室のオーナーがここ最近ニューハーフにはまっていてという話を聞いていたのでそれについて伝えると、興味はすごくあるのだがいちど踏みこんでしまえばもうこちらに戻ってこれなくなるんでないかという気がしてこわいという返事があった。場にいあわせた唯一の女性である(…)さんはその手の専門用語についてほとんど無知といっていいアレだったので、エネマグラってなに?ドライオーガズムってなに?ペニバンってなに?などとたずねられるたびに逐一説明するのが四年間にわたってアダルトショップで働いてきたじぶんの仕事であった。
胃薬を飲んでおいたので胸の悪さを覚えるということはなかったものの昼過ぎから頭痛がひどくて、風邪をひくときはいつも咽喉からで頭痛に悩まされるということは滅多にないのだけれど今日にかぎっていえばその滅多にない頭痛で、というかここ最近そういえば風邪の初期症状として頭痛のあらわれることが微増しつつあるんでないかと不意に思い返されたりもするのだけれど、とりあえず熱のきざしの感じられないこともなかったので職場の体温計で熱をはかってみたのだけれどなぜか昨日にひきつづきうまくいかなくて、もういいやとりあえず薬だ薬と思ったので職場の薬箱に入っていた風邪薬と手持ちの胃薬をチャンポンして飲んだ。しばらくすると急激に楽になったのでやっぱり風邪なんだなと思った。ストレスで胃が荒れているとかいうよりもいっそ風邪のほうがわかりやすくてよいし対処のしようもある。体のほうもずいぶんと弱っていたようで、風邪薬の効果が出はじめるまではヒマがあればうとうとしている始末で、日報を書いている途中に何度も寝落ちしそうになったし、(…)さんとの軽口合戦につきあう気力もなかった。コーラの原液が入った重いダンボールをフロアにいくらか乱雑に置いたときにバシン!という高い音がすぐ近くで立って、耳がしびれるくらいのその音の張りが頭痛に重なった一瞬、強烈な吐き気をおぼえるという「偶景」の素材になりそうな一幕もあった。
薬が効きはじめて頭痛から解放されると熱もはっきりとさがった。入れ替わりに夕方ごろからなぜかくしゃみががんがん出はじめてこれちょっと花粉症の初期みたいだと思った。本当にそうだったらどうしよう。もうこれ以上アレルギー期間を延長したくはないんだけれど。
蕁麻疹のスーパーで半額品の春巻とローストチキンを購入し、(…)さんにもらったチキンラーメンといっしょにジャンクな夕飯を帰宅後の自室でとった。チキンラーメンは(…)さんが昼飯に食べているのを見て、というかそのにおいを嗅いだら猛烈に食べたくなってきたので(…)さんにたのんで一口もらったのだけれどひさしぶりに食べるとやたらと美味いのがこの手の食品というもので、それでうまいうまいといっていたらその言葉を聞いた(…)さんがわざわざみずからの昼飯を買い出しにいったついでに買ってきてくれたものであったのだけれど、買い出しから戻ってくるころにはじぶんはもうこめかみをしめつけるような膨張感のある頭痛になやまされてうんうん呻いていたので、それじゃあ明日の昼に食えということで手渡されたのだった。そのラーメンを言いつけに反して当日にかっ喰らった夕食後、ふたたび胃薬と風邪薬をちゃんぽんした。それからシャワーを浴びて部屋でストレッチをしたのち、やはり半額で購入したアップルパイをコーヒーといっしょに流しこんだのだけれど、コーヒーはさすがにまずかったらしく、これを書いているいま若干の吐き気をおぼえなくもない。1時前には床についた。寝床にもぐりこんで3分とたたぬうちに意識を手放した。