20140222

 下士官一、兵四ガカミナウエ分哨ニ行ク途中デアッタ。衛生兵ハ衛生材料ニツキ海軍部隊ト交渉ノタメ便乗シタ。中間ノ小駅デ不意ニ本線ヲハズレテ引込線ニ入ッタ。運転シテイタ兵士ガ下車シテ調ベルト、転轍部ニ小石ガ挿ンデアル。危険ヲ直感シテ顧ミルト、線路ワキノ土手ニ十数名ノゲリラガ折敷キ、銃口ガコッチヲ向イテイタ。
 車ノデッキニ立ッテイタ衛生兵ハ数弾ヲ受ケテ顚落シタ。内部ニイタ他ノ兵ハ窓ヨリ逃レテ分哨方面ヘ走ッタ。
 兵一名ノミ線路反対側ノ斜面ニ伏セテ応射シタ。ゲリラハ進ンデ来ナカッタ。衛生兵モ同ジ斜面マデ匍ッテ来タ。彼ハソノ兵ニ指図シテ自ラノ応急手当ヲホドコサシメタガ、糞便ガ出タノヲ見テ「俺ハ駄目ダ。コレカラ天皇陛下万歳ヲイウカラ、ソコデ聞イテイテクレ」トイイ、三回唱エテ息絶エタ。
 残ッタ兵ハ憤懣ヤル方ナク、線路上に躍リ上ッテ怒鳴ッタ。
「ヤイ、ミンナ出テコイ、俺ガ相手ニナッテヤルゾ」シカシゲリラハ既ニ去リ、土手ハ静カデアッタ。
大岡昇平『俘虜記』附録「西矢隊始末記」)



6時20分起床。パンの耳2枚とコーヒーの朝食。8時より12時間の奴隷労働。(…)さんからセクハラの一件についてはひとまずケリがついたとの報告があった。(…)さん相手に思うところをわりとはっきりいってやったというので、それで(…)さんは納得しているふうなんすかとたずねると、まあなんも言い返してこやへんだしなとあったから、どうだかしれたもんでない、まだまだ一悶着あってもおかしくはないと思った。セクハラの件とはいいつつも本題からそれて(…)さん対(…)さんの図式になっているからよけいにめんどうくさい。
昼頃に(…)からいきなり結婚しますメールが届いた。のみならずシカゴに転勤が決まったという。夏に東京でいっしょに飯を食ったときに彼女の存在については聞かされていたしすでに両家の実家を行き会う仲でもあり結婚する気もあるという話だったのでその点については遅かれ早かれの問題だろうとは思っていたのだけれど、しかしまさかのシカゴ転勤で、(…)はもともと大阪で就職したのだけれど2、3年経ったところで東京に転勤となり、ちょうど地震の直前だったんでないかと思い返されるのであるけれど、それから2、3年経過してまたもや転勤でその先がしかも海外とくる。転勤の可能性についても、夏で東京で会ったときも秋に京都で会ったときもいろいろ話したはずで、げらげら適当なことばっかりいっていたのでもうあんまりはっきり覚えていないのだけれど、海外支店といってもアメリカ以外に東南アジアのいくつかの国もあって、マニラとバンコクだったか、とにかくそういうの転勤になったらけっこうおもしろそーじゃんみたいな他人事っぷりでワイワイやっていて、まあでもなんだかんだいっても海外支店にいくことはたぶんないよと(…)本人はいっていたような覚えのあるようなないような、いずれにせよビザの申請が間に合えばこの四月にはもうシカゴに転勤するのだという。で、結婚式は四月の上旬で、おそらくはこちらの懐事情をおもんばかっての問いかけであるように察せられるのだけれど「いちおう聞いてみるけど来る?」とたずねられて、予定日を調べてみると日曜日で見事に出勤日だった。シフトの変更がきくかきかないか、ひと月以上先のこととなるとはっきりしないところがあるので、式の出欠についての返事の締め切りとはいつまでかとたずねてみると、明日まで、とあって、OMG!!となった。で、いろいろ考えたが、これはやはりちょっと行けそうにないなと結論が出て、でもだからといってなにもしないでいるのも嫌であるというか、ここ二週間ほどわりとけっこう東京遊びにいきたいな願望のちらほらするところがあったのであるし、それにこのあいだの四連勤+三連勤でそれ相応の稼ぎを得たわけでもあるし、なにより週末さえ避ければこちらにはたっぷり時間があるのだからというのもあって、決めた、三月中に上京しよう、そんでもって式に出ないかわりに(…)とあって飯くっておしゃべりして餞別を渡して米国でも元気でのあいさつを面と向かってきちんとしようと思った。そうこうするうちに(…)から電話があったので出て、「いまだいじょうぶ」「仕事中だけれどだいじょうぶ」という隣にいる(…)さんのいつも苦笑いする電話対応をして(「おまえそこだいじょうぶいうなや」)、それからいろいろ詳しい話を聞いた。結婚については今年1月に(…)のほうからプロポーズして受け入れられてもともと式は夏を目処にという話だったらしいのだけれど、ほんの二週間ほど前に会社からまさかの転勤命令がくだってしまってさあ大変、それじゃあ出国前にすませておくのがベストだろうということで大急ぎで式場見学したり準備したりでけっこうてんやわんやらしいのだけれどひとつ気になったのはたしか(…)の彼女というのは(…)の勤める会社の同僚それもひょっとすると上司だったような気がして、上司ではなかったかもしれないけれどもとにかく同僚であることはまちがいない、すると会社はそういう事情を無視して(…)に転勤命令を下したのかあるいは転勤は彼女とそろってなのかそのあたりどうなのよとたずねてみると、いやー彼女とつきあってること秘密にしてたんだよねーと、なんでもなくはないことをさもなんでもなさげにぼーっと言ってみせるいつものあの口調でいい、ああそういえばたしかにそんなことをいっていた気がすると思いつつ、でももう会社には言うたんやろ、どうやった、びっくりしとったんちゃうの、と重ねてたずねれば、いやー、うん、そうだね、ええーみたいな空気にはなってたね、とまたもやさらっといってのけてみせ、これあとで(…)さんに一部始終報告したら畳んでいる最中のタオルに顔を伏せて爆笑していた。シカゴ滞在は何年になるのか、やっぱりこれまでどおり2年単位になるのかとたずねると、はっきり決まっているわけではないけれども前任者らの統計からすると、だいたい5年程度になるとのことで、彼女のほうはひとまず日本に残って夏まで仕事を続け、それで退職して(…)の後を追ってアメリカに発つという話らしく、このあたり事情はよくわからないけれど引き継ぎとかプロジェクトとかいろいろあってアルバイトみたいに一カ月後に辞めますみたいな話の通ずる世界ではないのかもしれない。戻ってくるころにはもうおっさんやなーというと、まあまあ年齢的にもちょうどいい感じだろうしキャリアアップにもなるだろうしねとちょっと笑ってみせ、こっちもそのときまでにWikipediaに筆名の登録されるぐらいには知名度を得ておきたいものだわとしみじみと思った。思っているところに、そういえばこのあいだはありがとうね、本、送ってくれて、とあったので、あれいまはまあしょうもないもんやけど、とっといて、とっといてくれたらたぶんそのうちすっごい値打ちつくから、初版やし自費出版やし、伝説のプレミアになるはずやからマジで、とほとんど息せき切って伝えた。三月中に上京するというこちらの計画について、ほかに用事があるそのついでに来てくれるのだったらいいけどそうでなしにじぶんに挨拶をするためだけにわざわざ来るという話だったら申し訳ないみたいな今更水くさい遠慮をしてみせるので、五年間ずっと会えないのかもしれないのだし最後の挨拶くらいはきちんとしておきたいと、そう口にした瞬間に最後の挨拶っていうのもちょっと不吉な言い回しだなと思い、で、これはそのとき口にしたわけでないけれどもじつをいうとこの一カ月ほど、これブログに書くのもちょっと不吉な気がしてためらわれていたというか『A』の出版作業を着々と進めているときによくまるで長い遺書でもしたためているみたいな気持ちになったと、これはたぶん何度か書き記した覚えがあるのだけれどその気持ちの延長なのかなんなのかぼんやりとそう遠くないうちにじぶんが死ぬかなにかするんでないかという奇妙な見通しみたいなものがつねに頭の片隅にあって、そうじゃないな、なんというかこう、人間いつ死ぬかわかったもんでないというきわめて当然でいまさらな事実がしかし矢鱈滅多なリアリティをともなっておりにふれては想起されるみたいなところがあって、別段ここ最近身近な人間の死に触れたというわけでもないのに奇妙なまでの確信でそう感ぜられるものだからこれは本当にいよいよなにかあるのかもしれないと、いかにも馬鹿げたものの考えではあるのだけれどでもそういう奇妙な想念の影響みたいなものもたしかにあって、それでとにかく会っておこうと、きちんと挨拶しておこうと、そう思ったし、ほかに用事があるそのついでと(…)はいうけれど用事なんてものは東京にいってしまえばいくらでも作れるものであるし時間なんてどれだけでも潰せるだろうし、とにかく来月の3〜7日かもしくは10〜14日の滞在を目処に夜行バスのチケットを狙ってみるからまたスケジュールが定まったら連絡するねといって電話を切った。
どういう贈り物をするのがベストなんだろうと電話を切ってからつぶやくと、わかった、もうほんならこれ持ってけ、と(…)さんが電マやローターやバイブレーターの積まれた棚のほうをヒッチハイクするようにたてた親指で指しながらものすごくニヤニヤしてみせるので、かたやシカゴ勤務でかたやこの上司かと思った。シカゴに転勤ってなんかすごいなーエリートやなーと同僚らも口をそろえていい、ここのひとたちの基本ステータスは京都生まれ京都育ちの中卒前科持ちなので、メトロポリストーキョーで働き海外出張したり転勤したりする生活にまるで想像力が行き届かないみたいなぽかんと口をあけた感じになっていて、(…)くんのまわりってけっこう海外転勤とか多いのと(…)さんが問うのに、学部柄なのかなんなのかわからないけれどもけっこう多いと思う、と応じ、それから大学時代はクラスメイト以外とほとんど交流をもたなかった事実をいちおう断ったうえで、彼らの進路について知るかぎり企業名をあげていった。したら途中で、(…)くん!もういい!結婚式いけやんくてむしろよかった!おれが(…)くんの立場やったら無理!死ぬ!同級生にあわす顔がない!だって(…)くんいま◯◯(うちの職場名)やで!と(…)さんがじぶんのことを棚にあげていうのがまたおかしくげらげら笑っていると、でも(…)くんやって作家さんになるかもしれんもんなっ、芥川賞とったら出世やもんなっ、そうなったらいちばん出世やもんなっ、と(…)さんが冗談とも本気ともつかぬ口調でこちらをフォローするようなことをいうものだから、そもそもの話ね、どんな先進国でもいまってだいたいせいぜいが週休2.5日制かそこらでしょ、それ考えたらぼく時代先取りまくっとるわけっすよ、二百年後くらいの歴史の教科書に世界ではじめて週休5日制を提唱した男って感じで、たぶんあのーぼくのブロンズ像とか掲載されまくるんちゃうかなと、気づけばまた馬鹿なことばかりいってる。ここに勤めはじめてまもなく研修もおわって独り立ちしてぼちぼちのころ、どうや、と(…)さんに職場の印象を漠然と聞かれたときに、出勤するたびにiQが10ずつぐらい下がっていく感じがしますねと答えたことを思い出した。
(…)兄弟に上京の旨を伝えた。(…)くんはすでに就職の関係で横浜に引っ越しているらしく、(…)くんのほうも現在就活中でどうなるかわからないとのことだった。(…)くんの職場は月曜日が休みらしいので、それを考えるとやはり日曜日の勤務を終えたその足で夜行バスに乗って月曜日に東京着というのがいちばんいいかもしれないと思った。で、木曜日夜のバスに乗って金曜日の朝に到着する、と。あるいは土曜日朝に到着したその足で職場にむかうのもありかもしれないが、そんなことをしたらまたもや気絶することになってしまうかもしれない。(…)くんが寝床の世話をしてくれるというのだけれど、さすがに四日も五日も世話になりつづけるのもアレであるし、三月だからさすがに野宿はつらいことを考えるとやはりネットカフェかカプセルホテルあたりでの宿泊も考慮してとかいろいろ思うのだけれど、まあそういうもろもろ考えたり計画したりするのあんまり好きでないしとりあえず現地にさえいってしまえばあとは存外なんとかなってしまうものだという傲岸不遜な思いあがりめいた楽観性もあって、それも決してゆえなきものというわけではなくそれほど多くはない過去の旅の記憶がしかしたしかに裏打ちするところではあるので、とにかくさっさとチケットだけ確保してあとはぜんぶむこうで適当に決めようと思った。タイもカンボジアも沖縄もぜんぶそうだったのだ。ぶらぶらしてたらだれかが見かねて拾ってくれる。あるいは絶好のどこかにどういうわけかたどりついてしまう。どうにでもなれの磊落な開きなおりだけがどうとでもなる現実の寛容を呼びよせる。
(…)さんが職場にやってきてしばらく、(…)さんとの話し合いはどうだったと水をむけてやると、案の定不満のずいぶんたっぷりと残るらしい口ぶりだったので、まあそりゃそういうところもあるだろうなと思った。しばらく話を聞いていると、でもわたしもういいんです、もういいやって、もう好きにしてって、勝手にすればいいってそう思ったけん、といって、不満はたしかに残るのだろうけれどもしかしたしかに物事に一区切りのついた表情を浮かべてみせるので、そうかそうかと受けた。で、まもなく交代の時間がやってきたので現場を去って更衣室でスーツを脱いで私服に着替えていると、カーテン越しに(…)さんいまちょっと入っていいですかと(…)さんの声がし、うわやっぱりだめか、まだまだ言い足りないところがあるのか、と思いながらええよと受けると、昨日まで帰省していたという福岡土産の甘いものをひとつこれあげますといって差し出されたのでどうもありがとうと受けとりほっとした。で、お先に失礼しまーすおつかれさまでーすとみんなに挨拶しておもてに出て、iPodに接続されたイヤホンのぐるぐるになったケーブルをほどいでその先端を耳の穴につっこむというところで後ろのほうで扉の開閉する音がして足音がつづきまたもや(…)さんとこちらを呼ぶ(…)さんの声がするので、今度こそかと思ってふりむくと、これあげますといってやはり福岡土産の明太子を差し出され、すごい立派なものだったからこれ高いんちゃうのとおっかなびっくり受けとると、わたし今回の帰省が最後かもしれないしお母さんがいっぱい持たせてくれたんです、だからいいです、桐箱にきちんと包装されてるやつじゃないからそんなに高くないけど、でもこれおいしいです、福岡でいちばんおいしいところのです、というので、どうしてこんな日にかぎって米を炊いてないんだろうという悔やみをじっさいにこぼしながら、ありがとう、大好物や、おいしくいただくね、と受け取った。
蕁麻疹のスーパーで半額品の天津飯とササミカツを購入し、帰宅してから納豆ともずくと明太子といっしょにかっ喰らった。シャワーに入り、ストレッチをし、イザベル・ファウストの演奏するブラームスをおともにここまで一気呵成にブログを書きあげた。(…)からとつぜん来月か再来月あたりに香川にうどんを食いにいこうという誘いがあったので何の考えもなしにとりあえず了承したそのついでに来月おれは東京に行くと宣言するとおれも東京とシンガポールと福岡にいくという返答があったのでおめえはいっつもどっこやかや旅行しすぎなんじゃと突っ込んだ。
明日は半年ぶりどころか八カ月ぶりか九カ月ぶりかわからないけれどもとにかくじつにひさしぶりに(…)さん(…)さんと夜遊び。