20140223

 十九日同地海軍水上機基地部隊生存者約四十八名ガ合流。数日後ブララカオ川口ニ破損碇泊中ノ機帆船ヲ修理シテルソン島ニ渡ルト称シ、全員山ヲ下ッタガ、ゲリラニ襲ワレ、指揮官石崎少尉以下十名ノ犠牲ヲ出シテ再ビ山ニ戻ッタ。我隊ヨリ分与セル食糧モ同時ニ失ッタタメ、以後食糧ヲ附近山野ニ渉猟シテ惨状ヲ呈ス。病人ハ常ニ上官ヨリ「死ネ、死ネ」トイワレ殴打サル。
大岡昇平『俘虜記』附録「西矢隊始末記」)



6時15分起床。8時より12時間の奴隷労働。(…)のおっさんの一件がどうにかこうにかかたちの上だけでも片付いたと思ったら今度は(…)さんと(…)さんの関係が悪化しつつあるというか(…)さんのインフルエンザからの復帰以降(…)さんがふざけた口調ながらも埋め合わせとして乳揉ませろや発言をくりかえしていてそれが一度や二度のことならまだしもわりと執拗なものだから(…)さんがけっこうご立腹な感じでわりと空気のわるいことになっており(…)さんもさすがにこれはまずいと思うところがあるらしくもうアホなことはいいませんといちおう誓いをたてたりはしたのだけれどまじめに謝罪する気恥ずかしさがたってかおどけた謝罪になってしまってそれにますます(…)さんが不機嫌になるという悪循環の流れがひとまずできあがってしまっており(…)さんにはその一線超えちゃ駄目だろしっかりしてくれよと思うし(…)さんには(…)さんは底なしの阿呆だけれどああ見えて不器用ながらも反省しているようであるしあの阿呆さに免じてここはもうひとつどうにかこらえてもらえればと思う。
(…)さんとふたりで話す時間があってそのときに(…)のおっさんのセクハラ騒動における(…)さんの対応にたいする不信感みたいなものを(…)さんも感じているようで女性だったらまあそりゃそうだろうなと思うというか今回の一件についてはじぶんもはっきりと(…)さんにたいして疑念と不信といらだちを募らせていたのだけれどこの職場にいる男性陣というのは基本的に徹底的な男尊女卑的思考の持ち主ばかりで「だから女は〜」みたいな物言いにはじまりいまどき本気で女は馬鹿だだの女には理性がないだだの女は子宮でものを考えるだの女はなんでもいいから構ってほしいだけの阿呆だだの男が浮気をするのは甲斐性だが女が浮気をすれば尻軽クソビッチだだのを本気で口にしていたりしてこういうの正直にいってけっこうきっついというかはっきりと抵抗感をおぼえるのであるのだけれど、そのような考え方の開陳、というかそのような考え方ありきのそれを前提とすることではじめて成り立つ言説の数々にたいして猛烈な反感を抱く人間がいるということを知らないくらいには無知で想像力に欠けたひとたちであるというかそれは彼らの所属するコミュニティ全体に蔓延する病であるのだから想像がおよばないのはある意味で仕方ないのかもしれないけれどもとにかくその一点にかけては最低最悪で毎度のことながらげんなりするし教育っていうのは本当に重要だと女性蔑視のみならず差別的言辞の日常茶飯事に飛びかうこの職場に身を置いているとつくづく感じ入るのだけれど、差別の構造にたいする感受性からではなくみずからもまたその被害をこうむりかねない女性であるというその防衛的な自覚に端を発するきわめてフィジカルなものなのだろうけれど今度の一件については(…)さんだけは唯一まともな考えをもっているように思われ、(…)さんが(…)のおっさんにたいするヒアリングの実行を(…)さんにせまったことについて(…)さんは(…)のおっさんがじぶんではない別の女にちょっかいを出しはじめたことに(…)さんが嫉妬したにすぎないのだと、このあいだの二時間にわたる長電話のあいだもしきりにくりかえしていたし同様の内容を(…)さんのまえでもべらべらと開陳していたらしいのだけれどその場にはもちろん女性であるところの(…)さんも居合わせていて、論旨もクソであればそれを開陳する場の選択もクソであるというか女性蔑視たっぷりの事柄を口にされて嫌な気持ちにならない女性なんてまずそうはいないだろうし、のべつまくしたてる口調が男性間でとりかわされる秘密の響きを帯びることでもあればそれはそのまま(…)さんにたいしてわれわれはあなたを女性として見ていませんのメッセージとして作用しかねないし、(…)さんは例外的にものわかりのよい女性であるから気にしないのでいるのだという弁明が仮にくりだされたとすればそれは外堀を埋める抑圧のほとんど最悪の形態だろうし、とにかくよくない、本当によくない。もうそれやったら男だけで勝手にすればいいってわたし思ったわ、と(…)さんは今度の一件をそう総括して憤っていた。それから、ふざけてやっているとわかってはいてもいざあんなふうなことをいわれてしまうとやっぱりどうしても恐怖感みたいなものをおぼえる、と(…)さんのことについても続けて語った。ふしぎなんやけど、わたし(…)さんがあんなふうに乳揉ませろとか吸わせろとかな、冗談やってわかっとんのやけどああいうふうにいわれてしまうと、ああ、そういうふうに見とんのやなって、そういう意識が働くとふしぎなんやけどちょっと怖くなる、恐怖心みたいなんがな、やっぱりどうしても出てくんのよ、ドアとか開けて待ってくれとるときにその腕のな、突っ張った腕の下とか通るときとかにな、やっぱどうしてもこうびくっと身構えてしまうの、やしわたしもうなるべく近づかんようにしとんの、こう、ちょっとでも身をひきはなしてな、そういうのってな、やっぱりあんねん、もう、相手がどうとかな、年齢とかそんなん関係ないとわたし思う、といって、そうだよな、やっぱりそう思うんがふつうなんだよな、と思った。それからこういう女性の心情の吐露さえ許さぬこの職場の空気はなんだろなと思った。(…)さんはじぶんの前ではこういうふうに本音のところで語ってくれたけれども、たとえば恐怖感のくだりなんてほかの男性陣のまえではぜったいに口にできない、したら若い女の子というわけでもないのにいい年してなにいってんだと、裏でそのように嘲笑気味にささかれることになるにちがいないと、そこまで考えてしまって結果なにもいえなくなるんだろうと、その内心のはっきりと透けて見えて、ここで働くのはけっこうつらいだろうな、とすごく同情した。そしてそのような空気の醸成されてあることにまったくもって無頓着な、徹底したミソジニーにつらぬかれてあるここの連中の価値観とそこから派生するなり補い合うなりしているにちがいない極右といってもさしつかえない政治的思考との結びつきもまとめて嫌悪する心がひさしぶりに巨大に燃えさかり、大戦時の日本を語るときのおきまりのフレーズに軍部の暴走というのがあるけれどもきっとそれだけじゃない、この手の市民ひとりひとりの下品きわまりない大声こそがむしろ時代を暗黒に押しやったんでないかと思われてならないしそれはここ数年の世論の移り変わりを見ていても感じる。すべて政権の問題か?その政権を支持する国民の問題か?むしろ国民の声がこのような政権を要請したんでないのか?民主主義のじつをいうとすみわたった徹底こそがこの愚劣なポピュリズムを呼びまねいているのではないか?金子光晴の自伝には大戦時の国民の愚劣なもりあがりがありありと描写され非難されていた。
現代日本社会のことを考えるときほど人間というものに嫌悪感をおぼえないときはない。さっさと滅びたほうがいいんでないかとさえ思う。
(…)さんは二十歳のころに健康診断で聴診器を胸にあてられたあと、きみ胸がおおきいねと医者にいわれたことがあるといった。それから二十数年経ったいまでも、よほどのことがないかぎり病院にだけは行かないという意志がいきている。この挿話を聞いたときに、ひどい話だと思うと同時に艶かしいものをも感じとるじぶんがいた。要するにこいつだと思った。こいつを否定しては男の側から女性の立場を考えることができない。こいつを否定できぬ前提として組み立てるべきものを組み立てておかないと、ないものとして看過して組み立てたものはかならず脆弱性をきたすことになる。
毎年書いている気がするけれども風邪の名残かとおもわれるものがじっさいは花粉症の初期症状であることがここ数日の外出時間や天候の具合と相関する咳の度合いや鼻くその貯蔵速度から明らかになった。今週からいっきに暖かくなるようであるしそろそろ耳鼻科にいっておかないとまたえげつないことになってしまう。
仕事を終えてから(…)さんに連絡をとった。まもなく(…)さん(…)さんが車でやってきたのでアパートに隣接する空き地に車を停めてひさしぶりにふたりに部屋にあがってもらった。(…)さんと最後に会ったのは(…)の来日する前であるから5月か6月か、いずれにせよずいぶんひさしぶりの再会となった。引っかけた。すでに四カ月が経過しているが誕生日プレゼントとして肩こり対策のあのピップエレキバンみたいなやつの強力なものを差し出されたので爆笑した。しばらく談笑したあとに大盛りメニューで有名なファミレスに出かけた。車のなかではグールドのゴルトベルク変奏曲が流れていた。ファミレスに到着するとラストオーダーをすぎていると追い返された。食べ放題の焼き肉にいった。(…)さんがまた肉を焼かずに生で食いまくっていた。家の近所の王将前でおろしてもらった。コンビニで飲み物と甘いものを購入して帰宅してから食べてたぶんYouTubeを観たり音楽を聴いたりして寝た。刻明にたどった記憶の結果がこの記述だ。すっかすかにもほどがある。