20140406

 (…)それにまた、法律というのは言葉でできています。映像ではできていません。映像は、法律が適用されたり、裁判官が証拠を提出したりするときにしか役立てられないのです。もっとも、無実の人が自分の無実の証拠を映像をつかって提出するという場合もあります。あるいはまた、その証拠をテクストの形で提出するという場合もあります。そしてその場合のテクストは、ひとつの映像とみなすことができます。なぜなら、人々はそこになにかを見るからです……突然なにかが見えてくるからです。それに数学でも、《したがって、われわれは次のことを見る》という言いまわしがつかわれます。でもこうした場合を除いては、言葉というのはふつう、なにかを凝固させるためにつかわれます。あるいはまた、《食卓につく前には手を洗わなければならない》といった社会的法則であれ、思考の法則であれ、なにかを法則に仕立てるためにつかわれます。
ジャン=リュック・ゴダール/奥村昭夫・訳『ゴダール映画史』)

 私はまだ一度も、ひとから《おまえの映画は左翼的だ》とか《右翼的だ》とかと言われたことがありません。映画の連中が私になげつけた唯一の非難は、《おまえがつくっているのは、それは映画じゃない》というものです。そして私がテレビの仕事をすると、《それはテレビじゃない》となるわけです。
ジャン=リュック・ゴダール/奥村昭夫・訳『ゴダール映画史』)



 6時20分起床。朝っぱらから鼻づまりがひどい。歯を磨きストレッチをしたのちヨーグルトとバナナと蜂蜜とコーヒーの朝食をとった。昨日にひきつづき今日も冬物のコートを羽織って外に出た。とても寒い。早朝の街を歩くひとたちの服装もどことなく季節に逆行して色味の少ない厚手のものが目立った。家を出て二三分のところで暖房をつけっぱなしにしているんでないかと疑われたが、遅刻ぎりぎりだったので引き返すことができなかった。13時間後、帰宅して疑いが事実であったことを知った。
 忙しくなるだろうと覚悟していたが、昨日にくらべると全然マシだった。勤務中はひたすら鼻をかみつづけていた。鼻まわりの皮膚が荒れた。頭痛のきざしがあった。咽喉がむずがゆく、舌の先で口蓋をなぞるとざらざらとした。旅行に行く自信がなくなった。けれど行かないなら行かないでがっくりすることはまちがいない。万全を期そうと思った。夕方、とても逆らいようのない眠気の来襲を受けて、いっしゅんにして意識が飛んでしまうという極端な経験をした。電話の音で目がさめて、じぶんの身になにが起こったのかよくわからなかった。気絶明けの戸惑いに似ていた。
 帰宅してから暖房のスイッチを止め、風呂場でシャワーを浴びた。部屋にもどりストレッチをしてからNくんにメールの返信をし、それからコンビニに出かけてドリアとカップ麺とお茶を買った。レンジで温めたドリアをかっ喰らいながらウェブ巡回をすませ、一年前の日記をまとめて二週間分ほど読みかえした。2013年3月25日付けの記事にマンスフィールドの小説からの引用があって、あらためて度肝をぬかれた。目尻がうるみかけた。

 「まってよう、イザーベル! キザイア、まってよう!」
 かわいそうに小さなロティはまたしてもあとにとりのこされた、ひとりで柵段を乗り越えるのがとってもむつかしいので。一段目に乗ると膝がガクガクしはじめ、柱にぎゅっとつかまった。それから片方の脚をまたがせなければならない。だけど、どっちのあし? どうしてもきめられない。やっとのこと、どうにでもなれというようにバタンと足踏みをして片方の脚をまたがせた――ところが、さあたいへん、そのきもちといったら。体の半分はまだ草地のほうで、半分はかもがやのほうだ。ロティは無我夢中で柱にしがみついて声をはりあげた。「まってよう!」
 「だめ、まってなんかやらないのよ、キザイア!」とイザベルがいった。「ロティはほんとにおばかさんよ。いつだって大さわぎばかりしていて。おいでよ!」イザベルはキザイアのジャージーをひっぱった。「いっしょにきたらあたしのバケツを使わしてあげるわ」とイザベルは親切げにいった。「あんたのより大きいのよ」けれど、キザイアはロティをひとりぼっちにしてうっちゃっていけなかった。ロティのところへかけもどった。そのときにはもうロティは顔をまっかにして息をハアハアさせていた。
 「ここんとこにもうひとつのあしをまたがせるのよ」
 「どこよ?」
 ロティはまるで山のてっぺんからのようにキザイアをみおろした。
 「ここよ、あたしの手があるとこよ」キザイアはそのところをたたいた。
 「ああ、そんなとこなの?」ロティは大きくためいきをついて二つめの脚をまたがせた。
 「さあ――からだをちょっとまわすようにしてこしかけてすべるのよ」
 「だってこしかけるところなんかないわよ、キザイア」
 やっとどうにかこうにか乗り越えた。そして、すんでしまうと、ロティは身をゆすぶって顔を輝かした。
 「あたちだんをのりこえるのうまくなってきたでしょ、ねえキザイア?」

 やるべきことをやりおえたところで酩酊した。YouTubeサイケデリックな動画を視聴し、カップ麺を喰らいながら続けて「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」を見た。先日母親からもらったばかりのチョコレートも食べた。それからマイケル・ジャクソンのキレッキレのダンスをひととおり視聴し、パソコンをデスクから枕元にうつしたあとは、もう何年も前から気になっている『ニーア レプリカント』のプレイ動画を視聴した。冒頭三十分ほどをたどったところで気絶するように眠りに落ちた。