20140427

「あ、そうだそうだ」その時私は袂の中の檸檬を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この檸檬で試してみたら。「そうだ」
 私にまた先ほどの軽やかな昂奮が帰って来た。私は手当たり次第に積みあげ、また慌しく潰し、また慌しく築きあげた。新しく引き抜いてつけ加えたり、取去ったりした。奇怪な幻想的な城が、その度に赤くなったり青くなったりした。
 やっとそれは出来上った。そして軽く跳りあがる心を制しながら、その城壁の頂きに恐る恐る檸檬を据えつけた。そしてそれは上出来だった。
 見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の諧調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。私は埃っぽい丸善の中の空気が、その檸檬の周囲だけ変に緊張しているような気がした。私はしばらくそれを眺めていた。
梶井基次郎檸檬」)



 6時半に起きた。歯を磨きストレッチをし、パンの耳2枚とコーヒーの朝食をとった。おもてにでると早朝にもかかわらずずいぶん暖かかった。夜中にいちど汗だくになって目覚めたことのあったのを思い出した。冬から春にかけて寝間着にヒートテックを採用しているとたびたびこういうことがあった。薄着で出たにもかかわらず職場に到着するころにはじっとり汗ばんでいた。鴨川のそばを通ると川幅がせまく水位の低くなっていることに気づき、これだいじょうぶかなと思ったが、職場に到着してJさんとあいさつを交わしているときに翌日より雨降りらしいことを知った。
 労働。予想とは異なりそこそこ暇な日中だった。あまりの空腹のために吐き気をおぼえる昼前があった。Tにもらった福岡土産のラーメンを冷凍チャーハンといっしょに贅沢な昼飯としてかっ喰らったが、食後とんでもない下痢ラ豪雨に見舞われた。そのTから「3ヶ月は短ぇ!!短過ぎる!!」というメールが携帯のほうに届いたので、「気づくのおせえよ!」と返信した。
 帰りの引き継ぎのさいにはめずらしくMさんとやや長話(ファッションブランドと幸福の科学について!)をした。半額品の寿司か刺身を目当てにスーパーに立ち寄ってみたところ20%引きしかなかった。しかたなくそれほど魅力的ではない売れ残りの寿司を購入し、帰宅してからあさげといっしょにかっ喰らった。夕方に職場で冷凍食品のたこやきを食していたのでそれで十分だった。
 シラフで過ごすひさしぶりの日曜夜だった。25日付けの日記の続きを書く気になれなかったので、『ピストルズ』の続きを寝床で読んだ。すぐに眠たくなったので消灯した。うつらうつらとしたところで隣人の出入りする物音があり、引き戸をがらがらぎいぎいさせる音のまるきこえであるのが幾度となくくりかえされるものだから腹が立ってしまい。半分ねぼけた状態で畳を拳で殴りつけてうるせえと叫んでいるじぶんのふるまいであらためて目がさえて悪循環、いちど小便にたって部屋にもどり、ふたたび本をとりあげたところでOさんから電話があった。紀伊国屋カフカの『変身』の対訳本を見つけたからTちゃんカフカ好きっていってたし英語の勉強にもなるからどうかなって思って、とあったので、すんませんわざわざありがとうございます、と応じた。最近そういえば会ってないですね、というと、今日もおるかなーとおもってT(喫茶店)のぞいてみたんやけどおらんかったしな、とあったので、Tがフィリピンに渡ってからなんとなく日曜の夜は自室で過ごしてしまいますわ、といった。またひとりでもいいからおいでよ、というので、そうですねまたゆっくりおはなししましょうと応じ、電話を切った。そうしてひさしぶりに耳栓を装着し、またすこし本を読んで眠気をもよおしてきたところで消灯した。