20230105

古井 確か、「日本人は漢字に仮名を振ってるつもりだけど、実は仮名に漢字を振って読んでるんだ」と言ったフランスの哲学者がいましたね。あれは、半分ぐらい当たっている気がします。
大江健三郎古井由吉『文学の淵を渡る』)



 10時ごろに自然と目が覚めた。しばらく寝床でぐずっていると、朝っぱらから上階で日曜大工でもしているのかなという物音がたちはじめて、マジでこいつら狂っているんではないか? 壁をおもいきり蹴飛ばす。すぐに静かになる。馬鹿が! 死ね!
 歯磨きしながらスマホでニュースをチェック。(…)から微信が届く。ビザを更新するためにはやはりmedical checkを受ける必要がある、と。しかし明日は出かけることができない、義理の母親がCOVIDのせいでvery sickなのだ、だから9日はどうだろうと続く。了承。しかしビザの期限が切れるのが20日であるし、これで仮にこちらが9日に発症して一週間ほど動けなくなったりした場合のことを考えると、ちょっとだいじょうぶかなという心配がないこともない。ビザが切れたらふつうに不法滞在ということになるのでは?
 トースト二枚食す。食後のコーヒーを二杯たてつづけに飲みながら、きのうづけの記事の続きを書いて投稿。ウェブ各所を巡回し、2022年1月5日づけの記事を読み返す。作業のあいだは『月へ行くなら』(虫ミュージック)を流す。上階の馬鹿がたびたびやかましくなるので、その都度クローゼットを殴ったり壁を蹴ったりして黙らせる。

 街着に着替えて寮を出る。自転車に乗って(…)へ。きのうづけの記事に大気汚染が改善されたと書いた直後であるが、空がふつうにガスっていて、なんでやねんとなった。しかしただの霧のようにもみえる。いやなにおいがするわけでもないし、スマホの天気予報機能で確認できる大気汚染指数も全然高くない。よーわからん。
 (…)の広場前にはなぜかパトカーが二台も停まっていた。館内はそこそこの人出。やっぱりひととおり感染し回復したひとたちがこぞって外出しているのだろうと推測するわけだが、N95を装着している姿もぼちぼち見かけた。たぶんあのひとたちはこちらと同様、いまだに感染していないレアキャラ、まあいってみればはぐれメタルみたいなものだろう。はぐれメタルといえば、コロナに感染したらアプリ版のドラクエ5を購入して寝床のなかでプレイしまくろうというあたまで去年からずっといて、なんだったらそれをちょっと楽しみにしていたところもある。だからいつまで経っても感染しないこの状況に対して、ごくごく稀にではあるが、ちょっと微妙な気持ちになることもある。いや、絶対感染しないほうがいいに決まっている、それは間違いないのだが、それでもせっかくの正月であるし冬休みであるし……みたいな、そういうアレもなくはないのだ。
 (…)へ。春節も近いからだろう、酒類がいつもよりけっこう大きく陳列されている。中国産のみならずさまざまな国のさまざまな酒があるのを見て、そっか、酒が飲める人間だったら正月の三が日くらいは毎日昼間っからがぶがぶ飲んだり食ったりして、けっこう楽しむことができるんだろうなと思った。中国ではダメだが、これがもしオーストラリアやオランダやアメリカだったら、正月三が日は昼間っから大麻を、それこそ「尻から煙が出るほど」(中島らも)吸いまくって楽しむこともできたわけだ。やれやれ。
 まずは野菜売り場でトマトとたまねぎと青梗菜を購入。それから精肉売り場に移動し、鶏の胸肉を五日分購入。いつも値段をあまり見ずに適当に買っているのだが、前回買った鶏の胸肉はあきらかに高かったことがのちほど判明したので、ひょっとして朝びきのやつだったのかなと思って今回確認したところ、やはりそうだった、朝びきとそうでないのとがあるようだった。鶏肉はどうせ冷凍保存するので、今日はもちろん安いほうを買う。鮮度なんてどうでもよろしい。あとは例のごとく冷食の餃子も一パック。红枣のヨーグルトも残り少なかったのでほしかったのだが、なぜか今日はヨーグルトがすべて在庫なしになっていた。なんでや。あと、以前第四食堂の近くの売店で買ったチーズ味のウエハースがクソ美味かったので、それがあればいいなと思ってはじめてお菓子コーナーをのぞいてみたのだが、お目当てのブツはなかった。しかしココナッツ味の、あれはどういえばいいのだろう、ストローみたいに中が空洞になっている棒状のお菓子が売っていたので、ココナッツ大好き人間としてはこれは買わないわけにはいかん。中国はココナッツ味のジュースだのお菓子だのが多いのがうれしい。タピオカの次は案外こいつらが日本に渡るかもしれん。いや、その前に流行するものがあるとすれば、これは(…)先生も言っていたことであるが、肌の色にきわめて近い冬用タイツだろう。冬でもjkファッションのミニスカートを履いている子たちはだいたいみんなあのタイツを身につけている。

 セルフレジでの支払いにまた時間がかかる。電波が悪いのでなかなかスマホがデータを読み込んでくれないのだが、それを待てない店員のおばちゃんが横から口出ししてひとのスマホを勝手に操作しようとする。しかしやることといったら結局おなじことのくりかえしなので(精算機のQRコード微信経由で読み取るだけ)、せっかく途中まで進んでいた読み込みのリセットにしかならずうんざりする、もう放っておいてくれとなる。
 建物をあとにする。自転車に乗って帰路をたどる。寮に到着後、すぐにキッチンに立つ。鶏肉を四パックまとめて買ったのだが、一パックにつき250gから300g分入っているので、そいつらを全部中華包丁で微妙に切り分けて一パックにつき220gほどに調整、五日分に分ける。それから米を炊き、鶏肉とたまねぎとトマトとにんにくをカットしてタジン鍋にぶちこむ。
 食後はベッドに移動してA Good Man Is Hard To Find(Flannery O’Connor)の続き。20分ほど仮眠をとったのち、コーヒーを淹れてデスクへ。「実弾(仮)」第四稿。19時から22時までカタカタやった結果、プラス10枚で計76/977枚。シーン7をひたすら調整。とりあえずこれでずいぶんマシになったかなというところまでもっていくことができた。ちょっと大変だったが。孝奈の服装描写を追加したのだが、シーンの後半に登場する無名の女子の服装がその孝奈の服装によく似ていることに気づき、うわ! 最悪! やりなおしや! と一瞬思ったが、しかしよくよく考えてみると、似たような服を着ている人物が同一空間にいるなんてこと現実では往々にしてあることでは? あぶない、あぶない! キャラクターの論理に負けるところだった! こちらが書いているのはキャラではなく人間なのだ!
 作業を終えたところでジョギングに出かけようと思ったが、ジョギング用のニット帽がまだ乾いていないことに気づき、じゃあもう明日でいいやとなった。物干し用のロープが張られているスペース、暖房は当然ないのでめちゃくちゃ寒いし、浴室がとなりにある関係上、入浴後の湯気で湿度が高くなることもあるしで、冬場は洗濯物を干してもマジで全然乾かない。洗濯物はすべて加湿器を兼ねて寝室に干したほうがいい。
 シャワーを浴びる。寝室にもどってストレッチをしていると、上の部屋の住人が帰宅する物音が立ったが、それより以前から上の部屋では生活音がやかましかったので、やっぱりひとり暮らしではないのか? しかしマジでうるさい。厚底のブーツでごつごつとフロアを踏み鳴らす足音がマジでじかに響くし、それが鳴り止んだあともズンズンミシミシ階下のこちらに遠慮のない生活音が続くので、いつもよりちょっと高い声を意識して「うるせえ!」と吠えてみた。地声のままだとけっこう低いので、あんまり上まで届かなかったりするのではないかとなんとなく思い、古いタイプのヤンキーが切れたときのようなすっとんきょうな声で吠えてみたのだが、ちょっと効果があった気がする。ま、じきにまたうるさくなるんだが。寮に住んでいるということは大学の関係者であるとは思うのだが、いったいいつまで寮にいるつもりなのか? さっさと田舎に帰ってババアの野良仕事手伝ってこい!
 餃子を食し、ジャンプ+の更新をチェックする。ついでに買ったばかりのココナッツのお菓子も食ってみたが、クソうまかった、腹いっぱいになった。そのまま今日づけの記事も途中まで書き記し、0時になったところで中断。歯磨きをしてベッドに移動。その後はA Good Man Is Hard To Find(Flannery O’Connor)の続き。“The Artificial Nigger”を読み終わる。これ、いつ読んでも思うのだが、長いんだよな。もうちょっと短くできると思うのだが、オコナーの作品にしてはめずらしくけっこう冗長な感じで、かつ、説明も多い。説明というのはここでは、最後の最後で啓示に打たれた老人が、sinとforgivenessについて考え感じるくだりのことなのだが、ここはけっこう、オコナー自身が自作解題してしまっている感が出てしまっているというか、まとめにかかっているなというのが露骨に出てしまっており、老人と孫息子のむずかしい関係とか都市部での冒険とかアイディアもディテールもいいのに、こうした冗長さと説明過多によって、オコナーの優れた短編に見られるむきだしの容赦なさみたいなものがけっこう薄れてしまっているのだ。しかし最後の最後、去りゆく電車のことを“the train glided past them and disappeared like a frightened serpent into the woods”という比喩で描写している箇所には、ちょっとはっとした。ものすごくみずみずしいイメージ。これ、「実弾(仮)」でパクらせてもらおうかな。ラストシーンはちょうど踏切が舞台だし。