20230827

 11時起床。雨降りなので涼しい。最高気温が30度を切っている。ここから一気に秋へとなだれこんでいくのかもしれない。歯磨きしながらニュースをチェックする。トースト二枚を食し、コーヒーを飲みながらきのうづけの記事の続きを書いて投稿。ウェブ各所を巡回し、2022年8月27日づけの記事を読み返し、2013年8月27日づけの記事を「×××たちが塩の柱になるとき」に再掲する。
 新二年生の(…)くんから微信。スピーチの練習には新四年生の(…)くんも参加しているのだが、彼も先生と一緒に食事をしたいといっているとのこと。了解。しかしそうなると、(…)くんが望んでいるような処理水の話はちょっとしにくくなるかもしれない。
 『スロー・ラーナー』(トマス・ピンチョン/志村正雄訳)の続きを読む。読み終えたところで、今日づけの記事もここまで書くと、時刻は14時だった。

 授業準備にとりかかる。16時半ごろに中断。三年生の(…)さんから微信が届く。かれこれ二週間ほど前にテーマスピーチの原稿の進捗状況についてたずねる微信を送ったのだが、それに対する返信がようやく届いた格好。ボーダーコリーの(…)の看病でずっと忙しくしていたが、ようやく原稿を書きあげることができたという。担当の先生に原稿を送って内容面に問題なしという判断が下されたらあらためてこちらに原稿を送るようにと返信したうえで、(…)はまた体調が悪くなっているのかとたずねると、二ヶ月間ずっと病気だったという。
 17時に外国語学院で待ち合わせだったので寮を出た。自転車を出そうとしたところで(…)と遭遇。こちらの自転車のとなりにいつも白い新品の自転車がとまっているのだが、どうやらそれは(…)の持ち物であったらしく、ちょうど空気を入れているところだった。なにやらいろいろと言っていたが、彼の英語はほとんど聞き取れないので、適当に愛想笑いをして誤魔化す。
 寮を出た先で今度は(…)と(…)から声をかけられた。(…)の散歩中らしい。(…)は見違えるほど大きくなっていた。環境問題に深くコミットしており、かつ、ガチガチの反米主義者であり、かつ、絵に描いたような陰謀論者である(…)のことであるから、処理水の話題をさっそく放りなげてくるだろうと思っていたのだが(二年前に再会した食事の席では実際その件についてぶっこまれた記憶がある)、そんなことはなかった、ごくごく普通の世間話に終始した。ドラえもんグッズのお土産があるというと、(…)はどんなものであるのか興味津々のようすだった。日本アニメのグッズなんてクソだという反応が出てもやむなしくらいに思っていたのだが、さすがにそこまでアレではなかった。(…)は夏休み中ほとんどどこにも出かけなかったという。暑すぎてとてもそんな気になれなかったというので、まあそうだよなという感じ。(…)と違って(…)の英語はやっぱりずっと聞き取りやすい。
 地下通路の前に自転車を停める。徒歩で通路を抜けて外国語学院へ。門前に男ふたりが突っ立っているのだが、こちらを驚かすつもりでいるのか、あるかなしかの小雨のなかに差した傘でじぶんたちの顔をまるごと隠している。近づいていくと、その傘をばっとのけて、先生ひさしぶり! と(…)くんと(…)くんのふたりがいう。(…)くんは髪が長くなっていた。そして首に真っ白なヘッドフォンを装着していたので、いいねそれ! かっこいいじゃん! といった。100元ほどだったという。ふたりは万达まで食事にいこうといった。出向くのがめんどうくさいというあたまがあったので、この時期に日本人といっしょに出かけてだいじょうぶ? とこちらからぶっこんでやると、ふたりとも笑って、ちょっと不安かもしれませんといった。だったらもう外卖にして教室で食べようよと提案した。ふたりとも異議なし。それでスピーチの練習で使ういつもの教室にあがった。
 今日からだったか昨日からだったか忘れたが、(…)先生によるスピーチコンテストの練習が7日間続く。(…)さんは遼寧省に待機したままもどってくるつもりはないわけで、(…)さんも同様なのかもしれないが、いずれにせよ今日の午前は男子学生ふたりだけの練習だったという。午後は(…)くんひとりになったというので、どうしてとたずねると、(…)くんのテーマスピーチ原稿に対して(…)先生がボツを命じたらしく、「そのおかげで」(…)くんは練習に参加せずにすむというのだった(午後は寮でひとり原稿を書きなおしていたというし、明日もそうするつもりらしい)。今日の午後はどういう練習内容だったのかと(…)くんにたずねると、いつもどおり作文を書くように命じられただけだという。添削はもちろんなし。内容に目を通し、ここは良いorここは悪いの感想が漏らされるだけだというので、例によっていい加減な仕事をしているなとげんなりした。
 メシは夏休み中の練習時にも何度かオーダーした猪脚饭にした。(…)くんは辛く味つけをした牛肉が白米の上にのっかっているやつ。(…)くんはやっぱりハンバーガー。処理水の話に当然なる。(…)くんの意見については聞くまでもないのだが(彼はいわゆる精日分子なので)、(…)くんもかなり冷静な見方をしているようすで、壁の外側にある情報をどれだけ得ているのかは不明であるが、そもそもそんなに影響があるはずないだろうという立場であるようだったし、塩の買い溜めに走った人民らのことを嘲笑していた(この点についてはむしろ(…)くんのほうが、田舎の老人らの場合は知識もなにもないのだから仕方ないと擁護していた)。先生はどう思いますかと(…)くんがいうので、まあいろいろ意見はあると思うし、ぼくは専門家ではないから断言はできないけどと前置きしたのち、コロナのときを思い出すよね、壁の内側と外側では全然反応が違うからと続けると、ふたりともうんうんとうなずくふうだった。中国のコロナの政策を知っていますかと(…)くんがいうので、清零(ゼロコロナ)でしょうと応じると、(…)くんはなぜかものすごくびっくりした表情になった。いったいどうしてそういう考えになったのかよくわからないのだが、外国人がゼロコロナ政策について知っているとは思ってもいなかったらしい。
 (…)くんの恋人の話になる。高校一年生からいまにいたるまでずっと付き合っているわけであるが、それでいえば彼のクラスメイトであり、彼とおなじく高校時代からずっとおなじ恋人と関係を維持している(…)くんが先日モーメンツで破局を報告していたので、その話をふったところ、知らないと驚いてみせるので、彼のモーメンツをあらためて確認した。すると、くだんの投稿が消えていた。それできっと復縁したんだろうと話した。恋愛の話でいえば、これはのちほど別のタイミングで出た話題だったと思うが、最近いい感じになりつつある英語学科の先輩がいると夏休みになったばかりのときに言っていた(…)くんであるけれども、その彼女と処理水の海洋放出について意見の食い違いが生じてちょっとぎくしゃくしているという話もあった。微信でのやりとりも見せてくれたのだが、たぶんTwitterで拾ったのだろうさまざまな資料のスクショを相手に送る(…)くんに対して相手は聞く耳持たずで、こちらとしてはそんな彼女の反応そのものよりも、微信やqqであんまりその手の資料を送らないほうがいいんじゃないのという心配のほうが勝ったし、その点は彼にも注意しておいた。
 先にこちらと(…)くんのメシだけ届いたふうだったので、(…)くんを残して外に出た。(…)医院を抜けて道路沿いに出るわけだが、(…)医院は廊下や外観の一部がリフォームされておりかなり清潔になっていて(というより以前が病院とは思えないほどひどく不衛生でボロボロな状態だったわけだが)、病院の名称も変わっていた(なんという名前であったかは忘れた)。
 配達員がやってくるまでのあいだ、ひとりで(…)をおとずれて、水と食パンを二袋買った。レジのおばちゃんが精算機の操作をあやまって、こちらの支払い価格を4000元以上のめちゃくちゃな高額に設定してしまうというトラブルがあった。精算機に微信の支払い画面をこちらが読み取らせた直後に相手のほうで不手際に気づき、アイヤー! となったのだが、たぶんある程度高額の支払いとなるとこちらのほうでパスコードを打ち込む必要があるのだろう、いつもであれば出てこないパスコード入力画面が表示されたので、それでことなきを得たのだったが、おばちゃんの焦った声を受けて奥から別のおばちゃんまで出てきて、それで一同笑った。
 教室にもどる。(…)くんの外卖はまだ届かないらしい。(…)さんから電話があった。どうやらお土産をもってきてくれたらしい。例によってまたこちらの寮を直接おとずれているというので、なんでそういうところだけアグレッシブなんだよと思いつつ、いまは教室にいるよと受けた。(…)さんはいまから教室に向かうといった。通話を終えたところで、お土産については玄関にそのまま置いておいてもらってもかまわないよと微信を送ったのだが、結局、彼女はその後直接われわれのもとにやってきた。武漢旅行に出かけた友達からもらったという桜モチーフの菓子をひと箱まるっとこちらにくれたほか、ちょっとした駄菓子のようなものもこちらと男子学生ふたりにくれた。(…)はあたらしい病気になったのかとたずねると、以前とおなじ病気であるという返事(しかし彼女は「病気」の一語すら聞き取ることができなかった、やはり一年前とくらべるとずっと能力が低下している)。じぶんたちで注射をする必要があるのだが、犬は当然のことながら注射が嫌いなので、彼女の顔を見ると逃げるようになってしまったという話もあった。(…)さんは相棒の(…)さんと夕飯をとるといってすぐに教室を去った。(…)さんは班导であるから新入生をむかえるまえの軍事訓練に参加する必要があり、それではやめに大学にもどってきているのだろう。
 (…)くんがようやく届いたメシを回収しにいった隙に、(…)くんともう少し踏みこんだ話を交わした。(…)くんはやっぱりVPNを噛ませて壁の外の情報をおおむね収集済みだった。(…)くんがもどってきてもそういう話題が続いたのだが、その流れで、共産党はいずれそう遠くないうちに下野するだろうというようなことをいうので、おいおいそれはいくらなんでも踏みこみすぎではないかと思ったし、その可能性はほぼゼロだろうとも思った。(…)くんは共産党は中国に絶対必要だという立場であるが、理性的でない政治家は不要だと同時に口にしており、おそらくだが近平の旦那に思うところが多々あるのだろう。岸田文雄を支持するかと(…)くんがいうので、そもそもぼくは首相というものを支持するとかしないとかで考えない、国民はそもそもある程度は批判的な構えをとって政治家に接すべきであるし、その動向を常に注視しておかしなことをしでかそうとしたらそのときはしっかり批判すべきだと思うからというと、そういう考え方が普通である国のほうがいいと(…)くんはいった。中国では政治家を批判なんてできないからなあというと、中国では政治家相手にはこうですと(…)くんがひきとるなり、あたまをペコペコ下げまくるジェスチャーをしてみせた。
 (…)くんは戦争がいつか起こるのではないかという心配がなによりも大きいといった。こちらも同意。(…)くんは台湾侵攻がきっと近いうちに起きるといったが、それについてはこちらはわりと懐疑的だ。(…)くんは「核武器」の必要性を口にした。「核武器」があれば戦争は起きない、だから中国とアメリカのあいだでも戦争は簡単に起きないと続けるのだが、それほど単純な話でもないだろう。日本には核兵器がないよというと、作ろうと思えば一日で作ることができるというまことしやかな噂が中国人民のあいだでは流れているみたいなことをいうので、マジで? それは初耳だわ! となった。それから自衛隊を設立した人物について、彼はものすごくあたまがいいと(…)くんはいった。日本には戦後軍隊がなかった、軍隊のない国は「牙のない虎」と同じだ、だから自衛隊を作った人物は相当あたまがいいみたいなことを続けるのだが、そのきっかけとして「イラク」がうんぬんというので、自衛隊創設のことをいっているのか、それとも集団的自衛権のことをいっているのか、イラク派遣のことをいっているのか、そのあたりのことはよくわからなかったのだが、しかしまさかそういうピンポイントの評価があるとはとちょっと驚いた。
 あと、日本は外国に文化を伝えるのが上手だと(…)くんはいった。どうやら漫画やアニメなどをはじめとするソフトパワーについての言及らしかったので、でも漫画やアニメがこんなふうに日本文化の代表みたいになったのなんてつい最近のことだからね、オタクなんてひとむかし前はマジで犯罪者予備軍扱いだったからというようなことをいうと、ふたりは笑った。ゲームだったら中国もすごいじゃん、『原神』とか日本でも大人気みたいだしというと、いまは『崩壊』というゲームもあるという。『原神』を製作した会社の新作だというので、先学期に(…)くんがしょっちゅうプレイしていたあのゲームであるなとおしはかった。ぼくが小学生や中学生だったころはまだスマホなんてなかったし、テレビでやるこういうゲームばかりしていたなとコントローラーを握るジェスチャーをしてみせると、マリオですか? とふたりがいうので、そうそうマリオ! あとはストリートファイターとかね! と受けると、後者についてはわからないふうだったので、両手を構えて「波動拳!」と言った。それでふたりとも、ああ! となった。しかし中国では格ゲーといえばSNKのほうが人気らしい。実際こちらも街中のゲーセンでかなり古いキングオブファイターズの筐体があるのを何度も見かけているわけだが、中国で人気の、というかもはやクラシックといってもいいスマホゲーであるところの『王者栄耀』にいまSNKのキャラクターがコラボして出演しているというので、だれだれ? と画像を見せてもらったところ、不知火舞ナコルル橘右京だった。でもこの三人明日くらいには消えているかもしれないね、日本のキャラクターだしというと、ふたりは爆笑した。

 19時過ぎに教室を出た。これからジョギングに向かうという(…)くんと別れ、(…)くんとそろって后街の瑞幸咖啡でコーヒーを打包する。キャンパス内は嵐の去った直後のようになっている。道路は濡れているし、街路樹の枝や葉っぱがたくさん落ちている。こちらは全然気づかなかったのだが、昨夜けっこうすごい雨が降ったらしい。清掃人も夏休みでいないのだろう。
 帰宅。コーヒーを飲みながらひとときだらだら。シャワーを浴び、ストレッチをする。卒業生の(…)さんから微信。明日の食事会には(…)先生も参加するという。レストランの個室をすでに予約済みだというので地図を送ってもらう。自転車であれば15分ほどらしい。(…)さんにお土産の礼を伝える。(…)くんからはインスタかtiktokか知らないけれどもDMっぽい画面のスクショが送られてくる。すべてエロ系の詐欺。メッセージは日本語であるのだが、翻訳アプリ丸出しだ。これは詐欺ですかというので、肯定し、全部ブロックしておきなと助言。(…)くん、もしかしたらちょっと期待していたのかもしれない。
 トーストを食し、プロテインを飲み、フリースタイルでストレス解消する。歯磨きをすませてベッドに移動したのち、『小説の自由』(保坂和志)を読み進めて就寝。