20230912

With grown people, a road led either to heaven or hell, but with children there were always stops along the way where their attention could be turned with a trifle.
(Flannery O’Connor “A View of the Woods”)



 8時45分にアラームで起きた。食パンを切らしていたので朝食は日本土産のクッキーですませる。今日は一転してすずしく、最高気温が26度しかない。とはいえ、すずしいのは今日明日の二日間きりで、週末はまた35度をオーバーするようだが。黒のニットベレー、黒のオーバーサイズTシャツ、黒のイージーパンツ、黒のカンフーシューズ、黒のリュックサックという、全身黒ずくめの格好で外に出る。ピンクゴールドのめがねのチェーンがけっこう映えるコーデ。軽く雨が降っていたし、教室も今日は外国語学院ではなく第三教学楼なので、徒歩で向かうことにした。ミネラルウォーターを購入するのに徒歩で第五食堂まで向かうのもめんどうくさいので、すぐそばにある売店をのぞいてみたところ、そこでいつものブツをとりあつかっているようだったので一本購入。店主のおばちゃん——のようにみえるが、あれでこちらより年下である可能性はけっこう高い——はいつ見ても(…)さんに雰囲気が似ている。日本に帰国していたのかというので、していたと応じると、最近あんたの姿を見ていなかったみたいなことをいう。店の中には、彼女の娘だろうか、いつも見ない女の子がひとりいた。
 徒歩で第五食堂へ。教室に入る。教卓に(…)さん手作りのブツが置いてある。こちらの顔を模した例のキーホルダー。礼を言うと、学生たちが、なに? なに? となったので、これを作ってくれましたと見せる。10時から二年生の日語基礎写作(一)。雨の日でも軍事訓練はあるのかとたずねると、ないだろうとの返事。しかし指導教官役の(…)くんは今日も授業を欠席。「(…)」を返却し、文集をグループチャットで配布したのち、おもしろ回答および珍回答をスライドでひとつずつツッコミながら紹介。このふりかえりをやるたびに、じぶんがしょうもないピン芸人にでもなったような気分になるわけだが、学生たちはみんなゲラゲラ笑ってくれるし、それが次の作文のモチベーションになるので——じぶんもふざけた文章を書いて、ふりかえりの場で言及されたい! と目をらんらんとさせる子たちがけっこういるのだ——良しとしたい。ちなみに今日の授業でピックアップしたなかで、大オチとして採用したもの、「最もバカな作文を書いた三人」と前置きして紹介したものは以下の通り。

私はずっとボーイフレンドがいないです。ある日、やっとボーイフレンドができました。
しかし、独身の(…)先生が嫉妬して、私のボーイフレンドを殺しました。
そして、私は重苦しい気持ちになりました。
だから、私は(…)先生を殺しました。
——(…)

気がつくと、私はトイレにいました。
しかし、私はとても眠かったです。
だから、トイレの床で寝ました。
しかし、これは男子トイレです。
そして、私は変態になって、捕まってしまいました。
——(…)

(…)先生が大便を食べていました。
そして、私はその様子を見ました。
しかし、先生は「このことは誰にも言うな」と私を脅しました。
だから、私は(…)先生を殺しました。
——(…)

 授業後半は二回目の課題として「(…)」を書かせる。(…)くんがかなりはやい段階で書き終えて提出してみせたので、さすがだなとなった。今日はスピーチの練習がなかったらしく授業に出席していたわけだが、今後はどうなるかわからない。授業は5分ほどはやく切りあげた。(…)くんから食堂に誘われたが、学生でごったがえすのはわかりきっていたので、第四食堂でハンバーガーを打包することにした。外は雨降り。大雨ですかというので、これくらいだったら普通の雨だね、大雨というのはこのあいだ香港とか深圳で降ったようなやつだよというと、広東省は台風で大変なことになっていますという返事。第四食堂のおもてに店を構えているハンバーガー屋で、いつものように海老のハンバーガーとふつうのハンバーガーを注文する。以前は第三食堂内のハンバーガー屋に勤めており、いつもクソデカい声で歌をうたっていたおっちゃんが、新学期をはさんで配置換えになったのか、こちらの店にいたので、好久不见了! とあいさつ。ハンバーガー屋の前には(…)さんと(…)さんもいた。簡単な質問をいくつかしてみたが、反応はいまひとつ。(…)さんはそうでもないが、(…)さんはけっこうできるほうだったとこちらは記憶しているのだが。
 (…)くんは注文をしない。どうしてとたずねると、お腹が減っていないという。さらにこのあと英語学科の女子といっしょに食事をとる約束があるというので、二重の意味でこちらをメシに誘った理由が謎。ま、単純に授業後にちょっとおしゃべりでもというあたまだったのかもしれない。(…)くんは瑞幸咖啡に行きたいそぶりをみせた。こちらとしてもハンバーガーを食ったあとに冷たいコーヒーを飲むのはいいなと思ったが、英語学科の女子がきたら三人でいっしょに行きましょうというので、あ、こいつ女子の前で外国人と外国語で会話しているじぶんを見せたいのだなと察した。しかしじきに雨が激しくなりはじめた。今度は確実に大雨だった、というか豪雨、土砂降り、驟雨、スコール、そういう言葉らで言い表されるべきえげつない降りかただった。この雨のなかを瑞幸咖啡まで歩いていくのは普通にうっとうしいし、なにより英語学科の女子がかわいそうだろうというわけで、彼とはここでお別れしてひとりで寮にもどることに。傘は持っていたが、全身かなり濡れた。バンコクのスコールみたいな降りかただった。こういう雨に降られるたびに、そういえばじぶんがいるのは南方なんだよなと思うわけだが、いや、いまやアレか、気候変動の影響で日本でもこういう雨は降るようになっているのか、それがゲリラ豪雨なのか。
 帰宅。ハンバーガーを食う。以前よりも腹が膨れない。以前はふたつ食ったらまあまあ腹いっぱいになったと思うのだが、もしかして小さくなったのだろうか。コーヒーを飲みながら、(…)さんに微信。授業中、助詞「も」に関する質問があったのだが、その場で簡単な日本語で説明できる自信がなかったたので、のちほど微信でわかりやすく説明しますと約束したのだった。(…)さんは高校二年生から日本語を勉強しているし、やる気もあるし、さらにけっこうオタク趣味な子であるので(これがある意味で一番大切な要素かもしれない!)、卒業までにまだまだのびると思う。今日の授業中にはお菓子をくれた。
 きのうづけの記事の続きを書いて投稿する。ウェブ各所を巡回し、2022年9月12日づけの記事を読み返し、2013年9月13日づけの記事を「×××たちが塩の柱になるとき」に再掲する。

 やるべきことはさっさとやっておくに越したことはないのでさっそく「(…)」の添削にとりかかる。17時になったところで中断し、第五食堂でメシを打包。寮にもどったところで、門前で中年女性から日本語で「こんにちは」と呼びかけられた。こちらのことを(…)先生と呼んでみせる次のひと言で、え? もしかして(…)先生? となった。そうだった。(…)先生はマスクをつけていた。今学期からここの寮に越してきたという。定年まではここで暮らそうと思っているというので、以前はどちらでとたずねると、ごにょごにょとよく要領の得ない返事があった。外でマンション暮らしをしていたのか、それとも別の寮に住んでいたのかはわからない。もしかしたら離婚したのかなと思った。あるいはこの不景気のあおりを食うかたちで給料が少なくなり、だったら外で家賃を支払うよりも大学の寮でというふうに考えが変わったのかもしれないとも勘ぐったが、実際はどうだか知れたものではない。しかし驚いた。
 メシ食す。19時前から添削再開。20時半過ぎに片付く。右手の中指にちょっとしたペンだこみたいなのがあるのだが、ひさしぶりにそこが真っ赤になった。ボールペンを握る力がちょっと強すぎるのかもしれない。
 (…)さんが作文用紙の裏にこちらの似顔絵を描いてくれていたので、(…)さんにもらったキーホルダーといっしょに、さらに歴代の学生たちがくれた似顔絵やこちらの顔を模した小物などの写真をすべてまとめて、モーメンツに投稿しておいた(学生らのためにもモーメンツにはなるべく頻繁に投稿するようにこころがけているのだが、気を抜けばすぐに一ヶ月以上経過してしまう)。
 浴室でシャワーを浴び、ストレッチをしていると、四年生の(…)さんと(…)さんのふたりからひさしぶりにビデオ通話しましょうという誘い。了承。
 で、二時間ほど通話(まさかこんなに長くなるとは思わなかった!)。通話をはじめてほどなく、上の部屋の爆弾魔が床に釘を叩きつけでもしているかのように、ものすごくやかましい音でカンカンカンカンとやりだしたので、これこちらの話し声に対する抗議のつもりなのかと一瞬構えたが、この音量で文句を言うのであれば日頃のおまえおよびおまえの部屋に出入りしているババアはどうなんだという話であり、かなりイライラしたというかこれ学生との通話中でなければすぐに上の階に押しかけるレベルであるなと思った。騒音はほどなくしてやんだ。
 (…)さんは現在大学にいるという。実習の予定はまだ決まっていないので待機している格好。今週の土曜日には日本語教師の資格試験がひかえている。ちょうど一年前の日記に、彼女らのクラスには教師の資格試験を受ける学生がひとりもいないということが記録されていたのを読んだわけだが、結局、なんだかんだで受験している学生はぽつりぽつりいる模様。一年前の今日は(…)さんと(…)さんとこちらの三人で夕飯を食ったあとにキャンパスを散歩、その途中外国語学院で教師の資格試験の説明を受けていた新入生——現二年生——の教室に乱入した日であったので、その旨告げ、時間が経つのははやいねと三人でしみじみ語りあった。公務員試験の勉強はまだはじめていない。試験は三種類ある。国家レベル、省レベル、それからおそらくその省レベルよりもさらに下位のもので、(…)さんは省レベルのものかそのもうひとつ下のレベルのものを狙っているという。試験は1月からあるとのこと。途中、彼女のスマホの画面端にルームメイトの(…)さんが姿をみせた。(…)さんは院試組。顔がちょっと丸くなっているようだった。(…)さんは途中で画面から離れ、じぶんの席でアニメの『ハイキュー!!』を視聴しはじめた。彼女らの部屋には新入生がふたりやってきたという。どちらも英語学科の女子。関係はまあまあであるとのこと。
 (…)さんは最近例の厳しいネパール人の先輩とペアを組んで働いているという。仕事中はちょくちょくケンカになるらしい。仕事にはやたらと厳しいのだが、それ以外の時間はいつもニコニコしているとのこと。日本人の同僚はみんなやさしいのだが、そのネパール人がとにかくうっとうしく、はやく帰国したくて仕方ない、インターンシップに参加したことを後悔しているという。給料は7月分のものが支払われたのだが、7月は二週間しか働いていないので8万円だったという。とはいえ無料の寮暮らしであるしクソ田舎であるし、金はけっこうあまるでしょうというと、休みの日などにおなじ大分で働いている(…)さんといっしょに街中まで出かけるとそれだけでたくさん金がかかるという。街中までは電車で片道二時間ほどだというので、は? マジで? とおどろいた。(…)さんと(…)さんは別々の旅館で働いているが、寮はけっこう近いらしい。近くにはスーパーがひとつあるが、コンビニもユニクロブックオフもないとのこと。(…)さんのほうは仕事がかなり楽らしい。しかしその分賃金も少なく、また寮費もかかるとのこと。鹿児島にいる(…)さんと(…)さんのふたりが勤めているホテルはけっこう大資本らしく、従業員も多いので既定日数の決まっている休日をわりと自由に組み合わせてとることができるみたいで、それがたいそううらやましいという。話をきいているかぎり、どうやら(…)さんの配属先がいちばん仕事量が多くて大変らしい。長野で働いている三年生ふたりはいろいろ旅行に出かけて楽しそう。四年生はほかにも四人か五人、インターンシップで来日する予定の子たちがいるのだが、夏休み前から手続きを進めているのにいまだに中国に待機している。出発はおそらく10月になるということだが、話によると、もともと登録していた派遣会社からキャンセルを食らったので別の派遣会社で登録しなおし、その関係でもろもろの手続きをすべてやりなおすはめになったとのことだった。(…)さんはブックオフでちょくちょく日本語の本を買っているといって、こちらの知らない児童文学作家の本を何冊か見せてくれた。
 通話を終える。二年生の(…)さんから友達申請が届いている。たぶん彼女が描いてくれた似顔絵をこちらがモーメンツに投稿したという話をクラスメイトに教えられてコンタクトをとろうという気になったのだろう。すでにけっこう遅い時間だったが、しばらくやりとり。「先生の授業で先生を盗撮してステッカーにしてもいいですか?」(ステッカー=表情包)というので、みんなぼくの許可など得ずに好き放題作っていますよと受けてから、こちらの手元にあるものだけでもこれほどあるといってすべて送る。(…)さんは「先生がメイド服に着ている図を描きたい。先生はどう思いますか?」といった。好きにしろよ!
 寝床に移動後もしばらくだらだらしてしまい、就寝は3時ごろになってしまった。