20230922

 動物には本能があり、それに従って行動する。ところが人間には本能といえるものは認められない。本能とは個体を保つこと、種の存続を保証すること、簡単に言えば食べることとセックスに関してであるが、人間においてはセックスにせよ食べることにせよ快楽の追求という性格が重視され、本来の生殖とか栄養補給とかいう役割は二次的になっている。だから、人間において本能は行動のための原則としては成り立たないのだ。では、人間は何をもとに行動するのであろうか。われわれはそれを欲望と呼んでいるが、人間の欲望は本能的なものでも、生来のものでもない。人間には本能が欠けているがゆえに、その欠如を補うために欲望が生まれてくるのである。欲望を見失うともはや生きていくことも困難になる。
 フロイトの用語で、欲望と密接な関係にあるものに「欲動」(Trieb Pulsion)がある。これは従来「本能」(instinct)と訳されていたが、このことはフロイト解釈において大きな誤解を招くもととなった。それは無意識を心の奥底に潜む本能の貯蔵庫と考えることに結びつき、無意識に一つの実体を与えてしまうことになる。ユングは無意識の中に元型というものを認め人間行動の基盤としたが、それでは本能という考えに後戻りしてしまうのだ。フロイトの無意識は空であり、深層的な深みをもたない表面的なものである。無意識の言語的構造と言う命題は無意識の深層性を取り去ってしまい、そこに一つの欠如を認める。欲望とはこの欠如に結びついている。
(向井雅明『ラカン入門』より「第Ⅰ部第三章 欲望」 p.80-81)



 7時45分にアラームで起床。歯磨きしながらニュースをチェックし、白湯とクラッカーの朝食をとる。(…)先生にまだお土産を渡していなかったので、たしかこの時間帯は三年生の授業だったよなと思いつつ、その三年生のグループチャットでいま(…)先生の授業中ですかと質問してみたところ、(…)くんから肯定の返事がのちほど休憩時間中に届いたので、教室の場所だけ教えてもらった。
 それでクッキーをバッグにつめこんで出発。今日もすずしい。そして小雨。第五食堂の売店でミネラルウォーターを買って外国語学院へ。階段をあがっている最中、(…)くんと合流。きのうモーメンツにパソコンがぶっ壊れた件について投稿していたので、あたらしいパソコンはもう買いましたかとさっそく問われた。じきに(…)くんもやってくる。教室に入る。(…)さんもやってきたところでスピーチ練習を開始。まずはテーマスピーチを順番に一度ずつ通す。(…)くん、かなりいい。発音もいいし、感情表現もよくなっている。ただ、やっぱり声がまだ小さい。彼はもともと声の小さいタイプではないのだが、たぶんドラマやアニメの影響なのだろう、ちょっと格好をつけた作り声で話そうとする癖があり、声色にこだわるあまり肝心の声量がとぼしくなってしまうという弱点がある。(…)くん、時間が足りないかもしれない。それほどゆっくり読んでいる感じはしなかったのだが、それでも時間ぎりぎり。声量も小さい。アクセントについては大きく間違えることはないのだが、細かなところがけっこうひっかかるなという印象。一語一語の区切りがあやしいというか、くっきりと意識して発音しない箇所がちょくちょく中国訛りになったり、モーラが狂ったりする。(…)さん、あいかわらず狂ったラジオ感があるにはあるのだが、それでもどんどんよくなっている。声がはなやかで通りやすく、声量もある、それにくわえて即興スピーチでは細かなミスにこだわらず最初から最後まで一定のペースで話すことができるので、そういう意味でいえば(…)くんに似ている(彼とはちがって語彙はおそろしく乏しいが!)。案外、彼女みたいなタイプが本番では良い結果を出すのかもしれない。
 即興スピーチの練習をしている最中、ちょうど授業の終わる時間が近づいてきたので、学生らを置いていったん(…)先生が授業をしている教室に出向いた。廊下で授業が終わるの待つ。終わったところで、教室を出ていく学生らといれかわりに教室に入り、遅くなりましたがという前置きとともにクッキーを手渡した。コーヒー味のやつはちょっと苦いので(…)は食べれないと思いますと補足する。スピーチの練習はどうですかとたずねられたので、(…)先生が今学期は授業を担当していない二年生の(…)くんについて、彼は(…)くんと同じで放っておいてもしっかり勉強するタイプの日本贔屓なので問題ないですと受けたのち、(…)くんはちょっと声が小さすぎる((…)先生は確かに彼はそういうタイプですものねと言った)、(…)さんについてはいまはすごくがんばっているけれども恋愛脳時代のツケを払うのに苦労しているというと、(…)先生は笑った。笑いながらも、(…)くんと別れたことは知らなかったようす。とはいえ、ある日を境に離れた席に座るようになったから、おそらくそういうことだろうと推測はしていたとのこと。
 練習用の教室に戻る。即興スピーチをする。テーマは「健康」と「インフルエンサー」。(…)くんから「処理水」がテーマになる可能性はないだろうかとたずねられたので、ないとはいえないよなァと思った。でも政治的な話題は出ないでしょうというので、過去に「一帯一路」とか「中国の夢」とか出ているはずだし、十分ありうる話題だよと応じた。でも審査員には例年姉妹都市である(…)県の偉いさんが来ていたはずであるし、さすがにそこまで攻撃的な話題は出ないか、外国語のスピーチコンテストの場でまで战狼外交しはじめたらいよいよだよなと思ったわけであるが、のちほど聞いたところによれば、今年の審査員のなかには日本人がひとりもいないらしい。なんじゃそりゃ! ますます意味わからん採点になるやんけ! あと、今年は例年よりコンテストの開催日がはやいと思っていたのだが、これは勘違いで、(…)先生によれば、ここ二年か三年がむしろコロナのせいでイレギュラーな開催日程になっていたらしく、もともとは11月の最初の週末という日程だったとのこと。
 途中、(…)さんが大量の差し入れをもってやってきた。こちらのためにはミネラルウォーターと抹茶のケーキ。ほかの学生らにも飲み物の差し入れ。彼女はそのまま練習が終わるまでおなじ部屋にいた。最近仲良くしている(…)さんといっしょに練習終わりに昼飯を食べにいくためだと思うのだが、それ以外におそらくこちらとおしゃべりしたいというのもあったのだと思う(というのも最近ほんとうにしょっちゅう彼女から雑談じみた微信が送られてくるので)。それで学生らが即興スピーチの準備をしているあいだ、彼女といろいろ世間話した。(…)先生の日本語が本当にすごいというので、あのレベルで日本語をあやつることのできる外国人を僕はほかに見たことがない、まあ天才だろうねと受けた。(…)先生と(…)先生がトップ2だと思うといったものの、その後、(…)先生や(…)先生の名前もあがって、(…)先生はランクが落ちるけれども(…)先生は(…)先生にならぶかもしれないなと思った。ただ、(…)先生はちょっと愛国系なところがあるからなァとも思う。いま三年生は彼女が担当するスピーチの授業を受けているというのだが、実際、そのテーマも「中国の夢」だったという。さらに(…)先生の翻訳の授業で使っている教科書に掲載されている文章はほとんど全部共産党に関するものばかりらしく「真っ赤です」とのこと。数年前から習近平思想も必須科目になったし、外国語教育を重視しないとするおおきな流れがあるという話もいろいろな方面いろいろな文脈で聞くし、マジでいよいよ来るところまで来つつあるよなと思う。
 インターンシップの話になる。長野にいる(…)さんと(…)さんが猛烈にエンジョイしているからだろう、この冬休みからはじまるインターンシップに参加したいという学生が三年生だけですでに10人以上いるというので、これにはかなりおどろいた、おまえら「污染水」はどうなってんと思った。(…)さんにいたっては将来日本で就職したいとまで言っているというので、前回こちらに微信で言ってよこした中国に帰国したくないですというのはマジだったんだなと思った。
 ところで、即興スピーチについて、男子学生ふたりは用意された時間の大半を文章に書くことに費やしてしまっており、そのせいで結局いざスピーチをしろとなってもおぼろげな記憶をしぼりだすようにしながらぽつりぽつり話すことしかできないという問題点が以前からあり、今日も「健康」でやってみた感じまんまそんなふうだったので、作文は必要ない、中国語でも日本語でもかまわないから要点だけメモ書きし、あとはぶつぶつ独り言でも言うみたいにしながら全体の文章を整えるようにと指示したところ、それでずいぶんマシになった。
 あとはそうだ、(…)くんのあたらしい彼女の話にもなったのだが、故郷は上海だという。めずらしいな、うちの学生では(…)くん以来ではないかと思ったわけであるが、彼女の家族は上海のみならず重慶にも家があるという。つまり、めちゃくちゃ金持ちなのだ。
 11時半に練習終了。女子ふたりは一緒に食事をとるという。たぶんこちらもいっしょにというあたまがあったのだと思うが、快递に荷物をとりにいかなければならないとあらかじめ釘を刺しておいた。(…)くんにいたっては快递にまでついてくる気満々にみえたが、こちらは自転車であるしいつ雨が降ってくるかわからないこんな空模様の下でちんたら歩きたくないからと同行を断った。
 そういうわけでひとりケッタにのって后街の中通快递へ。三年生の(…)くんがちょうど荷物を回収しているところだったので、その後ろを通りすぎるさいにケツをペチーンとはたいてやった。(…)くんからはのちほど微信が届いた。先生朝から授業大変じゃない、と。こちらが先学期いつも朝方に寝て昼前に起きる生活をしていたことを踏まえての発言。
 荷物を回収後、ひさしぶりに(…)に立ち寄って、トマトと白身魚の麺を食った。老板からはひさしぶりとあいさつ。食後は(…)で食パン三袋購入。最近、この店はワンオペでないことが増えてきた、今日も顔見知りのおばちゃんがふたりいた。帰路は雨にけっこう降られた。ひさしぶりに傘さし運転した。(…)くんの同行を断って正解だった。
 帰宅。(…)さんと微信でいくらかやりとり。スピーチ練習用の部屋で雑談しているとき、セブンイレブンの店内に商品を並べはじめているところを今日だったか昨日だったかに見たという話があったので、先ほどの帰路、店の写真を撮って彼女に送り、連休にあわせてオープンするかもしれないねといったその流れで、というほどの流れではないかもしれないが、微信であれこれやりとりすることになったのだった。最近は菅田将暉が好きで彼のドラマをみながらリスニングの練習をしている、ほかに綾野剛も好きだし片寄涼太も好きだという。この男性三名の名前をこちらは中国に渡るまえでまったく知らなかった、中国に渡り彼らのファンである女子学生ら経由ではじめてその名前その姿を認知するようになったといういきさつがあるのだが、(…)さんはそんなふうにイケメンが大好きであるといいながらも、しかし恋愛ドラマにはまったく興味がない、サスペンスやホラーが好きだといって、そんな自分はやっぱりちょっと変かもしれないと自嘲した。
 30分ほど昼寝した。それから充電しておいたiPadを持ち出してパソコンの代わりにデスクに置き、きのうづけの記事の続きを書きはじめた。パソコンとはやはりいろいろ勝手の違うところがあるのだが、それでもこうして何時間もカタカタし続けていれば、それ相応に身体が馴致する、最短距離での節約された動き、それは皿洗いにしても掃除にしてもプロフェッショナルなものになればなるほどダンスのようになるのであるのだが、そのダンスを指先からはじまり手首、肩、視線が学びつつある感じ。きのうづけの記事を投稿し、ウェブ各所を巡回したのち、きのうすませていなかった2022年9月21日づけの読み返し。

過去の日本語スピーチコンテストの話になった。(…)大学で開催されたコンテストに(…)くんは見学者として参加していたという。当時はまだ経済学部の一年生。しかしすでに日本語に対する興味はあり、さらに経済学部の授業にうんざりしていた時期だったので(習いおぼえる内容が彼にとっては「常識」に属するものだったので面白くなかったという)、わざわざ(…)大学まで足を伸ばしたとのこと。(…)大学のスピーチコンテストといえば、当時二年生の(…)さん、三年生の(…)さん、四年生の(…)さんと参加した年のコンテスト。当然まだコロナは発生していない。ちょっとあたまがバグりそうになった。こちらにとっては完全にコロナ以降の、というよりこちらの実感にしたがっていえばオンライン授業以後の世界から存在をはじめた(…)くんが、それ以前の世界に存在しており、かつ、こちらと至近距離ですれちがっていたかもしれない、その事実にあたまがくらくらした。これは、(…)さんと(…)さんのふたりがインターンシップで日本に滞在中、(…)さんの手引きで当時(…)アパートと(…)を行ったり来たりしていたこちらと顔をあわせる計画があったという話をはじめて聞かされたときのあのめまいと同種のものだ。引っ越しや転職のたびごとに切断線の入る個人史を、他者は常にこうして軽々と越境し、こちらを驚かせる。

 以下は2021年9月21日づけの記事より。

車内での待ち時間はローベルト・ヴァルザー/新本史斉・訳『詩人の生』。ヴァルザーの小説、「職質文学」と名付けてみてもいいかもしれない。俳諧中に巡査に嫌疑をかけられるというモチーフ、彼の作品のかなり多くに登場していないか? 「彷徨」といえば文学的に格好もつくが、ヴァルザーにはむしろ「徘徊」のほうが似つかわしい。しょっちゅう職質される徘徊者の、縮尺率が常に一定のためにどこに軸足が置かれているのもわからないクソどうでもいい身辺雑記未満の概略的語りが、嘘くさいほどきらびやかでゴテゴテした鍍金細工の調子を帯びて語られる。

 2022年9月22日づけの記事も読み返す。それから今度は10年前の日記。2013年9月21日づけの記事と同年同月22日づけの記事を読み返し、「×××たちが塩の柱になるとき」に再掲。以下は2013年9月21日づけの記事より。

その(…)さんから休憩中、ハーブで頭がおかしくなって閉鎖病棟に入っていた(…)さんがかつて眠剤か何かをODした状態でクラブにいって、そこにいた鎮座DOPENESSにフリースタイルを挑んだという話を聞いたのだけれどそもそも(…)さんラップとかいっさいしないはずでその時点でもう無茶苦茶なのだけれど、そのリリックというのがまたぶっとんでいたらしくて当時(…)さんは性的な葛藤にあったらしくゲイに走ろうかそれともニューハーフに走ろうかいったいじぶんはどちらをせめたいのかどちらに舵を切りたいのかと迷走していたその心の葛藤を韻なんてまともに踏まずにラリパッパで放言みたいなそういうアレで、むろんラップとしてのかたちなんてまるでなしていなかったようなのだけれど鎮座DOPENESSがこんなやばいMC見たことないと試合後に口にしたとかなんとか、そのフリースタイルの動画をYouTubeにもかつて挙げたことがあるとかいう話らしいのだけれどいまもあるかどうかは定かでないという。

 この話が本当かどうかわからない。なんせ虚言症の(…)さんの話なので。あと、10年前の記事は公開を前提として書かれているため、人名がすべてイニシャルになっているのだが、ここにこうして引きなおす場合は実名に修正することにした。場合によってはその実名を思い出せなかったり、だれであるか判断できなかったりすることもあるかもしれないが、そのときはそのときとしてそう補足する。
 以下、上の記述に続くくだり。これ、いまでもよくおぼえているのだが、チャカのくだりはあまりにナチュラルだったので、マジでそのとき職場にいた全員が腹を抱えて笑ったのだった。あと、このとき(…)さんは(…)さんのことを「(…)さん」と呼んでいたようだ。それがのちほど「(…)くん」になり、パクられて行き場をなくした彼が居候するようになってからは「(…)」になっていく。諸行無常やな!

それとは別の休憩中に今度は(…)さんがかつて犯した殺人について詳細を語ってくれて、元々ヤクザをやっていて敵対組織の男をふたり刺殺して二十代前半からまるっと十年間刑務所に入っていたという大筋は以前聞いたことがあったのだけれど、どこかのスナックかバーで(…)さんと舎弟の計五人で酒を飲んでいたところそのスナックだかバーだかのママが別のヤクザ三人組に平身低頭でなにやら平謝りしているのが目につき、それでママ何かあったんけと横から割って入ったのがきっかけで三人組との口論がはじまり、(…)さんは最初血の気の荒いツレをどうにかなだめようとしたりガンガンからんでくる相手にたいしてもこんなくだらんことでケンカして互いの株さげるようなことしてどないすんねんみたいな感じでかわしていたらしいのだけれど、相手方がじぶんたちの所属する組の名前を名乗ったところ血の気の荒いのが(…)組がなんぼのもんじゃと食って掛かったそのあたりから争いがエスカレートし、(…)さんはそこにいたってなおことをおさめようとしていたらしいのだけれど相手が何度も(…)組(…)組と組の名前ばかり出すものだからいい加減腹がたってきてほやから(…)組がなんやねんと結局(…)さん自体も口にしてしまったその結果、激昂した相手にいきなり蹴とばされてしまい、それでスイッチが入った、それまでずっとくだらんことでケンカなんかすんなやと仲裁に入ろうとしていたけれどもういいとなったと、そういうことの次第で舎弟らにむけて「おう!殺ったれ!」と吼えることになったという。それで殴り合いがはじまったらしいのだけれどそこでまた血の気の荒い例の男というのが事務所にわざわざ拳銃を取りにもどりにいってしまい、結局なぜかドスを片手に現場にもどってきたらしいのだけれど(…)さんはそのドスをひっつかむが早いかじぶんを蹴りつけた男の腹にぶさりとやって、相手側もまさか刺すとは思っていなかったらしくてさすがに唖然としたというか完全に硬直してしまったらしく、そうしてそのように硬直してしまっている残りふたりのうちのひとりを(…)さんは続けざまにまたぶさりとやって計二人を殺した。ワシだけとちごてな、ほかのもんもなんやら刺しまくっとったわ、えらいもんやったであの光景は、と入れ歯をなくしてひさしいスカスカの口に煙草をくわえて(…)さんは笑うのだけれど、その姿その語りその表情からもわかるように(…)さんの何がやばいって十年ぶちこまれておきながらもまったくもって反省していないというこの一点にほかならず、じっさい(…)さんは出所後数ヶ月でまたもやパクられている(恐喝罪)。先週だったかもどういう話の流れだったか、70歳になるまではシャバにいたいがそれ以後だったら別にいつ向こうにもどったってかまわないとか平気で口にしていて、70までってあんたあと数年じゃないとみんなから突っ込まれていたりしたのだけれど、それとは別にまたちかごろ(…)さんはタブレットスマホにやたらと興味を示しておりワシもインターネットっていうやつやってみたいんやと時折言ったりするのだけれど、(…)さんインターネットとかいうで結局エロ動画みたいだけっしょ、目的AVでしょと突っ込めば、いやいや(…)くんそんなんいわんといてーや、ワシかてほかに目的があんねんといってはばからず、何があるんすかとたずねれば、いやいや、ほれ、あるやろ、ああいうの、あのー、素敵な熟女との出会いとかやなとかなんとかいって結局そっちかよみたいな。もうそんなんレンタルビデオ屋とナンパですませたほうが金もかからんといいでしょ、そのためにネット料金払ったりするなんてかえって損ですよと(…)さんが忠告すれば、いやーでもワシな、インターネットでな、ほれ(…)さん、インターネットっていろいろ買えるんやろ、ほやしワシな、チャカ欲しい思うとんやけどな、と、さすがにこれを聞いたときには場にいた全員が死ぬほど爆笑した。今日も今日でまた、チャカがあればやな、そのー、そこらいきがっとるんようけおるやろ、ああいうんが絡んできてやな、そういうときにちょっとこっちのほう来てくれませんかーいうて物陰に連れ込んでやな、ほんでバンッ!と、こうや!(ドヤ顔)などとしきりに口にしていて、こいつちょっと気に喰わんなー思うたらな、すみませんちょっとこっち来てくださいいうてやな、暗いとこ連れてってバンッ!と、こうや!(ドヤ顔)、そこらのお嬢さんがえらいのに絡まれとったらやな、お嬢さんお逃げなさいいうてやな、ほれで物陰でまたバンッ!と、正義の味方・月光仮面!と、こうや!(ドヤ顔)などと意味不明の供述をくりかえしており、いまどき中学生でも抱くことのできないある意味でピュアすぎる正義感を発揮していてだから正義はこわい。

 記事の読み返しがすんだところで、そのまま今日づけの記事もここまで一気呵成に書いた。すると時刻は20時半近かった。

 三年生の(…)さんから微信が届く。彼女と(…)さんはふたりそろって二年生のときによそから日本語学科に移ってきたわけであるが、同時期にやってきた(…)さんと異なり、一年生時に本来受講しなければならない必修授業の単位を取得するためにその年すぐに下級生にまじって授業を受講しなかった、そのせいで三年生になったいまになって新入生らにまじってこちらの日語会話(一)を受講しなければならないのだという。ところでその受講手続きがうまくいかない、申し込みをオンラインですませても反映されないというので、そのあたりの事務手続きに関してはこちらの知るところではない、事務室の先生にあたってみてほしいと受けると、事務室の先生は週末大学にやってこないし(当たり前だ!)、申し込み期限はすぐそこにまでせまっているというので、だったら微信で事務室の先生に連絡をとって事情を話すようにと伝えた。ちなみに、一年生にまじって三年生のそれほどやる気のない女子学生ふたりが授業に出席しても邪魔なだけであるので、仮に今学期ふたりが日語会話(一)を履修することになったとしても、授業には出席しなくてもいいと伝えるつもりでいる。もちろん、事務室には内緒であるが!
 浴室でシャワーをあびる。あがってストレッチをすませたのち、コーヒーを淹れて「実弾(仮)」第四稿執筆。21時半から0時まで。シーン43片付く。400字詰めの換算枚数を出すのはタブレットであるとけっこうめんどうなので、そこのところはあたらしいMacBook Airが届いた時点でまとめておこなうことにする。
 作業中は阳台とキッチンの窓をあけて風を通した。まずまず涼しい。途中、三年生の(…)さんから微信。来月5日がこちらの誕生日であることを踏まえて、その日(…)さんと一緒に先生の部屋で鍋をしませんかという。(…)さんの母君が地元の名産品である蟹を送ってくれるらしく、それを火鍋にぶちこんで豪快に食べるという計画らしい。来月5日は中秋節国慶節の連休中であるし、ほとんどの学生は故郷に帰省するわけであるが、彼女ら東北組の学生はたとえ連休であろうともなかなか容易には帰省できない(飛行機代が高くつく)、それで(ふたりそろって広州に数日旅行こそするものの)おなじく大学居残り組であるこちらに白羽の矢が立った格好らしい。了承。鍋はあるかというので、キッチンにあるものを写真に撮って送る。当日は(…)で食材の買い出しをするとのこと。
 懸垂をし、プロテインを飲んでトーストを食し、歯磨きしながらジャンプ+の更新をチェックしたのち、寝床に移動。夜中に一度、布団から出していた足を何箇所も蚊に喰われて目が覚めた。