20231102

 作者忙殺につき、本日の「ジェームズ(…)のスピリチュアル仮想通貨占い」(第1687回)はお休みさせていただきます。ご了承ください。



 6時半起床。寝不足でかなりしんどい。トーストとコーヒー。売店でミネラルウォーターを購入し、ケッタに乗って外国語学院へ。道中、(…)先生らしい後ろ姿を見かける。
 6階まで階段をあがる。教室に到着すると息が切れている。先着している学生らがそんなこちらのようすを見てくすくす笑うので、きのう蚊のせいで全然眠れなかったんだよと弁明する。あいている席に横になる。今日は11年前にタイで買った正面に花のプリントされているカットソーをひさしぶりに身につけていた。これいいでしょ? きれいでしょ? とたずねると、中国のおばさんみたいですという(…)くんの返事。
 8時から二年生の日語会話(三)第32課。授業後半でおこなう予定のアクティビティがやや弱いかもしれないという懸念のあった課なので、前半雑談多めにしてテンションをあげていく。盛りあがりすぎて軌道修正がややむずかしくなる一幕もあったが、なかなか盛りあがらない一年生1組の授業よりはずっといい。しかし肝心のアクティビティはやはりやや難ありかなという印象。このクラスであったからこそ成立したが、テンションの低いクラスでやったら大事故になっていたかもしれない。要改善。
 (…)さんが授業に来なかった。また(…)さんと夜更かししていたのだろう、それで寝坊したのだろうと思ったが((…)さんや(…)さんには理由をたずねなかった)、夜になって謝罪の微信が届いた。(…)さんとそろって夜更かししていたわけではないとのこと。平身低頭のようすだったので、一度くらいそういうこともある、気にしない、次からは気をつけてねと返信。
 教室を出る。廊下で三年生の(…)さんと(…)さんとすれちがう。ついでに三年生の教室をのぞく。(…)くんに12月にN1を受けないのかとたずねる。受けないという。(…)くんは受けるとのこと。ついでに教卓の(…)先生にもあいさつ。二年生はこの12月にN1を受ける学生がふたりいると話す。どちらも高校時代から日本語を勉強していた子でと続けた流れから、今年の新入生もそういう子が多いですねと話題を転換する。(…)先生は一年生の1組を担任している。それで彼女の新入生に対する印象を探りたかったのだ。やはり「調済」組が多いので、まずは興味を持ってもらえるようにいろいろ工夫しているとの返事。学生らは就職率をたいそう気にしているというので、そういうところはやっぱり中国だよなと思う。印象を問われたので、正直に、2組よりも1組のほうがテンションが低いと話す。また機会があるときにいろいろ話してみますというので、別にそういう働きかけをうながすつもりで口にした話題でもなし、でも(…)先生、最近ものすごくお忙しくされているんですよね? とあわてて話題を切り替えた。で、執筆中だという本の話。(…)先生の研究対象は(…)。それも京都の(…)ではなく滋賀の(…)だというので、同業者はいないんじゃないですかとたずねると、たぶんじぶんひとりだけだと思うという返事。最近ようやくプロジェクトの認可がおりた、それでようやく研究成果をまとめることができるという話があったが、その認可が日本政府の話であるのか中国政府の話であるのかは聞きそびれた。今年の夏休みも一ヶ月ほど(…)を中心に滞在してフィールドワークを進めていたという。出版は順調にいけば来年、遅れれば再来年になるだろうとのことであったが、ただ近年中国では日本に関する書籍を出版するのが難しくなっている、だからいろいろタイミングを窺う必要もあるとのことで、そういう鬱陶しさもあるんだなと思った。(…)先生はもともと(…)に興味があった。留学中に最初に目についたのが(…)だったという。そこから滋賀にも多く残っている(…)を研究することに決めたのだが、最初は(…)そのものの研究だったところ、大陸在住ではいろいろ研究しづらいということもあって(…)を通じた社会史に方針を転換、日本から資料を取り寄せて研究を続行しているという。(…)先生にとって(…)は青春の地だという。ぼくは十年ほど京都に住んでいましたけど滋賀のほうにはあまり出かける機会がなかったんですよねというと、(…)先生は週末などちょくちょく京都のほうに遊びに出かけたというので、河原町とかですか? とたずねると、そうです、あとは鴨川周辺をぶらぶらしてましたとのこと。始業のベルが鳴るまで15分は立ち話をしていたと思うのだが、その間、発音に違和感をもったのは一度しかなかった。毎回言葉を交わすたびに思うのだが、このレベルで日本語をあやつることのできる外国人、マジでなかなか存在しないと思う。声の小ささも含めて完全に日本人そのもので、たとえばうちの家族が事前情報なしで彼女と会話したとして外国人であると気づくことは100%ないと断言できる。のちほど(…)くんから聞いたところによれば、(…)先生は10年ほど日本で暮らしていたというのだが、たとえ10年いたところであのレベルに達することはできない。努力だけではどうにもならない才能の域があるということを知らしめるレベル(そういう意味で(…)大学の(…)さんと同じ人種)。
 そのまま国際交流処へ。建物のまえにケッタをつけたら警備員からここはダメだ向こうに駐輪しなおしてくれと言われた。学生なのかというので教師だと応じると、ややめんくらったようす。(…)のオフィスをおとずれる。ほかにスタッフはいない。全部で四部ある契約書にすべてサイン。サイン中、(…)のスマホに着信。スピーカーホンにしていたために娘からの着信であることがわかったのだが、ママ、いまなにしてるの? と無邪気にたずねるものであり、ママはいま仕事中、またあとでねと(…)は一度は通話を切ったものの、すぐにまた着信があって、おなじような会話がくりかえされる。下の子? とたずねると、肯定の返事。今日はちょっとsickだったのでkindergartenを休んだのだが、上の子の携帯電話を使ってちょくちょく電話をかけてくるのだ、と。かわいい。
 契約書は問題なし。給料はようやく8500元まであがった。それからresident permitの問題についてあらためて話す。resident permitがexpireする一ヶ月以上前に更新する必要があるのだとすれば、いま取得しているresident permitをいったんキャンセルしたうえであらたなものを取得しなおすという手段をとることになるだろうという。で、その場ですぐに関係部門に電話して確認してくれたのだが、やはりそういう段取りになるとのこと。安心した。チケット代は無駄にならない。フライト当日(1月13日)までにresident permitの更新されたパスポートを手にいれるのであれば、12月10日よりもはやくもろもろの手続きをすませる必要があるとのことで、ひとまず12月8日にpolice stationに向かおうということに。当然それまでにusual medical checkも受ける必要がある。
 もろもろすんだところで、ソファに横並びになって雑談。(…)さんの話をする。关系を利用して(…)の大学に来るかもしれない、と。ただ、日本の仕事のほうがはるかに給料はいいので迷っているようだ。彼女とはもうbroke upしたからその意味では自由なんだけどねと続けると、(…)は笑った。
 Do you know peace boat? と(…)はいった。ピースボートってあのピースボートのことなのかと思い、船に乗って世界中をまわってというあれ? とたずねると、肯定の返事。興味があるの? とたずねると、わたしはもう若くないからと笑ったのち、cousin が mediator 兼 interpreter として乗船しているのだという。期間は三ヶ月。すでに30カ国ほどまわっているという。あなたはまだ若いし英語も上手だからやってみるのもいいんじゃないのというので、ぼくも全然若くない、もう38歳だよというと、38歳は若いという。それで I’m afraid と断ったうえで、きみは何歳なのとたずねると、あなたより年上だというので、え? そうなの? となった。年上か年下かけっこう微妙なところだよなとずっと思っていたのだが、そうか、年上なのかと考えていたところ、たぶん(…)老师と同じだというので、嘘でしょ! とびびった。(…)さんはこちらより10個上なので今年48歳、そう告げると、(…)は爆笑し、まちがった、そこまでいっていない、彼よりはもっとずっと若いといった。(…)老师が48歳というのは信じられないというので、彼はめちゃくちゃ髪の毛が多いからというと、(…)はやはり笑った。
 やる気のない一年生の話をする。「調済」の結果だという。以前なにかの機会に中国の大学入試システムの話になったところ、インド人外教の乱入があってそのまま流れてしまったその話を再開するかたちで、(…)は彼女自身どう考えてもおかしいと考えているくだんのシステムについてあらためて説明してくれた。曰く、いまの大学受験生は自分の志望を指定することができない。厳密に言えば、高考で高得点を取得した場合にのみかぎってもともと志望していた専攻に進学することができるのだが、微妙な点数の学生らはあらかじめ選んでおいたグループ内にある専攻にランダムにふりわけられるのだという。ただそのグループというのが、1グループにつき10のmajorからなる大規模なものらしく、(…)があげた例にしたがっていえば、外国語学部と医療関係の学部と法学部がおなじグループの扱いになっていたりするのだ、と。こちらとしてはてっきり、本当は英語を専攻したかったのだが、日本語専攻になった、韓国語専攻になった、フランス語専攻になったと、その程度の誤差の話だと思っていたのだが(それでも十分ひどいが)、そんなレベルではないらしい。(…)の甥っ子だか姪っ子だかは、実際、理系のコンピューター関係の学科を志望していたのに英語学科に配属されたという。高考のスコアも数学や化学や物理は高く、英語や中国語は低いというものだったというのだが、それにもかかわらずの結果で、つまり、文理の境目すら設けられていないグループ分けになっている。いつからそんな仕組みになっているのかとたずねると、ここ二、三年の変化だという返事。受験生が自分の希望する専攻に絶対に行きたい場合、その大学の合格ラインをはるかに超える高い点数を高考でゲットするか、あるいはその裏返しとして大学ではなく専攻を優先するべく進学希望の大学のレベルを一段階下げるかするしかない。大学院進学に際して専攻を変更するという方法ももちろんあるが、いずれにせよ理不尽としかいいようのないシステムだ。

 (…)はそのようなシステムが運用されるようになった理由として、I personally thinkという断りつきだったが、大学進学者の増加のためだろうといった。たとえばうちの大学にかぎっても、新入生の数が去年は3000人だったところ、今年は4000人もいるらしい。しかし当然、専攻の人気には偏りがある(特に中国ではその専攻の将来性や就職率にこだわる子が多いのでなおさらそうなるのだろう、「興味・関心」よりも「実利」をとる傾向が日本よりも圧倒的にデカい)。だからといってそのような専攻が希望者全員を受け入れることはできない。(…)によれば、人気のある学科では教員が一週間に30periodsの授業を担当しているところもあるという。パンパンなのだ。そういう事情が、うちの大学だけではなく中国全土で生じているために、こうした入試システムの導入がおこなわれたのだろうというのが(…)の推測。外国語学科に関しては、やはりAIの発展もあり希望者がめっきり少なくなっている、教員の授業数もそれほど多くない。それで、いってみれば、希望する専攻に漏れた学生らの最終的な受け皿みたいなポジションになっているのだろう。日本語学科のクラスが今年からふたつに増えたのも、日本語専攻する希望する学生が多かったわけではなく、ただ増加する新入生のための受け皿を増やした格好にすぎないわけだ。
 まったく興味がない日本語を勉強することを強いられている学生の姿を見るとfeel sorryになる、だから学生たちにはいつももし日本語に興味がないのであればほかのことを勉強してもいいと伝えている、ただなにもしないのはもったいない、なにかはしたほうがいいと言っている、ほかの学部に移動できるのであれば移動したほうがいいしそうした学生の決断は常に応援しているというと、学部間の移動もそれほど簡単ではない、受け皿のキャパがあるので希望者全員が移動できるわけではないと(…)はいった。(…)もいまどきのそんな大学生らにはかなり同情しているらしい。中国の社会はなんでもかんでも急激に変化する、でもこうした急激な変化はもうすこしひかえめにしたほうがいいと思うと、やや声をひそめた批判のニュアンスで口にするので、やっぱりコロナ以降こうした社会批判の意識みたいなものがちょっとずつ人民のあいだでひろがりはじめているんだなと思った。
 世間話を終えてofficeをあとにする。ケッタで第五食堂に移動。ケッタからおりるときはいつもいわゆる「おばさん乗り」の反対である「おばさん降り」をするのがこちらの癖になっているのだが、第五食堂前の駐輪スペースでそのおばさん降りをこころみたところ、ブレーキをしっかりきかせておらずかなりスピードの出ている状態でそうしたせいでか、ぺらぺらのカンフーシューズが路面に触れるなりずるっと滑り、そのまま背中からゆっくり転ぶはめになってしまった。怪我も痛みもない。ただただ猛烈に恥ずかしかった。周囲にはぼちぼち学生の姿もあったわけだが、とっさのできごとに「わ!」とか「いたっ!」とか「びびった!」とか日本語が漏れてしまったそのありさま含めて猛烈に恥ずかしい。死にたい。マジでだれか殺してくれ。ちょうどスピーチのグループチャットで(…)さんから今日の午後の練習は船型棟で直接落ち合いましょうという連絡が届いていたので、ことの顛末を告げると、彼女自身風邪気味で喉が痛い、(…)くんと(…)くんも体調がすぐれないので三人そろって午前の練習を休んだ、それにくわえて(…)先生が自転車で転ぶというのはスピーチコンテストを目前にひかえてなんとも不吉なしるしだみたいなことをいうので、むしろいま不運を使い尽くしているのだ、本番ではきっと幸運に見舞われるにちがいないと応じた。ちなみに(…)くんと(…)くんの体調がすぐれないというのは嘘で、のちほど本人らに確認したところ、(…)先生の担当する練習なんて参加しても意味がないので(…)さんが休むというのにのっかるかたちでふたりとも休んだとのことだった。
 打包して帰宅。エアコンなしではやっとれん気温30度の夏日(もう11月やぞ!)。食し、洗濯し、30分ほど昼寝。それから瑞幸咖啡でアイスコーヒーを打包し、14時半からスピーチ練習。例のホール。やはり蚊が多くて辟易する。スピーチをはじめる前に軽く雑談する。(…)さんは喉の調子がいまひとつ、痰がからみやすくなっているというので、セブンイレブンに(クソ割高価格の)龍角散が売っているし、あれを買ってコンテスト当日は会場に持っていこうと提案。(…)先生が姿をみせたところで(差し入れとしてオレンジジュースをくれた)、テーマスピーチを通す。軽くチェックしたところでそのまま本番同様の形式で即興スピーチ。(…)先生も姿をみせる(なぜかみかんをふたつくれる)。一度目の即興スピーチが終わったところで(…)先生は会議のためにもどる。二度目の即興スピーチのお題を(…)先生に出してもらおうとしたが、こちらにまかせるという。学生らのスピーチ内容にあれこれ口出しするわけでもないし、正直なんのためにいるのかわからない。土曜日は当日午前8時に外国語学院前に落ち合うかたちで出発するとのこと。それから今年の審査員は全員省外の教授らであるという話もあった。公平を期すためらしい。
 17時になったところで練習終了。(…)先生と別れたあと、(…)くんが今日はちょっと腹が立ったみたいなことをいった。どうしてかとたずねると、(…)くんが即興スピーチに失敗した際(スピーチでは、これも公平を期すためらしいが、じぶんの出身地など個人情報については言及してはいけないというルールがあるのだが、彼は自分が少数民族の出身であることに言及してしまったのだ)、(…)先生がやたらと厳しくその点を詰めたらしい。それで一気に空気が悪くなったのだという。(…)先生にしても(…)先生にしても(…)先生にしても練習はほぼ無意味、学生らに作文を書かせるだけでそれを添削することすらしない、スピーチの内容についてもほぼ評価しない(この点(…)先生はまだマシらしいが)、そのくせ学生らに対する要求だけはやたらと高い(学生らが賞をとったらボーナスがもらえるからだ)、と同時に学生らの前で平気で来年はもうぜったいこの指導役からおりるなどと話している、そういうもろもろがいい加減あたまにきたのだろう。
 今日がこちらの担当する最後の練習日だったからだろう、めずらしく全員そろってメシを食う流れになった。(…)くんが病院のトイレで小便をしているあいだ、セブンイレブン龍角散とプリンとお~いお茶を購入。それから先日、(…)さんが食べてみたいといっていたオープンしたばかりの焼肉屋へ。52元で肉も野菜もスイーツも食べ放題という趣向だったが、やっぱり中国の、というくくりはデカすぎるか、(…)省のというべきなんだろうが、焼肉はマジで全然うまくない! クソみてえなクオリティだ! まず肉の下味が強すぎる。ま、これは食文化の関係上仕方ないだろうが、それ以上に、肉がとにかく安っぽい! ほんとうに信じられないくらいどれもこれもまずいのだ! 火鍋を食っているときに肉をことさらまずいと思うことはないのだが、焼肉屋の肉はどれもこれもほんとうにびっくりするほどまずい! やっぱり焼肉は二度と食いたくない! 食後は各自がスピーチ練習中に撮影した無数の写真のうち、だれかが変顔で映りこんでいるものをそこだけトリミングしてグループで放流しあうという遊びをした。こちらは三人と初対面だったとき、つまり、初めての対面授業の際に学生の顔と名前をおぼえるために撮影した写真があったので、それらをトリミングして放流したのだが、(…)くんはいまとほとんどかわらないものの、(…)さんはいまとくらべて信じられないくらい太っているし(いまよりも10キロ重かったらしい)、(…)くんはほとんど野猿みたいだったので((…)さんはその写真を見て、整形手術を受けたのかと真顔でたずねた)、当事者ふくめてみんなゲラゲラ笑った。
 食事中、ほかの学生からも続々微信が届く。(…)さんからN1の過去問らしき長文の写真。孤独の重要性を訴える文章。孤独な時間にこそひとはなにかを生み出すことができる、と。一読してこちらのことを連想したという。(…)さんからは三津田信三という作家を知っているかという質問。初耳。ホラー&推理作家だという。中国語版を二冊買ってみたとのこと。さらに二年生の(…)さんからも微信。一年前の高考のスコアのスクショ。英語以外のスコアは伏せられている。英語は140点。自慢するニュアンスだったので、高考のことをよく知らないのだと伝えたうえで、これはもしかしてかなりの高得点なのですかとたずねると、150点満点で140点だった、この成績は(…)市で一位だったというので、は? マジで? そんな子がなんでうちみたいな大学おんねん! となった。ほかの科目がおそらくいまひとつだったのだろう。
 店を出る。散歩しましょうと(…)さんがいう。めずらしい。それでそろって新校区のほうにむかう。歩行者信号が変わるのを待っているあいだ、小学生くらいの男児ふたりが自転車にのっていたのだが、われわれが日本語でやりとりしているのを聞いて、なんとか思密达というのが聞き取れた。例の韓国語の語尾をもじったやつだ。途中で日本人であると気づいたのか、抗日ドラマによく出てくるセリフを口にしたのち、ありがとうー! と叫んで去っていった。
 運動場へ。例によって学生らが運動会の練習をしている。列にならんだ二十人ほどの学生が小さな国旗を手にして簡単な演舞をしているのをながめる。運動場を一周する。金属製の輪っかを棒切れで倒れないように支えながら転がす競技の練習をしている姿が目立つ。あれ日本では見たこともないしやったこともないというと、三人ともややびっくりしたようす。ぐるっと一周して入り口にもどると、先ほどとは別のチームがまた隊列を組んで演舞をするところだったが、(…)さんが近くにいた学生にたずねたところ、彼女らは外国語学院の学生だという。日本語学科の一年生もいるはずだとなったので、整列する彼女らの正面にまわって目を凝らしたところ、2班の学習委員である(…)さんの姿を見つけたので、おーい! と手をふった(当然整列しているチーム全員の注意がわれわれのほうに向くわけで、「社交」をおそれる(…)さんは恥ずかしさのあまり死にそうになっていた)。(…)さんのとなりにいる別の女子学生もこちらに手をふってみせた。名前はわからないが、顔にはおぼえがある。1組のちょっと(…)さんに雰囲気の似ている子だ——と書いたところで写真をチェックしたが、たぶん(…)さんだ。
 運動場をあとにする。そのままこちらの寮のそばまで歩く。(…)さんは最近、元カレである(…)くんがいまの彼女といっしょに歩いているところにばったり遭遇したという。(…)くんは毎日のようにバーに通っているらしい。あの子そんなに金持ちなのとたずねると、彼の父親と(…)のお偉いさんは友人同士であるというややずれた返事。彼はたしか浙江省出身だったと思うし、わりと裕福なほうなのだろう。
 (…)くんがコーヒーを飲みたいというので瑞幸咖啡にむかう。ほかのふたりとはその手前の交差点でお別れ。(…)さんはたぶん(…)くんに悪くない感情を抱いているのだろうなと思った。焼肉店でも彼にけっこうスキンシップをしかけていたし、運動場では自分のバッグを彼に持たせていた。残念ながら(…)くんには高校のころから付き合っている彼女がいるし、それに文化系の彼と実利系の(…)さんとでは根本的なところで価値観が合わないという問題もあるので、仮に(…)くんがいまの彼女と別れることになったとしてもふたりが付き合うことにはまずならないだろうが、アプローチ未満のなにかをしかける女性の姿というのをひさびさに客観的かつ間近なポジションからながめて、あ、大学生っぽいな、と思ったのだった。
 コーヒーを打包する。(…)くんはあいかわらず政治の話ばかり。李克強の葬儀におとずれた習近平の写真をこちらに見せる。そんなもんいちいち見せやんとええねん。習近平が仮に死ぬことがあったら中国が分裂するかもしれない、各省が独立するかもしれないというので、絶対にないという。

 帰宅。(…)さんから微信が届く。運動場を歩くわれわれの姿を撮った写真。さっそく表情包に作り変えたらしい。シャワーを浴び、きのうづけの記事の続きを書いて投稿し、ウェブ各所を巡回。2022年11月2日づけの記事を読み返し、2013年11月2日づけの記事を「×××たちが塩の柱になるとき」に再掲。そのまま今日づけの記事もいくらか書き進めるも、23時半になったところで中断。
 ひとつ書き忘れていたこと。二年生の授業中に聞いたのだが、今後はたとえ風邪だろうとインフルエンザだろうとコロナだろうと、自習を欠席するとそのたびに総合成績(奨学金の対象者を決めるもの)が減点されることになったという。昨日の夜通知があったというのだが、当然学生らは非難轟々。外国語学院だけの措置だという。そもそも大学生にもなって朝晩の自習が義務づけられているのがおかしいし、ほかの学科の自習が一年生のみであるのに対して外国語学院は一年生と二年生の二年間自習を義務づけられているし(こちらが赴任した当初はたしか一年生の間だけだったと思う——あるいは一年生と二年生の前期のみだったかもしれない)、それにくわえてこのきわめて非科学的な措置が導入されたわけで、はっきり言って、バカじゃないのという感じだ。こんなことをしたところで学生らのレベルが底上げされるとはまったく思わない、むしろ逆効果でしかないのではないかという気がするのだが、いったいなにを考えているのだろう? 学生らの反感をまねき、睡眠不足をまねき、(余暇の減少による)過度なストレスをまねく、こうした方策がどうして有効に働くと考えられるのか、まったく理解に苦しむ。根本的なところがアホなんやろな。