20231113

 自己啓発セミナーではこの区別がなく、日常生活は間違っている世界であるとされ、是正しなくてはならないものとされる。宗教でも、「真実」の空間は神のもとにあり、非日常空間の方が価値としては重要であるが、それに従って日常生活を変えることはなく日常生活との境界は維持されている。「真実」の空間はあくまで神のもとに留保されていることに注意しよう。宗教の社会制度としての意義は、この境界の存在にあるのである。
 また急激な自己変容の問題は、この実験空間——非日常空間から日常空間への回帰を遮断して、非日常的空間のもとに人を繋ぎ止め続けるところにある。問題をもつカルトなどで起こっているように、この状態が長く続くともともとの人格パターンとは遮断されてしまい、脱会しても自己コントロール困難な状態になるだろう。自己啓発セミナーは短期的なものであり、このようなカルトほどセミナー団体に繋ぎ止める力はない。とはいえ、こういったカルトの場合は本人を繋ぎ止める外部的な力——他者が目に見えるものとなっており、そこから離脱するということが目に見えるものとなりやすいが、自己啓発セミナーでは、こういった他者を後に見るように完全に排除してしまい、すべて自分の中で起こったこととしてしまうので、もとの自分に回帰するための道筋をたどりにくい。
樫村愛子『「心理学化する社会」の臨床社会学』より「自己啓発セミナーと『エヴァンゲリオン』」 p.209-210)


  • 8時15分起床。10時から一年生1組の日語会話(一)。第4課。先週もう授業に来てくれるなと叩き出した(…)くん、(…)くん、(…)くんの三人のうち、(…)くんだけ出席で、残りふたりは欠席。来ても来なくてもどっちでもいい。合格にはする。授業は例によって低調。先学期授業を担当した(…)の学生と同様、座席が教室後方から順番に埋まるタイプのクラス。こういうクラスはもうどうしようもない。どれだけ工夫を凝らしたところで無意味なのだ。復唱の声もめちゃくちゃ小さい。とりあえず今学期終わりに他の学科に移ってくれる学生が大量に出ることを期待しているが、受け皿の問題もあるしどうなるかはわからん。授業はいちおうかたちだけはどうにかなるわけだが、手応えなど当然ない。それでもかたちだけどうにかなっていればまだいいかとじぶんを慰める。赴任した当時は、(…)先生が歴代最悪と評した(…)さんらのクラスの授業を、経験値0のレベル1の状態で毎週死にそうになりながらどうにかのりきったのだ。あの日々にくらべたらずっとマシだ。
  • 授業後は(…)で鱼柳面を食す。帰宅後は二時間ほど昼寝。昼寝したにもかかわらず夕飯後にもまた30分ほど寝てしまったのだが、これは完全に不貞寝だ。授業で苦々しい思いを味わったあとにかならず作動する防衛機制だ。実際、今日はほぼ一日中この苦々しさにつきまとわれるはめになったのだが、しかしこうして愚痴だの鬱憤だのを書いてみると、ちょっとなつかしい気分にもなる。もともとうちの大学のレベル、学生のレベルとはこういうものだったのだ。いまの二年生が非常に優秀であり、かつ、授業態度もかなりよいので、一時的に失念してしまっていたが、こちらが面倒を見ている学生というのは、ごくごく率直にいって、まずまずの劣等生たちなのだ。マーク・フィッシャーも継続教育カレッジで問題児らを相手に授業をしていた。向井豊昭も(問題児がいたのかどうかは知らないが)小学生相手に授業をしていた。一年生1組の授業態度のほか、スピーチコンテストの練習における同僚らの怠慢などもふくめてここ最近イライラすることがけっこうあったからなのか、今日は何度か、もうほかの大学に移ってやろうか、帰国してやろうかとなかば本気で考え、そしてそう考えるやいなや脳内で自動的に、(…)院长や(…)先生に啖呵を切るじぶんの姿であったり、(…)先生や(…)に決断を打ち明けるじぶんの姿であったり、あるいは親しくしている学生らに卒業までいてあげることができずに申し訳ないと謝る姿であったりが再生されるというのがくりかえされた。だから本来であれば、執筆するなり読書するなりする時間も十分あったはずであるにもかかわらず、行動がそうしたイメージの到来によって折に触れて中断されるためになにをするにしても時間がかかり、明日の授業準備をしたり夕飯を食ったりシャワーを浴びたりきのうづけの記事の続きを書いたり一年前と十年前の記事を読み返したりしただけで、いま、時刻はすでに23時にさしかかろうとしている。
  • しかし逆に考えれば、少なくとも一週間に100分間だけうっとうしい時間を我慢すればいいだけであるということなのだから、やはり楽といえば楽な仕事ということになるのかもしれない。一年生の2組がモチベーションが高く明るいクラスでよかった。一年生が2クラスそろってやる気なしだったら、さすがに転職を考えていたかもしれない。