20231201

"Wait for me, Isa-bel! Kezia, wait for me!"
There was poor little Lottie, left behind again, because she found it so fearfully hard to get over the stile by herself. When she stood on the first step her knees began to wobble; she grasped the post. Then you had to put one leg over. But which leg? She never could decide. And when she did finally put one leg over with a sort of stamp of despair–then the feeling was awful. She was half in the paddock still and half in the tussock grass. She clutched the post desperately and lifted up her voice. "Wait for me!"
"No, don't you wait for her, Kezia!" said Isabel. "She's such a little silly. She's always making a fuss. Come on!" And she tugged Kezia's jersey. "You can use my bucket if you come with me," she said kindly. "It's bigger than yours." But Kezia couldn't leave Lottie all by herself. She ran back to her. By this time Lottie was very red in the face and breathing heavily.
"Here, put your other foot over," said Kezia.
"Where?"
Lottie looked down at Kezia as if from a mountain height.
"Here where my hand is." Kezia patted the place.
"Oh, there do you mean!" Lottie gave a deep sigh and put the second foot over.
"Now–sort of turn round and sit down and slide," said Kezia.
"But there's nothing to sit down on, Kezia," said Lottie.
She managed it at last, and once it was over she shook herself and began to beam.
"I'm getting better at climbing over stiles, aren't I, Kezia?"
Lottie's was a very hopeful nature.
(Katherine Mansfield, At the Bay)

 このくだり、いつ読んでも本当にすばらしい。こんなにも完璧に子どもを描ききっている描写、ほかになかなかない。読みなおすたびに惚れ惚れする。


  • 12月だぜ!
  • 10時半起床。朝昼兼用で第五食堂。きのうに引き続き、今日もなかなか寒い。最高気温は10度。しかし天気予報をみるかぎり、地元のほうがずっと寒い。めずらしい。ちなみに週間予報によると、5日(火)6日(水)7日(木)の三日間の最高気温はそれぞれ21度22度25度らしい。完全に地球バグっとる。
  • 食後、きのうづけの記事の続きを長々と書きくわえる。途中、三年生の(…)さんから微信。北京の(…)先生から押しつけられた宿題を完成させないといけないので夕飯には行けないかもしれないという。夕飯の件についてはどうでもいいのだが、またあのババアから奴隷扱いされているのかと思ってたずねると、拒絶することができないという。「これが最後だと思います」というので、絶対にそれはない、ここで断らなかったら来学期も来々学期もおなじように彼女の宿題を押しつけられるだけだという。断ったら彼女の担当する授業で低い成績をつけられるかもしれないというので、もしそうなったらこちらが外国語学院に直談判してもいい、学生を奴隷扱いするような教員とはいっしょに働けない、もし今後おなじようなことがあったらじぶんはこの大学を辞めると啖呵を切ってもいいという。しかし響かない。(…)先生には優秀な同僚やクラスメイトがたくさんいるはずだ、なぜじぶんに頼むかわからないというので、前回まったくおなじやりとりしたやんけと内心少々イライラしつつ、きみが拒絶しないからだよ、きみが絶対に断らないと思っているからだよと受ける。学生にたのむにしても(…)さんや(…)さんではなくきみにたのむ、それはなぜか、簡単だよ、きみだったらじぶんの命令を断らないとたかをくくっているからだよ、言い返してこないとわかっているからだよ、だからきみを利用して搾取しているんだよ、きみは今回が最後だと思うといったけれども絶対にそれはないと断言できる、今回断らなかったら今後も類似の課題をずっときみに押しつけてくるよ、きみが大学院試験の準備をしたいといってもそんな事情は絶対に無視するよ、あのひとはきみのことを奴隷のように利用することしか考えていないよと、かなり強い口調でいったのだが、(…)さんは「彼女は他人が拒絶することを許さないです」という。「私ができないと言ったら、彼女は私に資料を調べさせます」と続けるので、いやだから資料なんて見つからないとでも言えばいいだけだし、なによりあのクソババアが拒絶することを許さないのは「他人」ではなく拒絶をそもそも試みないきみなんだよとなる。この件について絶対的にクソなのは(…)先生でまちがいないし、(…)さんにその気があるのであればこちらは職を賭けて出るところに出たっていいというあたまでいるのだが、当然彼女にはそこまでだいそれた行動に出る勇気はないし、権威なるものがおそろしく強力なこの社会でそうした行動に出ることはおおきなリスクであるという計算が働くのも理解できる。しかし(…)先生自身、じぶんのふるまいが叩けば出るほこりの一種でしかないという後ろめたさは確実に抱えこんでいるはずであるのだから、(…)さんが拒絶の身ぶりをしっかりとりつづけさえすればそれ以上は強く出ることなどできないのは明らかなのだ。しかし彼女は最初からそれは無駄であるの一点張りで動かない。完全に認知にゆがみをきたしているとしか思えない。きみはルームメイトから面とむかって悪口をいわれたときになにもいいかえせなかった自分が本当にいやだったと以前いっていたでしょう、今回の件もまったくおなじだよ、ここでちゃんと強く断っておかないとこれから先ずっと他人から都合よく利用され続けることになるよという。ケンカをする練習をしなさい、なにかあった場合はぼくが出るからと続けるも、やはり手応えなし。ただおびえているだけではない、ただリスクを危ぶんでいるだけではない、そうではなくて認知レベルで頑固なロックがかかっているという印象を彼女とこの件でやりとりするたびに感じる。試みてもいないことを無理だとあらかじめ決めつけてしまっている。そしてクソババアが数多くの同級生や学生の中からなぜそれほどレベルが高くもない(…)さんに課題を押しつけるのかという疑問に対しては(その答えは当然彼女が拒絶の身ぶりをいっさいとらないからだ、逆にいえばほかの学生にたのんでも拒絶されることは火を見るよりもあきらかだとクソババア自身理解しているのだ、つまり、(…)さんが「無理」だと思っていることは絶対に「無理」などではない!)、完全に思考が停止してしまう。
  • 翻訳を押しつけられたという日本語の原文(旧仮名遣いのかなり古い文章)の写真もやりとりの最中に送られてくる。あわよくばこちらに手伝ってもらおうというあたまがあるのだろうが、彼女の置かれた立場に同情はするものの、ここでこれを手伝うことはすなわちあのクソババアの利益になることであり、かつ、これに味を占めたあのクソババアによって今後も(…)さんが搾取され続けることに同意するのと同義であるので、絶対に手伝わない。目先の同情で動いてはいけない場面。
  • (…)から電話。今日の16時にofficeで待ち合わせして警察署に向かう約束になっていたが、風邪をひいたので延期してほしいという申し出。了承。
  • きのうづけの記事を投稿。ウェブ各所を巡回し、一年前と十年前の記事を読み返す。2022年12月1日は七年半ぶりにブログを一般公開した。つまり、「×××たちが塩の柱になるとき」をこしらえて今日でちょうど一年ということになる。以下、2022年12月1日づけの記事より。コロナ関係の記述。

 西安の(…)くんからも微信。(…)大学の図書館前で自撮りした写真。雪がたくさん降っている。こっちは雪がたくさん降っています、そっちはどうですかというので、歯ブラシをくわえたまま窓辺によると、昨日と同様、夜のうちにいくらか降ったらしく、道路脇にうっすらと雪が積もっている。五階からの風景を写真に撮って送る。(…)くんは明日帰省することになったといった。去年のいまごろは40日以上に渡って大学が封鎖されて学生は寮を出ることすら許されなかった、今年もまたそんなことになったら大変だからと先生たちが帰ることのできる人間はなるべくはやく帰ったほうがいいと言ってくれたのだ、と。今学期の半分以上はオンライン授業だったし、現状もそうであるので、だったら帰れるうちにさっさと帰っておくかと判断した様子。都市部の院生たち、こちらの観測できる範囲ではだいたいみんなそういう流れになっているようだ。広州の(…)さんも昨日モーメンツに帰省することになったと投稿していたし、北京の(…)くんもわりと最近防護服姿の自撮りをあげていたが、あれもやっぱり北京を出て故郷に戻るということなのでは? しかしこの流れはちょっと困る。各地の大学で学生らを前倒しで帰省させているのはもちろんキャンパス内での集団感染(とそれにまつわる責任問題)を大学および地方政府がおそれているということなのだろうが(それにくわえて学生主体の抗議運動をおそれているという事情もあるのかもしれないが)、そのおそれが来学期はまるごとオンライン授業という判断を下すきっかけになるかもしれない。やれやれ。

 ケッタを飛ばして万达へ。広場はガラガラ。ひとっ子ひとり見当たらない。もしかしたら営業していないのかもしれないと思うが、入り口にはいちおう警備員らしい姿がある。ケッタを停めて中に入る。itinerary codeを読み取り、警備員に見せて、中に入る。ガラガラ。入ってすぐのところにある宝石売り場の女性スタッフは退屈そうに談笑。右手のスタバもガラガラで、カウンターには女性スタッフがひとりしかいない。平日の真昼間であることを差っ引いてもやっぱり閑散としている。みんなビビって人混みを避けているのだろう。
 (…)に行く。三階でまずは洗剤を購入することに。この売り場もやっぱり閑散としている。客も全然いないし、従業員の数も少ない。この売り場の従業員は必ず声をかけてくるのだが、それも今日はまったくない。洗剤はキャンパス内にある文房具店でも売っているはずだから、わざわざここで買う必要もないかなと一瞬思ったが、そうした油断が命取りになる可能性もなくはないので、荷物になるがやはり買っておくことに。そのまま二階の食品売り場へ。こちらもやはりガラガラ。冷食の餃子を三袋と生油を買い物かごにぶちこむ。ネスカフェゴールドブレンドはない。マジか! 一番の目的だったのに! 瓶ではない、スティックのやつはけっこうたくさん売っていたが、なんとなく買う気になれない。それだったらもうスタバで豆を買ったほうがいいなと考えてセルフレジへ。

  • 以下は2013年11月30日づけの記事より。ひとつめの伏字は「パケ」で、ふたつめの伏字は「コカイン」だ。これは結局最終的にどう処分したのだっけ?

忘れ物の山のなかにひとつ黒いフェイクレザーのショルダーバッグがあるのだけれどそれは忘れ物ではなくて厳密にいえば人質みたいなもので、(…)さんが勤務しているときにあったことらしいのだけれどいま手持ちの金がないので宿泊料金を支払うことができない、家に帰ったら金はあるのだけれどじぶんは九州の人間である、だから家にもどったあとに郵送で料金を支払わせていただきたいのだけれどどうか、もちろんこのままふつうに帰してもらうわけにいかないことはわかっている、ゆえに身代わりとしてこの鞄を置いていくことにする、家にもどってから現金をそちらに送るのでそれと引き換えに着払いで荷物を送っていただければどうかと思う、みたいなアレであずかることになった鞄、その鞄がもうかれこれ数ヶ月置きっぱなしになっていて要するにまんまと踏み倒されたわけなのだけれど、その鞄の中を見たことがあるかと(…)さんがこちらに問うのでいやないですけどと応じると、おもろいもん入っとるでというものだからシャブでも入ってんですかといいながら請求書のたぐいがやたらとつめこまれている鞄のなかをあさってみると、出るわ出るわ××の山で、空になっているものもあれば中身のまだずいぶん残っているものもあったけれどいずれにしてもこんなものの入った鞄をよく他人にあずけられるなという話で、そのあたりひょっとしてなにかしら見通しのかなわぬ物語がうずまいているのかもしれないけれどもとにかく(…)さん曰く中身はおそらく××××で、まあめんどうくさいことになるとアレなんで(…)さんには内緒にしておきましょうかと話し合って奥のほうにそっと封印しておく運びとなった。

  • あと、2013年12月1日づけの記事に「(…)さんは(…)さんの結婚式に出席するために欠勤。(…)さんはじぶんの父親がヤクザであることを資産家らしい嫁さんのお家にはひとことも告げていない」という記述があり、ひでえ話だなと思った。
  • (…)さんから微信。夕飯はもう食べましたか、と。なんだかんだで結局こちらといっしょに江西料理を食べるつもりでいるらしい。了承。17時半ごろに女子寮前で合流。后街に向かう道中、(…)先生とこれまでケンカしたことのある学生の名前をこちらの知るかぎり羅列する。(…)くん、(…)くん、(…)さん、(…)さん、(…)さん、(…)くん、(…)さん……。みんな相手の理不尽に対しては怒りを表明した、その結果(…)先生はそれらの学生たちに対してはそれ以上強く出ることができなくなった、だからきみももうすこし怒りを表明する練習を重ねたほうがいい、と。
  • 后街の雑踏のなかで(…)さんと(…)さんのコンビを見かける。声をかけようとしたが、直前でちょっと思いとどまる。ふたりのクラスメイトである(…)さんとふたりきりで歩いているところを見られるのはやっぱりよくないのかなと変な意識が働いてしまったのだ。
  • (…)さんが案内してくれた江西料理の店、うすうすそうではないかと思っていたのだが、こちらがこの仕事をはじめてほどないころに、(…)さんとたびたびおとずれたことのある店だった。小さな壺に入ったスープがとにかくうまいのだという彼のおすすめもあり、赴任した当初は何度かいっしょにおとずれたし、その後はひとりでおとずれることも何度かあった。ワールドカップの中継をみるために(…)さんの行きつけのバーに深夜向かう道中、この店で小籠包を打包した記憶もあるし、(…)さんとふたりこの店で遅めのメシをつつきながら、当時デモが激化していた香港の話を小声で交わしたり、フー・ボーの『象は静かに座っている』について教えてもらったりした記憶もある(中国では公開されていないが、日本では公開されているので、インターンシップで日本に行った際に映画館で観てみたいと彼女はいった)。ヘミングウェイの「何を見ても何かを思い出す」という小説のタイトルをちょっと思った。I Guess Everything Reminds You of Something——そういう言葉がふとあたまをよぎる程度には、じぶんはすでにこの土地と長く付き合っているんだな、と。しかしこの店が江西料理の店であることは全然知らなかった。再入国後におとずれるのも今日がはじめて。店内をせわしなくうろつきまわる店員の男の顔には見覚えがあった。コロナ前はまだまだ子どもみたいな顔つきだったのに、いつのまにか二歳か三歳くらいの男の子のパパになっていた。男の子はひとりでテーブルにつき、小さな壺に入ったスープにスプーンをつっこんでいた。となりのテーブルについたわれわれのほうを見てしきりに喃語を口にしては人差し指をたててみせるので、こちらもおなじようにたてた人差し指でその子の人差し指をついてやったり、ついてやる直前でひっこめたりしてやった。子どもはケラケラ笑った。
  • かつて(…)さんにすすめてもらった黒い鶏肉の入ったスープと牛肉拌粉をオーダー。(…)さんはもうすこし安いスープと南昌拌粉。食事中ひっきりなしにスマホをさわっているのでなにをしているんだろうと思ったのだが、知らない先生とやりとりしているという。「逃税」という文字をこちらに見せたのち、大学の先生はお金持ちですというので、なんのこっちゃと思ったが、断片的な情報から察するに、どうやらなんらかのprojectで発生する報酬をふりこむにあたって、税金が発生するのを避けるためにまずはその報酬を学生の口座にふりこむ、その後学生がその口座にふりこまれた金額をそのまま本来ふりこまれるべき教師のもとに送金するというアレがなされているらしかった。こちらも今年のあたまだったか去年だったか、スピーチコンテストの指導費だの翻訳プロジェクトの報酬だのの未払い分をふりこんでもらうにあたって、月給といっしょにそのままふりこむとなると税金が発生するからという理由で、(…)先生主導のもと、報酬をまず四人か五人の学生の口座に分散して大学からふりこんだのち、それらを学生らが個人的にこちらの口座に送金するという処置がとられたことがあった。
  • 食後、屋台と歩行者とバイクと車でごったがえす后街をひきかえす。(…)人は背が低いと(…)さんがいう。中国でいちばん平均身長が低い省だったと思うと受ける。(…)さんは故郷の江西省では背が低いほうだったという。かたわらの彼女をながめる。165センチくらい? とたずねると、これ……といって厚底のブーツを指さしてみせる。実際は160センチだといったのち、本当は159センチだと笑って続ける。こちらは前回の健康診断で174センチだった。なぜか以前より伸びていた。(…)さんは背の順で並ぶといつもfirst lineだったという。日本はどうですかというので、(…)人より少し高いくらいかなと受ける。
  • 夜は「心理」の授業だという。心理学ではない。メンタルヘルスに関する必須授業だ(そんな授業が実施されているわりには、関連する大学の制度は不完全であるし、大学教員個人もろくな知見をもちあわせているようにはみえないが!)。今日はテストだという。しかし成績に関係するものではないので、別に遅刻してもいいという。授業は外国語学院の教室で行われる。それで病院を通り抜けて外国語学院のほうに移動し、門前で彼女と別れる。そのまま地下道を抜けて第四食堂へ。海老のハンバーガーをひとつ購入する。
  • 帰宅。ソファに寝転がってハンバーガーを食しながら『ノルウェイの森』(村上春樹)の続きを読み進める。「あの思春期の少女特有の、それ自体がどんどん一人歩きしてしまうような身勝手な美しさとでも言うべきもの」という記述にふれて、京都に住んでいたころに交差点ですれちがった制服の女の子のことをふと思い出した。『S&T』にたぶん収録したと思うが、顔立ちや体つきはすでに女の子というよりも女性という印象をまとっているのだが、交差点を駆け足で渡るその動作のひとつひとつがいわゆる男らしさもしくは女らしさに分岐するまえのジェンダーレスな中性性をかたく秘めたままで、そのちぐはぐな印象(というふうに感受してしまう時点で当然のことながらこちらの認識を含む社会全体にまだまだ男性性や女性性というものが強固に存在しているという事実はいちいち指摘するまでもないだろうが)がすごく印象に残ったのだ。
  • それから、直子が幼馴染であり恋人であったキズキとの関係を語るくだりは、前期ラカンっぽいなと思った。去勢の契機の不在。

「(…)とにかく私たちはそんな具合に成長してきたのよ、二人一組で手をとりあって。普通の成長期の子供たちが経験するような性の重圧とかエゴの膨張の苦しみみたいなものを殆んど経験することなくね。私たちさっきも言ったように性に対しては一貫してオープンだったし、自我にしたってお互いで吸収しあったりわけあったりすることが可能だったからとくに強く意識することもなかったし。私の言ってる意味わかる?」
「わかると思う」と僕は言った。
「私たち二人は離れることができない関係だったのよ。だからもしキズキ君が生きていたら、私たちたぶん一緒にいて、愛しあっていて、そして少しずつ不幸になっていったと思うわ」
「どうして?」
 直子は指で何度か髪をすいた。もう髪どめを外していたので、下を向くと髪が落ちて彼女の顔を隠した。
「たぶん私たち、世の中に借りを返さなくちゃならなかったからよ」と直子は顔を上げて言った。「成長の辛さのようなものをね。私たちは支払うべきときに代価を支払わなかったから、そのつけが今まわってきてるのよ。だからキズキ君はああなっちゃったし、今私はこうしてここにいるのよ。私たちは無人島で育った裸の子供たちのようなものだったのよ。おなかがすけばバナナを食べ、淋しくなれば二人で抱きあって眠ったの。でもそんなこといつまでもつづかないわ。私たちはどんどん大きくなっていくし、社会の中に出て行かなくちゃならないし。だからあなたは私たちにとっては重要な存在だったのよ。あなたは私たちと外の世界を結ぶリンクのような意味を持っていたのよ。私たちはあなたを仲介にして外の世界にうまく同化しようと私たちなりに努力していたのよ。結局はうまくいかなかったけれど」

  • シャワーを浴びる。一年生1班の(…)さんから微信。今月中旬にコナンの新作映画が公開されるけれど観に行きますか、と。彼女からの誘いはこれまで二度連続で都合がつかず断ってしまっているし、ここは引き受けておくかというわけで、それではいっしょに観に行きましょうと受ける。しかしこちらが最後に『名探偵コナン』のアニメを観たのは中学生のときではないか? 新キャラとか全然よくわからんので、映画を観に行くのであれば事前に予習が必要かもしれん。まあピクシブ百科事典で主要キャラの解説を斜め読みしておけば問題ないだろう。
  • 今度は四年生の(…)さんと(…)さんのふたりからビデオ通話依頼。学生からの誘いだの依頼だのってほんと時期が重なるよなと思いつつ了承。大分の(…)さん、きのうは雪が降ったという。帰国まであと一ヶ月かそこら。ネパール人の先輩との関係は最近はまずまず良好らしい。別の旅館で働いている(…)さん含めて、女将さんからはビザの期限が切れるぎりぎりまでうちで働いてほしいと頼まれたというので、ちょっとびっくりした。これまでうちの学生がインターンシップ先からそんなリクエストを受けたことはなかったはず。人手不足もあるだろうが、(…)さんにしても(…)さんにしても基本的にとても生真面目な子であるから、たぶんそういうアレもあったのだろう。しかしふたりとも契約延長は断ったとのこと。(…)さんはなんでもかんでもあまい日本食にかなり辟易している模様。
  • 明後日はN1試験。(…)さんはもともと日本で受験する予定だったが、試験の会場は職場からかなり遠いらしく、ひとりで行くのも不安なので、今回の試験はパスするとのこと。(…)さんはN2を受けるという。四級試験に合格したいま、N2を受ける必要はないでしょうというと、でもN1は難しすぎるからという。さらに来週末は教師の資格試験の面接もある(三年生の(…)さんも受けるものだ)。(…)さんは明日の朝一出発。会場は武漢とのこと。
  • (…)さんのビデオカメラにはときどきルームメイトの(…)さんが映りこんだ。彼女は院試組。英語学科の一年生が複数あたらしいルームメイトとして加わっているはずだが、(…)さんは彼女らのことがあまり好きじゃないといった(もちろんここは日本語で話した)。うるさいのだという。これも一種の風物詩だよなと思う。うちの学生たちは新入生がやってくるたびに、一年生はうるさい! 失礼! と必ずブーブー文句を垂れる。
  • ビデオ通話は一時間ちょっとで終了。トースト二枚を食してベッドに移動し、『ノルウェイの森』の続きを読み進めて就寝。