20231208

He stepped out of the shadow. “Is that you, Laura?”
“Yes.”
“Mother was getting anxious. Was it all right?”
“Yes, quite. Oh, Laurie!” She took his arm, she pressed up against him.
“I say, you’re not crying, are you?” asked her brother.
Laura shook her head. She was.
Laurie put his arm round her shoulder. “Don’t cry,” he said in his warm, loving voice. “Was it awful?”
“No,” sobbed Laura. “It was simply marvellous. But Laurie—” She stopped, she looked at her brother. “Isn’t life,” she stammered, “isn’t life—” But what life was she couldn’t explain. No matter. He quite understood.
“Isn’t it, darling?” said Laurie.
(Katherine Mansfield, The Garden Party)


  • 10時過ぎ起床。ずいぶん寝た。スーツケースの中に入っている封筒から100元札を4枚取り出して第三食堂へ。道中、ひとりで歩いている二年生の(…)くんを見かける。これから女子寮前で彼女と会う約束だという。
  • 第三食堂の外にある窓口で饭卡に400元チャージする。(…)くんと少々立ち話をする。今日18時ごろに(…)先生らと夕食をとりにいく一件について。すぐに政治の話をするなよとあらかじめ制しておく。日本と韓国は色々あった、それにくわえて相手がどんな思想の人物かもわからない、さらにわれわれは外国人であるからここ中国ではうかつなことは言えない、初対面ではずけずけと踏みこんではいけないと言ったが、あまりよく理解できていないふうだったので、最近のきみは危なっかしい、食事の席には(…)さんも(…)さんもいる、そんな場面でいきなり共産党批判をはじめるなと言っているのだと、ことを単純化して注意。(…)くんはわかっているといった。
  • 立ち話をしていると、「先生!」と呼びかけられた。おなじ二年生の(…)さんだった。さらにその後、(…)さんと(…)さんのふたりからも声をかけられた。(…)さん、口にピアスをあけていた。二ヶ月前にあけたという。ガチガチのオタクであるし、化粧っ気もまったくないタイプであるのだが、いきなり思いきったもんだ。
  • (…)くんと別れて第四食堂へ。ハンバーガーをふたつ打包する。ケッタに乗ろうとしていると、また「先生!」と呼びかけられる。二年生の(…)さんと(…)さん。きみたちとは毎日会いますねと笑う。库迪咖啡でアイスコーヒーを打包する。
  • 帰宅。ハンバーガーを食い、アイスコーヒーを飲み、阳台にパソコンをもちだしてきのうづけの記事を延々とカタカタし続ける。さすがに時間がかかる。どうにか投稿したところでウェブ各所を巡回し、一年前と十年前の記事を読み返す。以下は2023年12月8日づけの記事より(ただし初出は2021年12月8日づけの記事)。

 クィア理論の先駆者であるレオ・ベルサーニは、二〇〇二年の論文「社交性とクルージング」において、ゲイの「ハッテン場」、すなわち、まったく外面的な判断のみによって相手を選び、すぐさまセックスをして去っていく場所を、一般的な「社交性」にとってのゼロ地点のごとき場所として考察している。
 ベルサーニは、ゲオルク・ジンメルによる「社交性」の考察から始める。社交性(友達とのちょっとした会話とか、会社でのやりとりなどを思い浮かべてほしい)とは、自分の実存全体を投入することではない。むしろ自分のいくつかの部分のみで、自分を「控えめ less」にして、自分の「以下性 lessness」を駆使してつきあうことである。実存まるごとをホットに社会全体の目的へ直結させることがファシズム的であるとすれば、自分を「以下」にすること、それぞれの程々の「引きこもり」にもとづく社交性のクールさはファシズムに対する防波堤であり、かつ、場合によってはファシズムへ熱していくかもしれない関係の初めの温度である。この意味で社交性とは、あらゆる関係の可能性の条件、どうでもよさの条件であり、それが(内面なしの)身体と身体のアドホックな黙約において露わにされるのが「ハッテン場」という社会の影なのだ。
 さらにベルサーニは、人間のみならず、あらゆる存在者の「以下性」さえも示唆している。これは、社交性の概念から存在論へのジャンプである。ものごと一般の政治哲学である。存在者たちは、それらの本質を互いに全体として絡み合わせているのではない。どんな存在者も、それぞれの「以下性」によって多角的に分離しており、多角的にすれ違っている。社交性の存在論化、それは、世界はハッテン場であるかのようだと思弁することである。いわば「存在論的ハッテン場」におけるものごとの複数性。分離した万物のリズム、分身化、その快楽。

最も深いところで言うならば、社交性の快楽とは、存在することの快楽、具体的に存在することの快楽である。純粋な存在の、抽象的なレベルにおいて。あの快楽に、それ以外の説明はない。社交性の快楽は、意識的・無意識的な欲望を満たすのではなく、それは、諸々の事物[things]へと向かう/から離れるという絶えまない動きの誘発性[seductiveness]なのであり、それがなければそもそも、いかなる事物に対する特定の欲望もありえない。あらゆる事物に対する欲望可能性の存在論的な基礎としての誘惑性である。

(千葉雅也『意味がない無意味』より「あなたにギャル男を愛していないとは言わせない——倒錯の強い定義」 p.112-113)

  • 以下も2023年12月8日づけの記事。アホすぎて笑う。

(…)さんは最高。元々けっこうしっかり授業を受けているタイプの学生であるし、高校生から日本語を学習していた子であるので、できないということは全然ないだろうとは思っていたが、めちゃくちゃしっかり練習してきたのだろう、リスニング四題も迷わず一瞬で答えて全問正解、スピーキング四題も途中で詰まったり考えたりすることなくすらすらすらっときわめてスムーズに答えてみせて、あんたが本日のMVPや! 死ぬほどベタ褒めする。優秀! 天才! というと、たいそう嬉しそうに笑っていた。本当にすばらしい。こちらがもし寿司職人の息子だったら、彼女のためにまぐろ百貫握ってふるまっていたと思う。

  • 2013年12月8日づけの記事でもやっぱり笑う。こうやって読み返していると思うのだが、じぶんの日記は本当にアホなことしか書いていないのではないか。

(…)ぜんぜん筋肉がついてくれないせいでいっこうに腰痛がなおらないとこぼしていると、上半裸になって全身に力を入れてみてと(…)がいうものだからいわれたとおりにすると、それをパシャっと写メで撮影し、撮影したその写真とボクサーとか細マッチョとかたぶんその手のキーワードの画像検索で出てきた画像とをならべて見せるなり、これを見ろ!おまえはすでに胸と腹にかんしてはそこらのボクサーと変わらない筋肉を有している!バッキバキに割れまくっている!ならば何が問題なのか!腕だ!肩だ!そのせいでひょろく見えるのだ!よく見てみろ!おまえは手首から肘にかけての腕の太さが二の腕の太さを上回っている!そのせいでこの写真にうつっているおまえはテナガエビのようになっているではないか(ここでふたりそろって爆笑)!

  • 今日づけの記事をここまで書くと時刻は17時半。作業中、二年生の(…)さんから微信が届いた。(…)くんと(…)くんのふたりと合流したうえで18時に(…)楼前まで来てくださいとのこと。それなので作業を切りあげてすぐに身支度をととのえた。時間があまったのでモーメンツをのぞくと、(…)さんがまたキレていた。長年日本に滞在しているからなのか、あるいは日本の大学で教鞭をとっているからなのか、いずれにせよあやしいと疑われたのだろう、実家の両親のところに素性を問う連絡が入ったらしい。海外とかかわりがある人間はみんな境外勢力の疑いありと見なされるというわけだ。いよいよ末期ではないか。
  • (…)くんから微信。すでに寮の前にいるという。18時に(…)楼前で待ち合わせではないのかとたずねると、事情が変更になったようす。(…)先生が授業を終えて外国人寮にもどっているので、その門前で落ち合うことになったという。それで階下に移動した。ほどなくして(…)くん、さらに少し遅れて(…)さんと(…)さんも姿をみせた。門前でしばらく立ち話。(…)さんの日本語能力、少なくとも会話にかんしていえばけっこう絶望的かなという印象。しかしまじめに勉強をしているので、聞き取りはある程度できる。(…)さんはもうすこしできる。こちらと接するにあたってそれほど緊張している印象も受けないし、機会さえ重ねればおそらくものになる。
  • ほどなくして(…)先生が姿をみせる。こちらがぎっくり腰であると嘘をついて参加しなかったボランティア活動の集合写真にアジア人のおじさんがひとりうつりこんでいたのを以前確認していたのだが、たぶんそうではないかと予想していたとおり、彼が(…)先生だった。のちほど食事中、(…)くんが失礼ですがと前置きして年齢をたずねたところ、50歳であることが判明。年齢相応の外見であるが、優しい声をしており、物腰もたいそうやわらかく、なによりずっとニコニコしているひとだった。日本語は非常にうまい。うちの日本語学科の教員よりもはるかにいい。会話レベルだけでいえば、(…)先生や(…)先生に次ぐレベルだろう。発音なんてもしかしたら(…)先生以上かもしれない。握手してあいさつ。(…)さんと(…)さんのふたりはがんばって韓国語であいさつする。
  • 万达でメシを食うのでひとまず北門まで歩く。(…)先生は明々後日の月曜日には韓国に帰国する予定だという。たった一ヶ月の滞在なのだ。のちほど聞いたのだが、(…)には友人の紹介でやってきたという。本来であればもうすこし長く滞在する予定だったのが、どういう事情があったのかは知らないがそれを一ヶ月に短縮、結果として一学期分の授業を一ヶ月に圧縮しておこなったとのこと。土日もなしでほとんど毎日午前も午後もみっちり授業ということだ。これにはさすがに同情した。いくらなんでもしんどすぎる。(…)先生本人もこの一ヶ月間、じぶんの身体がもつかどうかそれだけが心配だったと言っていた。
  • 北門からは二台のタクシーに分乗。一台目は女子ふたりと高先生、二台目は男子ふたりとこちら。タクシーの後部座席に三人乗りこんだのち、中国の方言についてあれこれ話していると、運転手のおっちゃんが例によっておまえらが話しているのは日本語か韓国語かという。(…)くんがこのひとは外教で日本人だと話す。そのときにちょっとふざけて、故郷の方言で日本人を意味するzi3ban2ren2みたいな言葉を口にする。それを訂正するかたちでこちらが(…)话でer4ben3ren2というと、運転手のおっちゃんはゲラゲラと笑った。運転手のおっちゃんは最初学生ふたりのことも日本人だと勘違いしていたらしい。万达に到着後、車をおりるまえに礼をいうと、开心一下! という返事があった。こんな言葉をかけられるのははじめてだった。(…)くんはタクシーをおりたあと、さっきの運転手は本当にいいひとだった、夏休みにスピーチのメンバーでのったタクシーの運転手とは全然違うといった。
  • 万达にある車止めの亀頭みたいなかたちをした背の低いポールにくまのプーさんのイラストが描かれていたので、これダメでしょうと(…)くんにいった。(…)くんは笑ったが、(…)くんのほうは意味がわかっていないふうだった。(…)くんもVPNを使っているが、彼の目的はあくまでもアニメや漫画なのだ。それでいえば、これは外国人寮の入り口で女子ふたりと(…)先生が来るのを待っているあいだに聞いた話だったように記憶しているが、ふたりがN1の試験を受けるために電車に乗っている最中、おなじ車両にクソデカい声で共産党の悪口を言いまくっているおっさんがいたらしい。ふたりともたいそうびっくりしたという。いまの中国でそんな話をおおっぴらに口にする人間がいるのか。
  • 万达の入り口で待ち合わせするという約束だったはずだが、ふたりは店の前で待ち合わせをする約束だという。それで建物の中に入り、エスカレーターで四階まで移動したのだが、その後、やはり万达の入り口前での待ち合わせであったことが判明。アホ。店の前まで三人がやってきたところで店内へ。すでに(…)さんが予約済みだったので、奥にある大きめの丸テーブルに通される。鍋の味については唐辛子抜きもオプションであるにはあるのだが、それだとおいしくないというし、なにより韓国人の(…)先生と韓国大好きの(…)さんが主役の会であるのだから、こちらのことは気にしないでくださいと伝える。しかし学生らはこちらに気をつかって微辣を注文。(…)先生これで満足できるかなと心配だったが、ちょうどいいくらいだという返事があった。
  • そこからは食事をしながらいろいろに話した。いろいろに話したのだが、(…)さんはガチガチに緊張しているのか、それとも韓国語の口語能力もまだそれほどではないのか、全然話そうとしない(しかしのちほど彼女が食後に撮影した写真とともにモーメンツに投稿していたメッセージによれば、彼女もまた「社恐」らしかった)。(…)くんは持ち前の好奇心でバンバンバンバン質問しまくる。タバコを吸いますか?(若いころは吸っていたが、日本留学時代、当時は円高だったのでタバコを自然とやめることになった)、お酒を飲みますか?(青島ビールが好きだ、韓国でも人気がある、しかし最近青島ビールの製造工場でスタッフがビールに小便している動画がでまわって以降は売り上げが落ちている)、中国についてどう思いますか?(とにかく大きい、(…)から(…)まで地図でみれば近所であるのに移動に四時間かかった、(…)もとても広い大学だと思ったが学生たちは小さい大学だという)、どんな音楽が好きですか?(むかしはバッハが好きだったが、いまは韓国版の演歌のような曲をよく聴くという——という話の延長でこちらはKim Doo Sooについて言及したが(…)先生はやはり知らないようだった)などなど。ほかに(…)くんは最近韓国ドラマにハマっているらしく、いちばん好きな俳優の名前をあげた。マ・ドンソクという男性。画像を見せてもらったが、めちゃくちゃ筋骨隆々のおっちゃん。中国では「韓国の最後の男」(韩国最后的男人)と呼ばれているという。どういうことかと一瞬疑問に思ったが、BTSをはじめとする中性的な韓国人男性が世界を席巻するなか、(ウィキペディアによると)「身長178cm、体重100kg」というめちゃくちゃいかついガタイにコワモテという反時代的な外貌からそのように呼ばれているということで、これには(…)先生も大笑いしていた。(…)先生によれば、マ・ドンソクは俳優としては常にヤクザの役か警察官の役らしい。
  • あらかじめ釘を刺しておいたにもかかわらず、(…)くんは地雷を踏んだ。韓国の三国時代に言及したり、じぶんは第二次世界大戦に興味があると言ったり、だんだんと雲行きがあやしくなってきているなァと思っていたところ、なにかの拍子に彼もVPNを使っていますからと(…)先生にこちらがひそかに告げたそのとき、これがぼくのTwitterアカウントですといいながら(…)くんがスマホをみせた、そのアカウントの画像が金正恩だったのだ。そういうのはやめなさいとすぐに制した。それで彼もまずいと思ったのか、いったんおとなしくなったというか、やばい地雷を踏んでしまったかもしれないと顔色が青ざめていたわけだが、(…)先生は少なくとも表面上はニコニコしていた。のちほどエスカレーターに乗っている際、このときの失態について(…)くんが口にしたので、きみは韓国人は全員北朝鮮のことをバカにしていると思っているのかもしれないがそんな単純なわけがない、韓国と北朝鮮はそもそも日本を含む他国のせいもあって二カ国に分断されたという事情がある、たとえ北朝鮮の指導者が愚かであると思っていたとしてもそのことを第三国の人間にバカにされたらいい気持ちにならないひとだって中にはいる、そこには複雑な感情があるはずだろうというと、じぶんは韓国人も中国人と同様に金正恩のことを嫌いだと思っていたというので、嫌いだというひとはおおぜいいるだろうがそんな簡単に割り切れるものではないし、そもそもひとくちに韓国人といってもいろいろな考えのひとがいる、だから初対面の人間に対して政治的に踏みこんだ話をするなと何度も言ったのだ、そういうのはある程度信頼関係ができあがってはじめて踏みこむことのできる領域なのだと注意した。注意しながらも、けっこうげんなりした。中国風にいえばもっとも「開放的」なタイプであるといってもさしつかえのない彼でさえ、政治の領域になるとこの程度の認識しかもちあわせていないのだ。想像力というものが圧倒的に足りない。「他者」がいない。
  • 似たようなげんなりは別の場面でもあった。(…)さんはうまくいけば三年生から韓国に留学することができるかもしれない。それで留学後に韓国人の彼氏を作ればいいとこちらが口にしたところ、中国語でなにやら返事をした。それを通訳した(…)くんによれば、「韓国人の男はクズが多い」とのことで、ぎょっとした。いや、仮にそう思っていたとしてもそれを韓国人であり男性である(…)先生の前で口にするのか、と。それはおかしい、韓国人だろうと中国人だろうと日本人だろうとクズもいればクズではないひともいるとすぐに注意したが、こういう言葉を耳にして(…)先生はいったいどう思うだろうと内心ひそかに心配になった。こちらはすでにこの国にかかわって五年六年になるし、この国のどうしようもない教育環境とどうしようもない情報環境にある程度通じているので、この手の発言を学生ら個人の責任に帰することはできないということ、大部分は社会構造の起因するものであることを一歩ひいた目線で理解できるのだが、中国のそういった事情を知らない(…)先生がどうとらえるかはわからない。「他者」もいないし、「個人」もいない。「他者」および「個人」不在の思考の持ち主はもちろん日本にも少なからずいるわけだが、中国の場合それがデフォルトというやばさがある。近平の旦那うんぬんよりもこういう環境で育った子らが今後この国をになっていくという事実のほうがはるかにおそろしい。
  • (…)先生はこの夏休みに北海道へ旅行に行ったという。すずしいだろうと思って行ったのに暑かったというので、そういえば夏場に北海道の気温が30度をオーバーしたというのがニュースになっていたなと思い出した。
  • (…)先生は中国語がまったくできない。授業は英語ですかとたずねると、英語をベースとしつつときどき日本語を混ぜるというので、え? と驚くと、美術学科の学生のなかには簡単な日本語であれば理解できる学生がちらほらいるのだという。アニメの影響か。もちろん韓国アイドルが大好きな学生もいる。なかには韓国風のファッションを身につけている男子学生もいるとのこと。
  • 鍋の残りが少なくなったところでビールはどうですかと(…)先生にたずねた。最初にたずねておくべきだったのだが、忘れていたのだ。少しなら飲むという話だったので、(…)くんとふたりで一本くらいでいいかなと思ったが、女子ふたりもコップいっぱいくらいなら飲むということだったので、二本注文した。重慶のやつ。
  • 会計。(…)先生にはもちろん支払ってもらう必要はない。今回の会を計画した(…)さんが全額出すつもりらしかったが、さすがにそれはアレなので、例によって半額分をこちらがもち、残りを学生らで割ってくれと伝えた。
  • 女子らが(…)に行きたいというので、店にむかって歩きだす。オープンしたばかりの韓国料理店があったので、店の前をちょっとだけのぞく。(…)につくと、(…)先生はすぐに店のロゴだの店内で販売されているグッズだのをスマホで撮影しはじめた。new Chinese styleだという。特に筆文字が気になったようだ。こちらはあまくない緑茶をオーダーする。ココナッツミルクがちょっとだけ入っていたが、あまりおいしくはなかった。(…)先生もこちらとおなじものをオーダー。(…)さんはクリームののっかった甘いやつ。男子ふたりと(…)さんはオーダーせず。
  • 店を出て一階まで移動する。中国語と日本語と韓国語で発音の似ている単語を探す。コーヒー、図書館、ケンタッキーなどは全部そっくりだった。おもしろい。東アジアの三カ国語ぜんぶを習得すれば楽しいだろうな。
  • 外に出る。散歩がてら(…)公园を抜けてキャンパスにもどることに。溝川沿いのまっくらなトンネルでいつものように「わっ!」と学生らを驚かせる。禁止されているはずの釣りをしているおっちゃんが今日もいる。(…)湖という名前の湖なんですよと(…)先生に説明すると、日本には白馬会という美術の団体がありましたねという反応。さすが。
  • 橋を渡る。橋のポールもまたnew Chinese styleな趣向が凝らされているので(…)先生が写真に撮る。噴水の広場におりる。(…)先生の相手は男子学生ふたりにまかせて(ふたりは(…)先生にひっきりなしに質問をしていた、こういうふたりの積極性というか好奇心の強さはすなおに尊敬する、「社交恐怖症」を自称する子らばかりの時代にあってやはり異質だと思う)、(…)さんとならんで先頭を歩く。(…)さん、がんばって日本語でいろいろ話そうとする。「暗唱コンテスト」の結果は第二位だったという。第一位は一年生1班の(…)くん。彼はとてもすごい、漫画のなかの人物みたいだというので、高校一年生のときから日本語を勉強しているからねと受ける。
  • 次の橋を渡る手前で(…)くんが離脱する。彼女が近くで待っているのだという。大学入学後三人目の彼女なんですよと(…)先生に伝えると、ひとりめは高校時代からの彼女だと(…)くんが補足する。そのあと英語学科の先輩と付き合ったと(…)さんが続ける。そしてそのあとコスプレイヤーの(…)さんとも短い期間付き合っているわけだが、それについてはみんな知らないのだったなと心の中で考える。だからいまの彼女は大学入学後四人目ということになる。(…)くんはいつもスマホで髪型を気にしているというと、(…)くんと(…)くんもそうだと女子ふたりがいう。
  • そこから中国の高校では恋愛が禁止されているという話をする。(…)先生、もちろんこの事実を知らなかった。韓国ではどうですかと(…)くんがたずねると、良い大学に進学する子はやはりあまり恋愛しないという返事。でも韓国のドラマでは高校生がみんな恋愛していますと(…)さんがいうと、ドラマは現実じゃないからという返事があり、みんな笑った。うちの学生たちのあいだでは韓国ドラマが人気ですよ、特に女子学生はK-POPと韓国ドラマが大好きですと告げる。韓国ドラマは写実的ですねと(…)先生がいう。「写実的」が学生らには理解できなかったので、現実的という言葉を中国語読みして伝える。日本のアニメはまさにその反対ですと続く言葉に、アニメ大好きな(…)くんが日本のアニメは「冒険」が多いと応じる。
  • 交差点を渡る。バドミントンコートの脇を通る。(…)くんは体育の授業でバドミントンを選択。先日はテストだったという。(…)先生の教え子の中にもバドミントンを選択している学生が多数いるとのこと。(…)先生自身は若いころはテニスをよくしたという。
  • 新校区に入る。(…)楼の前を通る。この建物をみるとちょっと留学時代を思いだすと(…)先生はいった。東京藝術大学に通っていたんですが、あそこも校舎がこんなふうにわかれていてと続けるので、大学院って東京芸大だったんですか! とびっくりした。学生たちがなになにというので、芸術系の大学でいちばんレベルの高い大学だよ、天才がたくさんいるところだよとややヨイショしつつ答えると、それが思っていたよりもそうではなかったんですよねと(…)先生。先生はどちらの大学だったんですかとたずねられたので、立命館大学ですと応じると、関西を代表する私立大学ですねというので、おい! (…)くん、いまの言葉を聞いたか! ぼくのことをただの不良だと二度とバカにするなよ! とかました。関西の人なのにきれいな日本語ですねとほめられたが、(…)に来た初日、当時の学生らと図書館にあるカフェではじめて対面した際、(…)さんから「先生、ちょっと関西弁ですね」と指摘されたあの瞬間から、こちらは完全に標準語に切り替えたのだった。慣れるのには二、三日要したが!
  • 学生たちは外国人寮前までわれわれを送りとどけてくれた。今月ようやく19歳になるらしい(…)さんが19年間彼氏がいないと嘆いてみせるので、ぼくも38歳で独身だ、だいじょうぶだとはげました。(…)先生が結婚しているのかどうかは不明。たずねるのもアレかなと思ってそこについては触れなかった。(…)さんは一年生のときに彼氏がいると言っていたはずだが(彼氏は独学で日本語を勉強している理系の学生だったはず)、別れてしまったという。じゃあやっぱり来年韓国で彼氏を作るのがいちばんいいよと猛プッシュする。
  • それでさよならする。(…)先生にもあらためて礼をいう。クソ忙しいスケジュールの中、わざわざうちの学生のわがままに付き合っていただいて、本当にありがとうございます、と。(…)先生はいい気晴らしになったといった。この一ヶ月間、とにかく本当に忙しかった、こうして(…)を散歩する機会すら今日までなかった、帰国するまえにこういう時間を過ごすことができてよかったという。(…)先生の部屋はこちらとおなじ棟の3階だった。部屋の前でおやすみなさいと告げて別れた。また中国に来ることがあればぜひ連絡をください、と。
  • 帰宅。すぐにシャワーを浴びる。こちらが微信で送ったお金を受け取っていない(…)さんに、このお金のことは気にしないでいいから受け取りなさいと連絡。ついでに店で撮影した記念写真ももらう。そういえば店で撮影をお願いしたスタッフの若い男の子が、たぶん日本のアニメ好きなのだろう、簡単な日本語であればあやつることのできる子らしかった(こちらは彼の発言を耳にしそこねていたのだが、学生たちが彼はアニメのセリフを口にしているといった)。(…)くんからは(…)先生の連絡先を教えてほしいという微信が届いた。(…)先生に確認のための微信を送ったが、返事がなかったので、別れ際の目がとろんとしていたこともあるしたぶん寝ているのだろうと思った。
  • デスクにむかって今日づけの記事も途中まで書いた。(…)さんがさっそくモーメンツを更新していた。くだんの集合写真のほかにこちらと(…)先生に対する感謝が中国語でつづられていたが、我们最最最亲爱的(…)老师については、場を温める能力とじぶんたちの口にする中国語や不完全な日本語からいくつか単語をピックアップしてじぶんたちの言いたいことを理解してくれる能力が異常に高いみたいなことが書かれていて、これについては(…)先生からも指摘された。つまり、学生らの言わんとするところをよくもまあそんなにやすやすと察することができますねというアレだったわけだが、これについてはたぶんもともと連想能力のようなものがひとよりも秀でているからなのだろうと思う。職業病ではない、この仕事をする以前から身につけていたスキルによるところがおそらく大きい。理解できる単語だけをピックアップしてそこから相手の言わんとするところを連想能力で補填し理解するというこの能力はしかし端的にいって物語化の能力でありしかるがゆえに陰謀論と相性がよすぎる。じぶんは一歩まちがっていたらとんでもない陰謀論者になっていたかもしれない、パラノイアになっていたかもしれないとたびたび思う。
  • 今日は『Decay Music』(マイケル・ナイマン)と『Philip Glass: Violin Concerto No. 1 - Leonard Bernstein: Serenade after Plato’s Symposium』(Renaud Capuçon, Dennis Russell Davies & Bruckner Orchester Linz)と『Hydration / 水分補給』(天花) と『Nova + 4(Extended Version)』(広瀬豊)と 『Nostalghia』(広瀬豊)をききかえした。それから就寝前にはkim Doo Sooの“Bohemian”をひさしぶりにきいたが、やっぱりこの曲はクソすばらしい。マジでいい。というかYouTubeに日本でおこなったライブの映像があがっているのをはじめて知った!

www.youtube.com