20231216

 ギデンズは、再帰性について「活動条件についての情報を、その活動が何の活動であるかを常に検討し直し、評価し直すための手段として活用すること」と述べている。
 仏ロベール社の『社会学辞典』では、仏社会学者アンサールが、再帰性を「主体が、自分自身の行為の起源や方法や結果を分析するために、自分自身の行為を振り返る能力」と定義している。
 ギデンズが再帰的行為と対比させるのは、「伝統」や「伝統的行為」である。自分の行為の起源や結果を考えることなく、これまでなされてきたことをくり返すことが、伝統や伝統的行為である。
 例えば、結婚について考えてみよう。
 昔は、親や共同体が結婚を取り決め、何か問題があれば、親や共同体が処理や介入を行った。つまり、結婚は伝統的行為であった。ところが、現在、先進国では、結婚はほぼ個人の自由となる再帰的行為となった。同性婚さえ認められつつある。しかしそうなると、その結果に自ら責任をもたなくてはならなくなる。好きで一緒になった相手と別れることになったら、それは自己責任であり、誰かが責任をとってくれるわけではない。
 ギデンズは、再帰性の成立のためには、行為の対象が主体にとってコントロール可能なように脱制度化(制度ではなくなり、個人や市場のコントロールに委ねられていくこと)している必要があるとし、これを「脱埋め込み」という概念で示した。
 例えば、結婚の法的成立に親の承諾が組み込まれていたり、異性婚が条件であったりしたら、それは個人にとって自由な再帰的行為にはならない。そこでは、結婚の法的要件が、社会的規範などから自由であること、すなわち「脱埋め込み化」されている必要がある。
樫村愛子ネオリベラリズム精神分析――なぜ伝統や文化が求められるのか』より「第二章 再帰性のもつ問題」 p.63-64)


  • 10時起床。今日もクソ寒い。最高気温は5度以下。第五食堂で炒面を打包。
  • 13時に南門前で学生と待ち合わせ。こちらが到着してほどなく一年生1班の(…)さんと2班の(…)さんと(…)さんがあらわれる。(…)さんが使い捨てのマスクを一枚くれる。肺炎とインフルエンザが流行しているから、と。予想していたとおり、(…)さんと(…)さんのふたりはほとんど会話不可能。主に中国語でコミュニケーションをとることになったが、(…)さんのほうは英語でもよかったかもしれない。クラスメイトである(…)さん曰く、(…)さんは英語がとても上手であるらしいし、彼女自身「転籍」希望先は英語学科であるらしい(しかしのちほど、たしか食事中だったと思うが、「転籍」のための面接に失敗したという話があった)。滴滴で呼んだ車が来るまでに少々立ち話したところによると、三人とも(…)人。(…)さんの故郷は(…)。(…)さんと(…)さんのどちらかも(…)で、もういっぽうは(…)。
  • 助手席にこちら、後部座席に女子三人が乗りこむ。2班の「団体活動」の会場に移動した際の車内にくらべると(というのはつまり、2班の(…)さん、(…)さん、(…)さんの三人にくらべるとという意味だが)、やはりかなり日本語能力に差があるかなという感じ。しかし(…)さんはけっこうできる。大学入試後に日本語を勉強しはじめた学生であるが、アニメ好きのおとなしい子であるので授業中こそひかえめであるものの、今日のような少人数で集う場ではかなり積極的で、ほかふたりがほぼ中国語にたよりっぱなしであるのに対してひとり日本語でこちらと積極的にコミュニケーションをとろうとしていた。リスニングもいい。この子はのびるなという印象。
  • 途中、オリンピックのロゴが壁にでかでかと飾りつけられている建物があったので、あれはなに? とたずねた。体育馆だと後部座席の三人が中国語で答えたところで、そうではない、学校だ、と運転手の若い男性がいった。彼によると、(…)でもっとも優秀な高校らしい。いわゆる「富二代」が数多く在籍する学校で、北京大や清華大に進学する学生も毎年数百人いるとのこと。うちのような田舎でもそういう若者がいるのだ。
  • 映画館は遠かった。車で15分近くかかったと思う。学生と映画を観に行くこと自体はめずらしくないが、今日おとずれた映画館はおそらくはじめて足を踏み入れた場所。(…)さんによれば、日本語音声+中国語字幕の放映をしているのがここだけなのだという。薄暗い建物の一階には商店やスーパーが入っている。まずそこで学生らがジュースだの菓子だのを買った。その後エレベーターで三階に移動。待合ロビーは広く、天井も高く、巨大といってもさしつかえなかったが、それ以上にがらんとしてさびれていた。照明がほぼ切られていて薄暗いし、エアコンもまったくきいていない。カウンターの内側にはスタッフがふたりいるだけで、売り物の数も少ない(のちほどコーヒーはないかとたずねたところ、インスタントしかないという返事があった)。ロビーにはわれわれ以外の姿もほぼない。黒い革張りの椅子がむかいあわせにならべられていたので、そこで入場時間まで待機することになったが、ほかに置き場がないのでしかたなく設置されているかのようなロビー端の古びたUFOキャッチャーやゲーム機もふくめて、地方経済の衰退を語るニュース記事のあいまに差し込むのであればここの写真がもっとも映えるだろうなとふと思ってしまうほどゴーストタウン臭のするたたずまい。
  • ゴーストで不意に思い出したが、(…)が(…)大学に通っていたころの友人に(…)という男がいて、こちらは直接の面識はないのだが女好きのお調子者で、(…)が在学中かなり親しくしていたのでやつの口からいろいろと彼にまつわる面白エピソードをきいていた。その(…)が、一度、京都で幽霊が出るとおそれられている山を散歩している最中、たまたま出会った英語圏の外国人といっしょになんとなく下山する流れになった。で、カタコトの英語でやりとりしながら山道を歩いていたわけだが、その外国人というのがけっこうとろくさくて、気づけばいつのまにか日が暮れつつあった。幽霊のうわさを思い出した(…)は、次第に恐怖を感じた。このままじゃいけないと思った。それで意を決して、ゴースト! ゴースト! アイムアフレイド! と身ぶりたっぷりに伝えた。外国人は爆笑した。
  • 映画は14時開始。その10分ほど前には開場になったはず。そのころにはロビーにもちらほら若い人影があった。チケットの予約は(…)さんにまかせていたのだが、前から七列目の中央に位置するマッサージ機能付きの座席で、たぶん最高のロケーションだった。2班の女子ふたりはわれわれから少しはなれた斜め後ろの座席だった。たぶん別々に座席の予約をとったのだろう。(…)さんは今回の映画が楽しみで、予告編だけでも何十回も観たという。『名探偵コナン』の映画はすべて観ているが、映画館で観るのは今回が初めて。新海誠の映画もすべて観ているというので、今敏は? とたずねたところ、知らないという返事。最終的にわれわれをふくめて二十人ほどが席についていたと思う。
  • それで『名探偵コナン 黒鉄の魚影』。きのうざっと登場人物の予習をしておいてよかった。マジで全然知らんキャラばかりだった。予習の甲斐あって筋についていくことができないということはまったくなかった。安室透の出番は少なかったが、彼がスクリーンに映るたびに、右どなりの(…)さんが興奮したようすで声をあげたり、こちらの肩をバシバシ叩いたり、スマホで写真を撮ったりした。どんだけ好きやねん。シリアスなシーンになるたびにコナンのめがねのレンズが反射して瞳が見えなくなるという演出があるのだが、そのたびにこちらはどうしても笑ってしまう、というのも小学生か中学生のときに弟といっしょに観ていた当時のコナンでもやはりこの手の演出がたびたびあり、そのたびに、クソだっせえな! と弟とそろってゲラゲラ馬鹿にしていた記憶があるからだ。ほかに、コナンがスケボーで急な崖を駆け降りる場面、200メートル先にいるスナイパーのところに車のサイドミラーを蹴飛ばして狙撃を阻害する場面、ウォッカがまんまと凡ミスする場面でもやはり笑ってしまった(それは生粋のコナンファンである(…)さんでも同じだった)。この映画が中国で公開されるのは今日が初日であるのだが、日本で今年公開されたときにコナンファンの在日中国人がこれこれこういうストーリーだったと微博で報告したその内容がものすごく炎上した、というのも映画のクライマックスでコナンと灰原哀が人工呼吸であるとはいえキスするシーンがあるからであり、それが新一と蘭のカップリングを推すコナンファンらの逆鱗に触れたからなのだが、ほかでもない(…)さんもまた新一と蘭のカップリングを推している勢力の一員であり、しかるがゆえに最後のキスシーンではわざわざ両手で顔を覆ってスクリーンを見ないようにしていて、それもなかなかおもしろかった。こちらとしてはその瞬間、狂気的なファンが座席からたちあがって、卧槽! と大声で叫ぶみたいな面白イベントが発生しないかなとひそかに期待していたのだが、そんなことは全然なかった、それどころか灰原哀が蘭姉ちゃんにキスのお返しをするシーンでは笑いが生じていた。ただかたわらの(…)さんだけは最後の五分間、ひたすら、OMG……OMG……OMG……OMG……と低い声で漏らしつづけていた。どんだけやねん。
  • 映画館の外に出る。我生气了! と(…)さんがくりかえし言う。近くに(…)の支店があるらしかったが、外に出てみたところで見つからなかったので、このクソ寒い中、店を探して周囲を歩くのはしんどいし、そもそも(…)は(…)の近くにあるのだからそこで食べましょうかという流れに。それでタクシーで移動。三人とも(…)をおとずれるのははじめて。こちらが率先して注文する。店の阿姨がこちらがなにも指示しないうちから不要辣椒だなというのに、学生が三人ともおどろく。おれは常連だ! なめるな! (…)さんは酸菜の入った辛めの麺、(…)さんと(…)さんはだれがどう見てもドン辛いとわかる真っ赤っかなスープの米粉。一点都不辣と(…)さんはすずしい顔で口にする。さらには追い唐辛子さえ試みる。本当に? とたずねると、本当! という返事。じぶんの麺を彼女がオーダーしたスープに一本だけ浸して食べてみたが、ふつうにクソ辛かった。ほんまどうなっとんねん。(…)くんの言うとおり、これも強がりなんか? 強がりでどうこうできるレベルではないと思うんやが!
  • 食事中、(…)さんがむかし広東省に住んでいたという話が出た。だから辛い料理だけではなく甘い料理も好きなのだという。以前学生といっしょに広州を旅行したことがあるよと告げる。それをきっかけに広東料理の写真を見せあったり早茶の話をしたりする。あと、タクシー代はこちらが出すということで、(…)さんにタクシー代20元を支払おうとしたところ、彼女からいまだに友達申請を受けていなかったことが判明するという一幕もあった。
  • 食後は学生らのリクエストで(…)を冷やかす。二階にある日用雑貨品のコーナーをのぞき、玩具コーナーをのぞき、パンコーナーをのぞき、鮮魚コーナーをのぞく。鮮魚コーナーでは一杯600元のタラバガニが水槽のなかで複数うごめいていた。中国名は帝王蟹。年末が近いしこういう高級品もあつかっているのかもしれない。ロブスターもいた。スッポンもいた。亀もいた。なまずもいた。うなぎもいた。カエルもいた。クソぶっというなぎが水槽から逃げだしてフロアの上をうねうねしているのを家族連れがやや遠巻きにながめていた。店員のおっちゃんを呼ぶと、おっちゃんは網を持ってきて慣れた手つきでうなぎをすくいあげ、そのまま水槽にぼちゃんと落とした。すっぽんは水槽の外に逃げようと何度も何度もガラスの壁をよじのぼっては落下するというのをくりかえしていた。(…)さんはすっぽんをまだ食べたことがないという。こちらは中国で二度か三度食べた。水槽にはサンショウウオもいた。びっくりした。(…)さんによれば、自然界に生息しているものは保護対象であるが、養殖物は食べてもいいらしい。むかし(…)とおとずれた京都のラーメン屋の店主が、物好きらとあつまってひそかにサンショウウオを密漁して食ったことがあると言っていたのをおもいだした。北大路魯山人もたしかサンショウウオをうまいと評していたはず。
  • 一階にある飲料品やお菓子のコーナーものぞく。女子学生らはキャーキャーいいながら辣条を買う。辣条はおいしいが、身体には決して良くない。だから子どものときから親の目を盗んで内緒で食べていたのだと(…)さんがいう。まあ駄菓子みたいなもんか。(…)さんはスーパーの店内を物色しているあいだも、ほかのふたりとはちがってこちらのそばを離れず常にコミュニケーションをとりたがっており、言葉が出てこない場面でも中国語に頼るのではなくいちいち翻訳アプリを起動してあくまでも日本語でこちらと意思疎通を試みようとするこだわりっぷりで、あ、この子は絶対のびるわ、とやはり思った。声が低くややしわがれており、つくろうとおもえばおそらく男性の声をつくることもできるその感じで「先生」と呼びかけられると、ちょっと卒業生の(…)さんのことを思いだす。しかし顔立ちはむしろ(…)さんのルームメイトであった(…)さんに近い。
  • 店を出る。西門に向かう途中、以前フィギュアをはじめとするアニメグッズを売っていた店が、文具および雑貨店としてオープンしているのを発見する。(…)さんがそこで帽子を買うという。うさみみのついた防寒具。こちらは(…)、(…)、(…)、(…)のお年玉用に中華ポチ袋を買う。(…)のおもちゃコーナーでもこの店のおもちゃコーナーでもとにかくウルトラマンのおもちゃが多い。日本ではどちらかというと男児が好むというかたよりが存在するウルトラマンであるが、中国では女子学生も大半が幼少期にウルトラマンを履修している。ウルトラマンのバッグがあるよと学生らに告げた際、(…)さんがこちらにむけてスペシウム光線を撃つポーズをとった。
  • 西門からキャンパスに入る。女子寮まで送っていくというと、(…)さんが拿东西するという。快递? とたずねると、そうではない、别人うんぬんというので、友人のところでなにかもらうか借りるかするのだろうと察する。それで同行することにしたのだが、目的地は二年生の男子学生が住んでいる寮だった。そこに小太りの男子学生がひとり姿をあらわした。彼氏かなと思ったが、そうではなかった、英語学科の学生らしい。今日の午前中英語の六級試験がおこなわれたわけだが、(…)さんはその男の子にペンを貸したのだという。経緯はよくわからない。そもそも六級試験に参加するのは二年生と三年生の希望者であるはずだから、一年生の(…)さんが会場でたまたま一緒になった男子学生にペンを貸すということはありえないと思うのだが、もしかしたら男子学生のほうが彼女に惚れており、テスト前にお守り代わりにうんぬんみたいなアレがあったのかもしれん。知らんけどな!
  • 第四食堂の入り口にある果物屋にはしごする。ふつうの果物屋ではない。カットされた果物が小豆だのタピオカだのとそろって陳列されているのを自由にピックアップしてプラスチックのケースにぶちこみ、重量に応じて料金を支払うというタイプの店。この手の店の存在は当然ずっと以前から知っていたが、食べてみたことは一度もない。しかし学生らが買うというので、じゃあこちらもたまには買ってみるかということで、グレープフルーツだのドラゴンフルーツだの龍眼だの小豆だのメロンだのココナッツのヨーグルトだのを適当にぶちこんだ。
  • 女子寮まで三人を送り届けたところで帰宅。フルーツ食す。(…)さんから(…)の店内で撮影した、こちらがサンタクロースの肩に手を置いてならんで立っている写真であったり、食品サンプルの红烧肉にかぶりつこうとしている写真であったりが送られてくる。やりとりついでに来週の授業で使用する資料を送信。クラスメイトたちはじぶんでは印刷してこないだろうから、手間をかけることになるが(…)さんに全員分の印刷をお願いしたい、ほかのクラスでも学習委員にはそうお願いしているのでと頼む。
  • (…)さんからも微信。フルーツはおいしかったですかいうので、とてもおいしかったです、特にドラゴンフルーツがおいしかったですと応じる。(…)さんは「転籍」組ではない。だからいちおうそこそこ勉強する気はあるのだろう。英語学科に「転籍」することをのぞんでいたのに面接で落ちたという(…)さんはやっぱりちょっとかわいそうだ。
  • 三年生の(…)さんから夕方微信が届いていたのでそれにも返信。英語の六級試験を受けたのだが、「英語の言語システムは日本語に侵害されたようです」という。「作文を書く時、翻訳中“范围”が必要ですが、私の頭の中は日本語の範囲でいっぱいで、rangeが全然思い出せませんでした」と。こちらとして六級試験の手応えうんぬんよりも、夜中にもう死にますと連絡を送ってきたあの日から数日経過し、少なくともテストを受ける気になる程度にはもちなおしたという事実のほうにほっとする。たぶん彼氏となんとか関係を修復させるにいたったのだろう。
  • シャワーを浴びたのち、きのうづけの記事の続きを書いて投稿。ウェブ各所を巡回し、一年前と十年前の日記を読み返し、ベッドに移動して就寝。今日は『ROMANTIQ』(Oval)と『Down On Darkened Meetings』(Giuseppe Ielasi ジュゼッペ・イエラシ)と『How Sad, How Lovely』(Connie Converse)と『Xia Ye』(Night Swimmer)と『Yellow River Blue』(Yu Su)と『Lifetime of a Flower』(石橋英子ジム・オルーク)をききかえした。