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 ギデンズはさらに、基本的信頼から、人がアイデンティティや言語や世界を受容していく過程を、ウィニコットの「移行空間」論から記述している。
 フロイトの議論は、糸巻き遊びの中から「いない」と「いた」が結合されていることはわかっても、それがいつどのように結合されるのかは見えにくい。またくり返される遊びが終わって現実へと統合されるプロセスが見えづらい。
 これに対し、ウィニコットの「移行空間」論は、遊びというフィクションが現実へと統合されるプロセスを記述している。
 ウィニコットの「移行空間」とは、人が主観的に生きている世界と現実の橋渡しをし、人間にとって常に外傷となりうる新しい現実との出会いやその処理を本人にとって無理のない形で需要させる装置である。
 ウィニコットは「移行空間」において使用される道具を「移行対象」と規定して、その例としてぬいぐるみや毛布の切れ端などを挙げている。これはお母さんの代理である。ゆえにお母さんであってお母さんでない。こんなものをいつまでも抱えている子どもは、外から見れば幼稚に見える。しかしお母さんにしがみついているよりは断然自立の一歩を踏み出しているのであり、実際、そのうちぬいぐるみは捨てられていく。糸巻き遊びの「いない」「いた」が結合し、それが不在のお母さんの代理ではなくなり、言語によって構造化されることで、遊びは終了し新しい現実認識が獲得されていく。
 先述したように、基本的信頼の問題は、単に、それが、無力な人間に常に居続けるわけではない母の代理として幻想的な慰めや支えを与えるということに留まらず、その想像力が表象を媒介に言語(という恒常性、他者の代理)を生み、言語を通じて、現実認識を獲得していくという過程を意味している。
樫村愛子ネオリベラリズム精神分析――なぜ伝統や文化が求められるのか』より「第三章 なぜ恒常性が必要なのか」 p.118-119)


  • 8時過ぎ起床。10時から一年生1班の日語会話(一)。期末試験その一。教室に入ると学生が全員そろっていたので、あれ? と口にしたところ、その一言でテストを受ける学生以外は教室にやってくる必要がないことを悟ったのだろう、学生らは笑いながらぞろぞろと教室の外に出ていった。期末試験その一で試験を受けるのは(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん。授業を欠席し続けていた(…)くんと(…)くんのふたりの姿があったので、あ、テストは受けるんだな、となった。それで順番どおり(…)くんからはじめることにしたのだが、それ以外の学生に廊下に出るようにうながしたところ、(…)くんもそちらについていくようなそぶりをみせた。きみはテストをしますか? しませんか? とたずねるも、当然のことながらまったく聞き取りができない。不会とつぶやくのがききとれたので、準備をしておらずできないということかと察し、だったらいいよとそのまま帰らせたが、あれはもしかしたら不会吗? という質問だったのかもしれない、じぶんはテストを受けてもいいのだろうかとたずねたつもりだったのかもしれない。まあどうでもいい。どのみち良いスコアなどとれっこないのだ。
  • (…)くん、すばらしい。叱りつけた三人のなかで唯一心を入れ換えてまじめに勉強している。発音もかなりよかったのでその点めちゃくちゃ褒めておく。まちがいなく「優」。(…)くん、今日がテストであることを知らなかったと中国語で口にする。は? となる。おまえマジで殺すぞとキレそうになるが我慢し、授業中に説明しただろうと英語でいうと、あいまいな反応。聞いていなかったということかと追求すると肯定するので、クラスメイトなりルームメイトなりにきくこともできるだろうがという。もじもじしている。それからつたない英語でなにかを伝えようとするのだが、まったく意味不明であったので、廊下から(…)くんを召喚。通訳をお願いする。いわく、来学期ほかの学部に移動することが決まっているとのこと。それは吉報だ! こんなナメた野郎のツラ、二度と見たくない! ほかの学部に移動するのに良い成績が必要なのではないかと確認したところ、不合格でさえなければ問題ないとのことだったので、だったら合格させてやるよとテストはなしですませる。でも死ねバカ!
  • (…)くん。(…)くんとちがってテストは受けるらしい。授業に出ていなかったのだから実際のスコアよりも10点マイナスして成績をつけると事前に通告する。結果はパッとしない。(…)くん。左におなじ。(…)くん。「優」圏内であるが、高校一年生から日本語を勉強している学生であるのだし、もうちょっとやれたでしょうという印象。しかしテスト後に成績を気にするそぶりをみせたので、いちおうやる気はあるらしい。(…)くん。カス。この子のことは当初買っていたんだけどなァとがっかりした。はじめのうちはやる気のない学生の目立つこのクラスにあって常にしっかり前を向いていたし、板書もぼちぼちしているふうであったのに、いまとなってはさんざんだ、というか最低スコアをマークしてしまった。あまりにひどかったので、ほかの学部に移動するつもりなのかと板書してたずねる。はっきりしないようすなので、来学期も日本語学科に残るつもりかとまた板書してたずねると、可能(たぶん)という返事で、なんやねんそれ! ほかの学部に移動するつもりでいたが、面接がうまくいかなかったということだろうか? しかし(…)くん、外見は裸の大将なみに朴訥としているのだが、声がめちゃくちゃ渋くてかっこいいことに今日気づいた。
  • (…)くん。完璧。来学期スピーチコンテスト代表に選ばれるのはおそらく彼だろう。「わたしの趣味は(…)先生です!」とわかりやすい媚びすら口にしてみせる。(…)くん。おとなしい子であるが、ちゃんとまじめにやっている。「優」だろう。(…)くんも同様。山のフドウみたいな、心優しいパワーファイター感ある子で、彼もまた声がしぶくてかっこいい。やる気のある男子学生は授業中前列に来いよと思う。
  • テストを終えて教室の外に出る。駐輪場付近で(…)先生とばったり遭遇する。ちょっと立ち話。今年の一年生がまずいという話をする。もともとは日本語学科を希望していなかった学生が多いからと(…)先生。「転籍」予定の学生は何人くらいいるのかというと、10人か20人は移るかもしれないとの返事。どんどん移っていってほしい。
  • 帰宅。きのうレストランで打包した餃子を食う。どうしてかわからないのだが、両頬が筋肉痛になっている。たしかにきのう落花生をたくさん食べたが、それにしたって筋肉痛になるほどではない。奥歯を噛み締めることがあっただろうか? 思い当たる節はない。ただ朝方けっこう寒くて布団のなかで凍えていた記憶があるので、そのあいだにもしかしたらおもいきり噛み締めていたのかもしれない。
  • 14時半からふたたび1班の期末テストその二。(…)さんが翻訳アプリ経由で「笑顔は加点されますか」とたずねてみせるので、バカと笑う。まずは(…)くん。問題なし。今後このクラスの要になりうる学生であることは間違いない。ただもったいないのは、やる気のないルームメイトらに巻き込まれるかたちでいつも教室最後尾に座っていること。前列にきたほうがいい、そのほうがこちらと会話する機会だって増える。そのことを伝えておけばよかった。(…)さん。口にピアスをあけていた。高校二年生から日本語を勉強している学生であるが、授業態度はお世辞にもいいとはいえない。それにくわえてこちらの名前を知らないことが判明したので、マジでぶっ殺すぞてめえとクソイライラしたがこらえた。テストの結果は「優」と「良」のはざまといった感じであるが、「優」はやりたくない。
  • (…)さん。まあまあ。(…)さん。(…)くんが以前(…)さんとならべて評価していることが判明したので、さてどんなもんかと思ったが、結果はボロボロだった。やっぱりおれの印象が正しいやんけ! (…)さん。完璧。発音がいい。発音だけだったら一年生で一番かもしれない。しっかり準備してきたのか、質問に答えるのもはやい。きみはこのまま勉強を続ければ三年生になるころには流暢になっていますよ、ぼくはこの仕事を六年間続けているからそれがわかりますと、そんなふうに褒めまくっておいた。(…)さん。まずまず。(…)さん。返答は遅いが、正答率は高い。(…)さん。おとなしくて目立たない子であるが、しっかり準備してきている。(…)さん。授業中は劣等生として半分くらいネタになっていた子であるが、しっかり準備してきていた。計算式次第では「優」にとどくかもしれない。(…)さん。試験が終わったあと、これは授業中にあった説明と異なるんではないかという抗議があったが、検討はずれな抗議だったので、その点中国語でちゃんと説明した。しかしそういう訴えをよこす程度には成績に対するこだわりがあるのだろう。が、「優」に届くレベルではない。
  • テストが終わったところで二年生の(…)さんに連絡。返信がないので電話をかけるが、むこうに切られてしまう。じきにメッセージが届く。まだ『名探偵コナン』の映画が終わっていないという。それでいったん寮にもどることに。(…)さんはこちらが以前「16時ごろに授業が終わります」と送ったメッセージを「16時ごろに授業を開始します」と誤解していたらしかった。
  • しかし待機時間はそれほど長くなった。帰宅後ほどなくして大学の入り口にいますというメッセージが届いたので、ケッタにのって南門へ移動。(…)さんと(…)さんがいる。しかし(…)さんの姿はない。問題が発生したという。映画が終わるなり、南門でこちらと待ち合わせだと告げるよりもはやく、(…)さんひとりだけがなにもいわずひとりで寮に帰ってしまったのだという。ケンカでもしたの? とたずねると、そうではないという返事。しかしここ最近だったか、あるいは今日一日だけの話であったか忘れたが、(…)さんに対してひとことも口を利いてくれないとあったので、ええー……となった。思い当たる節はない。もしかしてクリスマスは仲良し三人組で過ごしたかったんじゃないの? ぼくは不要だったんじゃない? というと、それはないという返事。実際、彼女はこちらのためにクリスマスプレゼントを用意してくれているという。とりあえず女子寮のほうに移動することに。道中、(…)さんは「冷淡」だとふたりがいう。ちょっとぎょっとする言葉遣いであるが、文脈的に、一匹狼とかクールとかそういうニュアンスもいくらかはまじった形容ではないかと思うのだが、実際はどうかわからない(以前三人と遊んだとき、本人の目の前でふたりが(…)さんは冷淡だと口にしたこともあったが、そのときは少なくとも批判的なニュアンスではなかった)。途中で(…)さんが(…)さんに電話をかけた。彼女が通話しているあいだ、(…)さんは「冷淡」な(…)さんに慣れているし、そういう彼女の性格も理解できるといった。でも(…)さんはそんな彼女の「冷淡さ」をちょっと苦々しく思っているかもしれないというようなことを続けた。なるほど。
  • (…)さんはトイレに行きたかったのでひとり先に寮にもどったらしかった。それは建前なんじゃないかという気がしたが、ふたりはちょっと安心しているようだったので、まあそういうことにしておきましょうかと思った。しかし幸先が悪い。この状態で食事なんて楽しめるのだろうか? (…)さんがひとり女子寮までクリスマスプレゼントを取りにもどることになった。こちらと(…)さんは(…)楼を通り抜けて地下道の入り口前に移動。そこに(…)さんと(…)さんがいた。今日はめずらしく(…)さんも同行するらしい。(…)さんは顔にクリスマスカラーのツリーや星のシールタトゥーを貼っていた。楽しむ気満々だ。われわれが合流するやいなや(…)さんがそっと輪を離れた。やっぱり揉めてんじゃねえの! と内心ひやひやしたが、そうした彼女のふるまいには気づいていないふりをするしかない。ほどなくして(…)さんがもどってきた。ガチガチのオタクであるのに走ってもどってきたので、こちらを待たせまいとする気遣いからではなく、むしろじぶん抜きで(…)さんと(…)さんを対面させることをおそれてのアレではないかといぶかしんだ。(…)さんからのクリスマスプレゼントは手編みの「雪花」。雪の結晶を白い糸で編んだもの。それにくわえて白と黒ツートンカラーの小さな帽子(フィギュアがかぶるサイズ)。とても上手だったので、(…)さんすごいね! こんなの作ることができるんだ! とおおげさにリアクションする。大学生のころ恋人から手編みのマフラーをもらったことがあるけれど、あれけっこうボロボロだったんだよなというと、みんな笑った。(…)さんからはコースターのプレゼント。先生はコーヒーをたくさん飲むからこれを使ってください、と。この実用性はありがたい!
  • そのまま南門に向けて歩き出す。ほどなくしてわれわれの背後から散水車がやってくる。中国でたびたび目にする散水車は二種類あって、ひとつは上空にむけて細かい水滴を噴出するもので、これはたぶん街路樹に水をあたえるためのものだと思うのだが、晴れの日にこいつが通るときまって虹が生じて学生たちが写真を撮る。しかし冬場に見かけることは稀で、たぶん基本的に春夏しか稼働しないものだと思う。今日見たのはもう一種のほうで、これはタイヤ付近から左右にいきおいよく水を噴出するもので、たぶん道路上のゴミだのなんだのを道路端に押しやるために走らせるものだと思うのだが、こいつは公道のみならずキャンパス内でもたびたび見かけるし、今日のように季節を問わず走っている。当然そのそばを歩いていたら靴もズボンもびちゃびちゃになってしまうので、キャンパスと外と遮る柵の土台にもみんなでのぼって水を回避したが、それでも水のいきおいがすさまじいことがあって、すねから下に細かい水滴をびっしり浴びるはめになった。散水車を運転しているおっちゃんはわれわれのふるまいを見て笑っていた。
  • 柵にのぼった拍子に(…)さんがスマホを柵の向こう側に手落とした。柵の頂点はあくまのしっぽみたいにとんがっていたが、がんばれば乗り越えることができなくもなかったのでそうしようとしたところ、危ないからだめ! 先生おじさんだからだめ! と周囲から制された。柵の向こう側を女子学生が歩いていたので、ヘイ! 你好! と声をかけたが、こちらを不審者と思ったらしい女子学生は気づかないふりをしてこちらから離れた(そのようすを見た(…)さんが笑った)。結局、女子学生らが別の通行人に声をかけてことなきを得た。しかし(…)さんのスマホのディスプレイにはわずかに傷が入ってしまったようだった。
  • この時点では(…)さんはごくごくふつうに周囲と言葉を交わしていた。こちらもなるべく彼女に話題をふるようにしていたし、(…)さんともやりとりしている場面はいくらかあったが、内心はどうだったのかわからない。(…)で28日だったか29日だったかに年越しイベントがあると(…)さんがいった。第一グラウンドでコンサートが開催されるのだという。学生が出演するやつかなと思ったが、そうではなく、どうもそれほど有名ではない駆け出しのアイドルかミュージシャンがやってくるらしい。先生行きましょうといわれたが、そんなしょうもない歌手をみるためにわざわざ人混みに行きたくない。(…)さんも(…)さんも行かないといった。じゃあわたしひとりで行ってもしかたないみたいなことを(…)さんは中国語で口にした。
  • 南門に出たところで滴滴でタクシーを二台呼んだ。目的地は最近オープンしたばかりのショッピングモールだという。こちらと(…)さんと(…)さんの三人でおなじ一台に乗りこんだ。こちらは助手席で、女子ふたりは後部座席。(…)さんは例によってタクシーの車内でもおかまいなしに日本語でしゃべりまくった。運転手は若い男で、けっこうイケメンだった。口元に微笑みをたたえていたので、そのうちおまえらは何語を話しているんだと質問してくるだろうと思ったが、彼は最後まで口を閉ざしていた。後部座席のふたりは韓国語の先生の悪口をいった。合格ぎりぎりの60点をつけられたのだと(…)さんがいった。(…)さんも(…)さんも同様。(…)さんはこわいのでまだ結果を見ていないというのだが、たぶんほかとおなじく60点だろう。以前授業に教科書だったかノートだったかをもってくるのを忘れた学生は全員罰として大量の課題をやらされたという話を彼女たちから聞いたわけだが、そのときの学生はたぶん全員が60点という最低点をつけられたということなのだと思う。しかしふたりはぶーぶー文句をいった。課題だってちゃんとやったのになんで最低点なんだと抗議するわけだが、こちらとしては韓国語の先生に内心ひそかに同情してしまう。教科書すらもってこない学生がクラスに10人単位でおったらそりゃ腹も立つわな。
  • あたらしいモールの名前は忘れた。今月22日に開店したばかり。タクシーで15分ほどは移動したのではないか(道中の景色にちょっと見覚えがあった、以前一年生2班の「団体活動」の現場にむかうときに通った道を通ったのだ)。先着していた(…)さんと(…)さんと合流してモールの中へ。入り口付近でピエロに仮装した人物が複数いたのでさっそくふざけて写真を撮ってもらうことにしたのだが、(…)さんがこちらのかたわらにぴたりとついた。昼食を食べたのが14時と遅かったのでまだそれほど腹が減っていないと(…)さんがいうので、そのまま近くにあった雑貨屋に入り、キャラクターを模したもこもこの帽子をかぶったり、パーティーグッズみたいなサングラスをかけたり、ぬいぐるみやおもちゃや文房具をチェックしたりしたのだが、その都度(…)さんがこちらと写真を撮りたがり、それでわかった、彼女の目的はクリスマスを外国人であるこちらといっしょに過ごしたという事実とその証拠写真なのだ、それをモーメンツに投稿したいのだ(そしてこの予想はのちほど的中することになる)。
  • レストラン街は四階。エスカレーターで移動する。ぶらぶらっと適当にまわったのち、海老が売りの鍋の店に入ることに。待ち時間が多少あったので、店の前にならべてあるプラスチックの椅子に腰かける。学生四人がならぶその前にこちらがひとり対面するかたちの陣形になったので、なんか授業みたいだなと笑う。その後、店内へ。座席は四人がけしかない。(…)さんがこちらの隣に座りたいという(もちろん写真撮影が目的だ)。通路に面している上座に(…)さんが位置する流れになるが、店員のもってきた予備の椅子が背もたれのないプラスチックのやつだったので、こちらの椅子と交換した(どうして先生はこんなにやさしいのかと(…)さんが中国語で口にするのが聞きとれた)。
  • 注文は学生にまかせる。味付けは微辣になったが、実際に食ってみると、こちらや浙江人の(…)さんにとってはなかなかけっこうしんどい味つけだった。(…)さんは黒竜江省出身であるが、辛い食べ物もいける口らしかった。食事中、(…)さんはほとんどまったくといっていいほど口を利かなかった。こちらとしても彼女と席が離れていることもあり、話題をふるのがなかなかむずかしかった。(…)さんはそもそも日本語がほぼできないし、(…)さんのそばにいる(…)さんはあきらかにいつもと顔色が違う、ちょっと険しい顔つきになっている((…)くんが同席した食事の席で浮かべていたのとまったくおなじ表情だ)。困ったなァという感じ。しかし(…)さんをのぞく三人+(…)さんの四人で大晦日は(…)のコスプレイベントに参加するという話であるし(全員コスプレするらしい)、こんな空気でだいじょうぶなの? (…)さんと(…)さんの関係やっぱりちょっとあやしくないか? というのがこちらの率直な感想。
  • (…)さんと(…)さんのふたりがいったん席を立つ(たぶんレビューサイトで高評価をしたらジュースがもらえるというキャンペーンのためだと思う)。(…)さんが韓国語の成績を確かめてみるという。こわいこわいといいながらパスワードを打ち込み、ディスプレイの大半を手のひらで隠しながらゆっくりゆっくり画面をスクロールさせていく。しかしぎりぎりのところになって、やっぱりダメだ! となる。そうやってもったいぶっているのに、(…)さんは全然そっちのほうを見ようとはしない。「冷淡」な表情でじっと一点を見据えている。しかたないのでこちらが(…)さんの小芝居に付き合う。先にこちらが結果を見てやるよといってスマホをとりあげる。どうせ60点なのだ。以前(…)くんや(…)くんが言っていた、韓国語の先生は今学期で(…)をやめる、だから仮に不合格の学生が出た場合来年授業を受けて単位をとりなおすということができない、そういう事情があるのだから最低でも合格にしてくれるはずだ——そういう情報もあたまに入っていたので、ほかの劣等生らと統一するかたちでどうせ60点だろうと思って画面に目をやったのだが、全然違った、14点だった。は? となった。14点? は? これ、どうなるんだ? 不合格であることは間違いない、しかしその場合の単位はいつどのような手段で取得するというのだ? こちらの困惑を(…)さんはたぶん芝居かなにかだと思っていたんではないか。困惑しつつスマホを手渡すと、(…)さんの表情が硬直した。ねえ、これどういうこと? とたずねると、韓国語の先生はわたしのことが嫌いですと(…)さんはいった。(…)さん、全教員のなかでいちばん好きだというこちらの授業でも、授業態度は問題ないもののテスト勉強はろくにしてこないし日頃から遅刻も多いし、かなりずぼらな子であるという印象はある。だからまったく興味のない韓国語の授業での態度が相当悪いことは想像がつくのだが、たぶんそれで担当教員の逆鱗に触れてしまったのだろう、劣等生は全員60点でぎりぎり合格というセーフティネットから(…)さんだけを突き落としたということなのだと思う。地獄の空気が流れる。(…)さんのほうがなぜかこちらをはげますように、だいじょーぶ! という。まあたぶんなんとかなるでしょう、ほかの方法で単位はとれるでしょうと応じるほかない。そうしたわれわれのぎこちなくも滑稽なやりとりをよそに、(…)さんは「冷淡」な表情でわれわれとは無関係な一点に視線をじっとこらしている。なんじゃこのクリスマス!
  • 食事は辛かったが、追加で運ばれてきた海老はすでに油で軽く揚げて火を通してあるものだったので、辛味のあるスープには浸けずそのまま食ったらなかなかうまかった。(…)さんは今日もよく食った。三人娘のなかではいつもいちばんたくさん食う。ちょっとはずかしがるふうだったので、よく食べる子はかわいいよというと、子どものときに祖父母といっしょに暮らしていた、そのときに食事を残してはいけないといつも口うるさく言われた、その影響があるのだというので、日本でもおなじだよ、ぼくは最初中国に来たときみんな食事をたくさん残すのでびっくりした、食べきれないほど注文するのがふつうのようすだったから違和感があったと応じた(するといつも食事を残す(…)さんがごめんなさいと口にした)。
  • (…)さんは食事が終わるなり、拍照! 拍照! といった。店員さんをたのんで撮影をお願いするのかと思ったが、そうではなかった、こちらとのツーショットを希望しているのだった。それで正面に腰かけている(…)さんと(…)さんのふたりが写真を撮ってくれた。完全にパンダだなと思った。(…)さんの彼氏は広東省にいる。だからせっかくのクリスマスでもデートすることはできない。クリぼっちで過ごすのもいやだ。せっかくのクリスマスなのだからなにか特別にしたい。そこで外国人であるこちらに白羽の矢が立ったというわけだろう。モーメンツに外教といっしょに食事したと写真付きで投稿すれば、それなりに面目を保つこともできるという計算だ。
  • その(…)さんが散歩しようというので店を出た。支払いは例によってこちらが半分負担、残る半分を学生らで割ってくださいと伝えた。それからフロアを適当にぶらぶら。彩票の売り場がみえたのでのぞいてみることにしたが、(…)さんがパーティを抜けた。トイレに行ったと(…)さんが言ったが、本当にそうだろうか? (…)さんの態度にイライラしているのではないだろうか? あるいは悲しんでいるのではないだろうか? と心中ひそかに思った。彩票の売り場はまずまず混雑していた。経済が悪化すると宝くじがよく売れますからと以前(…)先生が言っていたのを思い出した。20元のものを一枚買うことにした(50元のものもあったが、さすがに高い)。(…)さんも一枚買った。それでふたりそろってテーブルにつき、卓上にあるスクラッチをはがすためのヘラのような道具を手にとり、ガリガリやった。いきなり20元当たった。(…)さんはハズレ。こちらは当然その20元で追加の一枚を買う。「冷淡」なはずの(…)さんもこのときは興奮してこちらの手元をのぞきこんでいたが、二枚目はハズレだった。
  • 近くにあるクレーンゲームの店に入った。「宅男の日記」という名前の店(Otaku’s diaryという英訳が付されていた)。しかし景品のぬいぐるみはどれもこれも全然かわいくない。そのままもう一軒のクレーンゲームの店ものぞく。(…)さんはなかなかトイレからもどってこない。(…)はいま苦しんでいますと(…)さんがいう。食べすぎだ。それにくわえて冷たい飲み物もがぶがぶ飲んでいた。それで下痢になったのだろう。わかる。こちらも火鍋を食ったあとに冷たいものをがぶ飲みしたりコーヒーを飲んだりすると決まってといっていいほど下痢ラ豪雨に見舞われるのだ。吹き抜けの一階をみおろした。ステージがあったが、いまは無人だった。しかし音響セットとPAは待機している。そばにはサンタクロースのコスプレをしたバイトらしい姿が15人ほど待機している。このあとおそらくクリスマスにちなんだイベントがあるのだろう。しばらくそこでぼんやりしていたが、(…)さんがほかのフロアをのぞいてみようと言い出す。それで階下に移動した。
  • ペットショップがあった。いや、ペットショップではなかった。小動物との触れ合いコーナーだった。しかし入場料が必要。中に入ると、大きな猫(たぶんメインクーンだと思う)を抱っこすることができたり、何十羽ものインコがいる一室で餌やりを体験することができたりする。たぶんほかにもいろいろな動物がいるとは思うのだが、店の入り口からみえたのはその二種類のみ。インコの一室は客寄せを兼ねて通路に面している。ガラス越しに小さな男の子の兄弟ふたりが両手をのばしているのがみえる。すぐに大量のインコがその腕にとまる。なかには少年の頭の上に着地するのもいる。少年がわれわれのほうを見てケラケラ笑う。うんこしないのかな、だいじょうぶかなと漏らすと、そばにいた(…)さんが笑った。(…)さんはけっこうインコに夢中だった。
  • ようやく(…)さんがもどってくる。「先生、わたしは死にました」というので、タクシーでもう帰りましょうかというと、散歩しましょうという。だいじょうぶかよと思う。それでモールの外に出る。出た先には巨大な門がある。門は堤防とつながっている。それでぴんときた。川辺だ。一昨年の春節に(…)先生といっしょに花火をしたあの川辺、あるいは数年前に(…)くんといっしょにおとずれた(…)さんおすすめのカフェがある川辺のあたりなのだ。とりあえずその川辺にむかうことにする。空にはまんまるな月がひとつ浮かんでいる。(…)さんが「けつみ」という。「月見」だよと訂正したのち、ケツはここだよといってこちらの尻をさしてみせると、(…)さんとそろって笑う。先生、(…)のお尻はとても软です、と(…)さんが中国語混じりでいう。
  • 門を抜ける。こちらの予想とはことなり、河原はひろがっていなかった。舗装された公園になっていた。しかしその先には川がひろがっている。中国特有のスケールの巨大な大河。対岸でビルの灯りがともっており、そのうちのいくつかが川面にも落ちている。公園をしばらく歩く。ここでもやっぱり(…)さんはほとんどしゃべらない。会話はほとんどこちらと(…)さんのあいだで交わされる。先生歌を歌ってくださいというので、きのうのクリスマスパーティーで歌ったからもう嫌だと応じる。
  • 公園内の散歩は10分程度で切りあげた。外に出て、そのまま滴滴で車を呼ぶ。往路とおなじ二組に分かれて車に乗りこむ。これを書いているいまふと思ったのだが、(…)さんと(…)さんのふたりが会話する場面なんてこれまで一度も見たことがない、ふたりは車内でどんなふうに過ごしたのだろう? われわれのタクシーの車内では、往路ほどではないけれどもやはり(…)さんがいろいろしゃべった。われわれの会話をきいた運転手のおっさんがおまえらの話しているのは日本語だろうといった。こちらのことを日本人だと(…)さんが紹介するのに、不是日本人とひきうけたのち、是er4ben3ren2と(…)话で訂正すると、運転手のおっさんは大笑いした。後部座席のふたりがタクシーをおりたあとのことを中国語で話しはじめたが、まずこちらを寮まで送っていったのち后街のほうにもどると(…)さんがいうのが聞きとれたので、ぼくもパンを買いたいので后街のほうに行くよといった。
  • それで南門前でタクシーをおりたあと、(…)さんとそろって后街にむかった((…)さんは先に寮に帰るといって去った)。買い物でもするのかとたずねると、髪の毛を切るのだという。中国の美容院はかなり遅い時間まであいている。店によっては深夜0時まで営業しているところもある。コスプレにそなえて短くするのかとたずねると、刘海を切るだけだという返事。長くなったせいで前がちょっと見えにくいからという。せっかくなので美容院の前まで同行することにした。どんな店なのかちょっと気になったのだ。混雑する夜の后街を歩く。(…)さんとの関係についてはとりあえず触れないようにする、というかこちらがなにかしらの話題を放りこむよりもはやく(…)さんのほうでばんばんばんばんひっきりなしにあれこれ話題を放りこんでくるといういつものアレだったのだ。美容院ははじめておとずれる店。どこにあるのかわからないというので、途中でたちどまってネットで住所を確認、結果21時閉店であることが判明した。それでふたりしてひきかえすことに。美容院には明日また出直すという。
  • 先生は毎日いろいろな学生と遊んでいますと(…)さんがいう(毎日ではないと訂正する)。先生は本当に人気があると続けるので、でもぼくが仲良くなる学生は家庭に問題があることが多いよと受ける。じゃあ(…)くんや(…)くんも家庭に問題がありますかというので、いやあのふたりからはとくにそういう話はきいていないよと受ける。受けながら、そういうことじゃないんだよな、彼らふたりからは依存っぽいアプローチを受けていないんだよなと内心ひそかに思う。こちらが仲良くなるというときの仲良くというのは一種病的なアレであるのだがと心中考えながら、しかしそういうあれこれを話すのはまだちょっとむずかしいしなと思う。(…)さんも両親との関係はよくない。しかし彼女からはそれほど依存的なアプローチをかけられているという印象を受けない、どちらかといえば(…)さんのほうがそういうあやうさがあるんではないかという気がする、というか(…)さんのほうは鬱っ気がありそうでそっちが気になるんだよなと思いつつ、あとは心の病気の子とか同性愛の子とかそういう子と仲良くなることが多いなと続ける。「どうせいあい」がわからないふうだったので、中国語読みで伝えなおすと、先生わたしはどう思いますかというので、(…)さんは男の子が好きなんじゃないかというと、わたしは男の子も女の子も好きですとさらっという。バイセクシャルなの? とたずねたのち、これはちょっとむずかしいかと思いつつ、双性恋と中国語で言い直そうとしたが、いちおう人混みであるしセンシティブな話かもしれないので、日本語の同性愛を中国語読みするというよくわからない妥協案で確認したところ、肯定の返事。あまりにさらっと言ってのけてみせるので、てっきり周囲にはカミングアウト済みなのかと思ったが、そうではないという。秘密にしてほしいというので、わかりましたと応じる。
  • しかし言われてみれば、(…)さんが男性アイドルや漫画の男性キャラクターにきゃーきゃー言っているところをこれまで一度も見たことがない。そもそもアイドルには興味がないのかもしれないが、アニメや漫画やゲームのキャラクターにしてもいつも女性キャラクターを愛でているという印象がある。しかしそれでいえば、(…)さんは百合漫画および百合アニメが大好きであるし、(…)さんから彼女は女の子が大好きですと目の前でアウティングされたときも否定はしなかった、というかそれでいえば(…)さんこそちょっとバイっぽいなと思える瞬間がないこともなくて、となると三人娘全員が全員そういう感じなのかなと思うわけであるし、それだからこそルームメイトのなかでも三人がとりわけ仲良くなって、さらにもっといえば、そのあたりの機微が原因で今日のあの(…)さんの「冷淡」っぷりがあるんではないかとまで勘ぐりたくなったが、シラフでそこまで勘ぐるなバカ!
  • インターンシップの面接を先週受けたという話も出た。スマホが故障した関係で(…)さんといっしょに受けたというのだが、担当の「(…)先生」(彼女の名前は現四年生の(…)さんからきいたおぼえがある!)の話はほとんどまったく聞き取れなかったという。唯一の質問は「中国の文化を日本語で説明してください」というものだったというのだが、ふたりともそんなむずかしい話はできないとなかば混乱、それでもこちらの授業でやった「(…)」のネタなどを応用してどうにか対応したとのこと(「(…)先生」は中国語ができるらしく、ふたりがときおり口にする中国語も理解できているふうだったとのこと)。先生! どうして日本人の女性は「〜けど」「〜けど」「〜けど」「〜けど」と何度もくりかえしますか! と(…)さんはいった。「(…)先生」の口にするセンテンスはすべてとても長かったのだが、ふたりに聞き取れたのはときおりさしはさまれる「〜けど」だけだったという。それでも面接に落ちたくないふたりはすべて聞き取れているふりをしたというのだが、結果には自信がないという。インターンシップにはこれまで日本語のほとんどまったくできない学生も合格して参加しているのだし、このふたりであればほぼ問題ないように思うのだが、派遣先次第でとにかく事情が変わってくるので六ヶ月コースはやめておけ、三ヶ月コースにしたほうがいいと助言(幸いなことに、二年生は三ヶ月コースしかないらしい)。
  • 病院を通り抜けて老校区に移動。そのまま地下道経由で女子寮前へ。(…)さんと別れてひとり帰路をたどりはじめてほどなく、南門近くにケッタを停めっぱなしであることを思い出したのでそちらに引き返した。ケッタを改修後、第四食堂の近くにある売店に立ち寄り、レモン風味のペプシを買った。なぜか猛烈に炭酸が飲みたい気分になったのだ。
  • 帰宅後、(…)さんから写真が複数送られてくる。ほぼすべてこちらと(…)さんのツーショット。(…)さんと(…)さんにそれぞれ素敵なクリスマスプレゼントをありがとうと微信を送る。それから浴室に移動してシャワーを浴びたが、例によって湯がほとんど出ない。(…)から金曜日の午後に水まわりと電気まわりのチェックが入るので、現時点で問題のある箇所があったら事前に報告してくれというメッセージが届いていたので、明日また連絡するかと思った。
  • 一年生2班の(…)さんと(…)さんのふたりから示し合わせたようにおなじタイミングでメリークリスマスのメッセージが届く。それで少々やりとり。遼寧省出身の(…)さんは雪のないクリスマスは初めてだという。モーメンツも昨日今日とクリスマス一色。近平の旦那の尽力もむなしく例年以上にクリスマス色が強い。自撮り大好きな(…)さんなんてクリスマスツリーのそばにクリスマスカラーでコーデしたセーターとミニスカのいでたちでばっちりポーズをとっている(なんとなくだが、(…)さんは网红になろうとひそかにたくらんでいるのではないかという印象を受ける、しかしそういうタイプにしてはめずらしく勉強熱心なのだ!)。
  • きのうづけの記事はまだ全然書き終わっていなかったし、今日づけの記事だって長くなるに決まっているわけだが、就寝前ぎりぎりまでカタカタやりたい気分でもなかったので、はやめにベッドに移動した。移動したところで、あ、明日の午後授業あるやんけ! と思い出した。(…)さんからあらためて微信が届いた。おすすめの音楽を教えるといって酷狗音乐の楽曲リンクが大量に送られてきたが、ほぼすべてアメリカのポピュラーミュージックだった。(…)さん、あのキャラで音楽の趣味はそっちなんだよな、アニソンでもK-POPでもなく、テイラー・スウィフトが最愛のアーティストなんだよなと思った。ざっと聞いてみたが、まあ、最近チャートインしていそうな曲ばかりだなという印象。ただ、なかにLana Del Reyが一曲まじっていて、そういえば彼女の“Fine China”という楽曲はよかったなと思い出した。ずいぶんむかしにYouTubeにあがっているのをちょっときいただけだが!