20240428

 言語(思考・論理)というのは形式として矛盾なく構築されていると内容まで正しいことになってしまい(つまりそれが「制度」なのだ)、その根拠を辿っていくと、因果律排中律などアリストテレスやカントが列挙したいくつかの原則に行きあたるのだが、それは人間が人間に対して「世界とはこう記述される」と宣言した約束事にすぎないのではないか。
「最低限これだけは正しいとしておこう。そうしないと我々の思考はいつも際限なく根源からはじめなければならなくなるし、いったん記述した世界像に対して矛盾を生ずる可能性がある」というような約束で、それが私たちを自分というこの個体の中に閉じ込める。
保坂和志『小説の誕生』 p.388-389)



 6時15分起床。トーストとコーヒーの食事。ケッタに乗って外国語学院へ。追試の問題文を提出するために教務室をおとずれるも扉は閉まっている。
 8時から三年生の日語文章選読。「幸福の瞬間」第1回。雑談・脱線たっぷりでやれた。重要なポイントはしっかり押さえることができたし、笑いどころもたくさんあったし、難易度のちょうどよろしい質問を要所要所で投げかけることもできた。短いテキストであるけれども、このペースだったら第3回までかかるかもしれない。あるいはそれ以上? それで問題なし。むしろそのほうがいい。授業準備の手間が省けるので。二年生とはちがって、だれもかれもが雛鳥みたいにピーチクパーチクにぎやかに発言しまくる雰囲気ではなく、むしろ静かで落ち着いているクラスであるのだが、リスニング能力はみんな高いので、こちらが冗談を口にすればほぼ100%笑いが、思っていたよりもずっと大きな声で生じる。そのようすを見ると、このクラスやっぱりレベルが高いのかもしれんなァと思う。寝不足で疲れていたので、最後の15分間は「休憩」と銘打ってみんなでだらだら雑談した。
 教室をあとにする。便所で小便をしてから教務室に移動。途中の廊下で一年生1班のY.Eさんたちから「せんせー!」と呼びかけられる。ちょっとほっとする。数日前に授業態度について注意するメッセージを送ったばかりであるし、どういう空気になっているのかなと心配だったのだが、少なくともY.Eさんはいつもどおり——というかいつもよりテンションが高くみえたのだが、あれはひょっとするとくだんのメッセージの中で彼女をまじめに授業を受けている学生のひとりとして名指ししたのがよかったのかもしれない。
 教務室で追試の問題用紙を無事提出する。K先生もなにかの用事で教務室にやってきたので、昨日の食事のあとからずっと胃腸がちょっと痛いですというと、それは残念、先生はもうちょっと唐辛子を食べる練習をしましょうとの返事。練習し続けてもう六年くらいになるんやが!
 10時から一年生1班の日語会話(一)。第18課。先日学習委員のY.Tさんから連絡があったとおり、前方に座って授業を受けるのはS.Eくん、S.Mくん、K.Kくん、S.Kさん、Y.Kさん、Y.Tさん、Y.Kさん、T.Gさん、R.Sさん、S.Bさん、Y.Eさん、B.Kさん、R.Tさん、F.Mさんの14人。しかしK.KくんとB.KさんとF.Mさんの3人は以前と変わらず後方に座っていたので、あれ? これはやっぱりキャンセルということなのかな? と思いつつ、いや、こちらに言われるまでいつもの定位置を離れる決心がつかないんだな、クラスのなかでもかなりシャイな面子だからと判断、いちばん前の空いている席に座るようにうながす。案の定三人とも顔を真っ赤にして前列に移動。そんなに? そんなにはずかしいの!? 嘘でしょ!?
 しかし授業は大成功だった。さすがに前方組は全員集中して話をきいていたし、集中して話をきいてくれさえしたら笑いどころはいくつでも作ることができる。Y.Tさんにお酒は好きですかと質問したところ、なぜかルームメイトのY.Kさんらが彼女を酒飲みで喫煙者で檳榔をしょっちゅう噛んでいる人間扱いしたが、以前もよく似たようなことがあった。それが冗談なのか本当なのかちょっとよくわからない。いや、煙草と檳榔は冗談なんだろうが、Y.Tさん、あれでお酒はけっこう好きなタイプなのかもしれない。あと、意外なところでは、R.Sさんがラップが上手だという話もあった。全然そんなふうにみえないタイプであるのだが、たぶんヒップホップが好きなのだろう。やる気のある学生のみ相手にするかたちなので個人質問をガンガンしていくにしてもテンポがたいそういいし、あと女子はたぶん半数ほどが寮のおなじ部屋の住人らしくそれでおたがいに気心が知れているのだろう、ほかの学生の発言にもけっこうガンガンつっこむみたいなやりとりも多々あり、これはいままでこのクラスでは見られなかった現象だ。本当にぐっとやりやすくなった。アクティビティもかなりテンポよくやれた。1グループにつき2人か3人の少人数でやれるのもいい。ただグループ分けについてはもうちょっと考える必要があるかもしれない。このクラスは男子と女子の距離が(ゲイであるS.Mくん以外)かなりデカい。今日はY.EさんとK.Kくんをおなじグループにしたのだが、相談しあっているようすはまったくなかったし、次回はY.Eさんを別の女子グループに加えたほうがいいかもしれない。
 授業後、S.Gくんがひとり教卓にやってきた。たぶんそうなるだろうなとうすうす予想していたが、ややもじもじとためらったのち、先生の授業はとてもおもしろいです、だから参加したいですという。だったら最初から前方組として名乗っていればいいのにと思うわけだが、彼のルームメイトらしい周囲の男子学生らはみんなやる気ない組なので、たぶんそこに合わせるかたちで後方に座っていたのだろう。とはいえ、後方に座っているにもかかわらず、こちらが全体に投げかけた質問に対してはわりと積極的に答えており、実質今日の授業にも半分以上参加していたわけだが。それじゃあ来週からは前方に座ってくださいというと、それはちょっとみたいな反応があり、チョークで黒板に压力(ストレス、プレッシャー)と書くので、え? このクラスってそんなにシャイな感じなの? とまたびっくりした。いや、シャイじゃないな、やっぱりクラスメイトとの関係があまりよろしくないのだろう、K先生によれば1班は寮も別々の部屋になっている学生がかなり多い、だからクラスメイト間のつながりみたいなものが全然ないという話だったし、それでS.Gくんとしてもふだん親交のまったくないクラスメイトらに囲まれるかたちで前方の座席につくことに抵抗があるということなのだろう。いや、なにを思春期の中学生みたいなこと言うとんねんという話であるが、実際そういう学生はけっこう多い。社恐という言葉が流行語になる世代なのだ。
 教室を出る。ケッタに乗って新校区に移動。彼女の運転する電動スクーターのケツに乗ったR.Kくんが追い抜きざまになにやらこちらをからかうことを言い残していったので、『幽遊白書』の仙水編で身柄を奪われた桑原を追いかける幽助がママチャリを立ち漕ぎして車に追いつくシーンがあったけれどもあのノリで、うおおおおおおお! とケッタを全力で漕いでその背後に追いつき、のみならず車道に横ならびになったうえで、你好! 美女! 你有男朋友吗? 我是单身狗! と彼女のほうにクソデカい声で何度も話しかけた。彼女、周囲にほかの学生らもたくさんいたこともあり、羞恥心で死にそうになっていた。R.Kくんは「変態教師! 変態教師!」と爆笑。
 授業終わりのC.R先生とばったり遭遇。新校区のキャンパスで彼女を見かけるのはめずらしい。午後も授業があるのでこれから食堂で昼メシを食べるのだという。
 第四食堂に立ちよる。死ぬほど混雑していたので打包はあきらめる。そのまま第五食堂へ。ここの二階はさほど混雑していない。打包して帰宅。食し、昼寝するつもりでベッドに横になったが、どうも眠気がおとずれないふうだったので、そのまま活動続行することに。きのうづけの記事の続きを書いて投稿し、ウェブ各所を巡回し、1年前と10年前の記事を書いた。2023年4月28日づけの記事に「一年生全体の印象として、K.Kさんは、みんなおしゃれだ、かわいい子が多いと思うといった。ふだん一年生と交流する機会はない。先日会議かなにかの現場ではじめて一年生を見たのだが、漢字四文字の名前の男の子がすごくあかるかったというので、C.Rくんだねと受けた」という記述があった。一年後、その漢字四文字の名前の男の子とK.Kさんは恋人になるのだ!
 17時をまわったところでふたたび第五食堂へ。打包。食し、今度こそ食後の仮眠を30分ほどとった(猛烈な眠気に見舞われたので、これは二時間か三時間ほど眠り続けてしまうパターンではないかとおそれたが、そうはならなかった)。チェンマイのシャワーを浴びる。それから微信で大量のやりとり。まず一年生1班のS.Eくん。今日の授業前に作文コンクールの過去の受賞作を印刷したものを渡したのだが、データで渡したほうが翻訳アプリなども使いやすいかと思い、あらためてそれを送ったところ、ニーチェの『ツァラトゥストラ』の一節を引用して書いてみたいという返事があった。S.Eくん、かなりセンスのいい写真を撮っているし、文学趣味もあるという話を以前ちょっと聞いたことがあるわけだが、まさかニーチェが出てくるとは思っていなかった。学生からニーチェの話をふられるなんてKさん以来だ。どうも高校時代の同級生に西洋哲学好きがいたらしい。で、その友達から『ツァラトゥストラ』と『悲劇の誕生』の中国語訳を借りて読んだのだが、あまり理解できなかった、しかしなにかしら受ける印象はあったらしい。ニーチェを理解するのであれば、まずはキリスト教社会の理解、それにくわえてプラトン、カント、ヘーゲルあたりを予備知識としてあたまに突っ込んでおいたほうがいいというと、くだんの友人からも同じように言われたという。部屋にG先生の手土産である手塚富雄訳の『ツァラトゥストラ』があったので、写真を撮って送った。S.EくんはちかぢかN2を受験する予定。合格したらこの本をあげるよと約束した。
 それから四年生のT.Sさんとやりとり。じぶんの名前の漢字の日本語表記がわからないみたいなことをいうので、繁体字にすればいいだけじゃないのかとたずねると、進学する先の(…)大学の指導教官? あるいは留学仲介会社のスタッフ? が彼女の名前の「(…)」の字を「(…)」と書いていたというので、それは単純にそのひとのミスでしょうと受けた。専攻は決めたのかとたずねると、金融貨幣にしたというので、よりによってまたえらいのを選んだなと思った。中国での就職に有利だからだというのだが、やっぱりプラグマティズムの国だよな、じぶんの興味関心や好奇心なんて二の次、それが役に立つか立たないかでしか判断しないという印象。頼もしさと力強さをそこに見ることもあれば、浅はかや薄っぺらをそこに見ることもある、人民の最大公約数的な傾向。
 東院二年生のS.EさんからはN先生の授業でおこなうスピーチの原稿チェック依頼。締め切りは連休明けだったので了承。
 K先生とも微信。明日の午後、例の日本人教授による講演会があるので、興味があるのであれば参加してみてはどうか、と。(…)大学の(…)教授だというので、あれ? C.Rくんの話と全然違うじゃん? 中国のどこかの大学にいるひとじゃないの? と思った。もしかしたら別人なのかもしれない、クソめずらしいことにいまこの僻地の大学に日本人が同時に三人いるということなのかもしれない。先学期のK先生の講演会と同様、実質的には強制参加のアレなのかなと思ったが、授業のない日本語学科の学生は全員参加が義務づけられているが、教員については興味があれば歓迎しますという話らしい。だったらこちらは作文の添削がまだ残っているし不参加の方向でと返信。K先生も卒論の添削で忙しくしているので参加しないつもりだという。

 今日づけの記事をここまで書くと時刻は22時半だった。「ニュースの原稿」の添削にとりかかる。0時半になったところで中断。これでもまだ半分ほどしか片付いていない。添削はマジで時間がかかる。キェー! 仕事したくねぇよォ!