20140601

(…)見えてしまう時はあるものだ、と。あちこちから火の手がもうあがっているのに、自分のほかは誰も気がついていないというような。往来の至る所に屍体が転がっているのに、通りかかる人の眼には入らないというような。叫ぼうにも声が出ない。声が出たところで、聞かれそうにもない。ひとりであせるほどに、無事の雰囲気があたりに濃くなる。無事そのものがまがまがしく見える。見えるだけで、物音ひとつ立たない。しかし、所詮、何事でもない。一時のことで、自分でもまた見えなくなる。見えて怯えたその分だけ、徹底して忘れる。それで一生が尽きればそれまで、仮に生きているうちに、いつか見た徴(しるし)に追いつかれて、実際の恐怖の中を誰よりも狼狽して走ることになっても、そこに恥の念が混じったとしても、もともと恥じる立場にはないのだ。
古井由吉『野川』より「徴」)



 6月だぜ!
 6時20分起床。歯を磨いてから顔を洗い部屋にもどってストレッチをした。それからパンの耳2枚とコーヒーの朝食をとった。昨日のおきぬけにくらべるとずいぶんとマシでめざましのホットコーヒーも美味しくいただけたが、蓋を開けてみれば日中の最高気温は35度にも達していたらしい。さすが京都。冷房のきいた室内で日中を過ごすことができたわけだから、勤務日でかえってよかったともいえる。職場にむかう途中コンビニに立ち寄ってケチャップを買った。職場の冷蔵庫にあるものが残りわずかだったのだ。
 8時より歓びなき労働。月始めに加えて夏始めの最初の一日ということもあり、やらなければならない仕事が山盛りで昼ごろまで大忙しだった。ひととおり片付いたら片付いたで、真夏日の熱気にたえきえられなくなったらしい客がどんどん押し寄せてきて、商売繁盛で笹持ってこいのクソいそがしだった。犬猿の仲のはずのBさんとTさんが今日にかぎってはなかなかうまくかみ合っているようにみえた、というかBさんが常よりもずっとTさんに歩み寄っているようにみえたので、ひょっとすると先日の飲み会のときにTさんはあれでもなかなかけっこう最近はBさんに気を遣っているようにみえる、とみんなで言ったのが功を奏したのかもしれない。しめしめ。みんな仲良くなーれ!
 Jさんに例のごとく五千円を貸してあげるつもりが財布のなかに金を入れてくるのを忘れてしまった。ごめんJさんお金持ってくんの忘れたわ、と告げると、いやいやだいじょうぶ、かまへんかまへん、と口ではそういってみせるものの表情が沈みがちで、食糧はお姉さんにいただいたものがあるらしいので食いっぱぐれることはないらしいのだけれど、あと一週間はたしてだいじょうぶだろうかと少し心配になった。
 Tのおっさんがカラオケに誘ったのはOさんTさんのみならずSさんもらしくて、というかSさんには夜景のきれいなホテルが神戸にあるからいっしょに行かないかと誘ったらしいという話をHさんから聞いて、申し訳ないけれども爆笑してしまった。あのおっさん金持ってんならまだしもカツカツでしょ、じぶんのどこにそんな自信あんのかききたいっすわ、見習わなあかん、とHさんがいうのに、たしかにあそこまでマイナスの条件をそろえておきながらあそこまでイケイケで若い女の子ばかり狙ってアプローチをしてみせる心臓の強さはちょっとふつうじゃないな、と感心した。
 人員があぶれるようだったらじぶんから先に切ってくれるように頼んであるということを引き継ぎのさいにMさんに話すと、そんなんいわんときみは残りいや、ほんなん気にせんとええがな、と引き止められた。もっとも、このままいくとじぶんがここを去るよりもはやくまずMさんのクビが切られることになるんでないかという気がしないでもないけれど。
 帰宅してからストレッチをしたのちジョギングに出かけた。50番コースを走った。準備体操が適当だったので序盤は脚に疲労をおぼえたが、身体が温まってきてからはかなりいい感じで走ることができた。最後の直線に達したところでペースをあげた。まだまだぜんぜん余裕があるようだったので、次回からはもうすこし速度を意識してみてもいいかもしれないと思った。ジョギングシミュレーターで計測してみると50番コースは6キロちょっとあるようだった。鴨川のコースはそれよりもほんの少し短い。50番コースは心臓破りの坂があるのでその分ハードであるといえなくもないが、当初はあれほどしんどかったコースもいまとなってはいくらか余裕をもって走ることができる。近いうちにあらたなコースを開拓する必要が出てくるかもしれない。次は7キロかもしくは8キロあたりを目処にしたい。
 隣人が風呂からあがった直後をねらって風呂場にむかった。こうすればあのクソでかいチャバネどもと鉢合わせせずにすむ。汗を流してから部屋にもどると蒸し風呂だった。さすが摂氏35度の魔界都市。しばらくこんな天気が続くようだったら日中だけでも27度設定で冷房を入れようと思った。パソコンがいかれて原稿がおしゃかになるのがいちばんこわい。そんなことがあったら確実に発狂する。ストレッチをしてからレッドブルを一気飲みしここまでブログを書いた。風呂上がりの排便欲求ほど徒労感をつのらせるものはないが、したくなったものはしかたないのでいままさにひりだしてきたところ、便所の電球が切れていた。真っ暗闇の糞垂れ小僧、という語が浮かんだ。使いどころはない。
 0時を前にして最寄りのコンビニに出かけた。麻婆丼とコーヒーとプリンを買って部屋にもどり、浄められた夜のなかでしずかに狂った。2時ごろにたしか寝て、3時ごろ蚊に喰われた身体のかゆみでいちど目がさめた。スプレーをふってまたすぐ寝た。たぶん熱帯夜だった。