20140701

(…)秋田はその晩から疲労のためらしく、発熱して、下の部屋の畳敷の、洋箪笥の前にねころんだまま、しばらくうごかなかった。鼻や、喉頭や、胸が、がらごろ、ひゅうひゅうと、荘子の大小の木の洞が風に鳴る形容のように、ひどい音を立てて、彼のからだに嵐が起っていることを知らせた。
金子光晴『どくろ杯』)



 7月だぜ!
 7時半をすこしまわったところで起きた。歯をみがき顔を洗いストレッチをし洗濯機をまわした。パンの耳2枚とコーヒーの朝食をとってから昨日付けのブログを書きはじめた。長い記事になりそうだった。関連する法律についてググりつつの作文となった。Yさんの虚言を見極めるのに難儀した。サイコパスの嘘を見抜くのは容易ではない。眠気をもよおしたので二つ折りにして壁際によせてあった布団にもたれこんで眠った。何度も金縛りにあい、そのたびに性的な妄想がつのった。気づいたら14時半だった。いったい何時間眠ったのかはっきりしなかった。短くはなかった。身体が弱っていると思った。眠気は風邪薬の副作用でもおそらくあった。
 ヨーグルトをバカスカ食べながら昨日付けのブログを書いた。いったん書き終えると16時半だった。どうしたものかとせっかくの休日に身のやり場のないような怠惰をおぼえた。ひとまず腕立て伏せをすることにした。あいまにドラゴンボールラップを視聴してピッコロの「ずぁ!ずぁ!」のたびごとに腹をかかえて笑った。街着に着替えてから徒歩でブルジョワスーパーにむかった。100円引き弁当と牛乳と納豆と卵を購入して帰宅し、すぐに風呂に入った。風呂に入るまえにEさんに電話をかけたが不在だった。Yさんの帰還によって人数もひとまずそろったことであるし、そろそろ勤務形態を元にもどしてもらおうかと思ったのだった。風呂からあがるとEさんからの着信が二件あった。かけなおしたが、出なかった。ストレッチをしていると着信があったので出た。シフト決まりました、とたずねると、あーやっぱりそこ気になっちゃう、というので、いやもう四人そろったわけやしぼく別に出勤する必要もないんちゃうかな思うて、6月やっぱなんも使いもんにならへんかったからいい加減そろそろね、と告げた。すると、あのな、Yくん無理やった、とあった。びっくりした。釈放取り消しになったのかといっしゅん思ったが、そうではなかった。会社が難色を示したのだった。従業員がパクられたとなると本社のほうはけっしていい顔をしない、クビにしろというにちがいないとの見込みは以前からあったので、Eさんはきのうのきのうまで本社のほうにはなにも告げ知らせていなかった。ただYさんがやって来るなり、解雇通知というのをきちんとしておかないとあとで裁判でもおこされるとまずいことになると、暗にTさんの復讐をほのめかしてせっつくので、その場合はYくんも引っ張っていかれたと告げる必要が出てくるがそれでもかまわないかと、そうたずねるとそれはいっこうにかまわないというのでここ数週間の事情をすべて本社に告げたところ、そんな人間を会社に置いておくのはまずいだろうとの難色が(しかしどの口でいうのか!という話ではあるのだが)今日社長から示されたというわけだった。でもまあこれで結局はよかったんかもしれん、とEさんは続けた。今日Bさんにもいうたんやけどな、となにやら切り出す口調でいうので、なにいいたいかわかります、ぼくもおんなじ可能性考えとる、あれでしょ、売られたんちごて売ったってわけでしょ、と先取りしてみせると、そうなんよな、とあった。ほやしそこ見極めるためにEさんきのうYさんあおったわけでしょ、Tさん前にしてきちんというべきこといえって、つめるべきとこはつめろって、というと、そうそう、やけどあそこで引いたやろ、そこなんでやねんって話やん、とあった。まあどっちが売ったにしても最低やで、こっちの世界の人間としてそれいちばんやったらあかんことやしな、チンコロはクズや、といましましげに漏らした。それとあの家宅捜査のエピソードっすよね、と続けると、あれぜんぶ嘘ちゃうの、とあったので、ぼくもそうかもしれんとは思うた、きのうBさんらと王将いったときにはいわへんだけど、でもたぶんEさんはおんなじふうに考えとるやろなとは思うとった、ほんで気になったからちょっとネットで調べてみたんすけどね、どうも立会人のくだりのつじつまがあわんのすわ、被疑者には立会の権利なしって明記されとってね、というと、もうそんならクロ確定やん、とあった。それにマンションとのもめ事にしても弁護士のほうが請求してきたんって源泉徴収でしょ、それやっぱふつうに考えて支払い関係のほうちゃいますの、というと、深いためいきがひとつあって、まあまあこれを機にね、健全にいきましょう、とちからなくつぶやいた。Jさんだけはけっこうがっくしきてたけどな、というので、でもBさんはJさんにアレしてほしくないみたいやし今度したらもう口きかんみたいなこと真顔でいうとったくらいやからちょうどいいかもしんないすね、と答えた。あたらしい人員の募集はすでにかけはじめているようだった。まともなやつ来やんかなーというのでちょっと笑った。それからシフトの話になった。いつまでもおまえに頼るんもやっぱちがうと思うしな、そやしおまえももうええで、というので、四人そろっとるんやったらもう前のシフトもどしてくれってたのむつもりやったんすけどだいじょうぶです、三人やったらしかたない、腹すわりました、ひとそろうまでは週五で出ますわ、気ィ張りました、と応じた。「まあまあでも今日なんかもわりと落ち着いてたしな。そろそろ客足にぶってくるとは思うし、なんにしても出勤日数減らしてく方向でやってくわ」「ほんまだいじょうぶなんで。四人そろうまではぼくちゃんと出ますよ。んで七月いっぱいは小銭稼がせてもらいます」。それから以前より計画されていた飲み会(「あのふたり」がおらんのやったらおれも食事くらいみんなと行くよ、というEさんのひとことがきっかけで昼間の従業員ぜんいん参加と決まったはじめての会)が来週の木曜日に決まったことが伝えられた。決起集会だといった。つぶれてしまわん程度にがんばっていきましょうといった。おまえもほんまに無理や思うたらはよいえよ、おれとしてはおまえにつぶれてもらうんがいちばん困るしな、爆発するまでがまんとかすんなよ、おまえが辞めるいうてキレんのもう見たないから、とあったので、だいじょうぶです、マジで腹決まったから、ご心配おかけしました、と応じた。
 というわけで覚悟は決まった。決まったはいいものの、残された休日をさてどうして過ごしたものかと思った。ひとまず昨日付けのブログを片付けるのが先決だと思い、パソコンをもっておもてに出ることにした。パンの耳が切れていたのでTにむかった。到着すると20時半ぴったしだった。長い昼寝のためもあってひさびさに宵っ張りの作業となりそうだった。一時間かけて昨日付けのブログの続きと、今日付けのブログをここまで書いた。昨日付けの記事はかなり長いものとなったが、考えたあげくブログにはアップしないことに決めた。内容が内容であるためににごして書いてごまかすこともできないし、一部伏せ字や中略をはさんでの投稿も考えたものの一部ではけっしておさまらないやばい内容のオンパレード&カーニバルになっているのでいたしかたない。ブログを書き終えてから「G」に着手した。マイナス2枚で計251枚。改稿は221番まで。以下のくだりをまるっとボツにしたのでマイナスとなった。ボツにした断章はすべてブログにあげておくべきだったといまさらながら後悔している。

 たびかさなる一次選考落選の結果を見かねた周囲がその後の自由な創作を担保するものとして俗情と結託した小説の変名における執筆を口をそろえてすすめてみせる。いうほど簡単なはずもなく、狙いをすませたところでたやすく射ることのかなうものでもないからこその一攫千金ではないかというしごく真っ当な抵抗が鎌首をもたげもするが、それでいてあるいは批評的な意識を強く作用させることによって逆説的に遂げられるものもあるかもしれぬと野心とは関係のない域でおのずとふくらむ想像もある。世に流通する感動物語の骨子のきわめて精確な踏襲と必要最低限の肉づけという「ゲームの規則」に従いさえすれば、いともたやすくそこに成ってしまうそのものはまずもってパロディと呼ばれてしかるべき産物であろうが、批評的な精度を高くとぎすませばとぎすますほどにその対象との境界線が失われていきついにはほとんど同化することさえありうるのがほかならぬそのパロディの特性である。
 だが、仮にそのような手法と動機のもとに制作されたパロディックな作品が、それでいてシリアスに、そしてベタに受け取られてしまい、なおかつそのままで反響を呼び起こすことになった場合、それこそがそもそもの目的であったからのひとことで片づけ割りきってみせることがはたして できるものだろうか? 感動物語に感動するひとびとの姿のさらなるパロディとして演ぜられてあるかのごとく高く見下ろすこちらの目に戯画的に映るものが、それでいてじっさいはひとびとの地上で水平にかわされるまなざしの交点でむすばれたきわめて率直な反応であるという視差をはらんだ構図がいちど成立してしまえば、もはやおのれと社会をとりむすぶ関係はそれ以前以後で語られるほど確定的な変質を――どこまでもそらおそろしく、完璧に不気味な、一種の死刑宣告としてこの身におそいかかる変質を――こうむらずにはいられないのではないか? グロテスクな光景である。狂気と正気をわけへだつ境界線が社会の見えざる手によってひかれるのはおそらくここにおいてである。

 23時ごろ酔漢があらわれて隣席に着いたのでここらが潮時だろうとパンの耳をいただいて辞去した。酔漢の声とにおいの双方が苦手だ。帰宅すると部屋に巨大なゴキブリがいたので、ダニスプレーを噴射して殺した。ほんらい布団や畳やカーペットに噴射するタイプのものなので殺傷能力にとぼしく、やっつけるのにずいぶんと時間がかかった。洗濯機をまわし、一年前の日記をまとめて読み返した。たっぷりの昼寝で一日の時間割がくずれたところにくわえて週休五日制復帰という時間割もくずれてしまった二重の崩壊のためにいくらかなげやりでくさくさした気持ちになっていた。そういうときはかならずどうでもよい時間のつぶしかたをしてしまうものだ。さっさと寝ればいいにもかかわらずインターネットのどうでもいい領域をだらだらと徘徊したのち3時消灯。