20240604

 "How long do you think it will take to get straight–couple of weeks–eh?" he chaffed.
 "Good heavens, no," said Beryl airily. "The worst is over already. The servant girl and I have simply slaved all day, and ever since mother came she has worked like a horse, too. We have never sat down for a moment. We have had a day."
 Stanley scented a rebuke.
 "Well, I suppose you did not expect me to rush away from the office and nail carpets–did you?"
 "Certainly not," laughed Beryl. She put down her cup and ran out of the dining-room.
 "What the hell does she expect us to do?" asked Stanley. "Sit down and fan herself with a palm-leaf fan while I have a gang of professionals to do the job? By Jove, if she can't do a hand's turn occasionally without shouting about it in return for . . . "
 And he gloomed as the chops began to fight the tea in his sensitive stomach. But Linda put up a hand and dragged him down to the side of her long chair.
 "This is a wretched time for you, old boy," she said. Her cheeks were very white, but she smiled and curled her fingers into the big red hand she held. Burnell became quiet. Suddenly he began to whistle "Pure as a lily, joyous and free"–a good sign.
 "Think you're going to like it?" he asked.
 "I don't want to tell you, but I think I ought to, mother," said Isabel. "Kezia is drinking tea out of Aunt Beryl's cup.”
(Katherine Mansfield “Bliss and Other Stories”より“Prelude”)



 6時15分起床。トースト二枚。部屋の外に出ると雨降りで、最高気温も今日は21度しかない。寮の駐輪場でCとAのふたりと遭遇したが、CがAをなにやら叱りつけている最中だったので、ちょっと気まずかった。いつもの売店でミネラルウォーターを買ったが、CとAのふたりも電動スクーターに乗ってやってきておなじミネラルウォーターを買っていったので、あ、ふたりもここでよく買い物するんだと思った。
 教室へ。いつもよりずいぶんはやく到着したので、T.UさんとS.Kさんのふたりしかいない。ふたりともダブル・ディグリー・プログラムを利用して会計学も学んでいる子なので、そっちの勉強は順調かとたずねたところ、試験にみんなパスしたという返事。T.Uさんは四年生時に韓国へ交換留学することも決まったというので、それはよかった! おめでとう! と伝える。うちの大学で韓国語を教えている先生も、来学期からといっていただろうか、ふたつめの博士号を取得するためにまた韓国に留学する予定らしい。
 8時から二年生の日語基礎写作(二)。前半で「三題噺」の清書、後半で「川柳」。今日は学生らがやや眠そうだったが、教案はそれほど悪くないはず。あと、前半の清書中、サングラスのR学院長がわざわざ教室をのぞきにやってきたので、ちょっとびっくりした。いつも監視役は学生であるのに。
 授業後、例によってR.Hくんが教壇にやってくる。話していると、O.GさんがR.Kさんを教壇まで連れてきて、先生! Kがなにか言いたいことある! と言う。なに? と応じると、だめだめだめという反応。しかしのちほど微信が送られてきた。こちらが「川柳」をネタに空欄を埋めなさい式のクイズをやっている最中、音数を表現するのに「にゃにゃにゃにゃ」と猫語で話していたのが猫みたいでかわいいと思った、と。こんなハゲた猫がいるわけないでしょうと返信すると、ハゲた猫もかわいいですというので、だったらペットとして飼ってください、ぼくはもう働きたくないです、まずは食費だけ毎月お願いしますと応じたところ、「くそ先生」と即レス。こちらとのやりとりもだいぶわかってきた感があるな!

 R.Hくんが「暴走族の服」について質問をよこす。とっぷくのことねと応じる(「特攻服」のことを「とっぷく」とつづめて口にした瞬間、高校生のじぶんが突然すぐそばに幽霊のようにあらわれたような感覚をおぼえた!)。あれはおしゃれですかというので、ダサいよ、あれを着て町を歩いている人間なんてふつういないと応じると、ちょっと残念そうな表情をしてみせる。最近『東京卍リベンジャーズ』にハマっているというので、ああそれでねと思う。たぶん彼としてはコスプレ気分で、というよりも(中国の女の子が日本の制服をjkファッションとして身につけているように)普段着として特攻服を着てみたかったんではないか。
 二年生はそのあと四階で閲読の授業がある。にもかかわらず一階にむかうこちらについてこようとするので、きみ次授業でしょうというと、セブンイレブンで飲みものを買うからという。階段をおりている最中、廊下の先に一年生1班のS.Eくんの姿を認める。なにしてんのとたずねると、S.Hくんが授業中にスマホをいじっているのが見つかって叱られているのを待っているという。きっとR学院長だなと思う。今学期は監査が入っているわけであるし、それでR学院長がじきじきに各教室をのぞきまわっているのだろう。しかしS.Hくん、こちらの授業は授業態度が悪すぎるゆえに出禁であるわけだが、よその授業でもたぶん同様にアレな感じなのだろう。中退もしくは留年、全然ありうるな。
 S.Eくんと立ち話をしているあいだにR.Hくんの姿が見えなくなっている。先にセブンに行ったのかなと思いつつ一階の駐輪場に移動。いた。いっしょにセブンイレブンに行きましょうというので、おれはセブンに用事ないしと断る。徒歩であれば病院内を抜けたほうが手っ取り早いのに、ケッタのこちらにあわせてわざわざ大回りしてセブンにむかおうとするので、いやそんなルートで移動していたら次の授業に間に合わないでしょうと告げて別れる。
 第五食堂で閑古鳥の広州料理を打包する。文具屋でコピー用紙とトイレットペーパーを買う。忙不忙? と老板がいうので、今天不忙と応じる。こちらの手にさげているメシに興味津々だったので、広州料理だ、唐辛子が入っていないのでうまいというと、じぶんたち(…)人にとっては唐辛子が入っていないイコールうまくない料理だみたいなことをいう。よーく知ってる。
 帰宅後、メシ喰うないや喰う。食後30分だけ昼寝するつもりだったのにがっつり寝てしまい、気がつけば15時。Lから微信がとどいている。tax recordはやはり市税務局で取得する必要があるという。手続きに必要なものはあるかとたずねると、中国人の場合はID cardだけで問題ないらしいがという返信があったので、それくらい電話でもかけて調べてくれればいいのにと思いつつ、たぶんパスポートでどうにかなるだろうと推測。税務局には学生といっしょに行ってくれないかとあったので、もともとそのつもりだったと応じる。監査が入るということもあってLのほうもおそらくバタバタしているのだろう。
 三年生のR.Kさんから微信。通訳の授業で出た宿題のチェックをしてほしいという依頼。それはひとまず置いておいて、きのうづけの記事の続きを書いて投稿し、ウェブ各所を巡回し、1年前と10年前の記事を読み返す。以下、2014年6月4日づけの記事より。うーん、やっぱり凄みがあるな。

 夜の底をゆるやかに流れる河が、際限もない闇を吐く。古代の詩の伝える冥界の様子である。冥界であるからにはもともと闇の支配する境であるはずなので、闇から闇へ、闇を絶え間なく吐いていることになる。こうなると闇もなかなか、光の欠如というようなものではない。それ自体生成するなら、無際限とは言いながら濃密が極まって、蛤の吐く蜃気楼ではないが、生命を孕むことにもなりかねない。それにしても、水の上に神の息が漂ったり、混沌から大地と奈落が生まれると早々に愛欲が現われたりするのと違って、何者が干渉するでもないので、世話はない。いや、世話はないなどと言うのも、誰かの立場である。誰の立場もない光景のはずだ。
 闇夜に川から白い靄のような、光の立ち昇るのを見たことはある。川霧ではなくて、たしかに光だった。微かながら、時折、はっきりと照る。しかし周囲の闇とは一向に、没交渉だった。川面すら照らさない。闇をすこしも破れない光とは、徒労だと眺めた。ついでに、そんな光を呑みこめない闇も、徒労だと思った。若いだけに考えることが豪気だった。徒労感のうちにわずかな、主(ぬし)もないような自足が点じた。
 鼻をつままれてもと言われるような、すぐ鼻先から闇に籠められた夜に、草むらに向かって用を足したことがあり、股ぐらを探る手もともおぼつかぬほどなのに、やがて定まった放水の弧がひとり白く光った。闇に呑まれず闇を排さず、人も知らず草むらも知らず、時もないように宙に架かって、まるで銀河だった。弧が絶えると闇はひときわ濃くなった。だいぶ離れた川の音が伝わってきた。闇とは本来、生まれたてには、白いものなのではないか、と考えた。
古井由吉『野川』より「森の中」)

 K先生から微信。四年生のK.Kさんのための追試をもういちどあらためて作りなおして送ってくれないかという依頼。どういうアレがあったのかわからんが、たぶん泣きの一回、これが本当に最後の最後で、追試のチャンスがあたえられることになったのではないか。だったら前回サボった追試の問題をそのまま使ってくれよというアレであるのだが、たぶんそれはルール上許されないことになっているのだろう。やれやれ。
 二年生のグループチャットで募集をかける。明日、明後日、明明後日の午後、いずれでもいいので、ひまなひとがいれば税務署まで付き合ってくれませんか、お礼に夕飯をおごります、と。すぐにT.Uさんからダイレクトに微信がとどく。もともと先着のつもりだったので彼女にお願いすることに。明日の15時半に図書館前で集合と決まる。T.Uさんは「わたしたちは午後図書館にいます」みたいに言っていたので、彼女のほかにおそらくS.KさんかR.Hさんあたりがいるのだろう。予定が決まるか決まらないかのタイミングでS.Sさんからも微信がとどく。R.Uくんといっしょに通訳をする! と名乗り出てくれたわけだが、すでにT.Uさんに決まったと伝える。が、ほぼ同時のタイミングであったわけだし、どうせだったらいっしょに行きますかと提案。S.Sさんは16時ごろまでボランティアがあるらしいので、待ち合わせ時間をもうすこし遅らせることに。T.UさんはS.Sさんとふだん交渉がないからだろう、「少し気まずいですが」とあったが、まあそのあたりは「歩く潤滑油」の称号をあたえられてひさしいこのおれを利用しまくってくださいという感じだ。のちほど、もうすこし遅れてC.Rくんからメッセージがとどいたが、さすがに多すぎるし、彼が来るとなると自動的に恋人であるK.Kさんも来ることになっていろいろややこしくなりそうだったので、これは断った。C.RくんはすぐにT.Uさんに抗議の微信を送ったらしく、そのスクショがT.Uさんから「私は笑って死にました」のメッセージ付きでこちらにも送られてきた。どうしてそんなにはやく先生のメッセージに反応することができたんだ! と嘆いている文面だった。グループチャットのほうではC.Kさんがお手伝いしたいのは山々ですがじぶんの能力では通訳ができるかどうかみたいなメッセージを投稿していたが、彼女がもし通訳できないのであればうちの学生の大多数もやはり通訳できないことになる。
 R.Kさんの宿題をかたづけて送る。Lから外教のグループチャットに通知がある。7日の夜に外教の食事会があるという。端午节を祝うためのアレだと思うが、正直クソめんどうくさい。いや、行ったら行ったで、結局いつものようにそこそこ楽しめるとはわかっているのだが、でもなー! またみんなでわけのわからんインドダンスをさせられたり歌を歌わされたりするんがなー! という感じなので、いちおう出席するとは返信しておいたが、当日は仮病をつかって休むかも。
 第五食堂で打包。メシ喰うないや喰う。チェンマイのシャワーを浴び、明日からはじまる日語会話(二)の期末試験にそなえてテストの点数を記入するための表を作成して印刷し、K.Kさん用の追試をこしらえなおしてK先生に送信する。一年生1班のS.Eくんが、たぶんじぶんでこしらえたものだと思うのだが、パレスチナの解放を訴える画像を投稿していて、こちらももちろんその主張には賛同するのだが、一方K.Sくんがこれは意義のある投稿だみたいなコメント付きでいいねをしているのを見て、S.Eくん自身はおそらくVPNを常用しているし、この国の教育および情報環境によってインストールされた価値観もある程度相対化している人物であるとこちらはひそかにもくらんでいるのだが、彼のこの投稿に対していいねしている学生らはK.Sくんをはじめとして全員が「イスラエルアメリカ=世界最大の悪」式の図式のままに判断しているだけ、つまり、個別の事例に対する判断でもなければ理念に即した判断でもない、ウクライナではなくロシアを支持をするのとおなじ論理によってそう判断しているのだろうなと思った。あと、これはさすがにちょっと深読みしすぎかもしれないが、仮にS.Eくんががっつり西側マインドの人間だった場合、パレスチナの解放を訴えるこの画像には実は天安門事件追悼の意も重ねられているかもしれない。今日は何度かVPNがつながりにくい瞬間があった。例によって各種ゲームやSNSのアカウント名変更が今日はできないという措置もとられているらしく、のみならず蝋燭の絵文字すら使えないみたいな話ものちほどTwitterで目にしたわけだが、それでいえば、R.Hくんがその理由については十分知悉しているだろうに、今日はなぜゲームのアカウント名を変更することができないんだ!? みたいなアレをわざわざモーメンツに投稿しており、あいかわらずだなと苦笑するほかないし、おめーほんまにいずれそのチキンレースで事故るぞとも思うわけだが、彼が今日わざわざ教室移動だけでつぶれるほど短い授業と授業のあいだの休憩時間にもかかわらずこちらをセブンイレブンに誘おうとしたのも、もしかしたら天安門事件について語りたかったのかもしれない。あと、コスプレ女子のSさんが、下半身でものを考える男たちから寄越されるメッセージが鬱陶しくてたまらないという怒りの投稿をやはりモーメンツにしていたのだが、これってもしかしてR.Hくんのことかもしれないとも思った。R.Hくん、英語学科の彼女と別れるやいなや、Sさんのコスプレ写真や動画に毎回いいねをつけるようになっているのだ。なんぼなんでもわかりやすすぎんねん。

 20時から23時まで「実弾(仮)」第五稿作文。シーン49を見直す。問題なし。シーン50もちょっとだけ手をくわえる。しかしいまひとつ集中できなかった。
 作業中、一年生1班のH.Kさんから微信。「道案内」のリスニングに自信がないので練習させてほしい、と。授業中に配布した地図を用いて、ボイスメールで五題ほど出す。全問正解の返信がほどなくしてとどいたが、何度もくりかえしてききなおしたし、ルームメイトの助力も得た結果だというので、だとすると本番はなかなかきびしいかもなと思った。
 夜食はトースト一枚。寝床に移動後、The Habit of Being(Flannery O’Connor)の続きを読みすすめて就寝。