20140228

 われわれの動作はその九割までが習慣や自動現象に従っている。それらを意志や思考に従属させるのは、反=自然的なことだ。
ロベール・ブレッソン/松浦寿輝・訳『シネマトグラフ覚書』)

 モデルたちが自動的に動くようになり(すべてを計測し、重さを量り、時間をきっちり定め、十回も二十回も繰り返しリハーサルすることによって)、そのうえで君の映画の諸事件のただなかに放たれるならば、彼らを取り巻いている様々な人物やオブジェと彼らとの関係は正しいものとなるだろう、というのも、それらの関係は思考を経たものではないからだ。
ロベール・ブレッソン/松浦寿輝・訳『シネマトグラフ覚書』)



夢。雑居ビルの階段をのぼっている。裏口らしい扉をあけると以前の職場(アダルトショップ)がひろがっている。開店準備のつもりかそれとも閉店準備のつもりか、店内をぐるぐると見回っていると、小学校低学年くらいの男の子ふたりがこちらの視界から逃れてこそこそと裏口の方へ早足でむかうのが目につく。引き止める。男の子は万引き防止のケースを壊して取り出したらしいアダルトDVDを手にしている。どう処分したものかと思って(…)さんに電話すると、男の子のほうから(…)さんの指示があってこうしたのだという弁明がある。子供をつれて歩いていると職質をされることがないから取引に役立つのだという説明がある。教壇に腰かけた(…)さんがなにやら皮肉めいたことを例の巻き舌で漏らす。教室の後ろから廊下に出ていった(…)さんがすかさず聞き留めたものか、今度は教室前方の扉から顔をだして(…)さんに笑顔で釘を刺すのを、ここでもまたもめごとかとげんなりして見守る。
10時半に自然と目が覚めた。さすがに前日四時間もの昼寝をしてしまったせいもあってずいぶんと浅い眠りだった。ほかにも小学校の同級生らと山のなかで体育座りしながらなにかを待ちうけているような夢も見た。熱くてたまらないので上衣を脱いで上半身はだかになって水浴びなどしていると、男子はこういうときいいよねーという声が聞こえてくる、そんな場面もあった。歯を磨くべくおもてに出るととんでもないぽかぽか陽気で、よりによってこんな日に外出するのかとそらおそろしい気持ちになった。きっとえげつない花粉の飛散量である。起き抜けにやや鼻のつまりをおぼえたので、今日からは自室滞在時や就寝時もなるべくマスクを装着して過ごすことに決めた。東京、ちょっと不安。
ビーフシチューの残りものを朝食に食べながらメールをチェックしているとポニョの(…)さんから岡崎乾二郎の絵を見ることのできるところがあるよというすてきな情報が届けられていた。うち一方は東京国立近代美術館で、これはもともと時間があまったらのぞいてみようかなと考えていたところではあったので、ちょうど都合がいいと思った(そういえば再販になった『経験の条件』もまだ買っていなかった)。10日は(…)兄弟と駄弁って過ごすとして、11日は(…)と夕食をとるまでのあいだたっぷり半日は空き時間があるし、12日もまるっと一日空いていて13日も出発までほぼ丸一日空いている、そう考えると美術館や博物館の三つや四つまわるのもぜんぜん無理な話ではない。できれば適当にぶらぶら街歩きなどしてみたいのだけれど、花粉がなー、花粉だけがくせ者だ。東京花粉。(…)さんは『A』再読中だといった。ありがたい話だ。再読する気にさせてくれるだけの小説との出会いというのはそう多くはない。再読に耐えうる作品だけを書きたい。「時の洗礼」(村上春樹)に耐えうる作品だけを。
お礼の返信を書きおくったのちマタイ受難曲の好きなパートだけくりかえし聴きながらここまでブログを書いた。それから『どくろ杯』を読みすすめていると(…)がやってきたので地下鉄で四条に出た。ぜんぜんうまくないラーメンを食ってから服屋をめぐった。34000円のジャケットを試着した。完璧だった。4万円の眼鏡を試着したとき以来のしっくりきた感があった。買おうと思うと告げると、それまでさんざんこちらをあおりまくっていた(…)のほうがむしろ引いた。いったん冷静になろうということでどうでもいいカフェでコーヒーを飲んだ。17000円のフェイクレザーのジャケットを試着した。これもかなりいいように思われたが、不評だった。(…)は試着のさいに試してみたい組み合わせがあるということで日と服装をあらためてふたたび出直すつもりだといった。それに乗っかるのもアリだなと思った。冷却期間を置くのだ。ユニクロでシャツを買い、ABCマートコンバースを買った。それから地下鉄で北大路まで出て、ビブレでハットを買った。これらすべて安物買いだった。本番は翌火曜日に控えていた。王将で飯を食った。帰宅してからべろんべろんになった。しばらくだべってから当初の予定通り船岡温泉にむかうことになった。前後不覚がここで極まった。往路も帰路もそれから肝心の風呂のこともほとんどなにも覚えていない。入れ墨とおなじ湯に浸かっていたらしいがまったく記憶にない。いつ寝たのかもよくわからないし、日中の買い物までもが俄然遠くなった。書けるわけがない。書きたいとも思わない。