20140330

 映画をつくるというのは難しいことじゃありません。だいいち、金がかかりません。いや、金のかかる映画は金がかかり、金のかからない映画は金がかかりません。それに、自分を表現し、なにかを言うためには、映像なり音なりは、より強力です……テクストよりも強力です――それにテクストには、映像なしですますということもできます――。つまり私が言いたいのは、《あなたはこの女をもっと違ったやり方で撮るべきだったとは思いませんか?》と言うということは、それを映像で表わすのよりもずっとたやすくできることだということです。だからこそ、子供たちに学校で、可能なかぎり早い時期から……幼稚園のころから、しゃべるすべが教えこまれるのです。だから、いま最初になされるべきことは、子供たちに小さなポラロイド・カメラを配るということでしょう。またとりわけ、子供たちになにも言わないということでしょう――子供というのは、よいこと以外のことはしないものなのです――。そうすれば、子供たちはパンが食べたくなったとき、《おなかがすいた》とは言わずに、パンをカメラで撮るようになるはずです。そしてそれによって、ものごとを理解するようになるはずです。そうすれば、私が思うに、なにかがかわることになるのです。
ジャン=リュック・ゴダール/奥村昭夫・訳『ゴダール映画史』)

自由というのは私にとっては、与えられた時間のなかで、自分の速さとリズムで考えることができるということです。
ジャン=リュック・ゴダール/奥村昭夫・訳『ゴダール映画史』)



 6時起床。7時に家を出るというTをおもっていつもより30分早くめざましを仕掛けておいたのだが、よくよく考えてみればTは家を出る10分前に起床しても十分間に合ってしまう身支度の早さが売りなのだった。昨晩の残りものをつまみながらだらだらとしゃべった。あんたそんなに寝起きよかったっけ、といわれた。いつからか、たぶん時間割生活がすっかり板についてきて起き抜けすぐを作文の時間にあてるようになってからだと思うけれども、眠気の名残りにうつらうつらとするようなことがめっきり少なくなった、というか乗りに乗っている時期などは目が覚めるなり、いよっしゃあ書くぞ! という感じで俄然テンションがぶちあがり、一気に目が冴えるのであって、これはいまでもたびたびある。それどころか小説のみならずブログの続きを書くのだという意識でも十分で、そんなものでもわりとけっこう、朝っぱらから気合いが入ってワクワクしながらデスクにむかう毎日なのだ。
 おなじ時間に家をでた。玄関でTと別れて職場にむかった。早朝だったが、ヒートテックにウインドブレーカーだけでも十分間に合う春の暖かさだった。このぶんだと桜は来週が見頃だろうと見当をつけた。大学の塀の内側から外にはりだしている桜の枝にはたっぷりと花がついていた。
 きのうに引き続きいそがしい一日だった。勘弁してくれよと思った。系列支店が水漏れのために一日売り止めになっている、そのせいでますます多くのスケベどもがこちらに流れてくるようだった。雨が降り出したが、客足はいっこうに途絶えなかった。風に吹かれた雨樋からバケツ一杯分ほどの雨水が一気呵成にしたたりおちるような水音がたったのでおもてをのぞいてみると、落ち葉がコンクリートを叩きながら吹きながされていく音だった。これは「G」になる。
 スーパーの閉店セールで冷凍食品のパスタを通常の半額で購入することができたという話をTさんが披露したとき、それは値打ちあるなとBさんが相づちを打った。この職場で働きだしてからよく耳にするようになったフレーズのひとつが、この「値打ちあるな」だった。ある種の方言に属するものであるのかどうかはわからない。形容詞を二度くりかえすのはまぎれもない方言だと思う(「ちっさいちっさい」「いったいいったい」「こわいこわい」)。
 帰宅してからストレッチをしてジョギングに出かけた。労働明けのジョギングは足首に一日分の疲労が蓄積していてなかなかしんどいが、根性をだしてペースをみださず(長)コースを走りきった。おかげで汗だくになった。シャワーをあびて部屋にもどりストレッチをしてから納豆・冷や奴・もずく・レタスとキュウリのサラダ・茹でた鶏胸肉を食べた。そうして昨日付けのブログを書き、眠気をもよおしたところで中断した。気づけばまたもや誘惑にあらがえず悪いほうの耳を耳かきでごそごそやってしまっているじぶんがいたので、心を鬼にして耳かきをふたつにパキッと折り、ゴミ袋のなかに突っ込んだ。今日から少なくとも一カ月、できれば夏まで耳かきはいっさいしない(耳かきは別に必要な営みではないという話をどこかで目にした記憶がある)。捨てた耳かきは黒いプラスチック製のもので、Sが来日してまもないときにダイソーでほかの細々としたものといっしょに購入した一品だった。Sはかたくなに耳かきを拒否した。羽の部分をつっこむことにさえ抵抗があるようだった。布団にもぐりこんで五分とたたぬうちに眠った。2時前だった気がする。