20230613

 自分は彼がもと書生であった頃、ある正月の宵どこかで振舞酒(ふるまいざけ)を浴びて帰って来て、父の前へ長さ三寸ばかりの赤い蟹の足を置きながら平伏して、謹んで北海の珍味を献上しますと云ったら、父は「何だそんな朱塗りの文鎮見たいなもの。要らないから早くそっちへ持って行け」と怒った昔を思い出した。
夏目漱石「行人」)



 また暑さでアラームよりはやく目が覚めた。しゃあない。10時半ごろだったと思う。(…)からあらためてitineraryをPDFで送ってくれと頼まれたので、めんどくせえなァと思いながら送信。チケット購入時に送られてきたitineraryはフライト時間変更前のものなので、その点を補足。
 第五食堂で打包。母から(…)の手術が終わったというLINEが届く。麻酔も軽いものだったので、すでに歩くことができるとのこと。手術にそなえて昨日の19時以降は食事をとっていなかったらしく、術後帰宅してから食事とおやつを与えたところ、ガツガツ食べていたという。細胞検査の結果が出るまではしばらく時間を要する。
 狂戦士のメシ食し、コーヒー飲み、シャワーを浴びる。着替える。あいかわらず香水のにおいだけはかすかに判断できる。外国語学院へ。ケッタを停めたところで、教室に向かう途中の(…)くんから呼びかけられる。二度目の感染はもう治ったのかとたずねると、治ったという返事。彼女にはうつらなかったという。教室へ。14時半から(…)二年生の日語基礎写作(二)と日語会話(三)。添削済みの原稿を返却し、「(…)」のまとめを返却し、おもしろ回答を一部紹介する。それから最後の課題として、あらかじめ用意させておいた封筒と便箋に、卒業前の自分に送る手紙を書かせる。日本語でも中国語でも英語でもなんでもオッケー。こちらは中身を見ない。セロハンテープとホッチキスも用意してあるので自由に封をしてくれと伝える。
 全員分の提出がすんだところで期末試験について軽く説明。その後は会話の期末試験その三というわけで、関係のない学生は帰ってよしとする。今日試験を受けるのは、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)くん、(…)さん、(…)さん、(…)さんの11人。先週コロナでお休みだった(…)さんも本来受ける予定だったのだが、選択授業のテストがいまからあるからという理由で別の日程でおこなうことに。どのみち明日の午後スピーチ練習があるので、そのときにすればいいでしょうと受けたのだが、そんな簡単な言葉すら聞き取れていないようであったし、そもそもいまから選択授業のテストがあるという話も(…)さんの通訳頼りで、やっぱり会話能力が先学期にくらべて落ちている。今日の授業も遅刻してきたし、教室に到着するなりスマホをいじりだしていたし、うーん、どうしたもんか。基本的にやる気のない子は放っておくというのがこちらの主義であるのだが、彼女の場合はおそらく相応にやる気がある、ただじぶんの能力が高いとおそらく勘違いしておりそのおごりのようなものが授業態度に出ているんではないかというのがこちらの予想であるので、ま、明日のテスト中なりスピーチ練習中なりにそういう話をする文脈を見出すことができたらそこでいっぺんかましてみるのも手かもしれない。
 今日テストを受けた面々は主に男子学生なので、先週の面々にくらべるとずっとレベルが低くて大変だった。まず(…)くん。ボロボロ。彼のまずい発音でもいちおうこちらは聞き取ることができるのだが、そう伝えても、本人は片時もペンを離そうとせず最初から最後まで筆談でのりきろうとする。文句なしのワースト。いちおう高校生のころから日本語を勉強しているはずなのだが。
 (…)くん。「思い出の写真」として、労働節の連休に彼女といっしょにおとずれたという(…)湖の人工砂浜に落ちたキスするふたりの影絵の写真を見せるので、はい! 不合格! と応じる。「他人の悪口」として、その彼女が決して自分の非を認めないこと、そして他人を慰めるのが下手であるという打ち明け話。微信でメッセージを送った、彼女はそのメッセージの一部を読み落とした、そのせいでふたりの計画が狂った、そのことを指摘しても彼女は自分が悪いとは絶対認めない、それどころか(…)くんを責める、最終的に(…)くんのほうから謝ることになった。また、(…)くんがなにか失敗したことがあった(そう明言したわけではなかったが、スピーチコンテストの校内予選で暗記していた文章が飛んでしまった件かもしれない)、しかし彼女は彼をなぐさめる言葉はいっさい口にせず、あのときああしていればよかったんではないかみたいなことしか言わない。さすがにちょっと笑ったし、同情もした。しかしふたりの仲はいい。そろって大学院進学を目指しているのかとたずねると、彼女は院試を受けるか、それとも英語教師になるかで迷っている。(…)くんは(…)大学の院を狙っているというので、(…)さんのいるところじゃんとなり、先輩でひとりいまそこの大学院に在籍している女子がいるよと教える。
 (…)くん。「思い出の写真」として、選択授業の試験で中国の伝統的な笛を吹いている短い動画を見せてくれる。意外な趣味。ほかにできる楽器はあるのかとたずねると、カズーという返事。なんちゅうチョイスやねん! それから「私の秘密」として、VTuberをやってみたいという話。(…)くんがVTuberを好んでいることは知っていたが、じぶんでもやってみたいと思っているというのは意外だった。日本のVTuberも中国のVtuberも好んでいるとのこと。最近いちばんよくみているのは中国の男性VTuberで、彼の本業は土木、趣味として仕事の合間にVtuberをしているらしくて、(…)くんとしてもそういうふうに、本業とは別の、趣味と小遣い稼ぎを兼ねたアレとしてVtuberをやってみたいという話だった。それから追加の「私の秘密」として、日本の大学院に進学したいという話。これはけっこう予想通りだった。東京か京都にある大学で進学できるところがあればいいかなと思っているというので、夏休み中に情報を集めておきなさいと助言。
 (…)くん。「思い出の写真」をきっかけに、高校時代が地獄だったという話をしてくれる。寮が18人部屋だったらしい。にもかかわらず、部屋にトイレはひとつきりしかなかった(しかも浴室にあるのでだれかが入浴中は使うことができない)。マジで地獄やんけ! それからどういうきっかけであったか忘れたが、母の弟、すなわち、叔父が京都大学の医学部で教授をやっているというとんでもない話があった。これにはマジでびっくりした。(…)くんは大学から日本語を勉強しはじめた学生であるが、高校組でありかつ大学入学後もしっかり勉強している(…)くんや(…)くんに負けず劣らず、というか会話能力だけであればおそらくトップといっていいくらいできる子であるので、将来的には大学院に進学したほうがいいんじゃないのとこちらが助言したその流れでの打ち明け話だったかもしれない。さすがに優秀すぎる身内であるのでなかなかプレッシャーを感じるという。叔父からは将来日本で仕事をすればいい、仕事を紹介してやることもできると言われているらしく、新卒世代の失業率がかなり高く、かつ、996に代表される労働環境の悪さがたびたび取り沙汰される中国社会に(…)くん自身も希望がもてないため、そうするのもいいかなと考えているようす。
 (…)くん。ボロボロ。ほぼ筆談。入学当時100キロほどあった体重を20キロ減らしたという。毎晩二時間ほどジョギングと縄跳びをし、朝食を抜いた結果とのこと。比較する写真を見せてくれたが、実際、かなりスマートになっている。彼は黒竜江省出身なのだが、ずっと以前(…)さんから聞いたとおり、東北だけはなぜか高考の試験が簡単であるという話だったか、あるいは試験は共通であるが点数に下駄を履かせてもらえるという話だったか、そのあたりの詳細はちょっとわからないのだが、いずれにせよ、クラスメイトの(…)くんとくらべると、高考の総合点に70点くらいの開きがあった、にもかかわらずこうしておなじ大学のおなじ学科に籍を置くことができているという話だった。
 その(…)くん。「他人の悪口」として、本人に悪意がないこともわかっているのでこれは悪口ではないのだがという断りつきで、(…)くんについて「空気が読めない」というので、ちょっと笑ってしまった。めちゃくちゃわかる。教室の座席についてどこに座るのかは基本的に自由。しかし実際はといえば、毎回だれがどこに座るのかはほぼ決まっており、指定席のようになっている。にもかかわらず、一度、たまたまいつもよりはやく教室に入ってくることになった(…)くんが、(…)さんと(…)さんがいつも座っている座席に先に陣取った、遅れて教室に入ってきたふたりが、ええー! となっているのにもまったく気づいていないふうだったとのこと。
 (…)くん。ボロボロ。労働節だったかに彼女とレンタカーで出かけた。しかし交通事故を起こしてしまった。怪我はなかったが、300元支払うことになってしまったという話(3000元の間違いではないだろうかと思う)。(…)くんは外見がけっこうチャラチャラしているし、実際チャラチャラした遊びをよくしているわけだが、声はめちゃくちゃ小さいし、対面しても目を合わさないしで、すごく気が弱い印象を受ける。
 (…)くん。「今学期、一番おもしろかったこと」。以前ひとりで友阿に出かけた。腹が減ったのでセブンイレブンでパンを買った。そのパンを食いながら道端に座り、スマホで友人にメッセージを送っていると、全然知らない女子がじぶんのほうをずっと見ていることに気づいた。なんだなんだと思っていると、「イケメンのおにいさん、あなたはひとりですか?」と言われた。(…)くんはドキドキしながらひとりだと答えた。すると、いまはもうずいぶん暗い、こんな夜道をひとりで歩くのはちょっとおそろしい、家まで送ってくれないだろうかと言われたという。もしかしたら娼婦かもしれないと思った(…)くんは、先輩から電話がかかってきたふりをしてその場に立ちあがり(足がガクガク震えたらしい)、通話のひとり芝居をしながらさっと立ち去ったとのこと。笑った。(…)くんはまったく勉強していない学生なのだが、もともとのコミュニケーション能力が高く、また地頭もたぶんそれほど悪くないということもあって、下手な学生よりも少なくとも会話はできる。そのことを褒めておいた。
 (…)さん。相棒の(…)さんといっしょに遊んだ日に撮影したという(…)さんの写真を見せてくれる。(…)さんは一見すると明るいが、本当は自分に自信をもっていない。だから普段カメラを向けても嫌がる。しかしこの日は写真を撮らせてくれた。のみならず、その写真をのちほど送ると、彼女自身めずらしくモーメンツに投稿した。そのできごとがとてもうれしかったというエピソード。なかなかいい話だ。それから、(…)さんはいま中学生男子に家庭教師として英語を教えているらしいのだが(そう説明する彼女はときおり日本語での説明をあきらめて英語で語った、けっこう流暢だった)、その中学生男子が友人からおまえのところの家庭教師の先生は美人かと聞かれたらしい。で、その中学生男子は、別にそれほど美人ではないと答えたという話で、それを本人からきいた(…)さんはあたまにきて、忙しいから家庭教師の日にいちいち化粧をしたり着飾ったりできないだけだと相棒の(…)さんにぶちまけたところ、おなじく家庭教師をしているという(…)さんから、先生はどうして若いのにハゲているのかと言われたというエピソードが紹介され、それを聞いた瞬間、大笑いして、じぶんの怒りなどふきとんでしまったとのことだった。たしかに(…)さんは髪のボリュームがそれほどない。しかし(…)さんでハゲているというあつかいになるのであれば、中国人女子学生のおよそ半数がハゲているということになるのではないか? これも何度も書いていることであるが、中国の女子は本当に薄毛の子が多い。原因は不明。こちらは農薬たっぷりの食事や汚染されている水に問題があるのではとひそかに疑っているのだが、学生らによればストレスが原因だという。勉強漬けの高校時代および大学時代の話などきいていると、たしかにそれもあるよなと思う。
 その(…)さんからはまだだれにも言っていない「私の秘密」として、六年間おなじ男子に片思いしているという話があった。先日はじめて告白したらしいが、どうも付き合うにはいたらなかったようす。告白は微信でおこなったというのだが、彼に送った文面というのがめちゃくちゃ長文だったし、告白の翌日にその彼から送られてきた返信もやっぱりとんでもない長文で、すげえなとちょっとびっくりした。(…)さんは、ふだんほかの学生からこういう話をきくことはあまりないのだが、高校時代がとても幸せだったという。小学校、中学校、高校、大学、どれかひとつ選ぶのであれば高校時代だというので、めずらしいパターンだなと思った。だいたいの学生は、高校時代は勉強漬けの毎日だったからもう戻りたくないというのだが。
 (…)さん。今学期、体育の授業でテニスを選択したのだが、四十代の男性教諭がなかなかのんびりした人物らしく、このクソ暑いなかでテニスなんてだれもしたくないだろうといって、授業にもかかわらず一時間以上日陰でみんなで座っているだけの日があったというので、おれみたいにどうしようもない教師やなと内心ひそかに思った。しかし(…)さんはその先生のことが好きだという。また日本語学科に移ってくる前に籍を置いていた「環境設計」みたいな学部、庭園や公園のデザインを学ぶ学部であるのだが、その時代の話も少し聞いた。実習として屋外におもむき、そこで街路や街の様子を水彩絵の具でスケッチすることがたびたびあったというのだが、ほかでもない(…)さんが学部変更を決意した理由というのが、その屋外実習が暑すぎるからというものだったので、テニスの件といい、きみはとにかく暑いのが嫌いなんだなと笑った。
 テストはこれで終了。第五食堂に立ち寄り、夕飯を打包して帰宅。狂戦士の食事をとり、ちょい長めの仮眠をとったのち、シャワーを浴びてストレッチ。その後、コーヒーを飲みながら、きのうづけの記事の続きを書いて投稿。ウェブ各所を巡回し、2022年6月13日づけの記事を読み返す。2013年6月13日づけの記事も読み返し、「×××たちが塩の柱になるとき」に再掲。以下のくだりを読んだとき、なんか(…)くんみたいなことを書いているなと思った。

なにかの話の拍子に、まあもう小説なんてどうでもいいしな、と口にした。口にした途端しっくりきたので、なるほど、これは露悪的な装いではなく幾分本音であるらしい、と判じた。それから、もっともっと適当に生きたいという話をした。長期的展望にはいっさい立たず、ただその場しのぎの連続に身を委ねて、なにも探究せず、なにも求めず、目標も目的も目測もなしに、すなわち、意味からかぎりなく遠く離れて、中心を設定することなく、ただ生きる、ヴァルザーの描く人物たちのようにただ生きる、それがいい。なにも成し遂げなかったことがそのまま偉大さであるような生を営みたい。文学よりも語学よりももっともっと遠く、作品をなにひとつ残すことなくそれでいて芸術家であることは可能だというふしぎな確信に寄り添って、このどうでもよい生のどうでもよさを美しく肯定したい。それは可能だろう。モラリストを自称する連中からはますます反感を買うことになるだろうが。

 今日づけの記事もここまで書く。トースト二枚を食し、ジャンプ+の更新をチェックし、あしたのスピーチ練習で使う教材を印刷する。歯磨きをすませたのち、ベッドに移動し、『ラオス現代文学選集』(二元裕子・訳)収録の「森の魔力」(ドークケート)を最後まで読み進める。小説としてとりわけ優れている箇所はないのだが、ひとつだけ、お! と思ったくだりがあった。木材の利権争いが生じている森のなかで山火事が発生する、村の男たちはすぐに消火活動をするために森のなかに向かう、不自然な山火事が利権争い中の相手による仕業ではないかと疑った都市部在住でそのときたまたま村に滞在していたマニサワン(ケオ)は、水と食料を男たちのところに運ぶという村の女たちに同行して自分の懸念を幼なじみの男に伝えにいこうとする。以下はその女たちの道中の描写。

 チャンペンはさして急いだ様子も見せずに歩いている村の娘たちに向かって言った。ある者は足を止めて道端の藪の中にある野草の芽を摘んだり、またある者は目についた籐の芽や竹の子を採ったりしていた。マニサワンは早く歩いてほしいと思う一方、村の娘たちの野草採取の様子が興味深く、試しに自分にも採れそうな籐の芽を切ってみたりもした。
「なかなか難しいでしょ、ケオさん!」
 マニサワンに籐の芽の切り方を教えた若い娘が、街から来た人間の不慣れな手つきを見て笑いながら言った。
「まったくだわ。見てよ、あなたは本当に手際がいいし、そんなにどっさり採れている……もうそれで十分なの?」
 マニサワンは娘の小さな籠を覗き込みながら尋ねた。
「もう少しよ。あとちょっとキノコを採らないと」
 野草採りの名人が見つけた物について教えてくれるお蔭で、マニサワンは野草について楽しく理解を深めることができ、ひとときの間、疲れや心配事を忘れることができた。

 いや、そんなせっぱつまった状況で、野草採りをするの? という驚き。村の女たちはみんな山火事が人為的なものであるとは疑っていない、慣れた自然現象としてしか見ていないのでのんびりした道中になるのはわかるのだが、懸念を抱えているはずのマニサワン=ケオが、いくら「早く歩いてほしいと思う一方、村の娘たちの野草採取の様子が興味深く、試しに自分にも採れそうな籐の芽を切ってみたり」、その結果、「野草について楽しく理解を深めることができ、ひとときの間、疲れや心配事を忘れることができた」りするか? こののんびりした展開に、「わたしたちが失ってしまったものがこの国にはまだあります」的な懐古的オリエンタリズム(あこがれのよそおいをとっているが、その実態はといえば、東南アジアの発展途上国に住まうひとびとを劣った人種として見る差別意識でしかない)を見出すのは容易だろう。しかしそうではなく、懸念はあるもののそれに確信を抱くことはできない、そういう道中で森に住むひとびとの習慣や風俗を目の当たりにしてふと興味深く思う、その結果、「ひとときの間、疲れや心配事を忘れることができた」のではなく、むしろ、「ひとときの間、疲れや心配事を忘れることになってしまった」、そういうことは現実に起こりうるのではないかと印象が、想像の解像度をぐっとあげて読んでみると、なるほどこれは否めない、そういうことはたしかにありそうだという気がたしかにする。言葉足らずであるし、かなりチャリタブルに読解した結果であるが、人間のそういう間抜けな楽観性、認知バイアスの結果生じる事後の傍目にはおかしな行動というものを描いているものとしてこのくだりを理解することもできる。
 『ラオス現代文学選集』(二元裕子・訳)は読了したので、そのまま『囚われた天使たちの丘』(グエン・ゴック・トゥアン/加藤栄・訳)にとりかかる。これは最初の数ページ読んだだけで、あ、ものが違うな、とわかった。どこに向かっているのかわからない、リアリズム小説と幻想文学——という雑な二項を便宜のためあえて立てるが——を両端とする線状のどのあたりにこの作品の重心を置いて読めばいいかわからない、情報の出し方ひとつとってもわかりやすくも大雑把な輪郭をまず与えてそこから細部に分け入るのではなく、はじめから細部を点々として打っていくタイプの小説で、そうそう、このわかりにくさこそが小説の醍醐味なんだなよ、とひさしぶりに思った。おもしろくなりそう。